内臓脂肪の蓄積は皮下脂肪の蓄積よりずっと悪い

内臓脂肪がたまると、脂肪をためる脂肪細胞からアディポサイトカインという生理活性物質がたくさん分泌されるようになります。これは、脂肪細胞が「もう勘弁してくれ」といっているようなものです。インスリンの効きを悪くして、脂肪が細胞にたまらないようにしているのです。

ダイエット

メタボ健診が数年前から始まって、必ず胴囲を測られるようになりました。私は初回はセーフだったのですが、次からは「恰幅がよくなり」85センチ毎回あります。

胴囲を測定しても、体は大きい人小さい人がいますから大して意味がないだろうと思っていました。まあ、自転車にコンスタントに乗っていれば胴囲はわりとすぐに減るし、お腹もへっこんでいきます。それで大して気にしていなかったのですが、内臓脂肪がたまるのは、皮下脂肪がたまるのとは違って悪い影響があることが分かってきました。

内臓脂肪とは

内臓脂肪は、その通り内臓のまわりについている脂肪のことです。運動不足で飲んで食べているとだんだんお腹が出て来ますが、内臓脂肪は手でつまめない奥についています。皮下脂肪は、手でつまめる脂肪です。お腹の皮のすぐ下とか、脇腹につきます。

内臓脂肪はエネルギーに変わりやすく、食事制限や運動をすれば比較的容易に減らすことができます。これは自転車に乗っていたりランニングが趣味の人なら実感できることですね。お腹はわりと早く凹んでくれます。皮下脂肪は、もともとエネルギー源として貯蔵されているので、なかなか減りません。お腹は凹んでも脇腹の脂肪はなかなか落ちないです。

アディポサイトカイン

内臓脂肪の蓄積がなぜよくないかというと、脂肪細胞からアディポサイトカインという生理活性物質がたくさん分泌されるからです。アディポサイトカインの「アディポ」は脂肪、「サイトカイン」は生理活性物質を意味します。皮下脂肪の方は、エネルギー貯蔵の役割があるので、アディポサイトカインはそれほど分泌されないといわれています。

少しこの辺は細かく書きます。脂肪は脂肪細胞に貯蔵されますが、脂肪細胞は特別な細胞というわけではありません。細胞質内に脂肪滴をもつ細胞のことです。「水滴」ということばを思い出してください。脂肪の中に油の滴が入っているのです。そして、その脂肪細胞から生理活性物質が分泌されるというのは、脂肪滴から分泌されるのではなく、脂肪細胞から分泌されるのです。

脂肪細胞

脂肪細胞

このあたりは、私を含めた文系の人が理解しにくいところだと思います。つい、脂肪細胞が特別な細胞で、貯まった脂肪が悪さをするのではないかと考えてしまいます・・・。

脂肪は単なる物質ですから、脂肪自体が何か変化を起こすようなことはありません。しかし、脂肪細胞は、それ自体が1個の細胞という生物でもあります。自分が生きていくために環境に変化があれば適応して生理活性物質を分泌するのは、当たり前のことだと思います。

アディポサイトカインには悪玉物質と善玉物質があり、悪玉には血栓をつくりやすくするPAI-1、インスリン抵抗性を起こすTNF-α、レジスチン、血圧を上げるアンジオテンシノーゲンなどが、また善玉にはインスリン抵抗性を改善し、動脈硬化を防ぐアディポネクチンやレプチンがあります。

PAI-1

PAI-1は、血液を固まらせる作用があります。肥満時には分泌が増加し、脳血栓や心筋梗塞などのリスクを高めます。PAI-1 とは、Plasminogen activator inhibitor-1 の略です。Plasminogenは、血栓など血液の凝固したものを溶解する酵素であるプラスミンの前駆体タンパク質のことで、activator は活性化、inhibitorは抑制です。

インスリン抵抗性とは、インスリンに対する感受性が低下し、インスリンの作用が十分に発揮できない状態。つまり、血糖値が下がりにくくなるという状態です。

TNF-α

TNF-αは、Tumor(腫瘍)Necrosis(壊死)Factor(因子)の略です。主にマクロファージにより産生され、固形がんに対して出血性の壊死を生じさせるサイトカインとして発見されました。マクロファージは、白血球由来の異物を食べる貪食細胞です。なにか、よい働きをしてくれそうに感じますが・・・。

TNF-αによって細胞内へのグルコース(ブドウ糖)の取り込みが阻害され、インスリンに対する感受性低下が生じるということです。がん細胞は、ミトコンドリアが変異していて、エネルギーを得るためには、解糖系しか使えないという話を読んだことがあります。解糖系とは、ブドウ糖を半分の大きさのピルビン酸に分解してエネルギーを得る系です。がん細胞を攻撃するなら、グルコース(ブドウ糖)の取り込みを阻害するのは理屈に合っています。すると血糖が下がりませんから、インスリンに対する感受性低下という結果になるのでしょう。

レジスチン

レジスチンはインスリン抵抗性を上昇させる活性があるとされます。インスリンを効かなくするのです。肥満によって分泌が上昇し,糖尿病の原因の一つと考えられています。

アンジオテンシノーゲン

アンジオテンシノーゲンは、血液中のアンジオテンシンを増加させて血圧を上昇させる物質です。

内臓脂肪が増えて、お腹がボーンと出るようになると、体の中では高血糖を維持するような作用が増えます。油の消化とインスリンは関係がないのですが、油を制限しないと糖尿病になりやすいとはいえると思います。

ちなみに、善玉のアディポサイトカインには、傷ついた血管を修復したり、マクロファージの血管壁への接着やLDLの貪食を抑制するなどの有用な働きがあることがわかっています。脂肪とコレステロールの関係についてで書きましたが、動脈硬化の原因にはマクロファージが深く関わっています。

アディポネクチン

アディポネクチンはさらに、インスリン感受性を高めてインスリンの分泌を節約して糖尿病を防ぐ働きも担っています。

レプチン

レプチンは、通常は肥満によって増加し、脳の視床下部に作用し、食欲減退、エネルギー消費量増大、抗インスリン抵抗性を増大させるように働き、肥満の影響を少なくしようと防御的に働いています。抗インスリン抵抗性とは、「インスリン抵抗性」に「抗う」のですから、インスリンの作用が十分に発揮できない状態から、インスリンの作用を発揮する状態を取り戻すということです。

ところが、肥満状態が続き、ある程度以上になってしまうと、レプチンの効果が無くなってきます。これを「レプチン耐性」といいます。この状態になると、食欲減退の反対でいくら食べても満腹感が無くなってきます。

さらに増加したレプチンは今度は高血圧を引き起こします。

アディポサイトカインの多くは肥満に伴って脂肪細胞からの分泌が亢進しますが、アディポネクチンは逆に内臓脂肪が増えれば増えるほど、その分泌が低下し血液中の濃度が低下してしまいます。また、レプチンもあるところまではよいですが、内臓脂肪が増えて分泌量が増えると、からだに悪い影響を与えるようになります。

どちらにしても、肥満を改善し内臓脂肪を減らすことが必要ですね。

NOTE

昔、「太って何が悪い」と思っていたこともありました。脂肪はエネルギー源じゃないかとも思っていました。脂肪はたまりますが体のすき間にたまるのだろうくらいにしか考えていませんでした。

しかし、脂肪がたまるのは脂肪細胞。いっぱいにたまると、もう勘弁してくれと音を上げるのは同じ生き物ですから当たり前です。

インスリンは糖を脂肪にして細胞に貯蔵する働きがありますから、脂肪細胞は、それを拒否してインスリンを効きにくくする物質を分泌します。

こういう仕組みを知ると、「太って何が悪い」とは思えなくなります。

タイトルとURLをコピーしました