油の酸化

油の酸化は、熱や金属や光によってフリーラジカルや活性酸素ができて、炭素の二重結合に隣接するメチレン基(-CH2-)に酸素(O2)が反応して(OO)というペルオキシラジカルになり、さらに他の不飽和脂肪酸から水素(H)を引き抜いてきて、ヒドロペルオキシドになります。ヒドロペルオキシドは、分解して短くなると「におう」ようになります。

酸化

油は酸化するとよくないといいます。単純に古い油は変なにおいがしてくるので、使う気がなくなります。私はたまにえごま油を買ってきて使いますが、冷蔵庫の中に入れていても、しばらく忘れていてそのままにしていると、使うときにひどく魚くさくなります。亜麻仁油も同じです。

油と酸素が接して起こる酸化を、自動酸化といいます。単なる酸化ではなく、わざわざ自動とついているのは、意味があります。あまり楽しくない意味なのですが・・・。

油脂化学の知識 改訂新版(幸書房 2015)を読みました。

油の酸化は連鎖反応

酸化は、酸素と結びつく反応のことです。世の中の全てものは酸素にさらされていますから、酸化される運命にあります。油も酸素と接すると酸化されます。ところが、油の場合は、酸素に接した部分が酸化されるだけでは済まないのです。

というのは、油と酸素が反応して、最初にできた物質が、触媒的に働いて、次の反応を促すからです。

自動酸化

油の酸化は、どんどん自動的に反応が進むようになり、加速して進んでしまうのです。

空気中の酸素(正確には分子状酸素)と油脂とが反応して起こる変化を油脂の自動酸化と言う.

自動という用語は,油脂と酸素が反応して最初に作られた生成物自身が触媒的に働いて,次の酸化を促進し,これを繰り返しながら次第に酸化の速度が速くなることから名づけられたものである.

酸化の始まり

酸化の始まりは、炭素の二重結合に隣接するメチレン基(-CH2-)が水素を失い、フリーラジカルができて、その炭素にヒドロペルオキシ基(‐OOH)が結合することです。

フリーラジカルの生成

一般に,脂肪酸の自動酸化の開始はフリーラジカル(遊離基)の生成である.フリーラジカルとは,アシル基に結合している水素のうちの1個が水素ラジカル(H・)として引き抜かれた状態をいう.

なぜできるのか?

フリーラジカルがなぜできるのだろうと思います。その理由についても書かれていました。

油脂の自動酸化はフリーラジカルの生成から始まる.最初のフリーラジカルが作られる機構は,十分にはわかっていないが,光がまったく遮断されている状態では,熱や金属触媒などの刺激により二重結合に隣接するメチレン基(-CH2-)から水素ラジカルが引き抜かれてフリーラジカルが作られる.

一方,油脂が近紫外部や可視部の光線にさらされたときには,油脂に溶けている微量のクロロフィル,その分解物,ヘモグロビンなどの天然の色素物質が仲介となって光増感反応が起こり,自動酸化が開始される.

このような光線の刺激による酸化の開始に当たっては,フリーラジカルは現れず,代わりに活性酸素(一重項酸素やスーパーオキシドラジカルなど)か作られ,これが不飽和結合と反応して直接ヒドロベルオキシドが生成する.

最初のきっかけが、熱や金属触媒の場合と、光線にさらされた場合では、フリーラジカルがつくられるか、活性酸素から直接ヒドロペルオキシドができるか違いがあります。

過酸化物(ベルオキシド)ができる

油脂と空気中の酸素の反応は,言いかえれば油脂を構成する不飽和脂肪酸と酸素との反応である.さらに正確に言えば 不飽和脂肪酸の二重結合に隣接するメチレン基(-CH2-)の炭素と酸素が反応するのである.

酸素と反応してできたものを過酸化物(ベルオキシド)と言い,油脂の自動酸化にあたって最初に生成する主要な過酸化物(第一次生成物)はヒドロベルオキシドである.その構造は次のように.酸素と水素が-OOHの形でアシル基に結合している.

アシル基は、カルボキシ基をもつ有機化合物の総称であるカルボン酸から、カルボキシ基(-COOH)からOHを除いた残りの原子団の総称です。RCO-で表されます。(Rは炭化水素基)(出典

図は炭素数16のパルミチン酸ですが、赤い点線で囲んだ部分がアシル基です。

アシル基の説明

本には、上に書いた反応の説明図がありました。

炭素の二重結合の右隣にCH2がありますが、そこから水素(H)が1個なくなり、→の先、右のように変化します。少し見づらいかもしれませんが、ラジカルになっています。CH2がCHになっていて、CHのCの上に「・」がついています。これがラジカルの印です。

ラジカルとは、水素(H)を1個とられて、不安定な状態になっていて他のものと反応しやすくなっている状態です。ここに酸素(O2)が反応して(OO)というペルオキシラジカルになり、さらに他の不飽和脂肪酸から水素(H)を引き抜いてきて、ヒドロペルオキシド(ROOH)になります。

他の不飽和脂肪酸から水素(H)を引き抜いてくると、その脂肪酸が今度は不飽和アシルラジカルになります。そして、また他の不飽和脂肪酸から水素を抜いて来てヒドロペルオキシドになります。これを繰り返します。

これが「自動」と頭につけられた酸化反応です。

ヒドロペルオキシドになっても、まだ、古くさい油のにおいはしません。これが分解されるとにおうようになります。

油が「におう」ようになる

油がにおうようになるのは、できたヒドロペルオキシドが分解されて短くなるからです。脂肪酸は短くなると(短鎖脂肪酸)くさくなっていきます。

分解生成物を大きく分けると,第1のグループは自動酸化の終わり頃に現れる中鎖・短鎖カルボン酸化合物(カルボキシ基をもった化合物)であり,第2のグループはカルポニル化合物(カルポニル基,アルデヒド基を持つ化合物)でカルボニル化合物の生成量は比較的少ないが,強い臭気を発し油脂の風味劣化の原因となるから重要である.

中鎖・短鎖カルポン酸化合物は酸敗臭の母体で酸敗の進んだ油脂では20%以上も含まれ,酸化の途中段階ではC6~C12のカルボン酸であるが,終わりになるとさらに短鎖になり,ギ酸,酢酸,二酸化炭素も生成する.

カルポニル化合物は主として飽和,不飽和のアルデヒドやケトン類であり,その他に,アルコール,炭化水素も同時に生成する.

油の酸化を防ぐ

油は、銅や鉄など、金属が微量であっても存在すると自動酸化を著しく促進します。たとえば植物がもつ葉緑素は、マグネシウムが入っていますが、葉緑素も自動酸化を著しく促進するので、製造工程で取り除くべきと考えられています。

また、全ての光、太陽光線はもちろん、紫外線、赤外線でも、蛍光灯の光でも自動酸化が進むので、透明な容器に入ったものは、光を当てないように注意する方がよいです。昔からエンジンオイルはブリキ缶に入っていました。食用油も大容量になると一斗缶など缶入りになります。容器として安いからだろうと思っていたのですが、光線を遮断するというのが一番の目的です。

また、もちろん温度も関係します。温度は低い方がよいので、冷蔵庫に入れて保存した方が長もちします。オリーブオイルや一番搾りのなたね油などは、ロウ分が入っていて冷蔵庫の中で固まってしまう場合があります。しかし、使う前にしばらく外に出しておけば液体に戻ります。少し手間になりますが、冷蔵庫に入れておいた方が長持ちするようです。

とても酸化しやすいえごま油や亜麻仁油は、酸化防止にビタミンCとEを添加されたものを買うとよいと思います。

経済的ではないのですが、小さいサイズのものを買って家庭での保存期間を短くするというのが一番よいのでしょうね。

NOTE

油が古くなって臭くなるといやなにおいがします。特にえごま油や亜麻仁油は魚臭くなります。油の酸化を調べるまでは、単純に、腐っているんだろうと思っていました。

しかし、においの正体は、全部とはいえないまでも、脂肪酸が短く切れてできた短鎖脂肪酸にあります。

以前、短鎖脂肪酸はくさいという記事を書きました。足の裏のにおい、生乾きのシャツのにおい、ヤギの体臭などなど、短鎖脂肪酸は身近な「くさい」の原因になっていました。

考えてみると、皮膚には皮脂(あぶら)があり、それが常在菌で分解されると、におってくるのです。古くなった油と私のようなおじさんの「くささ」は共通点があります。

タイトルとURLをコピーしました