油の融点を変えるエステル交換

油の性質を決めるのはグリセリンに結合している3本の脂肪酸です。そして油の性質は「固まりやすい」「固まりにくい」という融点が影響しています。

脂肪酸の性質は、飽和脂肪酸は融点が高く、不飽和脂肪酸は融点が低い性質があります。このあたりのことは油の融点からダイエットを考えるに書きました。また、一般に炭素数が多い方が融点が高くなります。

たとえば、植物油からマーガリンをつくる時は、さらさらの油から融点の高い油にする必要があり、また、冷蔵庫から出してすぐにパンに塗ることができる適度な柔らかさが必要になります。

そのための一つの方法は、大豆油など不飽和脂肪酸が豊富な植物油に水素添加する方法でした。水素添加については油脂の水素添加についてで書きました。水素添加するとトランス脂肪酸ができてしまう問題があります。

ところで、油の融点を変えるには、もう一つ、グリセリンに結合している3本の脂肪酸を入れ替える方法があります。エステル交換という方法です。

エステル交換は油を変える

エステル交換は次のように行われます。まずは下図を見てください。

エステル交換

エステル交換

今、油脂Aと油脂Bがあります。油脂Aの右側にあるOCOR1、OCOR2、OCOR3はそれぞれ脂肪酸だと思ってください。ついている数字は、それぞれ固有の脂肪酸を表しています。数字が違えば、脂肪酸も違うということです。

油脂Aは、脂肪酸1、脂肪酸2、脂肪酸3とグリセリンからできた油です。
油脂Bは、脂肪酸4、脂肪酸5、脂肪酸6とグリセリンからできた油です。

油脂Aと油脂Bを混ぜて触媒CH3ONaとともに反応させると、油脂Cと油脂Dができます。違いを見てください。油脂Cは、油脂Aの脂肪酸3が脂肪酸4に変わり、油脂Dは、油脂Bの脂肪酸4が脂肪酸3に変化しました。

CH3ONaはナトリウムメトキシド といい、メタノール(メチルアルコール)に金属ナトリウムを溶かしたときに生成する化合物です。外見は白色の粉末で、湿気には弱く、水とは速やかに反応してメタノールと水酸化ナトリウムになります。ナトリウムメトキシドは触媒として使われます。触媒は、反応に関わりますが、自分自身は何も変化しません。

油脂Aと油脂Bはそれぞれ結合していた脂肪酸に変化があったので、それぞれ別の油脂になりました。

ちなみに、これは植物油脂の性質なのですが、不飽和脂肪酸がある場合は原則的に2位に付きます。図でいうと、脂肪酸2、脂肪酸5の位置です。

エステル交換に脂肪酸の性質を利用する

わたしたちが使う油に含まれている脂肪酸で、一番融点が高いのはステアリン酸です。融点は、69.6℃です。今、油脂Aについている脂肪酸が全てステアリン酸だったとしましょう。すると油脂Aはステアリン酸の融点になるまで融けない油になります。

エステル交換をこの温度以上に設定して行うと、1位、2位、3位の脂肪酸は、一度グリセリンから外れて再度結合するときに、位置の区別はなくなり、ランダムにつくようになります。

天然のラード(豚脂)では、1位にオレイン酸、2位にパルミチン酸、3位にステアリン酸という分子が非常に多く、こらがラードの保存中に大粒の結晶をつくってケーキなどに使うと食感を悪くしていました。これをエステル交換すると、この分子構成のものが全体の25%から5%以下に減り、結晶は生成しにくくなりました。

油は混合物

油にはいろいろな種類がありました。亜麻仁油、なたね油、大豆油、オリーブオイルなどなど。それぞれに入っている油は単一の油ではありません。

グリセリンについている脂肪酸はさまざまです。1位オレイン酸、2位αリノレン酸、3位、パルミチン酸や、1位オレイン酸、2位、オレイン酸、3位、パルミチン酸だってあります。様々な脂肪酸の組み合わせでできた油の混合物が、亜麻仁油、なたね油、大豆油、オリーブ油となっているのです。

指向性エステル交換

また、エステル交換を10℃から40℃くらいの低い温度で行うと、反応は、1位ステアリン酸、2位ステアリン酸、3位ステアリン酸の油が増える方向で進みます。

というのは、エステル交換で反応するのは、液体で存在する油だからです。低温ではもともと3本の脂肪酸がステアリン酸の油は融点以下なので、固体のままエステル交換の対象にはなりません。

残った、それ以外の油がエステル交換し、それによって生じた、3本の脂肪酸がステアリン酸の油は固まって、反応する油からは外れていきます。

このようなエステル交換の方法を指向性エステル交換といいます。

エステル交換によって得られる性質

このように反応させた油は、融点のきわめて高い、3本の脂肪酸がステアリン酸の油と、3本の脂肪酸が融点のきわめて低い不飽和脂肪酸からできた油が増えて、その中間の融点となる油は少なくなります。

すると、油脂中の固体で存在する分子と液体で存在する分子の比率が、室温程度では大きく変わることがなくなります。そのため、広い温度範囲で、同じようなペースト状を保てることになります。

これはマーガリンにとって好ましい状態です。冷蔵庫から出してもすぐ塗ることができ、室内に置いておいてもドロドロになりません。

このようにエステル交換によって、油脂の脂肪酸の組成を揃えることができます。脂肪酸の融点はまちまちなので、融点の違いを利用しながら、さまざまなコントロールが可能だと思います。

本当にいろいろな技術があるものです。

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