リノール酸とり過ぎが発癌に関係するのは、炎症を持続させ細胞増殖を刺激するから

リノール酸のとり過ぎが癌に関係するのは、リノール酸から変換されたアラキドン酸からできるエイコサノイドのうち、炎症に関係があるものが、体の中にある炎症を持続させるからです。また、プロスタグランジンE2(PGE2)が、もともと増殖しやすい繊維芽細胞や上皮細胞の増殖を刺激し、本来の細胞周期を制御する機能を失わせやすくするからです。

サラダオイル

脂質と癌 (脂質栄養学シリーズ 学会センター関西 2000) を読みました。文字にアマゾンリンクを貼っておきますが、今では古本しか手に入りません。もともとの価格は2857円+消費税でした。ご参考まで。図書館の開架していない保存庫にありました。

この記事は、以前書いた脂肪のとりすぎとガンという記事の続きです。脂肪のとりすぎとガンを書くために読んだ論文では2つのことが重要でした。

  • 脂質をとり過ぎているとガンにかかりやすくなる。
  • リノール酸は発ガン、増殖、転移を促進する。

とてもインパクトがあり、また、なぜなんだろう?と思いました。論文で参照していた1冊が、「脂質と癌だったので私も探して来ました。

「リノール酸は発ガン、増殖、転移を促進する」という理由が知りたかったのです。

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リノール酸が多い油は発癌を促進する

リノール酸が多いコーン油飽和脂肪酸が多いヤシ油を、ラットに与えると、コーン油を与え、またその量が多い方が、発癌率・発癌数とも多いことがわかりました。さらに、油の種類を変えてもリノール酸を多く含む油を与えた方が、発癌率・発癌数とも多いことがわかりました。

脂質と癌第1章の総説にある乳癌の説明に「実験動物での発癌研究の歴史」があり、そこにリノール酸が多い油とその他の油を与えた場合の比較実験について書かれていました。

この実験は、発癌物質を投与した上で油の種類と割合を変えて与え、乳癌の発生を観察するものです。最初に出てくるDMBAは発癌物質です。

Gammalらはラットにおける7,12-Dimethylbenz(a)anthracene(DMBA)誘発乳癌の系で,コーン油とヤシ油とを用い異なる脂肪酸組成を持っている油脂が乳癌の発生にいかなる影響を及ぼすかについて検討している。

その結果,20%コーン油摂取群では20%ヤシ油摂取群に比較し,発癌率ならびにラット1匹当たりの乳癌数が増加し,20%ヤシ油摂取群の発癌率や1匹当たりの乳癌数は低脂肪食(0.5%)としたコーン油群のそれらと同じであった。

著者の調べた限りでは,この報告が脂質の種類と乳癌の関係を検討した初めての報告である。

さらにCarrollとKhorは同じくラットでのDMBA乳癌の系を用い,20%脂肪としたコーン油,ヤシ油,バター,牛脂,ラード,オリーブ油,綿実油,大豆油およびヒマワリ油が乳癌の発生にいかなる影響を及ぼすかについて詳細に検討している。

その結果,リノール酸を多く含む油脂を摂取した群では発癌率が高く,多くの乳癌が発生することを確認した。

さらに餌に含まれるコーン油の量を変え(0.5%,5%,10%,20%),乳腺発癌への影響を検討し,高脂肪食では発癌が増強することも確認した。

これらの結果を得たCarrollらは日本での乳癌が少ないことを例に挙げ,米国における乳癌を少なくするために脂質摂取量を減らすことを提言している。

また動物実験の結果をそのまま人間に当てはめても良いかは分からないとしながらも,リノール酸は実験的に乳癌の発癌を増強することから「人間の食事に不飽和脂肪酸の摂取量を増加すべき」とした勧告に警告を発している。

上記のごとく,既に1971年にはリノール酸がある種の癌の発生に増強作用があることが判明している。

コーン油は、リノール酸が多い油です。コーン油の特徴に詳しく書きましたが50%以上がリノール酸です。

また、ヤシ油は、ココナッツオイルのことです。炭素数12の飽和脂肪酸ラウリン酸が約50%を占める油です。ココナッツオイルはヤシ油について調べれば分かるよに詳しく書きました。

上に出てくる油では、綿実油、大豆油、ヒマワリ油がリノール酸が多い油です。

動物実験は発癌物質を投与するので、通常の食生活とは違います。しかし、1971年にリノール酸がよくないかもしれないとわかっていたことは覚えておきたいです。

しかし、なぜ、リノール酸を摂っていると発癌を促進するのでしょう?脂肪酸は二重結合の有無と炭素数に違いがありますが、ほとんど構造は同じです。

その理由として、第1章総説には「炎症性疾患としての欧米型の」というタイトルで炎症と癌について説明されています。リノール酸と癌の組み合わせはあまり聞いたことはありませんでしたが、リノール酸と炎症の話はよく聞きます。

本にすぐにアクセスできない方のために、同じ著者によるリノール酸摂りすぎによる炎症性疾患としての癌という論文がありましたので、以下、こちらを参照することにします。

炎症が続くと癌化する

炎症が続くと癌になりやすいです。本来、化学的に安定な物質である石綿やガラスビーズでも体内に入ると、炎症性細胞が取り囲み炎症が持続して腫瘍ができます。

この例はすごく分かりやすかったです。石綿は昔の学校では天井に普通に使われていましたが、ずいぶん前から発癌物質として問題になっていました。その理由がわかりました。

近年,炎症の持続が高癌状態に導き,癌化を促進させることが臨床的に認められるようになった.

ウィルス性肝炎が慢性化して肝癌に移行するが,炎症性大腸炎の患者は大腸癌,肝胆管癌の発症率が数倍高い.戦後の日本で,肺炎・気管支炎死亡率は結核死亡率と同様に低下したが,前者のみは1970 年代から徐々に上昇し始め,
これに対応して肺癌が増えている.

石綿や実験的に動物体内に入れたガラスビーズなど粒子は,化学的に安定であるため,直接,遺伝子を傷害するとは思われない.

しかし,体内では炎症性細胞がこれらを取り囲み,腫瘍が発生する.ピロリ菌も胃内に常在することにより炎症を起こし,胃癌を発生させると考えられる.すなわち炎症が続くと発癌が促進されるといえる.

炎症は体に必要な反応ですが、炎症が持続して長期化すると癌化してしまうことは覚えておきたいです。

活性酸素が遺伝子を傷害する

さらに、炎症細胞は活性酸素を発生させます。体内で細菌やウイルスを撃退するためです。これは体の当たり前の反応ですが、炎症がいつまでも納まらないと遺伝子を傷つけることになります。

炎症細胞から遊離される活性酸素(ROS:Reactive Oxygen Species)は一般に生体防御的にはたらいているが,炎症の持続により過剰に産生されると遺伝子を傷害して多段階発癌を可能にするほか,細胞増殖刺激ともなって癌化を促進していると考えられる.

アラキドン酸からできる炎症を促進するエイコサノイドが発癌に関係する

抗炎症薬を使い、アラキドン酸からできるエイコサノイドを作らせないようにすると、発癌が抑制されます。つまり、炎症に関係するエイコサノイドが発癌と関係していると考えられています。

アラキドン酸は、リノール酸から変換されます。

エイコサノイドは炎症の原因物質ではありません。エイコサノイドはいくつか種類があり、その中に炎症を促進させる働きをもつものがあります。

一方,動物実験では抗炎症薬(ステロイド性および非ステロイド性)が発癌抑制的にはたらくことも証明されており,臨床的にも抗炎症薬の延命効果が証明されている.

ステロイド性抗炎症薬の作用機構は多面にわたっているが,ホスホリパーゼA2シクロオキシゲナーゼ(COX-2)の発現を抑えることによって作用を発揮していることは明らかであり,非ステロイド性抗炎症薬もCOX を阻害することによって発癌抑制作用を発揮する.

大腸腫瘍では炎症メディエーター産生酵素の発現が上昇しており,COX-2 をノックアウトすると大腸ポリープのサイズも数も減少する.5 -リポキシゲナーゼ阻害物質も発癌を抑制する.これらは,「リノール酸,アラキドン酸に由来する炎症メディエーターの産生を抑えることが,発癌抑制に有効であること」を示している.

上の文中にラインマーカーを引いた部分について説明します。

まず、以前、アラキドン酸から炎症に関係があるエイコサノイドができるという記事を書きましたが、その時に描いた図を載せます。その方がわかりやすいと思います。

アラキドン酸カスケード

ホスホリパーゼA2は、細胞膜の成分であるリン脂質からアラキドン酸を切り出す酵素です。

シクロオキシゲナーゼ(COX-2)は、アラキドン酸からPG(プロスタグランジン)をつくるための最初の酵素です。シクロオキシゲナーゼは、図に書いていませんが、COX-1とCOX-2があります。COX-1は細胞内に常時一定量存在していますが、COX-2は炎症が起きた時に発現が誘導されます。(出典

ホスホリパーゼA2を阻害するとリン脂質からアラキドン酸は切り出されません。この後の反応が一切起きなくなります。また、シクロオキシゲナーゼを阻害すると、PG(プロスタグランジン)とTX(トロンボキサン)が作られなくなります。

PG(プロスタグランジン)とTX(トロンボキサン)は全てが炎症を促進するわけではありませんが、もとを絶たれて作られなくなるので、炎症が促進されなくなります。

炎症メディエーターとは、mediatorが仲介者という意味ですから、炎症仲介物質です。

また、5 -リポキシゲナーゼが関与してできるLT(ロイコトリエン)も同じように全てが炎症を促進するわけではありませんが、5 -リポキシゲナーゼが阻害されると、LTが根こそぎ作られなくなるので、炎症が促進されなくなります。

炎症に関係するエイコサノイドの中に、プロスタグランジンE2(PGE2)があります。

PGE2が細胞増殖を刺激する

特定の細胞、繊維芽細胞や上皮細胞ではプロスタグランジンE2(PGE2) が刺激して、細胞増殖が促進されます。癌細胞は増殖し続ける細胞ですから、癌化しやすくなります。

リノール酸カスケードの亢進の結果としてPGE レベルが上昇したとしても,細胞増殖・癌化との関係は細胞によって異なり,単純に予測することはできない.

しかし,繊維芽細胞上皮細胞ではPGE により成長因子(EGF)によるc-myc の発現が促進され,DNA 合成・細胞増殖が促進される.

また,PGE2 はEGF受容体を活性化し,発癌促進的にはたらく.このような種類の細胞(PGE2が増殖促進的にはたらく細胞)の癌が,主として上述の米国型癌に対応すると考えられる.

上の文中、PGEとPGE2の記述があります。もちろん違いがあるのですが、私はPGE2として読みました。

ここでは説明しませんが、PGEの種類は以前書いた、プロスタグランジンE2とE3、E1の違いを構造式から調べたという記事で説明しました。

繊維芽細胞は皮膚の真皮の構成成分であり、結合組織を構成する最も主要な細胞で多くの臓器に存在する。組織が損傷すると、線維芽細胞が増殖し修復します。(出典)増殖しやすい細胞ですね。

上皮細胞は、皮膚や粘膜などの上皮組織を形成する細胞。(出典)免疫の話でよく出てきますが、腸の上皮細胞は数日おきに新しくなると知られています。こちらも増殖しやすい。

成長因子(EGF)は、上皮成長因子としてウイキペディアに説明がありました。(出典)タンパク質で、細胞表面に存在する上皮成長因子受容体 (EGFR) にリガンドとして結合し、細胞の成長と増殖の調節に重要な役割をする。リガンドとは、特定の受容体に特異的に結合する物質のことです。

c-mycは、c-myc遺伝子が作るタンパク質です。細胞の増殖、分化、細胞死(アポトーシス)を制御する転写因子です。c-myc タンパク質が何らかの理由で過剰発現し、本来持つ細胞周期制御の機能を失うことによって、がんを引き起こします。(出典

EGF受容体は、ウイキペディアでは上皮成長因子受容体とされています。(出典)細胞膜上にあるこの受容体に上皮成長因子 (EGF) が結合すると、受容体は活性化し、細胞を分化、増殖させる。しかし、この受容体に遺伝子増幅や遺伝子変異、構造変化が起きると、発癌、および癌の増殖、浸潤、転移などに関与するようになるとあります。

NOTE

初めてリノール酸が癌と関係があると聞いた時、「?」まったく意味がわかりませんでした。しかし、この論文を読み、炎症が持続すると細胞が癌化すると聞くと、少しずつ理解できるようになってきました。

特に、石綿とガラスビーズを実験的に体内に入れると、それらは安定した物質なので何も変化しないけれども、その周囲の細胞が炎症を起こし、それが持続して癌化するという話が「そういうことなのか!」と理解を進めてくれました。

私が書いたこの記事よりも、まず、上にリンクを貼ってありますが、リノール酸摂りすぎによる炎症性疾患としての癌という論文をじっくり読んでいただきたいと思います。

また、この論文に書かれている実験は、ラットに発癌物質を投与した発癌実験で、通常の食生活をしていて発癌したのとは全く違います。はるかに発癌しやすい条件です。だから、ヒトの生活にそのままあてはまるわけではありません。

ただ、若い人はともかく、年齢が上がると癌にかかりやすくなるのは確かなことなので、「このような実験があった」となんとなく内容を覚えておくとよいのではないかと思います。

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