過酸化物価(POV)は、油が酸化するとできるヒドロペルオキシド(-OOH)を測定した値です。具体的には、ヒドロペルオキシド(-OOH)をヨウ素分子(I2)に置き換え、ヨウ素分子がデンプンに反応して青紫色に変わる性質を利用し、チオ硫酸ナトリウムで滴定して色が消えるまでの量を測定することで求められます。
油の酸化について書かれた論文を読むと、過酸化物価(Peroxide Value: POV)がよく出てきます。単純に数字が大きいと過酸化物が多いということなのですが、知らないまま読み続けると、少し嫌な気分になります。
どんなものか調べてみましょう。
あいち産業科学技術総合センターのサイトにある過酸化物価・酸価の測定法を読むとこのように書かれていました。
過酸化物をヨウ素分子のミリ当量数で表す
油脂の酸化の初期には、まずヒドロペルオキシド(過酸化物)が生成します
POV は、ヒドロペルオキシドをヨウ化カリウムと反応させたときに遊離されるヨウ素分子の量を試料1kg 当たりのミリ当量数(meq)で表したものと定義されています。
これだけ読んでもまったくわかりませんが、反応を説明する図が添えられていました。さらに、「チオ硫酸ナトリウムで滴定」と書かれた部分の反応をその下に書きました。
ヒドロペルオキシド(-OOH)をヨウ素で置き換える
図の最初にある反応式(長いので2行になっています)を見てみましょう。
過酸化物は、ヒドロペルオキシド-OOHで表されます。炭素(C)と水素(H)でできた炭化水素の鎖は、全体が書かれていませんが、1個のヒドロペルオキシド-OOHがついた1モルの脂肪酸か脂肪酸の分解物を表しています。
そこに2モルのヨウ化カリウム(KI)と1モルの水(H2O)が反応します。
-OOHの酸素が1個外れて、2モルの水酸化カリウム(KOH)になり、ヨウ素は(I)1モルのヨウ素分子(I2)になります。
青紫色になるヨウ素反応を利用する
ところで、ヨウ素反応って覚えてますか?確か小学生の理科で実験した記憶があります。ヨウ素液をたらすとデンプンと反応して青紫色になる反応です。
ヨウ素分子(I2)はこのヨウ素反応をします。ヨウ化物イオン(I–)ではなく、ヨウ素分子(I2)でなければいけません。
溶液の中にデンプン溶液を混ぜておくと、ヨウ素分子(I2)ができると色が青紫色になります。
この関係を使って、ヒドロペルオキシド-OOHの存在を、ヨウ素分子(I2)のヨウ素反応で置き換えることができました。
チオ硫酸ナトリウムでヨウ素反応の色を消す
ヨウ素反応が起これば過酸化物が存在します。次に知りたいのは、過酸化物がどのくらいあるかです。
それを調べるために、チオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)を反応させます。(上の図をご覧下さい)
2モルのチオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)と1モルのヨウ素(I2)が反応すると、2モルのヨウ化ナトリウム(NaI)と1モルのテトラチオン酸ナトリウム(Na2S4O6)ができます。
このとき、ヨウ素が分子(I2)ではなくなったので青紫色が消えます。
ここまでの反応を簡単に書くと。
- ヒドロペルオキシド-OOHがあると、ヨウ素分子(I2)ができる。
- ヨウ素分子(I2)はヨウ素反応で青紫色を呈する。
- チオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)が反応すると、ヨウ素分子(I2)がヨウ化ナトリウム(NaI)となり、青紫色が消える。
つまり、2モルのチオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)で色が消えると、1個のヒドロペルオキシド-OOHがついた1モルの脂肪酸か脂肪酸の分解物があったことがわかります。
この関係をもとに、試料となる油1キログラムあたりのヨウ素分子の量をミリ当量数(meq)で表したものが過酸化物価となります。
過酸化物価の実際の計算
過酸化物価(meq/kg)の計算方法を探すと、三菱ケミカルアナリテックのパーム油の過酸化物価分析にでていた計算式が一番わかりやすかったので引用させていただきます。
ちなみにもう少しわかりやすくするために、下図にある計算式に、さらに右項を書き加えました。
計算式の意味を考えながら読んでみます。
まず、A1から。
この計算式に出てくるチオ硫酸ナトリウム溶液は、モル濃度が0.01mol/Lです。もし、青紫色が消えるまで必要だった溶液の量(滴定量)がリットル単位で測定されていると、実際に必要だったチオ硫酸ナトリウムのモル数が、0.01(1/100)をかけると出てきます。
ところが、滴定量はミリリットル(ml)で測定されています。単純に計算して出た数値は、実際のモル数より1000倍大きい値になります。
もし、滴定量がリットル単位なら、当量(eq)が単位になります。しかし、滴定量をミリリットル単位としているので、ミリ当量(meq)になっています。
さらに、f ファクターというのは、濃度の補正係数のことです。実際に厳密な濃度に合わせるのがむずかしいので、どのくらいずれているかを示す数字です。これはこの記事では無視してよいです。理想状態の1としておきましょう。
Sは試料の重量がg(グラム)です。この場合、試料1キロ当たりに直す必要がありますから、試料のグラム数で割って1000をかければよいです。
これに単位(meq/kg)をつければ、過酸化物価(POV)の数字になります。
当量ってなんだ?
ところで、教科書通りに過酸化物価を求めるだけならこれでよいのですが、今回とても悩みました。
「当量」が何を意味しているのかわからなかったのです。過酸化物価の計算は、上で書いたように、実質、チオ硫酸ナトリウムのモル数を求めているのと変わりません。なぜモル数でなく、当量としなければならないのだろう?
当量は、今はあまり使われないようで、手持ちの高校生の化学の参考書にも、図書館で探した大学生が使う化学の教科書にも出てきません。
ただし、ヨウ素の溶液をチオ硫酸ナトリウムで滴定する反応は、よく知られたもので、高校生の参考書にも「酸化還元反応」の一つとして登場します。
酸化還元滴定の当量
ネットを探し回り、信州大学小教材カタログ起縁の中の、状態分析、酸化還元滴定を読んで当量をようやく見つけました。
電子1個の授受に対応する酸化剤、元剤の量をおのおのの1当量という。
1当量は電子1個を授受する
ヨウ素の溶液をチオ硫酸ナトリウムで滴定する反応をもう一度、電子のやりとりがわかるように書いてみます。
ヨウ素分子(I2)は電子を2個もらって、ヨウ化物イオン(I–)になります。チオ硫酸イオン(S2O32-)は四チオン酸イオン(S4O62-)になり、電子を2個放出します。
さらに、青い破線の四角で囲った中に、電子1個のやりとりに直したものを書きました。こちらの方が当量がわかりやすいです。
電子1個を受け取るヨウ素分子1/2モルが1当量です。つまり、ヨウ素分子1モルは2当量です。そして、電子1個を放出するチオ硫酸イオン(S2O32-)1モルは1当量です。
ここで、過酸化物価を求める計算で、チオ硫酸イオンのモル数(正確にいえばモル数の1/1000になりますが)を求める意味がわかりました。
当量は、反応でやりとりする電子をもとに決められているので、反応にかかわるチオ硫酸イオン(S2O32-)の当量を求めると、それはヨウ素分子(I2)の当量でもあります。
つまり、チオ硫酸イオン(S2O32-)の当量数を求めればよいことになります。
そして、チオ硫酸イオンは、上図に書いたように1モルが1当量と一致します。チオ硫酸ナトリウムのモル数を測定すれば、その数値は、すなわち当量数となります。
こうして、過酸化物価を知ることができます。
NOTE
いまは何でも買える時代です。アマゾンで本を探していたらPOV試験紙 (過酸化物価試験紙)なるものがあることを知りました。4分で測定できるそうです。
過酸化物価(POV)は、油が酸化するとできるヒドロペルオキシド(-OOH)を測定した値です。
具体的には、ヒドロペルオキシド(-OOH)をヨウ素分子(I2)に置き換え、ヨウ素分子がデンプンに反応して青紫色に変わる性質を利用し、チオ硫酸ナトリウムで滴定して色が消えるまでの量を測定することで求められます。
単位はミリ当量(meq)で表されます。
チオ硫酸ナトリウムイオンは、1モルが1当量となります。したがって、チオ硫酸ナトリウムイオンのモル数がわかれば、当量がわかり、油1キログラムあたりに補正した数値が、求める過酸化物価になります。