油の融点は、脂肪を構成する脂肪酸によって決まります。牛脂やラード(豚脂)などは、飽和脂肪酸が多く、融点が高いです。一方、大豆油、なたね油、コーン油など穀物を原料とする油は、不飽和脂肪酸、特にリノール酸を多く含んでいるので、融点が低いです。
油脂化学の知識 改訂新版(幸書房 2015)を読みました。
油には常温で固体のものと液体のものがある
油にはいろいろな種類があります。ラード(豚脂)みたいな動物の脂は、常温で固まっています。バターもそうですね。それに比べてサラダ油、オリーブオイルのような植物性の油は常温で液体です。
脂と油はちがうもののように見えますが、油?と脂?と脂肪ってどうちがいますか?という記事でも書きましたが、油脂ということばでひとくくりにできる同じものです。
主な油脂の融点と凝固点
一般的な油脂の融点が書かれていました。
融点と凝固点はどちらも「融点」のことです。区別して書かれているのは、植物油が常温で液体であるからです。
油脂 | 全体が融解する温度(℃) | 全体が凝固する温度(℃) (急速に冷却した場合) |
牛脂 | 40~50 | |
バター脂肪 | 28~36 | |
カカオ脂 | 30~35 | |
豚脂 | 28~48 | |
パーム油 | 27~50 | |
パーム核油 | 24~30 | |
ヤシ油 | 23~28 | |
大豆油 | -8~-10 | |
ナタネ油 | -20~-24 | |
綿実油* | -7~-8 | |
サフラワー油 | -20付近 | |
ヒマワリ油* | -10~-15 | |
トウモロコシ油* | -7~-10 | |
コメ油* | -5~-10 | |
アマニ油* | -16~-25 | |
*脱ロウしたもの ※油脂化学の知識 改訂新版(幸書房 2015)より |
脱ロウは油を精製するときに行われる一工程で、低温で固まる性質があるロウ分をとり除くことです。
脂肪酸によって固体か液体になるか決まる
油の性質を決めているのは、脂肪酸です。
たとえば、ラード(豚脂)と大豆油の違いは、原料そのものの違いももちろんありますが、中に入ってる脂肪酸の違いによって常温で固まっているかそれとも液体なのかという融点の違いがでます。
たとえばラードはこんな脂肪酸で構成されているそうです。
豚肉の脂肪部分を抽出した食用油脂。脂肪酸組成はパルミチン酸 28%,ステアリン酸 13%,パルミトレイン酸 3.0%,オレイン酸 46%,リノール酸 10%,リノレン酸 0.7%,アラキドン酸 2.0%。
(出典)
8種類の脂肪酸から構成され、一番多いのはオレイン酸で、次がパルミチン酸です。ラード(豚脂)の融点は上の表によると28~48℃です。
ラードを構成する脂肪酸の融点について調べてみました。
名称 | 炭素数 | 二重結合数 | 融点(℃) |
パルミチン酸 | 16 | 0 | 63.1 |
ステアリン酸 | 18 | 0 | 69.6 |
パルミトレイン酸 | 16 | 1 | -0.5 |
オレイン酸 | 18 | 1 | 13.4 |
リノール酸 | 18 | 2 | -5.0 |
α-リノレン酸 | 18 | 3 | -11.0 |
アラキドン酸 | 20 | 4 | -49.5 |
融点が高いのから低いのまで揃っています。オレイン酸が46%を占めているとはいえ、融点がとても高いパルミチン酸とステアリン酸を足すと全体の40%以上を占めているので、融点が高くなることがわかります。
飽和脂肪酸は融点が高く不飽和脂肪酸は融点が低い
飽和脂肪酸は、一般に不飽和脂肪酸に比べて融点が高く、炭素数が増えるほどより高くなります。
不飽和脂肪酸については、シス型とトランス型では、シス型の方が融点が低く、また二重結合が増えると融点が下がります。
一般に不飽和脂肪酸の融点は同じ炭素数の飽和脂肪酸よりも低いが.二重結合の数,位置,シス―トランス配置などによっても変わる.
同じ炭素数の脂肪酸を比べると,シス型はそれと対応するトランス型よりも融点が低く,シス型だけを比べると二重結合が炭化水素鎖の中央に近づくにつれて融点が下がる.
しかし,トランス型ではこの傾向は明瞭ではない.(中略)
二重結合の数が増えると.融点は低下するが.共役二重結合をもつ脂肪酸(共役脂肪酸)は非共役の異性体よりも融点が高くなる.
したがって,次章の水素添加によって二重結合を減らしたり,トランス結合が増えたり,または二重結合が移動して共役結合が生成したりすると.融点が上昇することになる.
共役二重結合をもつ脂肪酸とはどのようなものなのでしょう?
共役リノール酸
共役二重結合の例として、共役リノール酸を紹介しましょう。図の一番下にあるリノール酸は、カルボキシ基(COOH)から9番目と12番目の炭素に二重結合があります。その間にはメチレン基(-CH2-)が入っています。
ところが、共役リノール酸の例を見てください。
trans10, cis12 共役リノール酸では、炭素の二重結合が隣合っています。(-CH=CH-CH=CH-)のようになっています。
そのため、本来の炭素の二重結合の位置である、9番目と12番目から10番目と12番目に位置が変わっています。
trans9, trans11 共役リノール酸も同じように炭素の二重結合が隣合っています。こちらは、炭素の二重結合が9番目と11番目に位置が変わっています。さらに、二重結合が両方ともトランス型なので、形が直線的に見えます。
穀物油は融点が低い
油脂の融点の表を見ると、大豆油以下、穀物の油は融点がとても低いことがわかります。アマニ油の脂肪酸組成は約50%がオメガ3のα-リノレン酸ですが、他の油はオメガ6のリノール酸が主成分です。
穀物の脂肪酸組成でリノール酸が多いのは特徴です。
そのため、穀物油は液体です。植物油だから液体になるのではありません。人気があるココナッツオイルはヤシ油のことですが、常温で固体です。
NOTE
油のことを感覚的になんとなく思っているだけの時は、牛脂や豚脂(ラード)が常温で固体なのは、牛やブタの体温が高いからだろうと思っていました。そして、サラダ油など穀物油が液体なのは、何となく搾って得られる油は液体だと思っていたからです。
しかし、油を構成する脂肪酸のことを考えれば、もっとハッキリわかります。
特に、穀物が含む油はリノール酸が多いのが特徴です。α-リノレン酸が主成分の亜麻仁油やえごま油は例外みたいなものです。