油を抽出する溶媒ヘキサンについて

この記事では、大豆油などを抽出するときに使われる溶剤ヘキサンについて、構造や性質について説明し、実際に油を抽出するときの手順と、その後毒性をもつヘキサンをどのように取り除くかを調べて書きました。

蒸発

ヘキサンの構造

ヘキサン (hexane) は有機溶媒の一種で、直鎖状アルカンといいます。アルカンというのは、鎖式飽和炭化水素のことで、読んで字のごとく、直線的に並んだ炭素の腕のすべてに水素が結合しているものです。メタン、エタン、プロパン、ブタンなど、燃料ガスとして馴染みがありますね。ブタンは、登山用の燃料としてガスボンベによく使われています。

メタン(炭素1個)、エタン(炭素2個)、プロパン(炭素3個)、ブタン(炭素4個)、ペンタン(炭素5個)、ヘキサン(炭素6個)という構成で、それぞれの炭素同士に二重結合しているものはなく、下図の通り、構造は実に簡単です。

文章で「鎖式飽和炭化水素」なんて書いたものを読むより、構造式を見た方が分かりやすいです。

alkane

分子式 C6H14であり、示性式CH3(CH2)4CH3で表されます。

ヘキサンの構造式は簡略化されたものだと下図のようになります。炭素と水素だけで構成されていますから、何の記号も出て来ません。これだとわかりにくいので、久しぶりに炭素と水素を全部書いた構造式を上に載せました。

Hexane

5個の構造異性体

さらにヘキサンには、分子式 C6H14の構造異性体がヘキサンも含めて5つあります。見づらいので、ヘキサンを最初に水素表示あり/なしで書き、構造異性体は、水素表示なしで書きました。他の異性体と区別するため、ヘキサンは、n-ヘキサン(ノルマル:「普通」)とも呼ばれます。

油の抽出に使用されるのは、下図のヘキサンです。

ヘキサン構造異性体

ヘキサンの性質

ヘキサンは常温では無色透明で、灯油の様な臭いがする液体。融点は、-95℃です。常温では液体です。沸点は69℃です。この沸点は重要なので、太字にしておきました。

溶媒とは、他の物質を溶かす物質のことをいいます。たとえば油性ペンキは水に溶けないですがシンナーには溶けますね。そのシンナー(薄め液)が溶媒です。溶けるもの、この場合油性ペンキは溶質といいます。

溶媒と溶質は大別すると「極性(親水性)」と「無極性(疎水性)」とに区分することができるそうです。極性といわれると化学の知識がない私は困ってしまいますが、親水性、疎水性といってもらうとわかります。水に溶けるかどうかということです。

塩は水に溶けますが(親水性)、油は水に溶けません。(疎水性)

極性溶媒は極性物質との組み合わせが良く、無極性溶媒は無極性物質との組み合わせがよいとされ、これは「似たものに溶ける」といわれる性質だそうです。このあたりは深く追求する必要がないので、そういうものだと思っておきましょう。油は水に溶けないというのが象徴的なことです。

ヘキサンはガソリンに多く含まれていて、ベンジンの主成分です。パーツクリーナーにも使われているので、メカが好きな人は、あのにおいかとお分かりになるでしょう。

ヘキサンには毒性もあります。

油を抽出する

ヘキサンは油脂抽出に使われています。

大豆油はヘキサンを溶剤として油脂を抽出したものです。大豆は油脂含量が少なく、20%程度しかありません。そのため、ただ圧搾しただけではうまく油を得られないのです。

また、なたねトウモロコシなど油脂含量が多い原料の場合も、圧搾して油脂をしぼったあとの搾りかす(油粕)からさらに油脂を抽出するために使われます。

具体的にどのように使われるか

実際、どのような作業をするのか調べてみました。

昔の特許を調べていくと、特開昭56-32596「食用油脂の製造法」に事例が出ていました。

この発明の実施例では、なたねを原料とした場合は、n-ヘキサンを溶媒として使用し、大豆を原料とした場合は、エチルアルコールを溶媒としていました。

実施例は、おそらく実験室での製造例ですが、規模が大きくなり工業的に生産する場合も原理は変わりません。

なたねを使った実施例はこのように書かれていました。

鉄鍋に原料なたね8kgを張り込み、攪拌しつつ直火で加熱し品温を220℃に30分間保つ。

放冷後この焙煎なたねをローラーにより圧扁粉砕したのち、ステンレス製ソックスレー型大型抽出機でn-ヘキサンにより4時間抽出し、ミセラを蒸留缶にとり、大部分のn-ヘキサンを留去し、さらに減圧下に90~100℃で脱溶剤し、粗油3.5kgを得た。

また、大豆の場合は次のように書かれていました。

実施例1で使用した鉄製鍋に原料大豆5kgを張り込み直火で加熱し、品温160~180℃にかき混ぜながら20分間保つ。

放冷後この焙煎なたねをローラーにより圧扁粉砕したのち、ステンレス製ソックスレー型大型抽出器でエタノールを溶剤として4時間抽出する。抽出ミセラをろ過し、脱溶剤して大豆粗油0.8kgを得た。

最初にずいぶん高い温度まで上げて焙煎するのはこの発明のポイントで、そうすることで、抽出した油に酸化安定性が加わるらしいですが、今は関係がないので気にしないで下さい。

抽出ミセラとは、油分を多く含んだn-ヘキサン(もしくはエタノール)溶液のことです。

ヘキサンは減圧して加温して蒸発させる

n-ヘキサンを溶剤に使用した場合は、蒸留缶で減圧してn-ヘキサンを蒸発させ、さらに念入りに沸点が69℃のn-ヘキサンを減圧した状態で、90~100℃で蒸発させるのです。

減圧すると沸点が下がる

減圧すると沸点が下がります。標高の高い山に行ってお湯を沸かすと、100℃より低い温度で沸騰します。それと同じことです。

減圧したうえに、もともとの沸点以上の温度に上げるのですから、原理としてはn-ヘキサンは、完全に蒸発してしまうでしょう。

エタノールは、お酒のアルコールのことです。こちらはn-ヘキサンのような毒性はないので、沸点78 ℃まで加熱し、多少、アルコールが残っても害はないのであまり厳密には書かれていません。

ソックスレー型大型抽出器について調べていたら、ソックスレー抽出の原理が書かれているイビデンエンジニアリング株式会社のページを発見しました。こちらのページには写真も出ています。

ソックスレー抽出では固体状の物質から、溶剤を使って溶剤に可溶な目的成分を溶解、抽出することができます。ソックスレー抽出器は、最下部にヒーターと溶媒を入れた容器、中間に固体の試料を入れたろ紙が入る筒、最上部に冷却管がついた装置です。溶媒容器を加熱すると溶剤は蒸発し、最上部の冷却管で冷やされて、固体試料に滴り落ち、溶媒可溶...

ソックスレー抽出では固体状の物質から、溶剤を使って溶剤に可溶な目的成分を溶解、抽出することができます。

ソックスレー抽出器は、最下部にヒーターと溶媒を入れた容器、中間に固体の試料を入れたろ紙が入る筒、最上部に冷却管がついた装置です。溶媒容器を加熱すると溶剤は蒸発し、最上部の冷却管で冷やされて、固体試料に滴り落ち、溶媒可溶分を少量溶かしこんだ後、溶媒容器へと戻ります。

溶媒可溶分は溶媒より沸点が高いため、このサイクルを繰り返すことで、溶媒容器内には徐々に溶媒可溶分が濃縮され、ろ紙内に溶剤不溶分が残ります。

還流する溶媒は目的成分を含まないので飽和することなく、比較的少量の溶媒で効率よく抽出できるのが利点です。

ソックスレー抽出器は、少量のヘキサンを使って大豆から油を抽出することができる機械ですね。最初にn-ヘキサンを加熱して蒸発させ、上で冷やして滴り落ちる仕組みが、動力を使わないで溶媒を繰り返し循環させることを可能にしています。

油はヘキサンに溶けます。ヘキサンと油の混合物を加熱すると、ヘキサンの沸点は69℃ですから先に蒸発してしまいます。一方、油の沸点は、油が単一の物質ではなく、グリセリンについた脂肪酸によって性質が変わります。しかし、単純に考えて、天ぷらを揚げるときには油は180℃くらいが適温などといわれていますから、そのぐらいまで熱しても大丈夫です。

実際、大豆の脂肪酸の半分を占める不飽和脂肪酸のリノール酸の沸点は229℃。飽和脂肪酸のパルチミン酸の沸点は、351℃。同じく飽和脂肪酸のステアリン酸の沸点は380℃です。

この機器の中で、n-ヘキサンが循環しながら徐々に油を溶かし込み、n-ヘキサンに溶けないものは、ろ紙に残る仕組みです。

原理としては、油を溶かし込んだn-ヘキサンは、念入りに完全に蒸発させる仕組みができています。

まとめ

調べられたら別な記事に詳しく書くつもりですが、大豆油の溶剤を使った抽出は、イギリスで始まり、もともとはベンゼンが使われ、特許も取得されていたようです。

しかし、ベンゼンは発がん性があるなど人体にはひどく有害なことが分かり、溶剤として使われなくなりました。その後、ヘキサンが使われるようになりました。

この記事を読んで、溶剤ヘキサンを使った油なんて嫌だなあと思う人がいらっしゃると思います。しかし、理科の先生や化学を学んでいる人はほとんど気にしないのではないかとも思います。

何が正解なのか私は正直なところ分からないのですが、もし、抽出した油が嫌いなら、価格の高い一番搾りの植物油かバターやラードなど動物性の脂を使う方法もあります。

ヘキサンを溶剤とする油の抽出方法は、根こそぎ抽出できるらしいので、無駄がありません。植物油の価格がとても安いのは、溶剤によって抽出されることが理由なのは間違いありません。

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