リノール酸は乳癌に影響があるみたいだ

発癌物質を使わずマウスを寿命まで生かして、高脂肪食と普通食を与えて乳癌発生を調べる実験がありました。高脂肪食は、リノール酸が多い綿実油を添加していました。リノール酸が多い食餌は、乳癌数が増え、また若い時期から与えると、乳癌発生のスピードも数も増えることがわかりました。

サラダオイル

発癌物質を投与しない「自然状態」でも、リノール酸は発癌を促すのか?

少し前に、リノール酸と癌はどんな関係があるのかという記事を書きました。

リノール酸と癌はどんな関係があるのか
リノール酸に大腸発癌増強作用があるという論文を読んで、にわかに信じられず、脚注がついていた論文を探して読みました。シロウトらしく、リノール酸が直接大腸癌を発生させるのかと早とちりしましたが、そうではありません。 大腸癌を発癌させる条件をつく...

発癌物質を投与して大腸癌を発癌させる条件をつくり、その条件下でラットがリノール酸を摂っていると、飽和脂肪酸のステアリン酸を摂っているラットに比べ発癌率が高くなるという内容でした。

その時に知りたいと思ったことがあります。

それは、発癌物質を投与しないで普通の食餌を摂っていてもリノール酸は発癌をうながすのだろうか?ということです。

標準の食餌と高脂肪の食餌でマウスを寿命まで生かして腫瘍への影響を調べる実験があった

以前、脂肪のとりすぎとガンという記事を書きました。

脂肪のとりすぎとガン
脂肪をとり過ぎると、ガンにかかりやすくなり、脂肪酸の中ではリノール酸に発ガン、増殖、転移を促進する働きがあるそうです。はっきり書かれていて驚きました。 油をとり過ぎるとガンになるという話、何となく聞いたことがあるような気がしますが、都市伝説...

このときに読んだのが癌と脂質栄養という論文でした。

発癌物質を使わない

この論文の参考文献の中にあった、The Genesis and Growth of Tumors. III. Effects of a High-Fat Diet(腫瘍の発生と成長 III 高脂肪食の影響)という論文の最初に、私が知りたいと思った実験がありました。

発癌物質を投与しない実験です。

EFFECTS OF A HIGH-FAT DIET ON THE FORMATION OF SPONTANEOUS BREAST TUMORS(自発性の乳房の腫瘍形成に対する高脂肪食の影響)という実験です。

中身を簡単に説明すると、マウスを2つのグループに分けて標準食と高脂肪食を与え、寿命まで観察して、腫瘍の発生数を比較するという内容です。

マウスの寿命は110週くらい。約2年です。

高脂肪食とはリノール酸の油だった

高脂肪食に追加された脂肪は、水素添加した綿実油でした。綿実油は、ウイキペディアによれば、脂肪酸組成は50%以上がリノール酸です。(出典

つまり、リノール酸が豊富な油です。

水素添加したのは、液体からマーガリンやスプレッドのように固体にするためでしょう。

論文が書かれた1940年代は、リノール酸が必須脂肪酸だと発見された1930年からまだ10年程度しか経過していません。現代のようにリノール酸を摂り過ぎると害があるとまだ問題になっていません。この時代は高脂肪食の一例として水素添加された綿実油を使っていたのでしょう。

しかし、今の時代にこの論文を読むと、実質、リノール酸が豊富な油について実験していることになります。リノール酸についての話だと読み換えることができます。

食餌の栄養成分

マウスに与える食餌は2つタイプがあります。下の表を見てください。

脂肪はControl(対照群)が3%でHigh-fat(高脂肪群)が12%です。

高脂肪群に追加された脂肪は、水素化綿実油が使われました。綿実油はリノール酸が50%程度ある油です。水素添加されてマーガリンのようになっていたのでしょう。

Control (1c) High-fat (1f)
タンパク質 17 17
脂肪 3 12
炭水化物 64 58
灰分 3 3
※The Genesis and Growth of Tumors. III. Effects of a High-Fat Dietによる

実験は2つ行われています。

平均年齢38週からスタート

実験1は、対照群と高脂肪群とも44匹のマウスで行われました。それぞれの群に子持ちのマウスとその中に12匹ずつ処女マウスがいました。

平均年齢38週(範囲は32~48週)からスタートし、対照群(1c)と高脂肪食群(1f)の食餌を与えられました。

当たり前ですが、すべてメスのマウスが使われました。DBAマウスという、もともとは毛色の遺伝の研究のために育成されたマウスです。

マウスがすべて死ぬまで実験が続けられました。

その結果が下の表です。

TABLE I: DBAマウスの自然発生乳房腫瘍の形成に対する高脂肪食の効果
F12:control 食餌 1C F11:high fat 食餌 1f
平均週齢 平均体重
g
腫瘍なし生存数 累積腫瘍数 平均体重
g
腫瘍なし生存数 累積腫瘍数
38 29 44 0 28 44 0
46 30 43 1 31 39 3
54 31 40 3 33 36 5
62 31 34 6 34 32 7
70 31 28 8 34 26 9
78 28 24 10 33 19 14
86 28 13 11 32 5 22
94 28 9 11 0 24
102 2 13
110 0 14
※The Genesis and Growth of Tumors. III. Effects of a High-Fat Dietによる

論文によると、2つのグループのマウスの一般的な健康状態と外観に目に見える違いはなく、非腫瘍死の割合は両方のグループでほぼ同じでした。

必ずしもすべてのマウスが腫瘍で死ぬわけではないのです。他の原因もあります。また、このようなことも書かれていました。

高脂肪群は対照群に比べて1.7倍腫瘍ができる

基本的な食事を与えられたF12グループの14腫瘍(32%)とは対照的に、高脂肪食を与えられたF11グループでは24腫瘍(55%)が発生しました。

高脂肪群の腫瘍は、対照群の腫瘍の72±5.7週間と比較して、平均年齢70±3.1週間で発生しました。

上の文中、「14腫瘍」と「24腫瘍」というのは、腫瘍の具体的な個数ではなく、腫瘍が発見されたマウスの数です。上の表では累積腫瘍数に書かれています。

基本的な食餌とは対照群のことです。

水素化綿実油を与えられた高脂肪群では腫瘍ができるマウスが増えています。高脂肪群のマウスの半分以上に発生しています。

さらに次の実験とその結果です。

平均年齢24週からスタート

実験2は、実験1と同じ内容を50匹のバージンdbaマウスからなる2グループで繰り返しました。

平均年齢は24週(範囲は、18〜32週)で、対照群(1c)および高脂肪群(1f)の食餌を与えられました。

実験1に比べてマウスがもっと若い時期からスタートしたことと、すべてバージンマウス(お腹に子供がいない)であることが違いです。

TABLE II: DBAバージンマウスの自然発生乳腺腫瘍の形成に対する高脂肪食の効果
F22:control 食餌 1C F21:high fat 食餌 1f
平均週齢 平均体重
g
腫瘍なし生存数 累積腫瘍数 平均体重
g
腫瘍なし生存数 累積腫瘍数
24 27 50 0 26 50 0
32 30 50 0 31 50 0
40 31 50 0 34 49 1
48 33 50 0 36 44 5
56 34 47 2 38 36 13
64 33 38 5 37 25 20
72 32 26 7 33 15 28
80 31 14 14 34 8 30
88 28 8 15 4 32
96 5 15 3 32
102 3 16 2 32

マウスの平均年齢が2歳に達した時点で実験を終了しました。その時点で、対照群の3匹(F22)と高脂肪群の2匹(F21)のみが生存しており、腫瘍はありませんでした。

実験2の結果です。

高脂肪群は対照群に比べて2倍腫瘍ができる

高脂肪群で32(64%)の乳房腫瘍が発生し、一方、対照群では16(32%)の腫瘍が発生しました。

高脂肪群の腫瘍は、平均年齢62±1.8週間で出現しましたが、対照群の腫瘍は74±3.1でした。

したがって、高脂肪食は2倍の腫瘍の形成と平均出現年齢の大幅な短縮を引き起こしました。

実験2では、高脂肪群でより多くのマウスに腫瘍が発生しました。全体の64%ですから比率が高く感じます。また、高脂肪群では、平均年齢が10週以上早く腫瘍が発生しました。

表を見比べると、高脂肪群の累積腫瘍数が増えるスピードが速いです。

また、実験1と同様に、2つの群の一般的な健康状態と外観に目に見える違いはなく、非腫瘍死の割合はほぼ同じであったと書かれていました。

高脂肪食を早くから与えられると腫瘍は早く発生し発生率も高くなる

2つの実験を比較してこのようなことが書かれていました。

実験1では、高脂肪食は腫瘍が出現する平均年齢を有意に低下させなかったが、実験2では腫瘍の平均出現年齢は約3ヶ月短縮された。

実験2のマウスは、これらの実験の開始時に実験1のマウスよりも約14週若かったため、より長い期間にわたって食餌の違いにさらされました。

マウスが成人期早期を通して高脂肪食を与えられた場合、腫瘍形成のより明確な増強と加速が起こることが示唆されています。

つまり、高脂肪食、もっと正確にいうとリノール酸が多い油を若いうちから与えられていると、腫瘍は早くに発生し、全体の発生率も高くなるということがわかります。

腫瘍は癌と読みかえて

ところで、この論文ではtumor(腫瘍)がたびたび登場していますが、malignant tumor(悪性腫瘍)ともbenign tumor(良性腫瘍)とも書かれてなかったので、そのまま、腫瘍と訳していました。

しかし、Discussion(考察)の最初にこの一文がありました。

The incidence of spontaneous breast carcinoma in the mouse was significantly increased;

マウスの自然発生乳癌の発生率は著しく増加しました。

carcinomaは悪性腫瘍のことです。それで、腫瘍は癌であると読み換えて下さい。

対照群でも全体の32%に癌が発生する

ところで、高脂肪食を摂らない、いや、もっというと、リノール酸を特別に多く摂らない対照群で、実験1、実験2でも全体の32%に乳癌ができていました。

この実験は寿命まで観察する実験なので、高齢になるにつれ乳癌の発生が増え、最終的に全体の32%が乳癌になるのです。

これにはちょっと驚きました。

NOTE

この実験は、高脂肪食が乳癌の自発的な発生に影響があるか調べることが目的でしたが、高脂肪食として水素化綿実油が使われたことで、リノール酸が多い油を使った実験になりました。

そして、リノール酸が多い油を摂っていると、乳癌の発生を促すことがわかりました。

ただし、この論文には、他に3件の実験について書かれていて、必ずしも高脂肪食が発癌に影響があるとはいえない結果もありました。そのため、リノール酸が多い油が(いろいろな)癌の発生を促すと、一般化はできませんのでお間違いなく。

ところで、リノール酸が多い油を摂っていない対照群でも全体の32%に乳癌が発生していました。

この数字少ないと感じますか?それとも多いと感じますか?

素人考えですが、私はずいぶん多いものだなと思いました。ヒトも寿命まで生きると同じようなものなのでしょうか?ヒトと比較するとどのくらい違うものなのか疫学調査などから知りたいところです。

しかし、高脂肪食を摂らないでも寿命まで生きると30%が乳癌になるマウスがいると知ることができてよかったです。老化は癌の原因になると知られていますが、何となく知っているより、マウスの話でも具体的な数字を知っている方がよいです。

英文はグーグル翻訳を使って読んでいます。かなり翻訳の精度は高いですが、時々、おかしな翻訳文が出て来ます。そんな時は、英辞郎を頼りに直しながら読んでいます。

タイトルとURLをコピーしました