加齢臭の原因といわれる2-ノネナールはビールにもできる

ビールから加齢臭の原因物質、2-ノネナールができると聞くと、ちょっと驚きます。しかし、リノール酸が過酸化して2-ノネナールができるのは、おかしなことではありません。しかし、ヒトもそうなのかなと思ったら、ヒトの2-ノネナールの元は、ω(オメガ)-7のパルミトレイン酸やバクセン酸でした。

ビール

ビールから2-ノネナール

ところで、ビールの科学―麦とホップが生み出すおいしさの秘密 (ブルーバックス 2009)という本を読んでいたら、「ビールの老化を防ぐ」という記事がありました。

アマゾンへのリンクは画像に貼ってあります。

よく見ると、リノール酸から老化物質として、2-ノネナールができる経路が書かれていました。これを見つけた時は、ちょっとびっくりしました。2-ノネナールは加齢臭の原因物質といわれています。

改めてウイキペディアを見てみると、ちゃんと書いてありました。

2-ノネナール(2-Nonenal)は、不飽和アルデヒドの一種であり、油臭くて青臭いニオイを有する。熟成したビールとソバの重要な芳香成分であり、オリス(ニオイアヤメ)、脂肪そしてキュウリの知覚概念である。

資生堂リサーチセンターの土師信一郎らによってヒトの体臭中にも存在することが見出され、加齢臭との関連が研究されている。(出典

「知覚概念」って何だか意味がわからないなと思ったので、英文のウイキペディアで2-Nonenalを調べてみると、日本語訳の単なる間違いであることがわかりました。

2-ノネナールのにおいがオリスや脂肪、キュウリのように感じる(もしくは思い出す)という意味です。

この記事では、リノール酸から2-ノネナールができる過程をメモ代わりに記録しておきます。

ビールの品質変化

ビールは保存中に品質が変化します。確かに古いビールはおいしくありません。品質の劣化は、日光による香味変化と、酸化による「におい」があります。

ビールの2-ノネナールは紙のようなにおい

段ボール紙のようなにおいがするので、紙臭(カードボード臭)と呼ばれています。これは、麦芽由来のリノール酸などの脂質が酸化して2-ノネナールができて、紙のような不快臭を放ちます。

下図はビールの科学―麦とホップが生み出すおいしさの秘密にでていたものを自分で書き直しました。スペースの関係で、リノール酸の構造式は、直線的に書いています。

リノール酸がリポキシゲナーゼ-1によって過酸化(-OOH)されることで反応が始まります。

リノール酸の過酸化

また、同時にネットで探すことができたビールをはじめとする酒類の香り研究について-近年の成果とトレンド-も参照しました。

ビール中のリノール酸は微量

食品分析表での大麦のリノール酸含有量は後述しますが、ビール中のリノール酸はごく微量であると知っておきましょう。

カードボード臭については原料である麦芽に由来する脂質の酸化で生成する trans-2-ノネナール(T2N)の関与が示唆されてきた。

大麦麦芽はもともと脂質を豊富に含み,麦芽の酵素を仕込でのデンプン,たんぱく質分解に活用し,穀皮を麦汁ろ過のろ過材としても用いるため,脂質酸化の基質となる脂質およびその酸化酵素を含む麦芽の全粒を仕込に使用する。

そのため,ビールの仕込工程上,脂質酸化を完全に避けることは難しい。
(中略)

大麦麦芽の脂質の脂肪酸の部分は主にリノール酸で構成されているが,リノール酸は水溶性が低く,また,ほとんどのリノール酸は麦汁をろ過する際にろ過層となる麦芽由来の固形分に吸着されるため,ビールにまで移行するリノール酸は微量である

しかし,仕込工程においては麦芽中の脂質酸化関連酵素群により最終的な酸化生成物としてトリヒドロキシオクタデセン酸(THOD)や T2N が生成する。

THOD はリノール酸より水溶性が高く,ビールのキレを損なったりビールの泡持ちを低下させる効果があり,T2N は前述の通りカードボード臭を呈し,いずれもビールの品質を劣化させる要因となる。

上の図にあるトランス-2-ノネナールと下図のトランス-2-ノネナールは同じものです。こちらの方がよく使われるかもしれません。

下図右端は二重結合の酸素(O)で終わっていますが、その二重結合の元には炭素(C)と水素(H)があります。書くのを省略されているだけです。

そして、この端から2番目の二重結合の両端の向きは正反対ですから、トランス型です。

2-ノネナール

トランス-2-ノネナール

リノール酸は大麦由来

ビールの原料は大麦です。もともと大麦にどのくらいリノール酸が含まれているか調べました。大麦といっても加工品の押麦なので多少違いはあると思いますが、大体のところはわかります。

大麦100gあたり脂質は1.5g。そのうち、脂肪酸総量は1.18gでその約半分、0.59gがリノール酸です。穀物はリノール酸が多いです。

100gあたりの栄養成分
食品成分 おおむぎ/押麦
エネルギー 346kcal
水分 12.7g
たんぱく質 6.7g
脂質 1.5g
炭水化物 78.3g
灰分 0.7g
脂肪酸総量 1.18g
飽和脂肪酸 0.43g
一価不飽和脂肪酸 0.13g
多価不飽和脂肪酸 0.62g
n-3系多価不飽和脂肪酸 0.03g
n-6系多価不飽和脂肪酸 0.59g
※日本食品標準成分表2015年版(七訂)

100gあたりリノール酸は0.6g程度とごくわずかしか含まれていませんが、それが段ボールをぬらしたようなにおいとして感じられるようになります。においの原因物質は、ごくわずかでも有効ですね。

ヒトの2-ノネナールはリノール酸由来ではなかった

ところで、ウイキペディアの2-ノネナールにはこのようなことも書かれていました。

2001年4月発行のJournal of Investigative Dermatology(JID)において、資生堂リサーチセンターの土師信一郎らによって”2-Nonenal, Newly Found in Human Body Odor Tends to Increase with Aging”の表題で発表された。(中略)

さらに、2-ノネナールは皮膚表面に見られるパルミトレイン酸やバクセン酸のようなω-7不飽和脂肪酸の酸化的分解反応によって生じることを究明した。

あれっ、リノール酸でなく、ω(オメガ)-7の脂肪酸が元になるのか・・・?

それで元の論文を探しました。2-Nonenal newly found in human body odor tends to increase with aging.に要約が載せられていて、全文を読むことができるリンクが貼られています。

グーグル翻訳を使って読んでいくと、皮脂には1価不飽和脂肪酸が多いことがわかりました。年齢によって違いがあります。

ω7不飽和脂肪酸ファミリーに属する脂肪酸、例えばC16:1、ω7(パルミトレイン酸)およびC18:1、ω7(バクセン酸)は、中年および/または高齢の被験者のみの皮膚表面脂質中に検出された。

さらに、こんな実験が行われています。

コレステロール、スクアレン、および不飽和脂肪酸などの皮膚表面脂質のいくつかの主成分は、スクアレン-HPOによって開始されるラジカル連鎖反応によって酸化的に分解され、得られた臭い成分が分析された。

スクアレン-HPOとは、スクアレン-ヒドロペルオキシド(スクアレンの過酸化物です)のことです。これが不飽和脂肪酸に接触(反応)すると、ラジカル連鎖反応を起こします。

パルミトレイン酸とバクセン酸に反応すると、2-ノネナールができるのですが、リノール酸に反応しても、ヘキサナールができただけでした。ヘキサナールはヘキサ、炭素数6のアルデヒドです。

ヘキサナール

 

この論文はとても面白いので改めて別記事にします。

NOTE

最初にビールから加齢臭の原因物質が出てくるなんて何でだろう?と思いました。しかし、ビールの原料、穀物である大麦には多くはないですが脂質があり、その中でリノール酸は多い成分です。

そして、生き物は同じような環境や仕組みで生きています。リノール酸が過酸化されれば、ヒトの加齢臭と同じように、2-ノネナールができてもおかしくありません。

ヒトの2-ノネナールもリノール酸からできていたら、同じような反応経路なんだなと思えて、しかもリノール酸は必須脂肪酸ですから、加齢臭は穀物を食べているせいかもしれないと思っていたかもしれません。

なぜ年齢が上がるとともに皮脂にパルミトレイン酸やバクセン酸が増えるのかわかりませんが、興味がそそられます。

また、オメガ6の脂肪酸については、オメガ6について知っておきたいことをお読み下さい。まとめてあります。

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