リノール酸の酸化は、二重結合の間にはさまれたメチレン基から水素が引き抜かれ、反応が始まり、二重結合した炭素の隣の炭素にヒドロペルオキシド基(OOH)が結合します。
さらに、ヒドロペルオキシド基(OOH)が結合した部分から分解し、炭素数の小さいアルデヒドや短鎖脂肪酸などいろいろな物質に変化します。
過酸化脂質とは、脂肪酸がどのように変化していく反応なのでしょうか?
あれこれ本を探し回り、糖と脂質の生物学(シリーズ・バイオサイエンスの新世紀 4 共立出版 2001) を見つけてきました。私が読むにはちょっときつい本です。分からないことが多いので、調べながら読んでいきます。
この記事では、リノール酸を例にとって、リノール酸が過酸化されていく様子を追ってみます。
過酸化による変化
過酸化脂質は脂質の酸化的な分解過程でできてくるものの総称です。
過酸化脂質は多価不飽和脂肪酸が変化します。多価不飽和脂肪酸とは炭素の二重結合を2つ以上持つ不飽和脂肪酸のことです。今まで書いてきた不飽和脂肪酸でいうと、α-リノレン酸、リノール酸、アラキドン酸、EPA、DHA などです。
過酸化する犯人は、フリーラジカル、活性酸素です。
脂質の過酸化反応は、2つに分けられます。最初の反応は、脂質ヒドロペルオキシド(LOOH)が生成するまでの反応です。次の反応は、それが分解されていくのです。
脂質ヒドロペルオキシド(LOOH)が生成するまで
フリーラジカルは、リノール酸などの多価不飽和脂肪酸の二重結合にはさまれた活性メチレン基のビスアリル水素を引き抜き、アルキルラジカルとします。
最初読んで、何を説明されているのかさっぱりわかりませんでした。
これを理解するために、日本コエンザイムQ協会のサイトにあった抗酸化物質の役割とコエンザイムQへの期待を読みました。
二重結合にはさまれた水素はとても反応性が高い
メチレン基とはメタンCH4から水素原子2個を取り除いて生じる2価の原子団。-CH2-あるいはCH2=で示されます。下の図を見てください。二重結合にはさまれているのは-CH2-ですね。その-CH2-は、反応性が高いので、活性メチレン基と呼ばれます。

活性メチレン基とビスアリル水素
二重結合の隣のメチレン水素は、アリル水素と呼ばれています。この水素は反応性に富む性質を持ちます。さらに両側を二重結合にはさまれた活性メチレン基の水素は、ビスアリル水素と呼ばれ、さらに反応性に富む性質を持ちます。
50000倍の反応性がある
ラジカルについて、これに対する反応性は普通のメチレン水素を1とした場合,アリル水素は500倍、ビスアリル水素にいたっては50,000倍の反応性があり、結果的に二重結合の数マイナス1だけビスアリル水素を持つ、高度不飽和脂肪酸が選択的に酸化されることになります。
これで、多価脂肪酸が過酸化されるときの法則のようなことが分かりました。二重結合が複数あるときは、必ず二重結合同士の間にメチレン基があります。そこが最初に酸化されるということですね。
脂質ラジカルから脂質ヒドロペルオキシドへ
リノール酸に戻りましょう。下図を見てください。
二つの二重結合に挟まれた11位のメチレン水素は反応性に富み、活性酸素や酵素により容易に引き抜かれて脂質ラジカル(L・)となります。11位というのはカルボキシル基(COOH)から数えて11番目という意味です。水素が抜けているので、電子(・)が余っています。
次に、ラジカルが9位もしくは13位に移動します。図の場合は、9位に移動した場合を書いています。11位はCH2から水素(H)が抜けてCHになっているので、二重結合が10位にずれてきます。ラジカルが移動した9位に酸素(O2)がつきます。脂質ペルオキシラジカル(LOO・)となります。
他の脂質から水素を引き抜く
しかし、脂質ペルオキシラジカル(LOO・)は非常に不安定なため、他の脂質から水素を引き抜くなどして、自らはより安定な脂質ヒドロペルオキシド(LOOH)となります。
図中、Lは脂質( lipid)の頭文字です。

リノール酸の過酸化
この反応はイス取りゲームのようなもので、水素を抜かれたリノール酸は、またどこかから水素を持ってくるの繰り返しで脂質ラジカル(L・)がなくなるまで繰り返されます。
脂質ヒドロペルオキシド(LOOH)の分解
ところで、できた脂質ヒドロペルオキシド(LOOH)は、「より安定」と書きましたが、それほど安定した物質ではなく、熱や鉄などがあると、脂質ペルオキシラジカル(LOO・)や脂質アルコキシルラジカル(LO・)となり、分解して、アルデヒド体、ヒドロキシ体、エポキシ体、短鎖脂肪酸になるとあります。
- アルデヒドは、カルボニル基−C(=O)− に水素(H)が1個ついた構造、-C(=O)-H と表されます。
- ヒドロキシは、炭化水素にヒドロキシ基(-OH)がついたものです。
エポキシは、私が書いている話には関係しないので省略します。
短鎖脂肪酸は、短鎖脂肪酸はくさいで書きましたが、炭素数6以下の脂肪酸のことです。
糖と脂質の生物学にはこのように書かれていました。
生体で見られるおもな短鎖アルデヒドは、マロンジアルデヒド(MDA)、ヘキサナール、4-ヒドロキシノネナール(HNE)である。
4-ヒドロキシノネナール(HNE)は、リノール酸などの高度不飽和脂肪酸の分解によって生ずるα、β不飽和アルデヒドであり、アルデヒドの中でも最も強い毒性を示すことから、脂質過酸化物による細胞毒性の本体の1つと考えられている。
それぞれの構造式は下図を見てください。

遊離脂肪酸の過酸化
α、β不飽和アルデヒドとは、下図の通り、アルデヒド基(-C(=O)-H)の隣の炭素がα位、その次がβ位であり、そこが二重結合の不飽和になっていることを示しています。

4-ヒドロキシノネナール
私が知りたいのは、リノール酸ヒドロペルオキシドから、どのように4-ヒドロキシノネナールができてくるのかということです。
リノール酸ヒドロペルオキシドから4-ヒドロキシノネナール
このあたりから怪しくなってきましたが、LNDMLSの黒猫実験室にあった芳香物質の生合成経路のページの不飽和脂肪酸由来の芳香物質という記事に助けてもらいました。
植物が傷つけられたりすると、まず細胞膜に貯蔵されていた不飽和脂肪酸がリパーゼによって切り出され遊離脂肪酸となります。そして次にペルオキシダーゼと呼ばれる酸化酵素によって酸素と反応します。
この酵素は非常に特異的に13位を酸化し過酸化物を生成します。生成した過酸化物は速やかに分解されてC-6の化合物群を生成するわけです。
ところでC-6化合物が切り出された残りの部分(C-12)がどうなるかという疑問があるかも知れませんが、実はこちらは植物内で傷つけられたことを知らせるシグナル物質として働きます。
そしてこれが防御物質を分泌させるホルモンなどを誘導するわけです。(出典)
C-6化合物とは、ヘキサナールのことです。
さらに、9位を酸化するペルオキシダーゼのことも出ていました。
一方でペルオキシダーゼの中には9位を酸化するものもあります。こちらの経路で生成する過酸化物も同様の開裂反応が進行しC-9の化合物群が生成します。
9位を酸化するペルオキシダーゼは特にウリ科の植物の果皮に存在しています。そのためC-9の化合物はウリ科の果実(キュウリ、スイカ、メロンなど;分類は野菜ですが・・・)の特徴をあらわす化合物となっています。(出典)
共有結合が切断される時、 開裂(かいれつ)と呼びます。開裂すると、C-9化合物ができます。これが、ノネナールです。異性化とは、ある分子が原子の組成は全くそのままに、原子の配列が変化して別の分子に変換することです。

リノール酸の開裂
この後、どのようにヒドロキシ基(OH)がつくのかは、分かりましたら書き加えます。
NOTE
不飽和脂肪酸は酸化されやすく、ヒドロペルオキシドになった後は、その部分から分解して炭素数の少ないアルデヒドや脂肪酸になります。
炭素数が少なくなると「におう」ようになります。たとえば、短鎖脂肪酸は、くさいのが特徴です。生乾きのシャツのにおい、汗臭いにおい、くさい靴下のにおいなどなど。
アルデヒドは、炭素数6のヘキサナールや炭素数9のノネナールができます。ヒトの場合は加齢臭など歓迎されないにおい成分になるのですが、植物では青臭さや作物特有の香りと認識されます。こういうところが面白いなあと思います。
また、この他のリノール酸についての記事は、リノール酸についてをお読み下さい。