リノール酸を酸化させると、理論上、7種類のアルデヒドができることが考えられます。その中に、3-ノネナールが入っています。ところが、実際に実験すると、2-ノネナールが主要産物の一つになっています。ノネナールはリノール酸からいくつかできるアルデヒドの一つなのですが、どうやら、つくられやすいようです。
リノール酸がノネナールに変化するまでの過程が知りたい
リノール酸が酸化されてアルデヒドの一つ、4-ヒドロキシ-2-ノネナールになるのがよくないと知りました。ノネナールは炭素数9のアルデヒドです。
リノール酸がどのようにノネナールに変化するのだろう?知りたいと思っていました。
かなり時間をかけて調べていくと、お米についての論文、精白米の貯蔵 中の品質変化にリノール酸がアルデヒドになる変化の過程が出て来ました。この論文は1978年ものなのでかなり前のものです。
中では、古くなったお米のにおい、古米臭について調べられています。古いお米を炊くと、ぷーんと特有のにおいがします。
お米(精白米)100g中に0.9g程度ですが、わずかに脂肪があり、その中にリノール酸もα-リノレン酸も含まれています。ただし、リノール酸が47%程度占めるのに対し、α-リノレン酸は、4%程度です。
穀物らしい脂肪酸組成です。
そこで、リノール酸が自動酸化され、さらにアルデヒドができます。そのアルデヒドが古米臭として感じられるのだそうです。においというのはごくごく微量で反応します。
炊き上がりのにおいをかいで、古米臭が分からない人は多分いないと思います。
この記事では、リノール酸からできるアルデヒドの種類を紹介して、ノネナールができるまでをお見せしたいと思います。
アルデヒドができる過程
論文中に、アルデヒドができる図がありました。Rは炭化水素基で付いている数字の1、2は炭化水素を区別のための数字で意味はありません。最初のO-OHがついているのが脂質ヒドロペルオキシドです。
-CHOがついている方が、アルデヒドです。
ちなみに、これから書く反応は、理論上考えられる変化です。リノール酸が酸化されると、7種類のアルデヒドができることが考えられます。説明よりも図を見ていただいた方が分かりやすいと思います。
へーそんなものか、と読み進めてください。
11位の炭素から水素が引き抜かれる場合にできるアルデヒド
リノール酸を酸化する場合、二重結合にはさまれた水素はとても反応性が高いで説明したように、炭素の二重結合にはさまれた、11番目の炭素についている水素は反応性がきわめて高く、この部分が酸化される場合が圧倒的に多いのです。
反応図を先に見ていただきましょう。※図をクリックすると大きくなります。
炭素の順番の数え方
オメガ3(n-3)、オメガ6(n-6)という表記に慣れていると、図に書かれた炭素への数字の振り方は逆ではないかと思いますが、化合物の命名法ではこのように数字を振ります。
カルボキシ基から数えるIUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry:国際純正・応用化学連合)命名法です。カルボキシ基の炭素がNo.1(C-1)で、その次の炭素はNo.2(C-2)・・・と数えていきます。
11番目の水素が引き抜かれると、ラジカルの位置が、図にある通り、11位のまま、9位に移動、13位に移動する場合があります。それぞれについて、ラジカルの位置にOOHがつき、脂質ペルオキシドができます。
ラジカルが9位に移動した時は、二重結合は、10-11位に移動します。
ラジカルが13位に移動した時は、二重結合は、11-12位に移動します。
二次反応は、-OOHがついた炭素の手前から切れ、-OOHがついた炭素が、アルデヒド-CHOになります。
できたアルデヒドは、2,4-C10-dienal、2-C8-enal、n-C6-alです。
二重結合のcis-、trans-について注意してください
リノール酸に2つある二重結合は、cis(シス)型ですが、リノール酸が途中で切れてアルデヒドになる場合、二重結合が果たしてそのままでよいのか疑問に思っています。しかし、今のところ正確な話が調べられていないので、切れる前と、変化しないように書いています。
もし、分かれば訂正しておきますが、誤りがあるかもしれません。念のため。
炭素数の読み方は、アルカン (データ)を都度参照してください。
2,4-C10-dienal
2,4-C10-dienalは、2位と4位に二重結合があり、炭素数10のアルデヒドという意味です。
dienalは、ジエナールと読みます。ジは2。alはアルデヒドの意味。enは、本来、eneのことです。エン(-ene)は、炭素の二重結合のことです。
次に母音で始まる接尾辞が続く時には、末尾の”-e”は欠落し、例えば、炭素の二重結合とアルデヒド基の両方を持つ場合の語尾は、”-enal”となります。
C10も含めて読むと、2,4-デカジエナールです。
2-C8-enal
2-C8-enalは、2位に二重結合があり、炭素数8のアルデヒドです。
enalはエナールと読みます。enは、二重結合が1つあることを示しています。
C8も含めて読むと、2-オクテナールです。
n-C6-al
n-C6-alは、二重結合のない炭素数6のアルデヒドです。
n-は、ノルマルで、直鎖の意味です。alはアルデヒド。二重結合がないので、eneがつきません。
C6も含めて読むと、ノルマル-ヘキサナールです。
14位の炭素から水素が引き抜かれる場合にできるアルデヒド
14位の炭素は、13位の二重結合の炭素の隣にあり、この炭素についている水素も反応性が高いです。ただし、11位の水素に比べて反応性は1/100くらいに落ちます。
14位の水素が引き抜かれると、14位にそのままラジカルがある場合と、ラジカルが12位に移動し、二重結合が13-14位に移動する場合の2通りあります。
n-C5-al、2-C7-enalができます。
n-C5-al
n-C5-alは、直鎖で炭素数5のアルデヒドです。
C5も含めて読むと、ノルマル-ペンタナールです。
2-C7-enal
2-C7-enalは、2位に二重結合があり、炭素数7のアルデヒドです。
C7も含めて読むと、2-へプテナールです。
8位の炭素から水素が引き抜かれる場合にできるアルデヒド
8位の炭素も、二重結合の隣にあり、この炭素についている水素も反応性が高いです。ただし、14位の場合と同様に、11位の水素に比べて反応性は1/100くらいに落ちます。
8位の水素が引き抜かれると、8位にそのままラジカルがある場合と、ラジカルが10位に移動し、二重結合が8-9位に移動する場合があります。
2,5-C11-dienalと3-C9-enalができます。
2,5-C11-dienal
2,5-C11-dienalは、2位と5位に二重結合があり、炭素数11のアルデヒドです。
C11も含めて読むと、2,5-ウンデカジエナールです。
3-C9-enal
3-C9-enalは、3位に二重結合がある炭素数9のアルデヒドです。
C9も含めて読むと、3-ノネナールです。
やっとノネナールが出てきました。しかし、ノネナールは、11位の炭素から水素が引き抜かれる場合にできるアルデヒドに比べると、それほどできやすいアルデヒドとは思えません。
リノール酸を酸化させる実験で出てくるアルデヒド
この論文には、これまで説明してきた、理論上考えられるリノール酸からできるアルデヒドと、実際の実験でリノール酸からできるアルデヒドについて比較されていました。
理論上、リノール酸から生成されるアルデヒドは、C5、C6、C7、C8、C9、C10、C11と7種類ありました。上で書いてきた通りです。
リノール酸からノネナールは作られやすい
しかし、実験で判明したものは、C2、C3、C5、C6、C7、C8、C9、C10、C11が出現します。
二重結合を含まないアルデヒドには、C2、C3、C5、C6があり、主要産物は、C6でした。
二重結合が1個、2位にあるアルデヒドには、C3、C5、C6、C7、C8、C9、C10があり、主要産物は、C7、C9でした。
二重結合が2個、2位と4位にあるアルデヒドには、C9、C10、C11があり、主要産物は、C10、C11でした。
二重結合が1個、3位にあるアルデヒドには、C9があります。これは上図と一致しています。
二重結合が2個、2位と5位にあるアルデヒドには、C11があります。これも上図と一致しています。
理論的に考えられたアルデヒドと実験で得られたアルデヒドには違いがあります。理論上は、C9のアルデヒドであるノネナールはそれほど出現しないと思われますが、実際には、2-ノネナールは主要産物に数えられています。
理論上の反応式を書いていた時は、ノネナールは、3-ノネナールしか出てこないので、出現率が低いのではないかと思いました。
しかし、実験から得られた結果を見るとそういうわけではなく、ノネナールはリノール酸から作られやすいのだと思います。
NOTE
リノール酸からノネナールに変化する過程を知りたいと思ったら、精米したお米が保存中に変化する論文が出て来ました。最初は「なんで?」でした。
リノール酸は体の中で変化すると思い込んでいたので、動物実験の論文が出てくるのかなと思っていたのです。しかし、考えてみれば、穀物であるお米にもリノール酸が含まれているのは当然で、それが酸化するのもまた当然のことです。
生き物は同じような仕組みで生きているんだなと思いました。
古米臭は、加齢臭に通じるのかもしれませんね。
また、この他のリノール酸についての記事は、リノール酸についてをお読み下さい。