オメガ3のα-リノレン酸はよく知られていますが、オメガ6にγ-リノレン酸があります。
なぜ同じリノレン酸という名称を使うのかなと思って調べると、リノレン酸はリノール酸のできそこない(?)のように「不規則な派生物」だと思われて命名されたようです。リノール酸が必須脂肪酸だと認められたのは1930年。α-リノレン酸が必須脂肪酸だと認められたのは、50年後の1980年のこと。リノール酸の方が長く重要だったのです。
γ-リノレン酸はリノール酸が変換され二重結合が1個増えた脂肪酸です。もとはリノール酸なので、まずリノール酸の構造式を紹介します。
リノール酸
リノール酸の構造式は下図の通りです。
炭素数18で、カルボキシ基(-COOH)の反対側の端、オメガ(ω)端から6番目、9番目の炭素に二重結合があります。二重結合数は2個です。
リノレン酸はリノール酸をもとに命名された
リノール酸は亜麻が名前のもとになり、リノレン酸はリノール酸をもとに命名されましたが、リノール酸の出来そこない(?)のような、不規則な派生物という扱いだったようです。
リノール酸の綴りは「亜麻」がもとになっている
まず綴りを調べてみました。
リノール酸は、 Linoleic acid と綴ります。ネットで調べていくとこんな記事に行き当たりました。
リノール (linoleic) はギリシャ語で亜麻の linon と油の oleic に由来する。油の oleic はオレイン酸 (oleic acid) の由来でもある。(出典:リノール酸)
あれっ?亜麻って、亜麻仁油になるんだからオメガ3のα-リノレン酸がたくさん入っているんだけど…と思いましたが、もちろん亜麻にはリノール酸も入っています。
リノレン酸はリノール酸の不規則な派生物
一方、α-リノレン酸は、alpha-Linolenic acidと綴ります。「e」が「en」になっているだけで、ほとんど違いがありません。こちらは亜麻仁油のことを考えれば、亜麻のlinonが語源になってもおかしくありません。
そして、リノレン酸について、「語源」とか「命名」とか思いつくものをつけて検索してみましたが、それらしい記事が見つかりませんでした。こういう時は、英語で検索します。
「命名」は、グーグルで検索すると「naming」だったので、「naming Linolenic」と入れて検索してみると、英文のウイキペディアの alpha-Linolenic acid が出て来ました。
グーグルに翻訳してもらうとややおかしな日本語だったので、まず、原文を表示させて考えながら訳しました。
Etymology
The word linolenic is an irregular derivation from linoleic, which itself is derived from the Greek word linon (flax).
Oleic means “of or relating to oleic acid” because saturating linoleic acid’s omega-6 double bond produces oleic acid.
Etymologyは語源という意味です。
だいたいこんな意味です。
リノレン酸ということばは、リノール酸の不規則な派生物です。それ(リノール酸)自体は、ギリシャ語の linon(亜麻)に由来しています。
( linoleic の中の)oleic は、リノール酸のオメガ6の二重結合が飽和化するとオレイン酸になるため、またはオレイン酸に関係するという意味です。
リノレン酸はリノール酸の後に発見された
最初、「リノール酸の不規則な派生物です」が、おかしな翻訳だなと思い、しばらく考えていました。
そして、これは、まず、リノール酸に似ているけれどおかしなところがあること。つまり、リノール酸は、炭素数18の脂肪酸で炭素の二重結合が2個ありますが、リノレン酸は、炭素数18は同じですが、炭素の二重結合が3個あります。
これが、似ているけれど違う、「不規則な派生物」の意味だと思います。
そして、もう一つ、発見の順番が関係あるのだろうと思いつきました。リノール酸は、1930年に必須脂肪酸だと認められています。しかし、α-リノレン酸が必須脂肪酸だと認められたのは、1980年のこと。50年も後のことです。
つまり、リノール酸が先に発見されていて重要だと認められていて、その後、似ているけれど重要だと思われない二重結合の数が1個だけ多いα-リノレン酸が発見されたら、リノール酸のできそこない「不規則な派生物」だと思われても不思議ではないです。
ちなみに、 Linoleic と Linolenic は、綴りの「e」と「en」の違いがありますが、「en」は炭素の二重結合があるという意味で使われるのです。リノール酸にさらに二重結合が1個あるという意味で命名されたのかもしれません。これは未確認ですが。
α-リノレン酸とγ-リノレン酸
リノレン酸には、α-リノレン酸とγ-リノレン酸の二つがあります。α(アルファ)とγ(ガンマ)は区別するためにつけられているのでしょう。
α-リノレン酸はよく知られたオメガ3の脂肪酸です。γ-リノレン酸はオメガ6の脂肪酸です。γ-リノレン酸はよほどマニアックな油を使っている方でなければ、あまり知られていないと思います。
α-リノレン酸の構造式
α-リノレン酸の構造式は以下の通りです。炭素数18の脂肪酸で、カルボキシ基(-COOH)の反対側の端、オメガ(ω)端から3番目、6番目、9番目の炭素に二重結合があります。二重結合は3個あります。
オメガ3の脂肪酸といわれるのはこのためです。
γ-リノレン酸の構造式
γ-リノレン酸の構造式は下図の通りです。炭素数18で炭素の二重結合が3個あるのはα-リノレン酸と同じです。
違いは、二重結合の位置です。
カルボキシ基(-COOH)の反対側の端、オメガ(ω)端から6番目、9番目、12番目の炭素に二重結合があります。γ-リノレン酸はオメガ6の脂肪酸です。
γ-リノレン酸は月見草油から単離された
英語版のウイキペディアによると月見草についてこのように書かれていました。GLAは、gamma-Linolenic acidのことです。
GLAは、月見草の種子油から最初に単離された。このハーブの植物は、ネイティブアメリカンによって体内の腫れを治療するために栽培されました。
17世紀にはヨーロッパに導入され、人気のある民俗救済術となり、王の治療法という名前がついた。(gamma-Linolenic acid)
あとで詳しく説明しますが、γ-リノレン酸は、リノール酸から変換され、炭素の二重結合が一つ増えたものです。
γ-リノレン酸はリノール酸から変換された次の物質
α-リノレン酸とリノール酸は体の中で同じ酵素によって変換され、炭素の二重結合を増やし、炭素数を2個ずつ増やしていきます。
γ-リノレン酸は、リノール酸が変換され、二重結合が1個増えた脂肪酸です。
α-リノレン酸とリノール酸は同じ酵素で反応が進む
分かりやすいように構造式を使って図を描きました。
- △6不飽和化は、カルボキシ基(-COOH)から数えて6番目の炭素が二重結合化されます。
- 脂肪酸伸長は、カルボキシ基(-COOH)側から炭素数2個分長くなります。
同じように△5不飽和化、△4不飽和化とも同じ原則で炭素が二重結合化されます。
最終的に、α-リノレン酸はサプリメントでよく知られたドコサヘキサエン酸(DHA)になり、リノール酸は、ドコサペンタエン酸になります。
NOTE
オメガ3のα-リノレン酸は知っていましたが、オメガ6のγ-リノレン酸は知りませんでした。なぜ、同じ名前がついているのだろうと思いました。
リノレン酸はリノール酸の出来そこない(?)のような「不規則な派生物」として扱われ、炭素数18、炭素の二重結合が3個ある脂肪酸の名称になりました。
リノール酸が必須脂肪酸であると発見されたのは、1930年のことです。リノール酸が必須脂肪酸になった歴史という記事に書きました。歴史を知っておくとよいです。
一方、オメガ3の脂肪酸が必須脂肪酸であるとされたのは、その50年後、1980年のことです。こちらは、オメガ3が必須脂肪酸になった歴史という記事に書きました。
α-リノレン酸は1931年から存在は知られていたものの、その重要性がわかるまで50年かかりました。すると、リノール酸が重要で、リノレン酸は、「不規則な派生物」と扱われていたのだなとわかります。
また、この他のリノール酸についての記事は、リノール酸についてをお読み下さい。