炭素数18のα-リノレン酸は5つの酵素反応によって、二重結合を3つ増やし、炭素数を4個増やします。この反応で、EPAとDHAができます。
α-リノレン酸とリノール酸からスタートした反応は、同じ酵素が関与する
α-リノレン酸とリノール酸は、同じ酵素によって炭素数と二重結合の数を増やします。リノール酸をとり過ぎないようにして、α-リノレン酸をとってバランスをとるようにすすめられるのはこれが理由の一つです。
オメガ3の脂肪酸とオメガ6の脂肪酸をウイキペディアで調べていると常に出てくる図があります。パブリックドメインなので貼らせてもらいます。クリックすると大きくなります。
オメガ3の場合α-リノレン酸からスタートしますが、一番下のDHAまで5つの反応があります。上図の左側です。
オメガ6の場合もリノール酸からドコサペンタエン酸まで5つの反応があります。5つの反応による変化は、すべて同じです。
5つの反応
5つの反応は、炭素の二重結合をつくるデサチュラーゼ(desaturase)と、炭素数を2個伸ばすエロンガーゼ(elongase)という酵素によって進みます。(出典:デサチュラーゼ)
desaturaseは、不飽和化するという意味です。
反応を簡単に書くとこのようになります。
この反応で、二重結合が3個増え、炭素数は4個増えます。
5つの反応を順番に書きます。
α-リノレン酸(C:18)
オメガ3の変換は、α-リノレン酸からスタートします。α-リノレン酸は炭素数18で3つのcis二重結合を持つ脂肪酸です。
ステアリドン酸(C:18)
ステアリドン酸は、化学式はC18H28O2。
Δ-6-デサチュラーゼという酵素によってα-リノレン酸から生合成されます。
Δ-6-デサチュラーゼは、ω末端とは正反対、カルボキシル基(COOH)から数えて6番目の炭素から水素を2個取り、二重結合を作ります。二重結合のことは不飽和結合ともいいます。
ステアリドン酸は炭素の二重結合を4つ持ちます。
エイコサテトラエン酸(C:20)
エイコサテトラエン酸は、炭素数20で二重結合4個の脂肪酸です。ステアリドン酸に炭素を2個つけるエロンガーゼ(elongase)による長鎖化によってつくられます。ω末端ではなく、カルボキシル基側に炭素が2個ついているのが分かります。二重結合の位置は変わっていません。
エイコサテトラエン酸の二重結合は、ω末端から、3、6、9、12番目の炭素にあります。二重結合の位置だけ変えて、6、9,12、15番目に二重結合があると、それはアラキドン酸です。エイコサテトラエン酸はアラキドン酸と異性体です。
エイコサペンタエン酸EPA(C:20)
エイコサペンタエン酸は、分子式 C20H30O2。EPAとよばれます。
5つのシス型二重結合をもつ炭素数20の脂肪酸です。Δ5-デサチュラーゼによってカルボキシル基(COOH)から数えて5番目の炭素から水素を2個取り、二重結合を作ります。
EPAは、プロスタグランジン、トロンボキサン-3、ロイコトリエン-5(すべてエイコサノイド)の前駆体で、ω6系統と同様にロイコトリエンなどの生理活性物質に変換されます。しかし、ω6系統を材料にしたものに比較して生理活性が低い、あるいは、ないという特徴があります。
ドコサペンタエン酸(C:22)
ドコサペンタエン酸は、DPAと呼ばれる俗称を持つω-3脂肪酸です。化学式はC22H34O2。アザラシ油に多く含まれているそうです。
EPAに炭素を2個つけるエロンガーゼ(elongase)による長鎖化によってつくられます。ω末端でなくカルボキシル基(COOH)側に延びています。
ドコサヘキサエン酸(C:22)
ドコサヘキサエン酸は、略称DHA 。分子式 C22H32O2。炭素数22で、6つの二重結合をもつ脂肪酸です。
ドコサペンタエン酸 から、Δ4-デサチュラーゼによってカルボキシル基(COOH)から数えて4番目の炭素から水素が引き抜かれて二重結合ができます。
こうしてα-リノレン酸からドコサヘキサエン酸(DHA)まで順番に書いてきましたが、α-リノレン酸を原料としてEPAやDHAを生産する場合、α-リノレン酸からEPAやDHAに変換される割合は10-15%程度です。それほど高くはない。
NOTE
オメガ3の脂肪酸で覚えておくべき名称は、α-リノレン酸とEPA、DHAです。
この記事は、リノール酸はアラキドン酸に変換されると対になっています。今の食生活は、リノール酸ばかりとっているといわれます。すると一番上の図で右側の反応ばかり進んでしまいます。
しかし、もし、α-リノレン酸があれば、同じ反応に使われることになり、バランスを取ることができるでしょう。
リノール酸をとり過ぎると、炭素数20のアラキドン酸がたくさんできることになり、アラキドン酸から炎症に関係があるプロスタグランジンがたくさんできることが問題だといわれています。
リノール酸とり過ぎで問題になるプロスタグランジンは、炭素数20のアラキドン酸からできます。α-リノレン酸からの変換でアラキドン酸に対応しているのは、上の図を見ていただくとよく分かりますが、炭素数20のEPAです。
プロスタグランジンは、アラキドン酸からだけでなく、EPAからも同じようにできます。
アラキドン酸から作られるプロスタグランジンが問題になるのは、炎症をひどくする働きをするからです。一方、EPAからできるプロスタグランジンは、逆に炎症を抑える働きがあります。