リノール酸がアラキドン酸に変換され、さらにドコサペンタエン酸に変換されるまでを順番に説明します。エイコサノイドは炭素数20の脂肪酸からつくられます。炭素数20のアラキドン酸からは炎症を亢進させるエイコサノイドがつくられます。これが、リノール酸をとり過ぎるとよくないといわれる原因です。
この記事は、α-リノレン酸からEPA、DHAに変換するまで5つの反応があると対になるものです。あわせてお読みください。
α-リノレン酸が二重結合を増やし、2個ずつ炭素を足されながらEPAやDHAになるように、リノール酸も二重結合を増やし、炭素を2個ずつ足されながらアラキドン酸に変換されます。
α-リノレン酸とリノール酸は、それぞれ同じ酵素によって変換されていきます。
いまは、オメガ6のリノール酸をとり過ぎているといわれていますが、リノール酸を減らしてオメガ3のα-リノレン酸をとるとバランスが取れるといわれるのは、このためです。
リノール酸から、γ-リノレン酸、ジホモγ-リノレン酸、アラキドン酸、ドコサテトラエン酸、ドコサペンタエン酸と変換されていきます。
この過程を一つずつ説明していきます。
リノール酸
リノール酸は、炭素数18で、C6・C9位に炭素炭素間のシス型二重結合を2つ持っており、18:2(n-6) とも表記される n-6系の多価不飽和脂肪酸です。分子式 C18H32O2融点は−5 °C。
オメガ6の意味は?
リノール酸はオメガ6の脂肪酸といわれることが多いです。
オメガ(ω)はギリシア文字の最後の文字です。下図のリノール酸を見た時に、左にカルボキシ基(COOH)があります。
その反対側がオメガ(ω)端と呼ばれます。最後という意味です。
オメガ6とは、そこから数えて6番目の炭素に最初の二重結合がある脂肪酸という意味です。
γ-リノレン酸
γ(ガンマ)リノレン酸は、リノール酸からつくられます。リノール酸との違いは、炭素の二重結合が1個増えます。
γリノレン酸は、3番目に発見されたリノレン酸という意味です。ギリシア文字では、α(アルファ)、β(ベータ)、γ(ガンマ)と、γは3番目の文字です。
略称GLAと呼ばれます。炭素数18。分子式 C18H30O2で、C6・C9・C12位にいずれもシス型の二重結合を持っています。
二重結合が1個増える
リノール酸は、Δ6-不飽和化酵素による脱水素反応によってγ-リノレン酸に変化します。不飽和化酵素は、デサチュラーゼ(Desaturase)と呼ばれ、水素を2個取り、炭素-炭素間に二重結合をつくります。
Δ6-には意味があります。Δ -(数字)は、 脂肪酸のカルボキシ基(COOH)末端から決まった位置(この場合は6番目)に二重結合を作るという意味です。こちらは、カルボキシ基から数え始めます。
一般の食品では、月見草オイルに豊富に含まれているのが知られています。
ジホモ-γ-リノレン酸
ジホモ-γ-リノレン酸は、DGLAとも書かれます。炭素20個からなるω-6脂肪酸です。
炭素を2個つけて伸びる
炭素を2個つけるエロンガーゼ(elongase)による長鎖化によってつくられます。おかげでγ-リノレン酸よりも炭素が2個増えました。20:3(n-6)とも表記されます。
炭素を2個つけるのは、カルボキシ基(COOH)側です。オメガ端から数えれば炭素の二重結合の位置は変わりません。
脂肪はエネルギー源になるためにアセチルCoAまで分解されるで書きましたが、脂肪酸は、β酸化で炭素2個ずつ短くなっていきますが、長くなるときも炭素2個ずつです。
炎症抑制のエイコサノイド
ジホモ-γ-リノレン酸は、炎症抑制のエイコサノイド、プロスタグランジンPGe1、PGf1αとトロンボキサンtxa1となり、ロイコトリエンlt4をブロックします。
ロイコトリエンは強力な炎症因子であるだけでなく、気管支収縮を引き起こし喘息に関係しています。(出典:イラストレイテッドハーパー生化学第29版)
エイコサノイドは炭素数20の多価脂肪酸に由来します。生理的、薬理的効果をもつ脂質のことです。一番上の図を見ていただくと分かる通り、炭素数20の脂肪酸からしかできません。
アラキドン酸
アラキドン酸は、分子式 C20H32O2 で、4つの二重結合を含む20個の炭素からできています。ω-6脂肪酸に分類されます(20:4, n-6 と略される)。構造式は下図をご覧下さい。融点は-49 °C。二重結合が4つあるとかなり融点は下がりますね。
二重結合が1個増える
今度は、ジホモ-γ-リノレン酸にΔ5デサチュラーゼが働いて、カルボキシル基(COOH)末端から5番目の炭素に二重結合ができます。
アラキドン酸は、主に肉、卵、魚、母乳などに含まれており、欧米など諸外国では乳児用調製乳にも添加されています。アラキドン酸は、脳に多く含まれています。
さて、アラキドン酸とオメガ3のエイコサペンタエン酸(EPA)は、Δ5デサチュラーゼ(Δ5不飽和化酵素)の作用を受けることでつくられますが、拮抗する関係にあります。
アラキドン酸がたくさんつくられるとエイコサペンタエン酸(EPA)はつくられなくなります。一番上の図を見ていただくと、エイコサペンタエン酸とアラキドン酸が同じΔ5デサチュラーゼ(Δ5不飽和化酵素)によってできるのが分かりますね。
炎症亢進のエイコサノイド
炭素数20のアラキドン酸とエイコサペンタエン酸(EPA)はエイコサノイドの材料になります。エイコサペンタエン酸(EPA)からつくられるエイコサノイドは、炎症を抑制する働きがあります。
一方、アラキドン酸からつくられるエイコサノイドは炎症を亢進させる働きがあり、これが問題になっています。リノール酸を摂り過ぎると炎症がひどくなるとよく聞きますが、原因はこれです。
図にあるとおり、プロスタグランジンpgd2、pge2、pgf2α、トロンボキサンtxa2、ロイコトリエンlta4、ltb4、ltc4、ltd4、lte4、プロスタサイクリンpgi2があります。
特に、アラキドン酸からたくさんつくられるエイコサノイドのことをアラキドン酸カスケードと呼びます。カスケードとは、連なった小さな滝の意味で、カスケード反応とは、一つの反応からカスケード状に次々と反応が起こることをいいます。アラキドン酸から10個もエイコサノイドができます。
オメガ6リノール酸が多い油と食品ランキングで書きましたが、今は本当にリノール酸がたくさん入っているものを食べる機会が多いです。上の図を見ると、炎症を抑制する働きがあるエイコサノイドをつくるエイコサペンタエン酸(EPA)が増えるようにしなければいけないなと思います。リノール酸のとり過ぎには注意しないと。普段の生活でアラキドン酸が不足することはあり得ないですね。
ドコサテトラエン酸
ドコサテトラエン酸は、分子式C22H36O2 で、4つの二重結合を含む22個の炭素からできています。構造式は下図をご覧下さい。
炭素を2個つけて伸びる
炭素を2個つけるエロンガーゼ(elongase)による長鎖化によってつくられます。
ドコサペンタエン酸
ドコサペンタエン酸は、分子式C22H34O2の5つの二重結合を持つ22個の炭素からできた脂肪酸。
二重結合が1個増える
この脂肪酸は、20:4 ω-6であるアラキドン酸の長鎖化と不飽和化により生成されます。
Δ4-不飽和化酵素による脱水素反応によってカルボキシル基(COOH)末端から5番目の炭素に二重結合ができます。オメガ3の脂肪酸にもドコサペンタエン酸がありますが、二重結合の位置が違います。Δ4-不飽和化酵素による脱水素反応については、オメガ3のドコサヘキサエン酸(DHA)と拮抗しています。
NOTE
オメガ6のリノール酸が多く含まれた油をたくさん使っていると炎症がひどくなるのは、炭素数18で二重結合を2個もつリノール酸が、炭素数20で二重結合を3個持つアラキドン酸に変換され、アラキドン酸が、炎症を亢進するエイコサノイドをつくる材料になるのが原因です。
リノール酸とオメガ3のα-リノレン酸は同じ酵素の働きで反応していきます。この仕組みを知ると、まず、リノール酸をたくさん含む油の使用を減らさなければならないことが分かります。
そして、バランスを取るためにオメガ3の油をなるべく使った方がよいなと思うようになります。
この他のアラキドン酸についての記事は、アラキドン酸についてをご覧下さい。