ショートニングの歴史から大豆油への水素添加の意味を知る

ショートニングは、主に植物油を原料とした、常温でクリーム状の、食用油脂です。1911年からラードの代用品として発売されました。最初は綿実油に水素添加されたものでしたが、1950年代以降は大量生産されるようになった大豆油に水素添加されたものになりました。スナック食品の加工用油脂として、安価で酸化されにくい特徴のため大量消費されるようになりました。

ドーナツ

ショートニングもトランス脂肪酸でやり玉にあがる商品です。私はお菓子に詳しくないので、用途をよく知らなかったのですが、お菓子をサクサクさせたり、揚げるために使われているそうです。

例えばドーナツを揚げるのにもショートニングは使われているようです。

脂肪の歴史 (「食」の図書館 原書房 2016)のショートニングの話を読むと、開発されてから、安くて便利で使いやすくて普及していく様子が分かります。この記事ではそのことについて書きましょう。

原書房の「食」の図書館シリーズはよい本が多いです。

ショートニングはP&Gが開発した

ショートニングは、マーガリンよりも後に出て来ます。

マーガリンは当初は動物脂肪を使っていましたが、その後、部分硬化植物油を使って普及しました。そのため、ショートニングの原料は、最初から植物油が使われていました。

ショートニングとは、ウイキペディアではこのように説明されています。

ショートニング (shortening) は、主として植物油を原料とした、常温で半固形状(クリーム状)の、食用油脂である。マーガリンから水分と添加物を除いて純度の高い油脂にしたものと考えてよい。

パンや焼き菓子の製造などにバターやラードの代用として利用される。無味無臭で、製菓に使用すると、さっくりと焼き上がる。

揚げ油に使用すると、衣がパリッと仕上がる。この様に「さっくり」や「パリッ」という食感を表す意味での英語形容詞“short”が語源である。

1911年にP&Gがラードの代用品として開発したものです。クリスコ・ショートニングという商品名で、広く使われたそうです。

P&Gは、1837年にローソク業者のウィリアム・プロクターと石鹸業者のジェームス・ギャンブルの共同出資により設立された、とあります。

いまや洗剤を始め、化粧品やヘルスケア製品をつくる会社が、ずいぶん昔に食用油を商品化したんだなと思いました。洗剤は油とアルカリから作られますから、油は原料です。作ってもおかしいわけではないですが、化学会社が食品としての油を手がけるとはずいぶん早いなと思いました。

P&G の歴史 – その沿革を読むと、洗剤の開発の合間にできていたことが分かります。

革新的な新商品、例えばフレーク形態の衣類・食器用洗剤アイボリー ・フレークス… 洗濯機用として初めて考案された洗剤チプソ… 初の家庭用合成洗剤のドレフト… アメリカ人の料理法を変えてしまった全植物性ショートニングのクリスコ等が次々と市場に導入されました。

綿実油に水素添加する

最初は部分硬化綿実油から作られました。綿実油(めんじつゆ)は、ワタの種子を原料とした油です。主に食用油として用いられます。その頃は、まだ化学繊維よりも綿の方が使われていたのでしょう。

ウイキペディアには綿実油の生産は19世紀にアメリカおよびヨーロッパで始まったとあります。

綿実油にはα-リノレン酸はほとんど含まれていない

綿実油の脂肪酸組成は、リノール酸50%–60%、パルミチン酸20%–30%、オレイン酸約20%のほか、ステアリン酸およびミリスチン酸数%。

α-リノレン酸はほとんどありません。二価の不飽和脂肪酸であるリノール酸が主成分なので水素添加されて使われました。

水素添加すると、飽和脂肪酸が増えて融点が上がり、常温で固形にできます。そして、酸化に強くなり保存性がよくなります。

脂肪の歴史 (「食」の図書館)によるとP&Gはかなり意欲的にショートニングを売り込んだようです。

P&Gは、動物脂肪を原料にした最初のマーガリンのかんばしくないイメージを払拭しようと、クリスコの成分は純粋な植物由来であることを強調する、派手な宣伝活動を開始した。

また、クリスコを使った615のレシピを掲載した料理本も配布した。

クリスコは大成功を収め、1912年の初年度の売り上げは1200トンだったが、1916年には2万7000トンに急増した。

しかし、すぐに競争相手が現れます。

1914年にクリスコの強力な競争相手として、同じく部分硬化綿実油から作ったショートニング、クリームクリスプが市場に出現すると、P&Gは特許侵害で訴訟を起こした。P&Gは1920年には敗訴が確定した。

クリームクリスプを生産していたブラウン・カンパニーが破綻し、最終的にP&Gに買収された。しかし、クリスコはライバル商品には勝ったものの、訴訟に負けたことで水素添加工程の独占権を主張する権利も失った。

クリームクリスプって、クリスプクリームドーナツのもともとの会社なのでしょうか?

綿実油から大豆油へ

この頃、1950年代にはアメリカにおける大豆油の消費量は綿実油と肩をならべるようになっていました。そしてその後、1968年に綿業界が崩壊した後、大豆生産者が部分硬化植物油とショートニングの市場を独占するようになりました。

アメリカは1929年の大恐慌以降、1930年代から大豆生産を開始し、わずか10年程度の期間で世界最大の生産国になった歴史があります。詳しくは、大豆の自給率はなぜ低いのか?という記事に書きました。

α-リノレン酸はペンキくさい?

大豆油は、リノール酸とα-リノレン酸を多く含んでいます。油の沈殿部分から「青くさい」「ペンキのような」においがすると消費者にはかなり不評だったようです。

青臭いのは、大豆特有のにおいですね。ペンキのようなにおいとは、α-リノレン酸特有のにおいかもしれません。私は亜麻仁油を使う時に、よく感じます。油絵の具みたいなにおいです。

しかし、水素添加することによって、好ましくないにおいは大幅に減少します。

単純に、リノール酸やα-リノレン酸に水素添加すると、最終的には同じ炭素数18の飽和脂肪酸であるステアリン酸になります。全てを飽和脂肪酸にするのではなく、適当に混ざった状態で水素添加を終わらすことで、硬さをコントロールできます。

大豆油やコーン油の脂肪酸組成は、一番多いのがリノール酸で酸化しやすい油です。これらに水素添加すれば、酸化や腐敗臭が抑えられ、劣化せずに高温まで加熱できるようになります。

このころはまだトランス脂肪酸が問題になっていませんから、酸化しやすく使いにくい不飽和脂肪酸に水素添加して適当な硬さになったマーガリンやショートニングは、実に便利なものだったのだと思います。

スナック食品に大量消費されるようになった

マーガリンやショートニングがたくさん売れたのは、一般家庭ばかりでなく、食品製造業でも使われたからです。

これらの大量に製造された脂肪は、安価で、酸化しにくいですから管理しやすく輸送にも便利で、供給も安定しています。食品業界にとってはとてもよい条件です。

安価で酸化されにくい

揚げ物のスナック食品は、20~40%の油脂を含んでいるので、脂肪は、揚げ物食品の貯蔵安定性を決定するのに重要な要素になります。酸化されやすい油を使って揚げると、すぐに傷んでしまいます。

こうした食品は、倉庫で保管され、流通され、お店の中で保管され、販売されて食べられる数週間から数ヶ月の間、品質を落とさないように長持ちしなければなりません。

それは、部分硬化植物油を使うことで可能になります。

1961年頃に、動物性脂肪やトロピカルオイル(注:ココナッツオイル、パーム油など)に含まれる飽和脂肪酸は血液中のコレステロール値を上げ、冠動脈性心疾患のリスクを高めるが、逆に、ナッツ、種子、魚油に含まれる不飽和脂肪酸は、コレステロール値を下げて心臓病のリスクが低下するという話が出されました。

これは部分硬化油にとって追い風となり、1990年頃にトランス脂肪酸の問題が取り上げられるようになるまで、安くて使いやすい油としてずっと使われることになりました。

NOTE

短い間に植物油の評価が変わっています。

安くて使いやすい油をさんざん使って来て、今はオメガ3の脂肪酸が足りないからとらなければいけない時代です。

この記事を書こうと思ったのは、現在問題になっているオメガ6の過剰摂取やトランス脂肪酸の問題は、製造会社の怠慢や悪意によるものではないと思ったからです。

もちろん、製造会社は儲けたいと思っていますが、もともと食用である綿実油や大豆油の保存性を高め、風味を改善するために水素添加をしていたことが分かります。

最近、思うのですが、もし、日本人が魚を昔みたいに食べているとあまりこのような問題は起きなかったかもしれません。α-リノレン酸からEPAやDHAの変換率は低く、魚を食べれば、EPAやDHAはそのまま体の中で使うことができます。

α-リノレン酸は酸化しやすく、亜麻仁油やえごま油を冷蔵庫に入れておいても、短い間に酸化して魚くさくなってしまいます。

また、何かきっかけがあって、オメガ3のα-リノレン酸は酸化しやすいからだめだなんていわれないとよいのですが。そんなことを思いました。

油の加工について他の記事は、油の加工についてをご覧下さい。

タイトルとURLをコピーしました