グリセリンは3価のアルコールで、OHが3個あります。脂肪酸が3本そこに結合して、脂肪(トリアシルグリセロール)ができるのですが、決まりがあります。飽和脂肪酸はsn-1位に、多価不飽和脂肪酸はsn-2位に結合します。
油脂の構造と機能~トリアシルグリセロール異性体分析の発展を読みました。
グリセリンに脂肪酸が3本結合すると脂肪(油)になります。グリセリンは3価のアルコールで、OHが3個あります。脂肪酸はそこに結合するのですが、真ん中に不飽和脂肪酸が結合すると何となく覚えていました。
ただ、それぞれどんな性質があるのか(?)知りたいと思っていました。この論文を読むとそれが分かります。
体内で脂肪が合成されるのは、小腸から脂肪が吸収される時と、体の中でグロセロリン酸経路から脂肪が作られる2通りあります。
まず、食べものから入ってきた脂肪の話です。
グリセリンのβ位に結合した脂肪酸は加水分解されない
食べものから入ってきた脂肪は、膵リパーゼで2本の脂肪酸とモノグリセリドに分解され、小腸上皮細胞内で再び、脂肪に戻されます。
この際,膵リパーゼは,TAG の一級アルコール基に結合した(α 位)脂肪酸のみを加水分解し,二級アルコール基に結合した(β 位)脂肪酸は加水分解しない(できない)。
その結果,1 分子の2-MAG と2 分子の脂肪酸が生じる。
小腸上皮細胞内では,吸収した2-MAG に対し2 分子の脂肪酸(正確にはアシルCoA)を再エステル化することでTAG を合成している。
合成されたTAG は,カイロミクロンに組み込まれ,リンパ管へ放出されたのち,大静脈を経由して体内を循環する。
2-MAGは、2-モノアシルグリセロール(2-MAG)です。モノグリセリドと同じ意味です。2番目のアルコールに1本(モノ)の脂肪酸が結合しているグリセリンです。
一緒に載せられていた図は下の通りです。改めて自分で描きました。
一級アルコール基と二級アルコール基とは?
早速、わからないことばが出てきました。一級アルコール、二級アルコールって、昔の日本酒の等級みたいです・・・が。
調べてみると、ウイキペディアのアルコールにわかりやすい図が出ていましたので、これも真似して描きました。ヒドロキシ基が結合している炭素原子に結合している炭化水素基の数で第一級アルコール、第二級アルコール、第三級アルコールという区別があります。
文字で読むより図で見ればすぐにわかります。
「R」が炭化水素基のことです。炭化水素基は、炭素が1個、2個、3個・・・とつながったものに水素がそれぞれ付いているものだと思ってください。
グリセリンで考えてみると
上のグリセリンの図では、OHは3個あります。OHは、炭素に結合しているのですが、上と下のOHが結合している炭素は、その隣にひとまとまりの炭化水素基が結合しているだけです。それで第一級アルコールです。
しかし、真ん中のOHが結合している炭素は、両隣に炭化水素基が結合しているので、第二級アルコールになるのです。
グリセリンの2番目に結合した脂肪酸が分解されず、モノグリセリドと脂肪酸2本になり、小腸膜を通過する話はなんとなく知っていましたが、第一級アルコール、第二級アルコールの違いで考えると、構造が違うことが分かりました。
きっと別な酵素でなければ分解できないということです。
次は、グリセリンに脂肪酸が1本もついていないグリセロール-3-リン酸からトリグリセリドを合成する反応です。
グリセロール-3-リン酸からトリグリセリドを合成する
グリセロール-3-リン酸はsn-3位にリン酸が結合していますが、途中でリン酸が外れてグリセリンに脂肪酸が3本結合したトリグリセリドになります。
もう1つの経路は,グリセロリン酸経路で,グリセロール-3-リン酸(αグリセロリン酸)からTAG を合成する経路である。生体内で合成された脂肪酸や,一度,体内へ取り込まれた脂肪酸がTAGに合成される際は,この合成経路でTAG に合成される。
グリセロリン酸経路において,グリセリン骨格の3つの結合位置(アルコール基)を区別して脂肪酸の結合を行っている。
グリセロール-3-リン酸をフィッシャー投影式で示し,下にリン酸基,中心炭素の左側にアルコール基が来るように配置した場合,一番上に来るアルコール基(一級アルコール基(α 位))をsn-1位,中心炭素の左側に位置するアルコール基(二級アルコール基(β位))を sn-2位,リン酸とエステル結合しているアルコール基(一級アルコール基(α 位))をsn-3位と三つのアルコール基を区別する。
生体はグリセリン骨格に存在する3 つのアルコール,すなわちsn-1,sn-2,sn-3をすべて区別している。
ここまでは上に載せた図を見てください。文字で読むとわかりにくいですが、脂肪酸が結合する位置について説明しているだけです。図を見て位置を確認していただければよいです。
これから先は、グリセロール-3-リン酸がどのような変化をしていくか調べました。
KEGGのGlycerolipid metabolism(グリセロ脂質代謝)に経路が出ていました。構造式を見た方が文字だけ見ているよりずっと分かりやすいと思います。
グリセロール-3-リン酸のsn-1に飽和脂肪酸が結合する
グリセロール-3-リン酸のsn-1 位に脂肪酸を結合させるアシルトランスフェラーゼは,グリセロール-3- リン酸アシルトランスフェラーゼと呼ばれ,sn-1に脂肪酸を結合させる。この酵素は,飽和脂肪酸を基質として好むという特徴がある。
反応を構造式で書いたものが下図です。グリセロール-3-リン酸は、グリセリンのsn-3にリン酸が結合したものです。
グリセロール-3-リン酸のリン酸部分の反対側にあるOHにアシル基(R=Oで表されている)が結合し、補酵素Aが外れます。
このとき働く酵素、グリセロール-3- リン酸アシルトランスフェラーゼは、飽和脂肪酸を基質として好むと書かれているので、リゾホスファチジン酸の左端にある「R」は飽和脂肪酸です。
次の反応です。
1-アシルグリセロール-3-リン酸のsn-2に多価不飽和脂肪酸が結合する
さらにこの反応で生じた,1-アシルグリセロール-3-リン酸はsn-2位に脂肪酸を結合させる1-アシルグリセロール-3-リン酸アシルトランスフェラーゼによってsn-2位に脂肪酸を結合させる。
この酵素は,多価不飽和脂肪酸を基質として好む。この2つの反応でグリセロール-3-リン酸はホスファチジン酸(PA)へと合成される。(中略)
この反応も最初の反応と同じです。アシルCoAからアシル基を受け取り、補酵素A(CoA)が外れます。
このとき、1-アシルグリセロール-3-リン酸アシルトランスフェラーゼによって、1-アシルグリセロール-3-リン酸のsn-2に、多価不飽和脂肪酸が結合します。
次の反応です。
ホスファチジン酸からリン酸が外れて1,2- ジアシルグリセロールになる
生じたPA からホスファチジン酸ホスフォターゼの作用でリン酸が外れると,1,2- ジアシルグリセロール(1,2-DAG)が生成する。
これは説明そのままの反応です。リン酸を外す反応です。これでグリセリンに2本脂肪酸がついた形になりました。
最後の反応です。
1,2- ジアシルグリセロールのsn-3に脂肪酸が結合してトリアシルグリセロールができる
この1,2-DAG にジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼでsn-3位に脂肪酸が結合すると,TAG が生成する。
リン酸が外れたsn-3にアシルCoAから脂肪酸をもらってトリグリセリドが完成します。
sn-1には飽和脂肪酸が結合し、sn-2には多価不飽和脂肪酸が結合しますが、sn-3は特に指定が書かれていませんでした。脂肪酸ではない、リン酸が結合するくらいですから、この場所が一番規則が「ゆるい」のでしょう。
反応の経路が分かると、脂肪酸が結合する順番がわかります。
sn-1に飽和脂肪酸が結合し、次にsn-2に多価不飽和脂肪酸が結合し、リン酸が外れて、最後にそれまでリン酸が結合していたsn-3に脂肪酸が結合するという順番です。
NOTE
グリセリンのsn-1には飽和脂肪酸が、sn-2には多価不飽和脂肪酸が結合するのが決まりです。特に、グリセリンの真ん中sn-2には多価不飽和脂肪酸が結合するのは記憶しておきたいです。
飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸の組み合わせで思い出すのは、細胞膜です。
グリセロール-3-リン酸から脂肪が合成される時、先に、sn-1に飽和脂肪酸が結合し、次にsn-2に多価不飽和脂肪酸が結合し、リン酸が外れて最後にsn-3に脂肪酸が結合するという順番が決まっているのが面白いと思いました。
先日、中鎖脂肪酸は体にたまりにくくインスリンも効きやすくなるという記事を書きました。中鎖脂肪酸だけの油、MCTオイルは昔から製品化されています。
中鎖脂肪酸には飽和脂肪酸しかないので、sn-2に飽和脂肪酸が結合できないというわけではないようです。ただし、中鎖脂肪酸だけでできた油は、胃の中で脂肪酸とグリセリンにほとんど分解してしまいます。