トランス脂肪酸とはどのようなものか?

トランス脂肪酸は不飽和脂肪酸に水素添加するとできて来ます。マーガリンは、冷蔵庫から出してもバターのようにカチカチになっていないことと、常温で置いていても溶けてしまわないことが求められるのでほどほどの割合になるようリノール酸に水素添加されます。その時にトランス脂肪酸ができます。トランス脂肪酸を一番含むのは、ショートニングでした。ショートニングを使ったサクサク感のあるお菓子にはトランス脂肪酸が意外と多いです。

マーガリン

トランス脂肪酸がアメリカで禁止に

トランス脂肪酸について「トランス脂肪酸について、アメリカのFDA=食品医薬品局は3年後までに加工食品などでの使用を全面的に禁止すると発表しました」というニュースが流れていました。(出典)2015年6月の記事です。

また、厚労省は、トランス脂肪酸についてトランス脂肪酸に関するQ&Aで見解を出しています。

トランス脂肪酸について、この1年くらいでかなり知られるようになりました。今では、「マーガリンがだめなんでしょ?」くらいのことはたいていの方がご存知です。

ところで、トランス脂肪酸とはどのようなものかご存知ですか?

この記事では、トランス脂肪酸とはどのようなものか、なぜトランス脂肪酸ができるのか?どんなものにたくさん入っているかについて書きます。

不飽和脂肪酸がトランス脂肪酸になると形が変わる

トランス脂肪酸とは、不飽和脂肪酸にある炭素の二重結合部分からそれぞれ反対方向に曲がってしまった脂肪酸のことをいいます。下の図をご覧下さい。化学構造式が苦手な方は、先に、脂肪酸の化学構造式を見た方が油のことをずっと理解できるを読んでみてください。

少しだけ我慢すると分かるようになります。むずかしくないです。

オレイン酸とエライジン酸

オレイン酸はオリーブオイルの主成分となる脂肪酸です。こんな形をしています。炭素(C)の二重結合のところで内側に曲がっています。同じ方向に曲がるこの形をシス型(cis)といって、天然の不飽和脂肪酸は、みなこのようにいびつな形になります。

オレイン酸は、炭素数が18。下図で見ると、左端にカルボキシル基(-COOH)があります。その反対の端から9番目の炭素に二重結合があります。これが、オメガ9の脂肪酸です。融点16.3℃

オレイン酸

オレイン酸

トランス型は融点が上がる

もう一つ、エライジン酸は、全く同じ構成です。炭素数が18。二重結合の位置も全く同じですが、形が直線的に伸びています

こちらがオレイン酸のトランス脂肪酸であるエライジン酸です。融点は43.7℃。常温では固体です。

エライジン酸

エライジン酸

エライジン酸は、オレイン酸に水素添加することによってできますが、例えばオリーブオイルを高温に熱して、長時間揚げ物などをしているとごく微量ですができてくるようです。

家庭では昔と違って今は同じ油を使い回すことがほとんどなくなっているように思いますが、気になる方はご注意ください。

HDLを減らしてしまう

エライジン酸はHDLの持つコレステロールとVLDLの持つ中性脂肪を交換する酵素CETPを活性化し、HDLを減らしてしまいます。

エライジン酸については、ウィキペディアにはこんな記事がありました。

エライジン酸(エライジンさん、Elaidic acid)は、水素化された植物油に見られる重要なトランス脂肪酸で、ヤギとウシの乳に少量(脂肪酸の約0.1%)生じる。エライジン酸のシス異性体はオレイン酸である。

エライジン酸はコレステリルエステル転送タンパク(CETP)を活性化することにより、低比重リポタンパク(VLDL)を増やし、高比重リポタンパク(HDL)コレステロールを減らす。

この作用によって、虚血性心疾患などの病気のリスクを高める可能性がある。(出典

ラインマーカーを引いた部分、読み飛ばしてしまいそうになりますが、過去に疑問に思って調べたことがありました。

HDLは余ったコレステロールを組織細胞から受け取り、肝臓に戻すのが役割ですが、途中、この酵素CETPによってVLDLやLDLにコレステロールを渡し、自分は中性脂肪(TG)を受け取るのです。

詳しくは、ぜひ、余分なコレステロールを回収するHDLをお読み下さい。

余分なコレステロールを回収するHDL
HDLは、細胞にたまったコレステロールを肝臓に戻すのが役割です。善玉コレステロールといわれるHDLが小腸や肝臓から生まれ、組織からコレステロールをもらいながら、肝臓に戻ります。 また、CETPという酵素によって集めたコレステロールをVLDL...

エライジン酸によってCETPが活性化されると、つまり、HDLが減ってしまうのです。

トランス脂肪酸は、水素添加によって生まれる

なぜ、このようなトランス脂肪酸ができるのか?それは油脂の水素添加についてで書きましたが、植物油に水素添加する過程でできてくるのです。植物油についてもっと正確にいうと、不飽和脂肪酸をたくさん持った植物油のことです。それに水素添加するとトランス脂肪酸ができます。

油に水素添加をする理由

油は脂肪酸によって性質が決まります。脂肪酸には飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸があるでは、脂肪酸について書きました。

脂肪酸には飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸があります。

一般に、飽和脂肪酸は融点が高く、酸化されにくい性質を持ち、不飽和脂肪酸は、融点が低く、酸化されやすい性質を持ちます。

油に水素添加するというのは、飽和脂肪酸に対しての話ではありません。飽和脂肪酸はすべての炭素に水素が結合して「飽和」しています。一方、不飽和脂肪酸は、炭素の二重結合をもっているので、まだ水素を結合させることができます。

不飽和脂肪酸に完全に水素を結合させると、飽和脂肪酸になります。飽和脂肪酸になると、融点が高くなるので、常温で固体になります。油に水素添加することを「硬化」というのですが、融点を上げて油を硬くする。なるほどそういう意味なのですね。

そして、水素添加して飽和脂肪酸にすると酸化されにくくなります。これが最大のメリットだと思います。傷みやすい油が長く保存できるようになります。実際、水素添加は、食品加工のためだけの技術ではありません。

次に植物油脂に水素添加してマーガリンをつくることを考えてみましょう。

マーガリンはバターの代用品

私の記憶では、バターがマーガリンに替わるようになったのは、1970年代だったと思います。小学校の給食では、3年生ぐらいからマーガリンが出るようになりました。TVでコマーシャルもやっていました。

マーガリンの原料は植物油です。

是非、パーム油は世界一生産されている油であったをお読みください。主な植物油の生産量を表にしてあります。世界の植物油生産量は、第1位がパーム油で、第2位が大豆油、第3位がなたね油です。

パーム油の脂肪酸組成は、ほとんど飽和脂肪酸なので、常温で固体です。しかし、大豆油、なたね油の脂肪酸組成はオメガ6の不飽和脂肪酸であるリノール酸の割合がとても高いので、常温では液体です。

マーガリンの原料になるのは、大豆油やなたね油です。生産量が多く手に入りやすいのと、原料として安価だからです。オリーブオイルからも、マーガリンはつくることができると思いますが、原料として高価なのであまり使われることはないと思います。

リノール酸は、下図のような形をしています。炭素数は18。左端にカルボキシル基(-COOH)があります。その反対側から数えて、6番目と9番目の炭素に二重結合があります。融点は-5℃です。

リノール酸

リノール酸

リノール酸の二重結合の部分に水素を結合させると、飽和脂肪酸ができてきます。すると、常温で固まる油ができるようになります。

もし、リノール酸の二重結合の部分に完全に水素を結合させれば、炭素数18の飽和脂肪酸であるステアリン酸になります。しかし、ステアリン酸は融点が69.9℃なので常温で固まってしまいます。これでは、パンに塗っても溶けませんね。

ステアリン酸

ステアリン酸

マーガリンの特徴は、冷蔵庫から出してもバターのようにカチカチになっていないこと。もう一つは常温で置いていても溶けてしまわないことです。

そこで、すべてのリノール酸の二重結合に水素を完全に結合させないようにします。

それが可能になるように、ほどほどの割合のリノール酸に水素添加すると、トランス脂肪酸ができてしまうのです。リノール酸の二重結合部分に水素をつけていくと、同じ炭素数18のオレイン酸もできると思いますが、エライジン酸もできます。

水素添加は、二重結合した炭素に水素を機械的につけていくことです。そのため、自然界ではほとんど存在しないトランス脂肪酸がたくさんできてしまいます。

トランス脂肪酸の体内での作用は分かりませんが、構造式を見ると天然型のシス型(cis)よりも形が直線的になり、融点が上がります。

どんな食品にトランス脂肪酸は含まれているのか

農水省のサイトに食品に含まれる総脂肪酸とトランス脂肪酸の含有量がありました。

まずは、トランス脂肪酸の影響について書いておきます。

2010年の国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の報告書では、トランス脂肪酸が虚血性心疾患の危険性を高め、メタボリックシンドロームや糖尿病、心臓突然死のリスクを増やす可能性が高いとされています。WHOはトランス脂肪酸を総エネルギー摂取量の1%未満に抑えるよう勧告しています。

どうしてトランス脂肪酸がよくないのかいろいろ調べてみましたが、はっきりしたことは分かりませんでした。天然型のシス型(cis)に対してトランス型はほとんど自然界に存在しないことがよくないのかもしれません。

トランス脂肪酸は1日2gまでにしておこう

日本人の場合、日本人は肉を食べて米を食べなくなったで書きましたが、1日の総エネルギーは2000kcal程度ですから、その1%は20kcal。脂肪は1gで9kcalありますから、約2gです。

つまり、1日にとるトランス脂肪酸は2g未満にしようという計算になります。

では、普段食べているものにどのくらいトランス脂肪酸が入っているのか。農水省の食品に含まれる総脂肪酸とトランス脂肪酸の含有量から気になる食品について抜き書きします。基準は、一度に100g食べてしまいそうな食品です。

食品中のトランス脂肪酸含有量(出典
品名 トランス脂肪酸
含有量(g/100g)
クロワッサン 0.29~3.0
和牛(肩ロース) 0.52~1.2
和牛(サーロイン) 0.54~1.4
コンパウンドクリーム 9.0~12
バター 1.7~2.2
マーガリン 0.94~13
ファットスプレッド 0.99~10
ショートニング 1.2~31
ショートケーキ 0.40~1.3
アップルパイ、ミートパイ 0.34~2.7
菓子パイ 0.37~7.3
半生ケーキ 0.17~3.0
ビスケット 0.036~2.5
クッキー 0.21~3.8
ポテトスナック 0.026~1.5
マヨネーズ及び
マヨネーズタイプドレッシング
1.0~1.7

コンパウンドクリームとは、ケーキに使われるクリームで、生クリームと植物性脂肪のクリームを混ぜ合わせたものです。色合いや仕上がりコストの関係で広く使われているようです。100g食べる人はいないと思いますが、クリームの多いケーキは、10g使用されていても1g食べたことになります。

ファストスプレッドについて。日本農林規格(JAS規格)では、マーガリン類に属するもののうち、食用油脂の割合が80%未満のものをファットスプレッド、80%を超えるものをマーガリンと呼びます。

ショートニングは、食べた時にサクサク感を出すために使います。マーガリンから水分を抜いたものなので、トランス脂肪酸の含有量はさらに増えます。

NOTE

実は、私はこの記事を書くまで日本人はトランス脂肪酸をあまりとっていないというニュースを鵜呑みにしていました。しかし、自分が食べているものを考えると、そうでもないと思います。

案外、毎日トランス脂肪酸を食べているのかも

あなたはどう思われましたか?

私はマーガリンは意識して使いませんが、ショートニングにこんなにトランス脂肪酸が入っていたとは知りませんでした。

表を見ると、ショートニングを使っているお菓子のトランス脂肪酸含有量はみんな多いです。

私は、クロワッサンは普段食べませんが、好きです。パイのようなさくさくしたお菓子が好きで、アップルパイはたまに買っています。アップルパイは、1個食べたらトランス脂肪酸を1日2g以上とることになりますね。

仕事の合間にクッキーがあればつまむし、半生ケーキもコーヒーを飲むときに食べます。自分の中では、生クリームを使った重たいお菓子ではなく、軽いお菓子だとしか思っていなかったのです。

さくさくした食感のものは要注意だなと思いました。

お菓子が好きで毎日何かしら食べている方は、トランス脂肪酸のことを気にするなら注意した方がよさそうですね。

あとはマヨネーズ。調味料というのは毎日のように使っているので、マヨラーの方は考え直した方がよいかもしれません。私もそうなんですよ。

油の加工について他の記事は、油の加工についてをご覧下さい。

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