油を精製するとき脱酸の工程では石けんを作る

油の精製と聞くだけでイメージが悪い(?)時代、「脱酸」の行程は、石けんをつくると聞くと、さらにイメージが悪くなりますか?でも、詳しく知っていくと、面白くて品質向上に役に立つことが分かります。

油を精製する工程では、脱酸という工程があります。酸素を取り除くのかと思ったらそうではなく、遊離脂肪酸を取り除く工程なのです。

遊離脂肪酸とは、脂肪酸は、カルボキシル基(-COOH)が端についていますから、酸性を示します。これをそのままにしておくと、文字通り酸化の原因になるので取り除くのです。もちろん、脱酸すると油の保存性はよくなります。長もちします。

ところで、遊離脂肪酸を取り除くには、水酸化ナトリウムを加えて石けんにしてしまい、これを遠心分離機を使って取り除くのだそうです。油を精製しているのに、石けんができるの?と思ってしまいました。

少し詳しく調べてみました。

脂肪酸から石けんをつくる

石けんを作るのは、昔、化学で習った「油をアルカリでけん化させる」ということだけが頭に残っていました。しかし、油を精製する行程で、まさか石けんが出てくるとは思いませんでした。

油から石けんを作る化学反応式

石けんを手作りする人もいます。油から石けんをつくる時の反応式を書いておきます。こちらは油脂をアルカリで分解するけん化です。

石けん反応

石けん反応

油脂は、グリセリンと3本の脂肪酸のエステルなのですが、水酸化ナトリウムが入ってくると、グリセリンはもとに戻り、切り離された脂肪酸がナトリウムと結合して石けんができます。

石けんは、脂肪酸とアルカリが結合したものでした。

石けんは脂肪酸とアルカリの中和物

遊離脂肪酸の場合は、脂肪酸が単独であるので、これにアルカリを反応させます。こちらは中和法といいます。

R-COOH(脂肪酸)+NaOH(水酸化ナトリウム)→R-COONa(石けん)+H2O(水)

R-COOH(脂肪酸)は、いろいろな種類があります。Rは元素記号ではありません。炭化水素の鎖を表しています。脂肪酸の種類については、油の性質を決める脂肪酸について構造式を書きながら比べてみたを読んでみてください。脂肪酸の種類にかかわらず石けんができます。

しかし、こうやって反応式を見ると、石けんって簡単にできるのですね。

水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)は強アルカリで、劇薬に指定されています。ただ、私は小学生の時に理科の実験で使った記憶があります。薄めていたと思いますが、手につくとぬるぬるしました。

水酸化ナトリウムで思い出すのは、以前通っていた床屋さんで聞いた話です。髪を切ってもらってシャンプーしてもらいますが、その時に切った髪が排水口に流れていきます。それで排水パイプが詰まらないように定期的に業者に掃除してもらうのだそうですが、パイプに通すのが水酸化ナトリウムだそうです。「髪の毛がドロドロに溶けて出てくるんだからすごく強い薬なんだなと思ったよ」といってました。髪の毛は弱酸性でしたっけ。

石けんを油から分離する

遊離脂肪酸は石けんにしてしまい、それを次に遠心分離機にかけて分離します。油の原料は大豆など農産物なので、中には水分が入っています。

油と水は混ざらないですが、石けんは水に溶けます。その性質を利用します。

遠心分離機の原理

ところで、遠心分離機の原理はわかりますか?私は説明できなかったので、調べてみました。原理を画像を使って分かりやすく説明してあるのは、遠心分離機.comさんの遠心分離機の原理です。

水と油が入ったビーカーを置くと、水と油は混ざらないのですぐに油が上に分離します。しかし、泥水なら泥が底に沈殿するまでかなり時間がかかります。泥が下にたまっていくのは、水より比重が大きいからです。

この過程を短時間でできるのが遠心分離機です。確かに、ヒモにおもりをつけて振り回すと、おもりが重たくなるにつれて体が引っ張られていきますね。重たいおもりは外側に行きたがる。

石けんは水に溶ける

油の精製工程で、遊離脂肪酸を石けんにすると、まず、水に溶けるようになります。すると、振り回されて石けんは油から水の方に出て行くので分離されるようになります。

また、この時に、油より重い、微量金属や色素の一部も除去されます。
微量金属や色素など余分なものが混ざっているとはいえ、石けんが分離されたのですから、これは石けんとして使用されるのだと思います。

金属も酸化の原因になるので、遠心分離機にかけられて金属が除かれると、さらに油の保存性が上がります。

石けんの性質は、水に溶けることでしたが、石けんが油汚れを落とせるように、油にももちろん溶けます。そのため油の中にまだ石けんが残っていいます。油から完全に石けん成分を抜くために、油に対して10%程度の温水を足して、さらに遠心分離機にかけて石けん成分を抜きます。

その後、水は、真空ドライヤーで抜かれます。水の沸点は、100℃。油の沸点は、天ぷらを揚げることを考えると180℃以上です。これは1気圧の場合で、気圧が下がれば、高い山の上に行くのと同じですから、沸点が下がります。低い温度で、水を蒸発させれば残るのは油だけになります。

食用油の製造は、実に工業的ですね。

NOTE

最初、「油の精製に石けんが関係ある」と知った時、自分で手を洗うことが思い浮かんでなんとなく変な感じがしました。しかし、石けんの性質は水にも油に混ざることで、油から余分な水分と遊離脂肪酸を分離して、遠心分離機で分けることができるようになります。

化学って面白いなと思います。

昔、会社の同僚に、中国拳法をずっと訓練している身体性能がよい女性がいました。そのせいなのか、彼女はちょっと古いものを食べると、顔にブツブツが出てくるほど体の感度がよいのです。

そのため、市販のオリーブ油とアルカリだけを使って自分で石けんをつくっていました。市販の石けんに含まれている香料?か何かが合わないのだそうです。薬局で水酸化ナトリウムを買うには身分証明書が必要だと知ったのは彼女の話を聞いてからです。

石けんというと化学的なものをイメージしますが、石けんの原理は油とアルカリだけでできていると知っておきたいです。

油の加工について他の記事は、油の加工についてをご覧下さい。

タイトルとURLをコピーしました