セサミンはリノール酸がアラキドン酸に変化するのを阻害する

ごま油に含まれているセサミンは、リノール酸がアラキドン酸に変化するまでの反応のうち、一番最後、ジホモ-γ-リノレン酸がアラキドン酸に変化するのを阻害します。

ごま油はリノール酸が多い油ですが、リノール酸の多さを少し割り引いて考えられると思います。

ごま

セサミンが、Δ5位の炭素が二重結合化するのを阻害する

ごま油とセサミンについて記事を調べていると、アラキドン酸に関連して、こんなタイトルの記事を発見しました。

Sesamin is a potent and specific inhibitor of delta 5 desaturase in polyunsaturated fatty acid biosynthesis.(セサミンは、多価不飽和脂肪酸生合成におけるデルタ5デサチュラーゼの強力で特異的な阻害剤である。)

検索ワードに何を入れたのか忘れてしまいましたが、多分、セサミンの効果について調べていた時のことです。

気になったのでブックマークしておきました。

Δ(デルタ)5デサチュラーゼは、脂肪酸の端、カルボキシ基から数えて5番目の炭素に二重結合をつくる酵素です。デサチュラーゼは不飽和化酵素といいます。

論文の要約があったので和訳をグーグル翻訳にたのむと、こんな翻訳文が出てきました。

ゴマ油によるインキュベーションは、アラキドン酸産生菌 Mortierella alpinaの菌糸のジホモ-γ-リノレン酸含量を増加させるが、そのアラキドン酸含量を減少させる[注:掲載誌の記載なので省略]。

これらの作用を引き起こす因子は単離され、(+) – セサミンであると同定された。

アラキドン酸産生菌を培養する?

「ゴマ油によるインキュベーション」がよくわからなかったのですが、文章の流れでは、アラキドン酸産生菌を培養するという意味でしょう。ゴマ油で。

論文のタイトルと要約からセサミンがアラキドン酸を作ることを阻害することをいっているのはわかりました。これは今どきの話題としてはとてもよいことです。アラキドン酸がプロスタグランジンなど炎症に関わる生理活性物質となるからです。

しかし、なぜゴマ油で菌を培養してアラキドン酸を作らせるさせる実験をやっているのだろう・・・?と思いました。

ジホモ-γ-リノレン酸とアラキドン酸の構造式を描きました。まずはご覧下さい。それぞれ炭素数は20の脂肪酸です。

ジホモ-γ-リノレン酸からアラキドン酸ができる

ジホモ-γ-リノレン酸はカルボキシ基から数えて、8、11、14番目の炭素に二重結合があります。一方、アラキドン酸は、5、8、11、14番目の炭素に二重結合があります。

リノール酸からアラキドン酸ができることは今やよく知られていますが、ジホモ-γ-リノレン酸は、アラキドン酸になる一つ前にできる脂肪酸です。

ジホモ-γ-リノレン酸に酵素Δ5デサチュラーゼが働くと、5番目の炭素が二重結合になってアラキドン酸になります。

見比べて下さい。5番目の炭素が単結合か二重結合の違いだけです。

ところが、セサミンがあると、ジホモ-γ-リノレン酸が増えるがアラキドン酸が減るというのです。

さて、この論文の本文を読みたいと思ったのですが、残念ながら有料でした。ちなみに、国会図書館には掲載誌のLipidsが所蔵されていました。

それで、この論文名を入れて検索してみると、油脂発酵クロニクルというとても面白い記事が出てきて、これを読むとモヤモヤしていたことがスッキリわかりました。クロニクルとは、年代記または編年史という意味です。

そして、はからずもセサミン発見のきっかけも知ることになりました。

菌にアラキドン酸を生産させる

アラキドン酸を生産する菌に、もっと早く(もっと多く)生産するように、エサとしていくつかの油を与えていたら、ゴマ油を与えるとアラキドン酸が激減してしまったというのです。

その原因がゴマ油に含まれるセサミンでした。

ごまの機能性成分セサミンの発見である.一見油脂の発酵生産と関係がなさそうなこの発見の経緯にも,M. alpina 1S-4株の油脂生産能のすばらしさを垣間見ることができる.

培養条件の至適化を行っていた研究者が,生合成経路をショートカットして生産性を向上させる,つまり,油を原料にPUFAを作る検討を行った.

実験としては,M.alpina 1S-4株の培養培地にさまざまな油を加えてアラキドン酸生産性の変動を観察していた.

オレイン酸やリノール酸を多く含有するオリーブ油や大豆油を添加した際,アラキドン酸生産の向上が見られたことから,さらに対象を広げて検討を加えたところ,ごま油を加えた際にアラキドン酸生産が激減しその前駆体であるジホモ-γ-リノレン酸が著量蓄積する現象が観察された.

アラキドン酸生産性の向上検討としては失敗であるが,この現象の解析からごま成分セサミンのΔ5不飽和化酵素に対する特異的阻害剤としての生理機能が見いだされることとなった.

本発見をきっかけにセサミンの生理機能研究が展開され,抗酸化活性をはじめ,アルコール代謝改善などの肝機能改善機能も見いだされ,健康食品として多様な商品開発が成されるに至っている.

先に書いておきましょう。PUFAとはpolyunsaturated fatty acid(多価不飽和脂肪酸)。二重結合を2つ以上持つ不飽和脂肪酸のことです。

菌で油を生産する

そもそも菌に油を生産させること自体、あまり聞いたことがないです。最近は、藻に生産させる話をよく聞きますけれども。

菌に油を生産させる研究は1980年頃から始まったと書かれています。

アラキドン酸を生産させる

目的は、オメガ6のアラキドン酸を生産させるためでした。当時、オメガ3のEPAやDHAは魚から容易に得られるものの、オメガ6の γ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、アラキドン酸を簡単に大量に得る方法はありませんでした。

その後Mortierella属(クサレケカビ)と呼ばれるカビの一種、M.alpina 1S-4株がアラキドン酸を生産することがわかりました。

こんな風に書かれています。

グルコースを含む単純な培地によく生育し,アラキドン酸を含むトリアシルグリセロールを菌体内に著量蓄積する.

ヒトの細胞も、グルコース(ブドウ糖)を代謝してエネルギー源にしますが、余れば脂肪に変えてエネルギー源として保存します。基本的な仕組みは変わりません。

油を与えて生産性を向上させる

そこで、エサとしてブドウ糖をもらう代わりに油を与えると、油として蓄積されやすくなります。私たちの体の消化の仕組みも、油は一度脂肪酸とグリセロール(グリセリン)に分解されますが、すぐにまた油に戻ります。

それが、「生合成経路をショートカットして生産性を向上させる」ことの意味です。

これで、冒頭の「ゴマ油によるインキュベーション」も含めて、菌を油で培養する意味がわかりました。

ところで、植物油には炭素数18のリノール酸が豊富に含まれていますが、炭素数20のジホモ-γ-リノレン酸、アラキドン酸は、ほとんど含まれていません。

ヒトの細胞と違って、植物はそこまで変化させないのです。

しかし、M.alpina 1S-4株は、その先、炭素数20のジホモ-γ-リノレン酸、アラキドン酸まで変化させて作ることができます。

炭素数18のオレイン酸やリノール酸を豊富に含むオリーブ油や大豆油をエサにすると、うまくアラキドン酸を生産できました。

セサミンがアラキドン酸になる反応を阻害した

ところがごま油を与えると、炭素数20のジホモ-γ-リノレン酸はたくさん作られるものの、アラキドン酸が思ったように生産されなかったのです。

その原因がセサミンであり、セサミンがジホモ-γ-リノレン酸からアラキドン酸に変化するときに必要なΔ5デサチュラーゼ(Δ5不飽和化酵素)を阻害するからです。

ごま油はリノール酸が多いので、よい原料になると思うのが普通です。

ごま油にはリノール酸が多い

ごま油の食品分析表は以下の通りです。この中でn-6系多価不飽和脂肪酸が、オメガ6の脂肪酸です。すべてリノール酸だと思っていただいてよいです。

ごま油100g中、41gがリノール酸ですからごま油はリノール酸が多い油です。

100gあたりの栄養成分
食品成分 ごま油
エネルギー 921kcal
水分 0g
たんぱく質 0g
脂質 100g
炭水化物 0g
灰分 0g
脂肪酸総量 93.83g
飽和脂肪酸 15.04g
一価不飽和脂肪酸 37.59g
多価不飽和脂肪酸 41.19g
n-3系多価不飽和脂肪酸 0.31g
n-6系多価不飽和脂肪酸 40.88g
※日本食品標準成分表2015年版(七訂)から引用

NOTE

いままで、ごま油は、リノール酸が多くα-リノレン酸がとても少ないので、あまりよくないのかと思っていました。なにしろ、今はリノール酸とり過ぎがよくないといわれる時代です。

ごま油を使う時リノール酸のことをあまり気にしなくてもよい?・・・かも

しかし、この記事で取り上げた「Sesamin is a potent and specific inhibitor of delta 5 desaturase in polyunsaturated fatty acid biosynthesis.」の要約とそれを解説してくれる油脂発酵クロニクルというとても面白い記事を読むと、セサミンのおかげであまり気にしなくてもよいのかもしれないと思います。

セサミンがアラキドン酸の生成を阻害してくれるからです。アラキドン酸は、多過ぎると炎症やアレルギー反応を促進させるプロスタグランジンに変化します。

プロスタグランジンE2が問題だ
リノール酸を摂りすぎるとよくないといわれる理由は、変換されたアラキドン酸が炎症やアレルギー反応をひどくするプロスタグランジンの材料になるからだといわれます。そのプラスタグランジンは、プロスタグランジンE2(PGE2)が主役のようです。...

もちろん、論文を全文読んでいないので、どの程度アラキドン酸の生成を阻害するのかわかりません。もし、読むことができたら書き足します。

しかし、セサミンにそのような働きがあるなら、ごま油のリノール酸の多さを少し割り引いて考えられます。

他の油については、油の種類で紹介した記事まとめをお読み下さい。

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