ごま油にセサミンは含まれています。セサミンはビタミンEが肝臓細胞の解毒酵素で代謝されてしまうのを阻害し、ビタミンEの体内濃度を上げます。また、セサミン自体には抗酸化作用はありませんが、解毒酵素で代謝されると強い抗酸化力を発揮します。
ビタミンEを体外に出さないようにする
セサミンは、解毒酵素 CYP4F2 の働きを阻害することによって、α-トコフェロール以外のビタミンEが水酸化され、水に溶けやすくなって体外に出ていってしまう反応を起きにくくします。つまり、ビタミンEが体内に残るようになるのです。
α-トコフェロール以外のビタミンEは尿から体外へ出てしまう
からだの中で使われるビタミンEは、通常、ほぼ、α-トコフェロールだけが有効です。α-トコフェロールは肝臓でリポタンパク質に結合して、血液を流れ、他の細胞に届けられます。
ビタミンEは他に7種類ありますが、肝臓細胞の中の小胞体にあるCYP4F2という解毒酵素によって、水に溶けるようにヒドロキシ基(-OH)がつけられます。そして、尿から体の外へ排出されます。
詳しくは、なぜビタミンEはα-トコフェロールだけが有効なのかという記事に書きました。

ところで、ゴマリグナンは生体内のビタミン E,K および C 濃度をそれらの代謝を調節して上昇させるを読むと、このように書かれています。
セサミンはα-トコフェロール以外のビタミンEも外に出しにくくする
γ-トコフェロールは、体内では水酸化されやすいのですが、セサミンなどごまに含まれるゴマリグナンによって体内に残りやすくなります。
ゴマにはセサミン,セサモリン,セサミノールなどのリグナン類が,ゴマリグナン総量として1% 程度含まれている.
ゴマリグナンが体内のトコフェロール濃度を上昇させることは,1992年に椙山女学園大学の山下らによって初めて報告された.ゴマに含まれるビタミンEである γ-トコフェロールは体内で異化されやすいため,ラットに摂取させても体内の y-トコフェロール濃度は極めて低い.
しかし,ゴマ添加飼料をラットに一定期間摂取させると,血漿や肝臓の過酸化脂質の生成が抑制され,その体内ビタミンE濃度を測定したところ,ゴマを摂取させたラットの体内 γ-トコフェロール濃度は著しく上昇していた.
さらに,このゴマの γ-トコフェロール濃度上昇作用は,セサミンやセサミノールの添加飼料でも同様に認められたため,ゴマに含まれるゴマリグナンが γ-トコフェロール濃度の上昇を介して体内ビタミンE活性を増強させると考えられた.
また,ゴマリグナンは,γ-トコフェロールだけでなくα-トコフェロールの体内濃度も上昇させることが明らかになった.
γ-トコフェロールは、上で書いたように、体内では酵素によって尿から体外へ出てしまいやすいビタミンEです。ゴマリグナンによってそれが残るようになり、また、α-トコフェロールの体内濃度も上がると書かれていますね。
ここに出てきたゴマリグナンの構造式を書いておきましょう。
セサミンの構造式はこんな形をしています。
セサモリンです。
セサミノールです。3つとも違いはありますが、形がとても似ています。形が似ているものは同じような働きをします。
セサモリン、セサミノールは、ごま油が酸化されにくい性質と関係が深い物質です。これは、ごま油が酸化しにくい理由とはという記事に詳しく書きました。

また、別な論文、ゴマ : セサミン(話題,<特集>くすりと食物)には、セサミンの抗酸化力についてなかなか強力な記事が書かれていました。
セサミン自体には抗酸化作用がないらしい
なんと、セサミン自体には抗酸化作用がなく、代謝されたものが強い抗酸化力をもつのだそうです。
セサミン及びセサミン代謝物について,試験管内で抗酸化活性を測定したところ,表1に示したように,セサミンそのものではほとんど効果が見られなかったが,カテコール体セサミンに顕著なラジカル消去活性及び過酸化脂質生成抑制作用が認められた(表1).
特にジカテコール体は作用が強く,ヒドロキシルラジカルに対しても顕著な抑制作用を示した.その他の代謝物には抗酸化作用はほとんど認められなかった.
したがって,モノ及びジカテコール体セサミンが生体内でのラジカル消去活性本体と判断された.
表を見ると確かにセサミンには抗酸化作用がほとんどないことがわかります。
スーパー オキサイド 消去作用 |
ヒドロキシル ラジカル 消去作用 |
過酸化脂質 生成抑制作用 |
|
セサミン | 3.0% | 2.3% | 5.8% |
モノカテコール体 セサミン |
55.5% | 5.4% | 37.9% |
ジカテコール体 セサミン |
73.7% | 59.2% | 71.3% |
※ファルマシア 38 巻 (2002) 11 号より一部省略 |
セサミンの代謝
セサミンの代謝は下のように進むそうです。書かれていた構造式を書き写しました。P-450とは、シトクロムP450のことです。
上で書いた解毒酵素 CYP(シップ)のことです。見るとわかる通り、セサミンの端の環をヒドロキシ基(-OH)に変えて水に溶けやすくしているのです。
しかし、抗酸化力はどんどん強くなり、ヒドロキシ基が4個ついたジカテコール体セサミンはとても強力です。
セサミンとビタミンEで過酸化脂質が抑えられる
さらに、この論文には具体的な実験例が書かれていました。
タイトルからしてすごいです。「激運動」ですからね。最高心拍数の80%は、普段走っている人ならかなりきびしい運動だとおわかりになると思います。
私も学生時代、自転車エルゴメーターを漕いで実験に参加したことがありますが、風を切って走るわけではないので、体に熱がたまり、汗がしたたり落ちてとても苦しかったことを覚えています。
ヒト激運動に対するセサミンの生体内抗酸化作用
健康な成人男子7名にセサミンカプセル(36mg ),ビタミンEカプセル(200 mg )あるいはプラセボカプセルを摂取してもらい,2時間後から自転車エルゴメーターで,最高心拍数(HRmax)の80%以上の運動を20分問継続してもらった.
運動開始直前より経時的に採血して,血漿中の過酸化脂質濃度をヘモグロビン・メチレンブルー法で測定した.
その結果,図3(注:省略します)に示すようにプラセボ摂取時には経時的に血漿中の過酸化脂質が有意に上昇した.これに対し,セサミン摂取時には過酸化脂質の上昇がほぼ完全に抑制された.
ビタミンE摂取では明らかな抑制作用は認められなかった.
過激な運動は大量の酸素消費を必要とし,それに伴って多量の活性酸素が生成し,過酸化脂質が上昇すると考えられる.セサミンは生体内で発生した活性酸素を補足したものと推察された.
その他、肝臓がん予防や高血圧を抑える働きが期待できるようです。ご興味がある方はゴマ : セサミン(話題,<特集>くすりと食物)をご参照ください。
セサミンはサプリメントも販売されていますが、もともとごまに入っている成分で、もちろん、ごま油にも入っています。
市販のごま油にはどのくらいセサミンが入っているか
そこで、私がいつも買っている太白胡麻油、マルホン胡麻油の竹本油脂株式会社に電話して聞いてみました。

生搾りの太白胡麻油100gあたり、セサミンが200~400mg含まれていて、また、焙煎ごま油である太黄胡麻油100gには、セサミンが400~800mg含まれているそうです。
ごま油をサプリメントのようにわざわざ飲む必要はないと思いますが、料理に日常的に使っているとセサミンを毎日摂っていることになります。
ビタミンEを摂るなら煎茶がいいね
ごま油に含まれるビタミンEは大豆油やえごま油より少ないという記事に書きましたが、ごま油にはビタミンEは多く含まれていません。ごま油を料理に使ってセサミンの働きを利用するには、ビタミンEが多い食品を食べればよいのです。
以前、ビタミンEには抗酸化作用があるという記事を書いた時に調べたのですが、ビタミンEが多い食品のナンバーワンは、煎茶(せんちゃ)でした。毎日飲んでいませんか?

もちろん、お湯で抽出したお茶は、含まれるビタミンEが少なくなってしまいますが、お茶を食べるという方法があります。これは、お茶を食べると栄養価の高い野菜だってという記事に書きました。

ぜひ、読んでみてください。
NOTE
セサミンは、もともとごまに含まれているゴマリグナンの一つです。ビタミンEを解毒酵素で代謝され尿として出すことを阻害して、ビタミンEの体内濃度を高めます。
体内で有効なビタミンEであるα-トコフェロールも含め、その他、排出されやすい7種のビタミンEを体の中にとどめる働きをします。
セサミン自体は、抗酸化作用をもちません。しかし、解毒酵素シトクロムP450(CYP)によってヒドロキシ基がつけられると強い抗酸化力をもちます。
自転車を最大心拍数の80%で20分漕ぎ続ける実験では、ビタミンEでは過酸化脂質を抑えられませんでしたが、セサミンは過酸化脂質発生をほぼ完全に抑えることができました。
セサミンは、サプリメントがありますが、もちろん、ごま油に(少なからず)含まれています。セサミンの量は、焙煎して色と香りがついたごま油の方が多いですが、使いやすい太白ごま油にも入っています。
他の油については、油の種類で紹介した記事まとめをお読み下さい。