アセチルCoAからコレステロールが合成される過程を詳しく説明します。アセチルCoAからつくられるということは、糖にも脂肪にも関係があり、普通に食事をしていれば、コレステロールが不足することなどあり得ません。
炭素数5のイソプレノイド単位が6個つながった炭素数30のスクアレンが閉環しながら炭素数27のコレステロールになります。順番がわかるとプラモデルみたいで面白いなと思います。
- コレステロールと脂肪は別なもの
- コレステロールができるまでのあらすじ
- アセチルCoAからメバロン酸まで
- メバロン酸から活性イソプレノイド単位を生成
- 6つのイソプレノイド単位はスクアレンを形成する
- スクアレンからラノステロールへ
- ラノステロールはコレステロールへ変換する
- ラノステロールから4,4-ジメチル-5α-コレスタ-8,14,24-トリエン-3β-オール
- 4,4-ジメチル-5α-コレスタ-8,14,24-トリエン-3β-オールから14-デスメチルラノステロール
- 14-デスメチルラノステロールから4α-メチルザイモステロール-4-カルボン酸
- 4α-メチルザイモステロール-4-カルボン酸から3-ケト-4-メチルザイモステロール
- 3-ケト-4-メチルザイモステロールから4α-メチルザイモステロール
- 4α-メチルザイモステロールからザイモステロール
- ザイモステロールから7,24‐コレスタジエノール
- 7,24‐コレスタジエノールから7-デヒドロデスモステロール
- 7-デヒドロデスモステロールからデスモステロール
- デスモステロールからコレステロール
- コレステロールの環と炭素番号
- NOTE
コレステロールと脂肪は別なもの
油とコレステロールは脂質に分類されますが、別なものです。何しろ脂肪に比べると形が全く違います。コレステロールは下図のように環構造なのです。
私は高校の化学Ⅰしか勉強してこなかったので、この環構造が出てくるとすごく嫌な気分になります。何だかよくわからないからです。
このブログは油(脂肪)についての記事だけを書くつもりだったので、最初、コレステロールについては触れないでおこうと思っていました。
油の構造については、油の構造を知ろうという記事に書きました。見比べていただくと油の構造が簡単なのがおわかりになると思います。
コレステロールはアセチルCoAから合成される
ところが、コレステロールは、アセチルCoAから合成されるのです。
油と関係がないどころか、関係が大アリです。
アセチルCoAからコレステロールができるということは、ブドウ糖も脂肪酸もコレステロールをつくるための材料になるということです。
アセチルCoAについては、アセチルCoAとは酢酸のことかに詳しく書きました。
つまり、普通に食事をしていれば、コレステロールが不足するなんてことは考えられないことです。
たとえば、果糖をとりすぎるとコレステロール値が上がります。果糖がよくない理由を調べてみたという記事に書きました。
コレステロールができるまでのあらすじ
これからの説明はかなり長いので、先にあらすじを簡単に書いておきます。
炭素数2のアセチルCoAから炭素数6のメバロン酸ができます。
メバロン酸から炭素を1個減らした炭素数5のイソプレノイド単位ができます。これが6個つながって炭素数30のスクアレンができます。
スクアレンには、炭素の二重結合が6個あります。その二重結合を減らしながら閉環(コレステロールの環構造をつくる)していき、最終的に二重結合を1個もった4個の環からなるコレステロールになります。
次から反応を書いていきます。スクアレンができるまでの参考書は、イラストレイテッドハーパー生化学原書29版です。
構造式は真似して自分で書きました。
アセチルCoAからファネシル二リン酸までは、Terpenoid backbone biosynthesis – Reference pathwayで反応経路をたどることができます。
また、ファネシル二リン酸からコレステロールまでは、Steroid biosynthesis – Reference pathwayで反応経路をたどることができます。
アセチルCoAからメバロン酸まで
アセチルCoAからメバロン酸ができるまで3つの反応があります。
アセチルCoA2分子からアセトアセチルCoA
アセチルCoA2分子からアセトアセチルCoAができます。
アセチルCoAの2個の炭素(C)には●と○の標識をつけました。これを追って行けば反応物の炭素がもともとアセチルCoAのどの炭素由来かわかります。
青い四角の中に書かれている「チオラーゼ」は酵素の名前です。2分子のアセチルCoAの片方から補酵素A(CoA-SH)を外し、結合させています。
また、アセチルCoAの中に波線(~)が入っています。これはどういう意味なのでしょう?
アセチルCoAの波線(~)は高エネルギー結合を意味する
波線(~)は、高エネルギー結合を意味しています。
アセチルCoAをこのような書き方するときもあるんだなと覚えておきます。
アセチルCoAのカルボキシ基(COOH)とチオール基(SH)が脱水縮合したチオエステル基(CO-S)は高エネルギー結合の一つです。(出典)
ある化合物の特定の結合が加水分解される際に,多量の自由エネルギーが放出される性質があるとき,そのような物質を高エネルギー化合物,その結合を高エネルギー結合と呼ぶ。
構造式中に~でその所在を示す場合がある。(出典)
アセトアセチルCoAから3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoA
アセトアセチルCoAにアセチルCoAがもう1分子縮合して3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoAができます。図にあるように、HMG-CoAとも書かれています。
シンターゼは合成酵素の意味です。(出典)
3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoAからメバロン酸
3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoAは、酵素HMG-CoAレダクターゼによって触媒される反応によって、NADPHによる還元を受けて、メバロン酸になります。
レダクターゼは還元酵素といわれます。(出典)
具体的には、水素が4個入ってきます。
そのうちの1個が結合して補酵素A(CoA-SH)が離れ、残り3個の水素が結合して、メバロン酸になります。見比べてください。
メバロン酸から活性イソプレノイド単位を生成
メバロン酸は、3つのキナーゼによってATPからリン酸を順々に転移されます。キナーゼは、リン酸化酵素とも呼ばれます。さらに脱炭酸されて、活性イソプレノイド単位といわれるイソペンテニル二リン酸になります。
メバロン酸からメバロン酸5-リン酸
最初の図なので、ATPとADPも載せました。ATPからリン酸基が1個外れて、メバロン酸に移るのがわかると思います。ATPはADPに変わります。
キナーゼはリン酸基を結合させる酵素です。(出典)
あれっ、ここから書き方が変わったなと思ったでしょう?
ここから先は、長さ方向が長くなって行きます。それと、コレステロール特有の形を書くために、脂肪酸を書くときの鎖のような書き方をします。
ところで、リン酸は、Ⓟで表されることが多いです。
Ⓟを使うと、メバロン酸5-リン酸はこんな具合に書けます。
メバロン酸5-リン酸からメバロン酸5-二リン酸
メバロン酸5-リン酸にもう一つリン酸が結合して、メバロン酸5-二リン酸になります。
酵素、ホスホメバロン酸キナーゼの「ホスホ」は phospho-でリン酸のことです。つまり、この酵素は、リン酸化されたメバロン酸をさらにリン酸化するという意味です。そのまんま、です。
メバロン酸5-二リン酸の2個目のリン酸Ⓟが波線で結合しているのは、高エネルギーリン酸結合しているからです。
メバロン酸5-二リン酸からイソペンテニル二リン酸
次は、メバロン酸5-二リン酸からメバロン酸3-ホスホ-5-二リン酸という中間物質を経て、イソペンテニルピロリン酸となる反応です。
メバロン酸5-ホスホ二リン酸は、ジホスホメバロン酸キナーゼという酵素でもう一つリン酸を結合します。
ジホスホの「ジ」は2という意味ですから、2個リン酸が結合したメバロン酸にリン酸を結合させる酵素という意味です。
また、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼという酵素によって、二酸化炭素が外され、またリン酸が1個外れます。
デカルボキシラーゼは、脱炭酸酵素ともいわれます。カルボン酸(COOHがついた酸)から二酸化炭素を取り除く反応を触媒する酵素です。(出典)
そして、イソペンテニル二リン酸になります。
イソペンテニルピロリン酸について。iso-(イソ)は直鎖でないことを示すときに用います。構造式を見れば、CH3が横に張り出しています。
ペンテニルは、炭素の数で、メタン(C:1)、エタン(C:2)、プロパン(C:3)、ブタン(C:4)、ペンタン(C:5)に由来するものです。
メタン、エタン、プロパン、ブタン・・・など、メタン系炭化水素のことをアルカン(alkane)といいます。そこから水素原子を1個抜いた残りの原子団の総称をアルキル基(alkyl group)といいます。アルキルになると読み方が変わります。
英語の綴りを見ていただければ分かる通り、アン -aneをイル-ylに変えます。また、isopentenylとenがついているのは、二重結合が一つあることを示しています。
つまり、イソペンテニルピロリン酸は、直鎖でない二重結合を1つもつペンタン(を変形したもの)から水素が1個取れたアルキル基がついた二リン酸だという意味です。
イソペンテニル二リン酸は、活性イソプレノイド単位ともいわれます。
単位と書かれているように、これが6つ組み合わされてスクアレンとなります。
6つのイソプレノイド単位はスクアレンを形成する
炭素数5のイソペンテニル二リン酸が変化しながら組み合わされて、炭素数30のスクアレンになります。
イソペンテニル二リン酸から3,3-ジメチルアリル二リン酸
イソペンテニル二リン酸が異性化されます。イソメラーゼとは異性化酵素のことです。
異性化とは、ある分子が原子の組成は全くそのままに、原子の配列が変化して別の分子に変換することです。 これらの関連する分子のことは異性体と呼びます。
具体的には、ご覧になればおわかりになると思いますが、炭素の二重結合の位置が変化しています。
3,3-ジメチルアリルピロリン酸とイソペンテニル二リン酸からゲラニル二リン酸
次に、できた3,3-ジメチルアリルピロリン酸と、またイソペンテニル二リン酸が縮合して、炭素数10のゲラニル二リン酸ができます。
ゲラニル二リン酸とイソペンテニル二リン酸からファネシル二リン酸
炭素数10のゲラニル二リン酸に、もう1つ、炭素数5のイソペンテニル二リン酸との縮合が起こって、炭素数15のファネシル二リン酸ができます。
ファネシル二リン酸からスクアレン
2分子のファネシル二リン酸が二リン酸の末端同士で縮合しますが、このときNADPHによる還元を受けてピロリン酸基(PPi)が外され、炭素数30のスクアレンができる。ピロリン酸は二リン酸のことです。
図中の赤丸を見ていただくと、ああ、あそこでつながったんだとおわかりいただけると思います。
ファネシル二リン酸は炭素数15です。
スクアレンからラノステロールへ
これから、スクアレンが環構造に変わっていく過程を書いていきます。
アセチルCoAの炭素がどこにあるか
その前に、炭素数2のアセチルCoAの炭素が、メバロン酸になり、イソプレノイド単位になった時に、どの炭素がどこにあるのか?
それを見ていきましょう。
炭素数2のアセチルCoAの炭素(C)を区別するために黒丸(●)と白丸(○)をつけました。その下のメバロン酸は、炭素数6です。
そしてその下のイソプレノイド単位は、脱炭酸して炭素数は5ですが、これがスクアレンの構成単位になります。
炭素数5のイソプレノイド単位が6個結合して、炭素数30のスクアレンができます。
さて、次にスクアレンの構造式を見てみましょう。
炭素の二重結合した場所を目印にすると、イソプレノイド単位がつながってできているのがよくわかります。二重結合はもちろん6個あります。
炭素に番号がついていますが、これはコレステロールができ上がった時の番号なので、いまは気にしなくてよいです。
また、赤い破線が入っているところが、炭素数15のファネシル二リン酸がつながった部分です。
スクアレンからスクアレンエポキシド
イラストレイテッドハーパー生化学原書29版の図にあった反応が少しわかりにくかったので調べました。
この反応は、REACTION: R02874です。
スクアレンは、酸素分子から酸素を1個もらい、スクアレンエポキシドになります。「エポキシド」部分は、下図の赤い破線で囲った四角を見てください。
もう1個残った酸素は、水になります。
スクアレンエポキシドからラノステロール
この過程では閉環が起きます。
閉環が起きるときは、炭素番号14(C14)についているメチル基CH3が炭素番号13(C13)へ、また、炭素番号8(C8)についたメチル基CH3は炭素番号14(C14)へ転移されます。
酸化スクアレンラノステロールシクラーゼによって閉環が起きます。
スクアレンエポキシドが全ての炭素と水素を表示したままだと実に見づらいので、閉環に関係する部分以外を省略した図も描きました。
ラノステロールと見比べて、「ははーん、あの二重結合で余っている反応の手が結合したのか」と思っていただければ。
スクアレンエポキシドに5個あった二重結合が解消され、残る二重結合は、炭素番号8(C8)と炭素番号24(C24)の2ヶ所だけになります。
ラノステロールはコレステロールへ変換する
イラストレイテッドハーパー生化学原書29版にはこのように書かれています。
ラノステロールからのコレステロールの生成は小胞体の膜内で進行し,ステロイド核とその側鎖の変化がかかわっている.
この本では、ラノステロールから次に、14-デスメチルラノステロールへ変化するように書かれているのですが、書かれている反応が大ざっぱすぎて私には理解できない。
Steroid biosynthesis – Reference pathwayを見ながら、もう少し細かく書いていきます。
ラノステロールから4,4-ジメチル-5α-コレスタ-8,14,24-トリエン-3β-オール
ラノステロールは、14番の炭素の先、破線部分についているメチル基(CH3)が外れ、さらに14番の炭素と15番の炭素の間が二重結合になり、(つまり水素が1個放出されます)4,4-ジメチル-5α-コレスタ-8,14,24-トリエン-3β-オールになります。
この時、3分子のNADPHと酸素が3分子のNADP+と4分子の水(H2O)になり、ギ酸(H-COOH)ができます。
NADPは、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸です。NADPHは還元型、NADP+は酸化型です。
ラノステロールの炭素番号14(C14)についていた破線部分のメチル基CH3が、酸素(O2)と反応して、ギ酸(H-COOH)になります。
4,4-ジメチル-5α-コレスタ-8,14,24-トリエン-3β-オールから14-デスメチルラノステロール
4,4-ジメチル-5α-コレスタ-8,14,24-トリエン-3β-オールは、14-デスメチルラノステロールに変化します。
変化は、14番の炭素の二重結合が、単結合にもどっただけです。14番と15番の炭素が水素を1個ずつもらいます。
デスメチルの部分は、Demethylと書き、脱メチル化、脱メチル体という意味です。炭素番号14(C14)についていたメチル基がなくなったラノステロールという意味です。分かりやすい。
14-デスメチルラノステロールから4α-メチルザイモステロール-4-カルボン酸
ここでの反応は、14-デスメチルラノステロールの炭素番号4の炭素に結合している2つのメチル基(CH3)のうち、1つが酸化されてカルボキシ基(COOH)に変わります。
チトクロムは酸化還元に関係するタンパク質です。(出典)
4α-メチルザイモステロール-4-カルボン酸から3-ケト-4-メチルザイモステロール
この反応では、4α-メチルザイモステロール-4-カルボン酸の4番の炭素からカルボキシ基(COOH)が外され、さらに3番の炭素についていたヒドロキシ基(OH)から水素がとられて、ケト基(C=O)になります。
カルボキシ基の炭素と酸素は二酸化炭素(CO2)となり、残った水素とヒドロキシ基からの水素は、NADP+に渡されます。
3-ケト-4-メチルザイモステロールから4α-メチルザイモステロール
この反応では、炭素番号3についているケト基が還元されてヒドロキシ基(OH)に変わります。NADPH+H+から供給される2個の水素(H)は、ケト基の酸素(O)と炭素番号3の炭素に結合します。
4α-メチルザイモステロールからザイモステロール
この反応は、REACTION: R07496に書かれていますが、特に酵素の名前など出て来ません。炭素番号4番の炭素に結合していたメチル基(CH3)が外れています。
ザイモステロールから7,24‐コレスタジエノール
この反応では、炭素番号8番の炭素にあった二重結合が、炭素番号7番の炭素に移動します。
イソメラーゼとは、異性化酵素のことです。外からの原子の移動はなく、この分子の中で変化します。
7,24‐コレスタジエノールから7-デヒドロデスモステロール
この反応では、炭素番号5番の炭素が二重結合になります。そのため、炭素番号5番と6番の炭素がそれぞれ水素を1個ずつ放出します。
7-デヒドロデスモステロールからデスモステロール
この反応は、水素を与えて還元する反応です。
具体的には、炭素番号7番の炭素にあった二重結合に水素を2個与えて単結合にしています。
デスモステロールからコレステロール
やっとコレステロールまでたどりつきました。
最後の反応は、炭素番号24番の二重結合が単結合になります。NADPH+H+から炭素番号24番、25番の炭素が水素を1個ずつ受け取ります。
コレステロールにある二重結合は、炭素番号5番にある1ヶ所だけです。
コレステロールの環と炭素番号
コレステロールの環構造はステロイド核とよばれ、3つの六員環と1つの五員環がつながった構造です。また、炭素番号は下図のようにふられています。
NOTE
コレステロールは環構造を持ちます。
一方、脂肪(油)はグリセロールに脂肪酸が3本結合したとても単純な形をしています。
コレステロールは、炭素数2のアセチルCoAからつくられます。
アセチルCoAは、ブドウ糖が分解され、ミトコンドリアのTCA回路に入る時の物質であり、また、脂肪酸からも、アセチルCoAはつくられます。
コレステロールは、まず、炭素数2のアセチルCoAをもとに、炭素数6のメバロン酸がつくられ、炭素を1つ減らした炭素数5のイソプレノイド単位が6個つなげられて、炭素の二重結合を6個もつ炭素数30のスクアレンができます。
そこから、スクアレンは二重結合を減らしながら閉環し、最終的に二重結合を1個もった炭素数27のコレステロールができ上がります。
コレステロールについての他の記事は、コレステロールについて知っておきたいことをご覧下さい。