「コレステロールは高い方が心臓病、脳卒中、がんになりにくい」を読んだ

肉と魚をしっかり食べる。「摂取コレステロール量を制限する必要はない」ので、卵は1日3個ぐらいまでなら食べてもだいじょうぶ。「摂取コレステロール量を制限する必要はない」ので、肉の摂取を控える必要はない、という内容の本を読みました。

卵

コレステロールは高い方が心臓病、脳卒中、がんになりにくいという本を読みました。タイトルからして挑戦的で、もし、著者が奥山治美先生でなかったら私は読まないと思います。健康本のジャンルで、特に油に関する本は、いい加減な本が多いように感じています。

コレステロールが問題になったのはフラミンガム研究から

そもそも、コレステロール値が低い方がいいという説は、1948年以降にアメリカのフラミンガムという年で行われた有名な「米国フラミンガム研究」という疫学研究の結果、広まったそうです。

疫学研究とはこのような意味です。

疫学研究とは、地域社会や特定の人間集団を対象として、健康に関する事象(病気の発生状況など)の頻度や分布を調査し、その要因を明らかにする医学研究のことです。

疫学研究には、病気とその要因の関係を証明するために、治療や予防に関する要因を人為的に変化させる「介入研究」と、介入を行わず対象者の通常の生活を調査・観察する「観察研究」があります。(出典

このように、ある地域のある人間集団を調査する研究なので、対象人数は多いです。多くの人々を調査した結果、フラミンガム研究では「コレステロール値が低い方がいい」ということになったということです。

しかし、この本の主張は、「総コレステロール値は高い方が、かえって動脈硬化が進みにくい」という一般常識(?)とは逆の主張です。

家族性高コレステロール血症の人は別に考える

ただ、若い時からコレステロール値が300mg/dlを超えるような家族性高コレステロール血症の人は、心臓病や他の病気になる確率が高いので別です。

家族性高コレステロール血症の人は、血中のLDL-コレステロール値が高くなります。(中略)

家族性高コレステロールの人はLDL-コレステロール受容体がうまく働かないため、細胞の中にうまくLDL-コレステロールを取り込めません。そのため、若いときから高LDL-コレステロール血症となります。

すると細胞膜の原料であるコレステロールが不足して膜の修復がうまくいかず、細胞そのものもどんどん弱ってしまうため、血管内皮細胞がダメージを受けて、動脈硬化が進むのではないかと考えられます。(中略)

ちなみに、家族性高コレステロール血症の頻度は0.2%以下、500人に1人以下の割合です。

ラインマーカーを引いておきましたが、コレステロールは細胞膜をつくるために必要なのです。つまり、コレステロールは体のどこにでも存在します。

詳しくは、細胞膜の単位はリン脂質だけど、コレステロールはその隣に存在するを読んでいただければ図を見ていただけます。

フラミンガム研究以後、動物性脂肪摂取とコレステロール値上昇の関係が常識となりました。私でも子供の頃からなんとなく知っていました。

ところが、これは一時的なものなのだそうです。

食事で動物脂肪をとると、人間の血中コレステロール値は上がり、植物性脂肪をとった人と比べると、その差は非常に大きくなります。

しかし、1ヶ月後、半年後、1年後と時間が経過するにつれて、その差は少しずつ縮まっていくのです。

そして数年後には動物性脂肪を食べていても、植物性脂肪を食べていても、血中コレステロール値は差がなくなってきます。

動物性の脂肪にはコレステロールが含まれていて、植物性の脂肪には含まれていません。ただ、コレステロールは体にはとても重要なものなので、食べ物から入ってくる以上の量をいつも肝臓や小腸などで作っています。

一時的に食べ物でコレステロール値が上がっても、全体として調整されてしまうというのです。

コレステロールと死亡率の関係

動脈硬化が起こる仕組みは、たいていこのように書かれています。

  • 血液中にLDL-コレステロールが増えすぎると、血管壁の中に入り込む。
  • 血管壁の中に入り込んだLDL-コレステロールは酸化して、酸化LDL(低比重リポタンパク)となる。
  • 酸化LDLは血管壁内で、コレステロールの塊(粥腫:じゅくしゅ)になり、動脈硬化が進行する。

そのためにLDLコレステロールを減らせと言われるのです。HDLコレステロールは、いわゆる善玉コレステロールです。こちらは、体の中の余分なコレステロールを集めて肝臓に持ち帰るのが役割なので、HDLは高い方がよいといわれています。

男性はHDLが低くても高くても死亡率が上がる

ところが、本の中にあった郡山-伊勢原市民のHDL-コレステロール値と総死亡率の関係(2007)のグラフを見ると意外なことが分かりました。

男性9540人、女性18942人の5年間総死亡率を調べた結果、女性はHDLが高くなると死亡率は低くなるのがはっきりしているものの、男性では、HDLの数値が、40~50mg/dlの人たちが最も低く、それよりも低くても高くても死亡率が上がるのです。

LDL-コレステロールが高いと感染症にかかりにくい

コレステロールはリン脂質とともに細胞膜を構成しています。細胞1個1個にコレステロールは含まれています。とても大切なものです。

さらにこんなことが書かれていました。

またLDL-コレステロールは体内に入り込んだ菌やウイルスの毒素を中和する働きも持っています。ですからLDL-コレステロール値が高い人のほうが菌を中和する力も強く、感染症にかかりにくいといえるでしょう。

実際、疫学調査では家族性高コレステロール血症の人でLDL-コレステロール値が高い人は感染症による死亡率が低く、また、一般人でもLDL-コレステロール値が高いほど、肺炎による死亡率が低いというデータがあります。

感染によって細胞が壊されても、コレステロールがあれば細胞膜を修復できるということなのでしょうか。

LDL-コレステロール値が高いほど死亡率は低い

「LDL-コレステロールと死亡率の関係 茨城県民の追跡調査」(2009)のグラフがでていました。

茨城県民、40~79歳男女91214人を10.3年間追跡調査した結果、LDL-コレステロール値によって心臓病死率、脳卒中死率、総死亡率が調べられました。

LDL-コレステロール値は、80mg/dl未満~140mg/dl以上までいくつかのグループに分けられていましたが、脳卒中死率と心臓病死率はLDL-コレステロール値による影響は見られませんでした。

また、総死亡率については、LDL-コレステロール値が上がるほど、つまりLDL-コレステロール値が140mg/dl以上ある人たちが最も総死亡率が低かったのです。

コレステロールの通説に対して、疫学調査のデータを照らし合わせると、LDL-コレステロールが高いと動脈硬化が進み、心臓病死や脳卒中死の原因になるとはいえないのかもしれません。

ただ、動脈硬化が起きる仕組みはどの本を読んでもほぼ共通しています。動脈硬化について酸化LDLが原因にならないのかどうかというところが知りたいです。

本には書かれていませんでしたが、奥山治美先生を始め、日本脂質栄養学会では動脈硬化が起きる仕組みについてどのように解釈をされているのかなと興味を持っています。

なぜコレステロールは危険視されたのか

これは本を読んでなるほどなあと思ったのですが、コレステロールが高いと心臓病になるのではないかと考えた人は、データを集めるために、コレステロールが高い人を集めてきます。

家族性高コレステロール血症の人が多く含まれる可能性

その中には、当然、家族性高コレステロール血症の人がたくさん含まれてきます。その方たちは、LDL-コレステロール受容体がうまく働かないためにLDL-コレステロール値が高くなっていて、動脈硬化から心臓病になりやすい傾向があります。

そして経過を観察すると、心臓病になる確率が高くなるという結論が得られるのです。

それが一般化されてしまうと、「コレステロールが高いと心臓病になりやすい」という話になります。

しかし、冒頭にふれた「米国フラミンガム研究」では、特定のタイプの人を対象にしたわけではなく、地域住民を調査しているのですが、なぜ、コレステロールが低い方がよいという結論になるのか?

たとえば、35歳男性のグループでコレステロール値と心臓病(あるいは死亡率)との関係を調べていくと、総コレステロール値が260mg/dlを超える人では、心臓病になる率が2倍以上になります。

35歳と年齢が若くて総コレステロール値が高いグループには、やはり家族性高コレステロール血症の人が多く存在する可能性が高いのです。

それを考慮せずにそのまま解釈すると、やはり総コレステロールが高いと心臓病になる確率が高くなることになります。

しかし、一般の高齢者の心臓病の発症率は総コレステロール値が低くても高くてもさほど変わらないと書かれていました。

中性脂肪が高い方が総死亡率は低い

さらに驚きの話があります。私も含めてある年齢以上になると、中性脂肪が高くならないように運動したり食べ物を考えるのですが、中性脂肪は高い方が総死亡率は低いそうなのです。

コレステロールが低くて中性脂肪が高いとよくない

もう少し正確に書くと、コレステロール値が低くて中性脂肪が高い男性は心臓病にかかりやすいようです。

しかし、コレステロール値が別に低くなければ中性脂肪が高い方が総死亡率は低くなっています。

「血清中性脂肪値と総死亡率の関係」(2009)では、伊勢原市の男性9949人と女性16172人を8.1年追跡調査した結果がグラフ化されていました。

中性脂肪値79mg/dl未満から300mg/dl以上までクラス分けされていますが、男性の場合はきれいに右下がりになっています。

最低の79mg/dlが総死亡率が一番高く、300mg/dl以上が最も低くなっています。この中性脂肪の値は、健康診断の結果だったら再検査か要指導のマークがつきますね。

女性の場合は、男性より特徴が現れませんが、やはり300mg/dl以上が最も低くなっています。

ここまで書いてきて、酒飲みの私は少しホッとしています・・・。

どんなものを食べているとよいのか

みんな健康に気をつかう時代。この記事を書いていると、何だか妙に解放されたような気分になりますが、では、奥山先生が考える長寿を目指す食事とはどのようなものなのでしょう。

最後に書かれていました。

  • 肉と魚をしっかり食べる
  • 肉は牛・羊がおすすめ
  • 植物油なら、シソ油・エゴマ油がおすすめ
  • 食べる量を控えない
  • 「摂取コレステロール量を制限する必要はない」
    ので、卵は1日3個ぐらいまでなら食べてもだいじょうぶ
  • 「摂取コレステロール量を制限する必要はない」
    ので、肉の摂取を控える必要はない。
    ただし肥満が気になる人は、肉食もほどほどに
  • 植物油を選ぶときは、リノール酸系脂肪酸の摂取を減らし、α-リノレン酸系脂肪酸のシソ(エゴマ)油、アマニ油を積極的にとる
  • イワシやサバなど魚を食べて、EPAやDHAをしっかりとる
  • 動物に有害作用を示す植物性油脂のカノーラ油、パーム油、オリーブ油などの摂取には注意する
  • 水素添加植物性油脂(マーガリン、ショートニング、コーヒー用加工ミルクなど)は摂取しないほうがいい

NOTE

奥山先生の本でα-リノレン酸のことやリノール酸のとり過ぎの害を知ったので、先生の油関係の本は必ず読むようにしています。ご興味があれば、是非、読んでみることをおすすめします。

少し前までコレステロールは避けて通っていたのですが、最近、少し理解できるようになったのでこの本を読んでみました。

しかし、一般の通説とこれほど違うとはと驚いています。

子供の頃のことを思い出すと、当時の大人がかかった病気と今われわれがかかる病気は変化しています。食生活に一番原因があるのは間違いないと思います。

心臓病や脳梗塞など血管系の病気が増えていて、しかし、コレステロールも中性脂肪も死亡率を下げる方に関与するとしたら、何がそれらの病気のもとになる動脈硬化の原因になるのか、それをお聞きしてみたいです。

この本を読んで思ったのは、世間一般の常識に対し、反対意見の本も読んだ方がよいなと思いました。ただし、話題になることを狙ったつまらない本も多いので、見分けられるようにこちらも勉強しなければいけません。

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