コレステロールは分解されるとアセチルCoAになる

動脈硬化で血管にたまったコレステロールはそのままなんだろうか?動脈硬化は加齢に関係があり、解消されないといわれます。しかし、炭素数27のコレステロールは分解されると、もともとコレステロールの材料だった炭素数2のアセチルCoAになることがわかりました。

卵

コレステロールは分解されないのか?

動脈硬化の話にコレステロールがよく登場します。

コレステロールは血管の中にたまるっていうじゃない?

血管内皮細胞の中に酸化したコレステロールがたまり、それを食べたマクロファージが破裂して動脈硬化の原因となる粥状のプラークになるという話があります。

動脈硬化3

マクロファージ泡沫化を制御する細胞内コレステロール代謝の冒頭にもこう書かれています。

虚血性心疾患の基礎となる粥状動脈硬化症は,血管壁での脂質蓄積に引き続く病的な細胞反応によって形成される.

この最初の過程はマクロファージによる脂質の蓄積である.動脈硬化病変で観察される泡沫細胞はコレステロールエステル(CE)を蓄積したマクロファージである.

そして、動脈硬化は老化現象のようなもので解消できない・・・という説明もよく聞きます。

では、血管にたまったコレステロールは分解されないのだろうか?

そんなことを考えたことはありませんか?

コレステロールを燃やしたら二酸化炭素と水になるでしょう?

しかし、C(炭素)H(水素)O(酸素)からできた炭素化合物であるコレステロールがいつまで経ってもそのまま変わらないなんてことはないでしょう。金属じゃないのですから。

燃やせば二酸化炭素と水になるに決まっています。

たとえば鉄(Fe)は分解できないけれど、炭素数27のコレステロールなら分解できるに決まっています。

アセチルCoAからできるコレステロールは分解されてアセチルCoAに戻る

この記事を書くために何冊も本をひっくり返しましたが、コレステロールが分解されるのか?分解されるならどのように変化していくのかわかりませんでした。

なぜ書かれていないのか、記事を書いた今ならなんとなくわかります。多分・・・。

「必要がないから」

だと思います。私のような専門家でもないのが考えるようなことは、はるか昔に解決がついたか、何かの症状を解消するような話には全く関係がないからでしょう。

しかし、コレステロールが分解されるとどうなるのかわかりました。

KEGG(Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes)にSteroid degradation(ステロイド分解)の経路が公開されていました。

これは紙の本では金がかかりすぎて絶対にできないことで、ネット時代だからできることだと思います。よい時代だなと思います。

経路をずっとたどって読んでいくと、途中で分岐しますが最終的にアセチルCoAになります。

以前、コレステロールの生合成はアセチルCoAからスタートするという記事を書きました。アセチルCoAからコレステロールはできるのです。

コレステロールの生合成はアセチルCoAからスタートする
アセチルCoAからコレステロールが合成される過程を詳しく説明します。アセチルCoAからつくられるということは、糖にも脂肪にも関係があり、普通に食事をしていれば、コレステロールが不足することなどあり得ません。 炭素数5のイソプレノイド単位が6...

それが分解されると、またアセチルCoAに戻ります。

結論は簡単。

コレステロールは分解されてアセチルCoAに戻る。

です。

アセチルCoAってなんだ?という方は、アセチルCoAとは酢酸のことかをお読みください。

また、コレステロールがアセチルCoAに分解されることがわかっても、動脈硬化と関係がある、マクロファージが食べたコレステロールが分解されにくい(?)ことには変わりがありません。

これは、現在調査中です。わかりましたら別な記事にします。

微生物を使ってコレステロール分解経路が調べられていたようだ

Steroid degradation(ステロイド分解)を見ると、コレステロールオキシダーゼによってコレステノンに変わるのが、一番最初の反応です。

ウイキペディアでコレステロールオキシダーゼを調べると、短い説明の下に参考文献がでていました。

その年代の古い方、“Studies on the microbiological degradation of cholesterol”へのリンクがあり、出版社のサイトにつながります。

フルテキストで公開されているので、翻訳ソフトに読み込ませて訳文を読んでみると、この論文が書かれた1953年頃の40年以上前に、唯一の炭素源としてコレステロールを使って増殖できる土壌微生物がいることが知られていたそうです。

観察しやすいからなのか、病原菌の発見の歴史に関係があるのか(?)、コレステロールの分解する経路は、細菌やカビなど微生物に分解させて発見されていったようです。

ここから先は、コレステロールの分解をアセチルCoAまで反応式を書いていきます。ずっと反応式が続きますので、ご興味がある方、続けてお読みください。

コレステロールの炭素番号

まず、コレステロールの炭素番号を書いておきます。

これから出てくる名前に数字が入っていますが、それは炭素番号に対応しています。時々、ここに戻って見比べてください。

コレステロール番号

コレステロールからコレステノン

コレステロールは、コレステロールオキシダーゼによって、コレンテノンに変化します。オキシダーゼは酸化酵素です。反応式はR01459にあります。

コレステノンは、Cholest-4-en-3-oneとも書きます。

コレステロールの左端についているヒドロキシ基(OH)とその隣の炭素についていた水素、合計2個が離され、過酸化水素(H2O2)になります。また、炭素の二重結合の位置が5番目から4番目に変わります。

コレステノン

3-オキソ-4-コレステン酸

コレステノンは、コレスタ-4-エン-3-オン26-モノオキシゲナーゼによって3-オキソ-4-コレステン酸になります。

反応式はR11361です。

フェレドキシンはタンパク質で電子伝達に関与します。

コレステノンの26番の炭素は、CH3でしたが、カルボキシ基(COOH)に変わっています。

3-オキソ-4-コレステン酸のもう一つの名称、(25R)-3-Oxo cholest-4-en-26-oateについて、(25R)って何だろう?と思いました。

これは、25番炭素が不斉炭素といって、結合する4本の手に全て違うものがつきます。その際の、絶対配置を表すもので、右回りなのでRがついています。これだけでは何をいっているのかわからないと思います。

調べたい方は、「絶対配置の表示法」や「R/S表示法」などで検索してみてください。ここでは触れません。

3-オキソ-4-コレステン酸

 

CYP142とは、シトクロムP450と呼ばれる酵素の中の一つです。酵素の説明にはこのように書かれていました。

いくつかの細菌性病原体に見出されるこのシトクロムP-450(ヘムチオレート)酵素は、宿主コレステロールの分解に関与する。

それはC-26炭素のヒドロキシル化を触媒し、続いてアルデヒド中間体を介してアルコールをカルボン酸に酸化し、コレステロールのアルキル側鎖の分解を開始させる。(出典

CYP(シップ)についてはこんな記事を書いたことがあります。

薬を飲んでいるときグレープフルーツを食べてはいけない理由を調べてみた
薬によっては、飲んでいるときにグレープフルーツを食べてはいけないものがあります。その理由は、グレープフルーツが薬を解毒・代謝するシトクロムP450を阻害するからです。薬の効き目が強くなって「効き過ぎる」可能性があるのです。弱くなるのではなく

アンドロステンジオン

3-オキソ-4-コレステン酸はβ酸化によってアンドロステンジオンに変わります。β酸化は脂肪酸が炭素数2個ずつ切られる時の反応です。

反応式はR09919に出ています。

 

アンドロスタ-1,4-ジエン-3,17-ジオン

アンドロステンジオンは、1番と2番の炭素から水素が抜かれ、二重結合となり、アンドロスタ-1,4-ジエン-3,17-ジオンとなります。

この反応は、R09884にあります。

アンドロスタ-1,4-ジエン-3,17-ジオン

9α-ヒドロキシアンドロスタ-1,4-ジエン-3,17-ジオン

アンドロスタ-1,4-ジエン-3,17-ジオンは、9番の炭素についているHがOを1個もらってOHに変わり、9α-ヒドロキシアンドロスタ-1,4-ジエン-3,17-ジオンになります。

反応はR09860にあります。

9αの「α」は9番の炭素についているヒドロキシ基(OH)の向きについて指定しています。この場合は下向き。

詳しくは、ブドウ糖の構造式の種類とDとL、αとβの区別についてをお読みください。

9α-ヒドロキシアンドロスタ-1,4-ジエン-3,17-ジオン

セコフェノール

9α-ヒドロキシアンドロスタ-1,4-ジエン-3,17-ジオンがセコフェノールに変わります。反応は「spontaneous」と書かれていて、自然に、自発的にという意味なのでしょう。環が1個ほどけて3個になっています。

反応はR09885にあります。

一番左の環の二重結合が3個に増えています。

 

セコフェノール

3,4-ジヒドロキシ-9,10-セコアンドロスタ-1,3,5(10)-トリエン-9,17-ジオン

セコフェノールは、3,4-ジヒドロキシ-9,10-セコアンドロスタ-1,3,5(10)-トリエン-9,17-ジオンに変化します。

酵素の「モノオキシゲナーゼ」は、このような意味です。下の環にOHが結合しています。

酸素分子を基質として酸素1原子を化合物に導入するオキシダーゼ.一般式では,AH+O2+2H+2e→AOH+H2Oの反応を触媒する.

反応式は、R09819にあります。

3,4-ジヒドロキシ-9,10-セコアンドロスタ-1,3,5(10)-トリエン-9,17-ジオン

DSHA

3,4-ジヒドロキシ-9,10-セコアンドロスタ-1,3,5(10)-トリエン-9,17-ジオンは、ジオキシゲナーゼにより、DSHAになります。

ジオキシゲナーゼはこのように説明されています。

二原子酸素添加酵素,二酸素添加酵素ともいう.分子状酸素を基質に二原子の酸素をもう一方の基質に化合させる反応を触媒する酵素.(出典

酸素を2個添加されて、下の環が開いています。

DSHA

(2Z,4Z)‐2‐ヒドロキシ‐2,4‐ヘキサジエン酸

ここで、DSHAは2つに分かれます。

このうち、アセチルCoAまで先に経路がつながっていくのは、(2Z,4Z)‐2‐ヒドロキシ‐2,4‐ヘキサジエン酸です。

反応式はR09883にあります。

ヒドロラーゼは加水分解酵素の意味です。

(2Z,4Z)のZは炭素の二重結合を挟んだ位置関係を意味しています。「e/z異性体」と入れて調べていただければ理解できると思います。

(2Z,4Z)‐2‐ヒドロキシ‐2,4‐ヘキサジエン酸

4‐ヒドロキシ‐2‐オキソヘキサン酸

ここからは、Xylene degradationの経路に途中から入ります。「キシレン分解」という意味です。ちなみに、キシレンはベンゼンの水素のうち2つをメチル基で置換したものです。

o-キシレン

(2Z,4Z)‐2‐ヒドロキシ‐2,4‐ヘキサジエン酸は環構造ではないので、キシレン分解の経路に途中から入っていくことになります。

長さが短くなったので、見やすくなりました。

(2Z,4Z)‐2‐ヒドロキシ‐2,4‐ヘキサジエン酸が脱水して4‐ヒドロキシ‐2‐オキソヘキサン酸になります。

反応式はR05298です。

4‐ヒドロキシ‐2‐オキソヘキサン酸

ピルビン酸とプロピオンアルデヒド

4-ヒドロキシ-2-オキソヘキサン酸は、ピルビン酸とプロピオンアルデヒドになります。

ピルビン酸はアセチルCoAになり、ミトコンドリアのクエン酸回路に入ります。次に、ピルビン酸からアセチルCoAになる反応を書いておきます。

炭素数27のコレステロールは、もともとアセチルCoAからつくられていましたが、こうしてまたアセチルCoAにもどります。

プロピオンアルデヒドは、プロパナールとも呼ばれる、炭素数3のアルデヒドです。

反応式はR05298です。

ピルビン酸

ピルビン酸からアセチルCoA

ピルビン酸は反応が見やすくなるように左右を反対にしました。

ピルビン酸のカルボキシ基(-COOH)は脱炭酸されて、CO2が抜けます。酸化型フェレドキシンは2個あるので、残った水素と、補酵素A(HS-CoA)から水素をもらいます。

そしてアセチルCoAができます。

反応式はR01196です。

ピルビン酸からアセチルCoA

プロピオンアルデヒドからプロピオニルCoA

さて、ピルビン酸は終点まで行き着いたので、残っているプロピオンアルデヒドに戻ります。プロピオンアルデヒドも、最終的にアセチルCoAになります。

下図では、プロピオンアルデヒドと反応した後のプロピオニルCoAの向きが反対になっています。プロピオニルCoAからの変化が見やすくなるように逆にしました。

プロピオンアルデヒドは、NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)に水素を渡し、補酵素A(HS-CoA)と結合してプロピオニルCoAとなります。

反応式はR09097です。

プロピオニルCoA

補酵素A(HS-CoA)は、略称で構造式はもっと複雑です。しかし、反応に関係がなく、結合したものを運搬するのが役目なので、深く考えなくてよいです。

ここから先は、Propanoate metabolism(プロパン酸代謝)に書かれています。

アクリロイルCoA

プロピオニルCoAはFAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)に水素を2個渡し、左端に炭素の二重結合ができ、アクリロイルCoAになります。

反応式はR00924にあります。

左端のCH2を書いたのは、CH3からCH2と水素が1個減ったのをわかりやすく見ていただくためです。

アクリロイルCoA

ここから反応経路は2本に分かれる

アクリロイルCoAからアセチルCoAができる経路は2つに分かれます。3-ヒドロキシプロピオニルCoAからアセチルCoAに向かう経路と、ラクチルCoAからアセチルCoAに向かう2本の経路があります。

先に、3-ヒドロキシプロピオニルCoAの方から書いていきます。

3-ヒドロキシプロピオニルCoA

アクリロイルCoAは水を受け取って、炭素の二重結合を解消し、ヒドロキシ基(OH)をつけます。

反応式はR03045です。

3-ヒドロキシプロピオニルCoA

3-オキソプロピオニルCoA

3-ヒドロキシプロピオニルCoAは、NADP+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)に水素を2個渡して、3-オキソプロピオニルCoAとなります。

反応はR04919です。

3-オキソプロピオニルCoA

マロニルCoA

3-オキソプロピオニルCoAはNADP+に水素を渡し、水からOHを受け取ってマロニルCoAになります。

反応はR00744です。

マロニルCoA

マロニルCoAからアセチルCoA

マロニルCoAはピルビン酸のカルボキシ基(COOH)と補酵素A(HS-CoA)を交換します。

マロニルCoAからアセチルCoAができる反応はこれだけでなく、他に2つあります。

この反応はR00353です。

アセチルCoA

再びアクリロイルCoAにもどってラクチルCoAへ

ここから再び、アクリロイルCoAにもどって、もう一つの経路をたどります。

アクリロイルCoAは、水を付加して炭素の二重結合を解消し、ヒドロキシ基をつけてラクチルCoAになります。

この反応はR02963です。

ラクチルCoA

L-乳酸

ラクチルCoAからプロピオン酸に補酵素A(HS-CoA)を渡します。そして、L-乳酸になります。トランスフェラーゼは転移酵素と呼ばれます。

乳酸は疲労物質と長らく思われていた物質です。しかし、乳酸はエネルギー源なのです。乳酸は疲労物質ではないという記事を書きました。

乳酸は疲労物質ではない
乳酸は酸素が不足するとできる、疲労物質だといわれてきました。乳酸は糖の分解量が増えるとできるもので、疲労物質ではなく、エネルギーを貯めておくものです。とても分かりやすい本がありましたよ。 高校生のための東大授業ライブを読みました。 この本の

ここでの反応はR01449です。

 

乳酸

ピルビン酸

乳酸はNAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)に水素を2個渡してピルビン酸になります。反応はR00703にあります。

 

ピルビン酸は次にアセチルCoAになります。これは、上に書いたピルビン酸からアセチルCoAとまったく同じです。

NOTE

コレステロールはアセチルCoAに分解されることがわかりました。

私は高校化学以上の知識はなかったので、当初、環が4つもあるコレステロールはバラバラにならないのではないかと思っていました。

しかし、今回調べてみて、バラバラになること、そもそもコレステロールの材料だったアセチルCoAまで戻ることがわかったことはよかったです。

きっと他の環構造をもつ物質も同じようなものなんだろうなと思いました。

いま、動脈硬化と関係がある、マクロファージが食べたコレステロールがどのように変化するのかについてとても興味を持っています。

これは、現在調査中です。わかりましたら別な記事にします。

ただ、すでに調べられていたことはKEGGのデータベースに入っていると思います。多少違いはあっても生物(細胞)は同じような仕組みで生きているので、今回たどったコレステロール分解の経路に重なるかもしれません。

コレステロールについての他の記事は、コレステロールについて知っておきたいことをご覧下さい。

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