飽和脂肪酸がコレステロールを上げるのはなぜ?

飽和脂肪酸のうち、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸にコレステロール値を上げる作用があり、特にラウリン酸とミリスチン酸はそれが大きいです。原因は、肝臓でのLDL受容体活性が抑制されるから。ステアリン酸は速やかにオレイン酸に転換されるので影響はほとんどないそうです。

飽和脂肪酸はコレステロール値を上げる

日本人の食事摂取基準(2015年版)にはこのように書かれています。

飽和脂肪酸摂取量と血清(又は血漿)総コレステロール濃度が正の関連を有することは Keys の式並びに Hegsted の式として古くからよく知られており、27の介入試験をまとめたメタ・アナリシスでも、さらに、研究数を増やした別のメタ・アナリシスでもほぼ同様の結果が得られている。

これは LDL コレステロール濃度でも同様である。ただし、飽和脂肪酸の炭素数別に検討したメタ・アナリシスによると、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸(炭素数が12~16)では有意な上昇が観察されたが、ステアリン酸(炭素数が 18)では有意な変化は観察されず、飽和脂肪酸の中でも炭素数の違いによって血清コレステロール濃度への影響が異なることも指摘されている。

したがって、飽和脂肪酸(その炭素数は考慮せずに飽和脂肪酸全体)の過剰摂取は動脈硬化性疾患、特に心筋梗塞のリスクであると想像される。

ところが、飽和脂肪酸摂取量と循環器疾患発症率との関連を検討した 21(心筋梗塞発症率の検討では 16)のコホート研究の結果をまとめたメタ・アナリシスでは、心筋梗塞との間には有意な関連を認めなかった 。

しかし、その中の七つの研究が血清総コレステロール濃度を調整しており、これは統計計算時の過調整(over-adjustment)に当たり、両者の関連を正しく評価できていない恐れがあるとの指摘もある。

日本人を対象としたコホート研究では、心筋梗塞死亡率との間に有意な関連を認めてなかったとする報告、心筋梗塞発症率との間に有意な正の関連を認めたとする報告の両方が存在する。

ところで、総エネルギー摂取量を一定にして 5% E を飽和脂肪酸からそれぞれの脂肪酸または炭水化物に食べ変えたときの心筋梗塞罹患又は死亡のリスクの違いについて、11 のコホート研究のデータを用いて検討したプール解析によると、飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸に置き換えたときに発症率・死亡率共に有意な低下を認めている。

メタアナリシスとは、複数の研究の結果を統合し、より高い見地から分析すること、またはそのための手法や統計解析のことです。(出典

コホート研究とは、「調査時点で、仮説として考えられる要因を持つ集団(曝露群)と持たない集団(非曝露群)を追跡し、両群の疾病の罹患率または死亡率を比較する方法である。」(出典

つまり、飽和脂肪酸摂取量が多い集団と少ない集団で循環器疾患発症率を比較した大人数を対象にした研究です。

厚労省の書類なので少し歯切れが悪いですが、ラインマーカーを引いた箇所、飽和脂肪酸であるラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸(炭素数が12~16)を摂っていると総コレステロール値とLDLコレステロール値が上昇するようです。

ステアリン酸は影響なし

ステアリン酸は炭素数18の飽和脂肪酸ですが、ステアリン酸はコレステロール値に関係がないようです。飽和脂肪酸は、形が同じで、炭素数が変わるだけです。

ステアリン酸は炭素数が多く、つまり、脂肪酸として長さが長いので、融点も高い脂肪酸です。こういうところが面白いですね。

では、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸について性質を調べてみましょう。構造式も書きますが、炭素数が違うだけで形は変わりません。

下の構造式を見て、サッパリ分からないという方は、油の構造を知ろうをまずお読みください。

油の構造を知ろう
油は脂肪と同じものです。油には基本的な構造があります。グリセリンと3本の脂肪酸がエステル結合したものです。脂肪酸には飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸があり、炭素の長さで性質も違います。油の性質は、結合する脂肪酸によって決まります。

ラウリン酸

ラウリン酸は炭素数12の飽和脂肪酸です。分子式はC12H24O2。示性式はCH3(CH2)10COOH。融点は44℃~46℃です。

ココナッツオイルやヤシ油に含まれる主な酸で、抗菌活性を持つと考えられています。石鹸やシャンプーに多く用いられています。(出典

ラウリン酸

ミリスチン酸

ミリスチン酸は、炭素数14の飽和脂肪酸です。動物性・植物性脂肪中に広く見られる飽和脂肪酸で、ヤシ油、パーム油に多く含まれています。融点は、54.4℃。分子式は C14H28O2、示性式は CH3(CH2)12COOH と書かれます。(出典

ミリスチン酸はこんな構造式です。

ミリスチン酸

パルミチン酸

パルミチン酸は炭素数16です。分子式 C16H32O2、示性式 CH3(CH2)14COOH 。融点は62.9℃。ミリスチン酸よりも炭素が2個多くなっています。

ラード(豚脂)やヘット(牛脂)などに多く含まれます。この脂肪酸は、ステアリン酸と同じように植物油でもたいてい入っている脂肪酸で、特に多いのは、パーム油です。(出典

パルミチン酸

パルミチン酸については、たまたま発見したのですが、熊本県畜産協会のサイトにあったコレステロールと脂肪酸の関係によれば、パルミチン酸には、従来言われてきたコレステロールの上昇作用はないと書かれていたので、評価が微妙なのかもしれません。

なぜ飽和脂肪酸はコレステロールを上げるか?

脂質栄養学の最前線―脂質栄養と動脈硬化―を読むと、説明が書かれていました。

まずはこのようにラウリン酸とミリスチン酸にコレステロール上昇作用が強いと書かれていました。ココナッツオイルが一時流行りましたが、コレステロール値を気にしている方は少しご注意された方がよいかもしれません。

長鎖飽和脂肪酸,炭素数12~16の飽和脂肪酸(ラウリン酸,ミリスチン酸,パルミチン酸)には血清コレステロール上昇作用が認められている。

これらの3種類の脂肪酸のなかではラウリン酸とミリスチン酸が特にコレステロール上昇作用が強いとの報告もある。

さらに、具体的に飽和脂肪酸がLDLコレステロールを上げることについて、このように書かれていました。

肝臓でのLDL受容体活性が抑制される

飽和脂肪酸を摂取した場合に,血清コレステロール,特にLDLコレステロールの上昇がみられるが,トリアシルグリセリン(トリグリセリド)の上昇がほとんど認められないことや,LDLアポBの代謝実験から,飽和脂肪酸摂取時のLDLコレステロール上昇機序は肝におけるLDL受容体活性の抑制であると考えられている。

LDL受容体の活性抑制はコレステロールあるいは酸化コレステロールの増加によって起こるが,飽和脂肪酸がどのような機序によりLDL受容体活性を抑制しているか明確ではない。

LDLコレステロールは、悪玉コレステロールと嫌われています。しかし、LDLコレステロールはコレステロールそのものではなく、アポタンパク質といって、血液中を流れ、コレステロールと中性脂肪を細胞に届けるために運ぶものなのです。

以前、VLDLからコレステロールを配るLDLへという記事を書いて、図入りでこの仕組みを説明しました。

VLDLからコレステロールを配るLDLへ
この記事では、食べ物からではなく、肝臓で作られたコレステロールと中性脂肪(TG)がどのように組織に配られるのか。VLDLができ、LDLに変化し、LDLが肝臓に戻ってくるまでを説明します。この記事は、カイロミクロンは中性脂肪(TG)を配る...

血液に乗って体を回ったLDLコレステロールは肝臓に戻って来ます。この時、LDL受容体活性が抑制されると、肝臓に受け取ってもらえません。

すると、血液中に存在したままになるので、LDLコレステロール値が上がります。

さらにステアリン酸がLDLコレステロール値を上げない仕組みについても書かれていました。

ステアリン酸はオレイン酸に転換される

ステアリン酸は速やかにオレイン酸に転換されるためにパルミチン酸にみられるようなコレステロール上昇作用はないと考えられている。

鎖長延長反応より不飽和化反応の方が速やかに起こるとされる。

ステアリン酸もオレイン酸も炭素数18の脂肪酸です。オレイン酸は、オリーブ油にたくさん含まれている脂肪酸です。

しかし、違いがあります。

まずは構造式を見ていただきましょう。ステアリン酸は今までと同じ、飽和脂肪酸です。

ステアリン酸

ステアリン酸

一方、オレイン酸はこんな形です。オメガ9の脂肪酸と呼ばれ、オメガ端(COOHの反対側)から数えて9番目の炭素が二重結合になっています。

オレイン酸

オレイン酸

体内では、脂肪酸に二重結合をつくる酵素と、脂肪酸を炭素数2個ずつ延ばす酵素があります。先に、脂肪酸を二重結合にする酵素が働くようです。

脂肪酸に二重結合をつくったり炭素数を2個ずつ延ばす反応については、α-リノレン酸からEPA、DHAに変換するまで5つの反応があるを読んでいただくと分かります。

α-リノレン酸がEPA、DHAに変換されるまで5つの反応がある
炭素数18のα-リノレン酸は5つの酵素反応によって、二重結合を3つ増やし、炭素数を4個増やします。この反応で、EPAとDHAができます。

NOTE

私はカレーをつくるのが趣味なので、ココナッツパウダーを買い置きしています。ココナッツパウダーにも油分はありますが、ココナッツオイルは油そのものです。コレステロール値が気になる年齢の方は注意した方がよいかもしれません。

ステアリン酸は融点が69.6 °Cです。常温、いや体温でも固体。しかし、オレイン酸は融点が13.4 °Cです。常温では液体。ステアリン酸がそのまま体の中にたまっているとやっかいです。

体の中でできたステアリン酸が速やかにオレイン酸になるのは、よくできた仕組みだなと思いました。

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