コレステロールは胆汁酸(塩)として排出されるがほとんど回収される

肝臓でつくられたコレステロールは胆汁酸となり、胆のうから放出され、糞便と混ざりますが、そのうち98~99%は回腸で回収されて肝臓に戻ります。そして、1%程度は大便から体外に出ていきます。このようにコレステロールは大切に回収され体から出ていかない仕組みができています。やはり、コレステロールはとり過ぎない方がよいかもしれません。

腸の解剖図

コレステロールはどのように体外に出るのでしょう?コレステロールは食べ物によって入って来たり肝臓でつくられますが、どうやって出て行くのか、今度は出口の話です。

コレステロールが胆汁酸に変わる

コレステロールは肝臓で胆汁酸に変えられ、胆のうに蓄えられ、必要時に胆汁を介して十二指腸に排泄されます。

胆汁

まず、胆汁について調べました。胆汁には消化酵素が含まれていないのが特徴です。

胆汁は、肝臓で生成される黄褐色でアルカリ性の液体である。肝細胞で絶えず生成され、総肝管を通って胆のうに一時貯蔵・濃縮される。(中略)

胆汁は1日に約600ml分泌される。胆汁酸と胆汁色素を含み、前者は界面活性剤として食物中の脂肪を乳化して細かい粒とし、リパーゼと反応しやすくすることで脂肪の消化吸収に重要な役割を果たすが、消化酵素は含まれない。出典

胆汁酸

胆汁酸は、腸内でミセルの形成を促進し、脂肪を細かく乳化して吸収しやすくするものでした。ミセルの外側は水に対して親和性があり、その内部に水と混ざらないコレステロールや中性脂肪(トリグリセリド:TG)が入っています。

図を見ていただければお分かりになると思います。

丸くなっているもの全体がミセル。その外側は水です。脂肪酸はR-COOHと一般式で表すことができますが、水の方に向いているのは、水と親和性があるカルボキシル基(-COOH)の方です。

ミセル

ミセル

胆汁酸とコレステロールは構造が似ている

胆汁酸として代表的なコール酸はコレステロールからつくられます。そのため、2つの構造はとてもよく似ています。まず下図をご覧下さい。

コール酸は、胆汁酸の主要成分です。

コール酸

コレステロールとコール酸

大きな変化は、コレステロール分子の疎水側(水と親和性がない方:エビのしっぽみたいな方です)側鎖がカルボキシ基(-COOH)に置き換えられていていることです。

見やすいように、カルボキシ基(-COOH)だけ炭素(C)を書きました。

また、複数の水酸基(-OH)が入ることもあります。カルボキシ基(-COOH)が入っているので「酸」がつきます。

カルボキシ基(-COOH)やヒドロキシ基(-OH)は、水と親和性があります。

一次胆汁酸

肝臓で生合成された胆汁酸を一次胆汁酸といいます。

主要な胆汁酸はコール酸ですが、ヒドロキシ基(-OH)の数と位置が異なる誘導体も存在します。上に構造式を描いたコール酸は、たいていグリシンか、スルホン酸であるタウリンと結合しています。

スルホン酸は、スルホ基 (スルホン基、スルホン酸基) (-SO3H) が置換した化合物の総称です。構造式を見ていただければすぐに分かります。

グリシン

また、グリシンはアミノ酢酸のことで、タンパク質を構成するアミノ酸の中で最も単純な形を持ちます。 構造式は H2N-CH2-COOHです。

グリシン

タウリン

タウリンは、構造式がH2N-CH2-CH2-SO3H の物質です。

タウリン

  • グリシンとコール酸が結合するとグリココール酸ができます。
  • タウリンとコール酸が結合すると、タウロコール酸ができます。

グリココール酸とタウロコール酸

タウリン、グリシンとコール酸が結合することを、抱合(ほうごう)といいます。ウイキペディアには次のように説明されていました。

生化学、生理学の抱合。生物における代謝の一型式で、薬物などの外来物質(異物)や体内由来の一部物質(ホルモン、胆汁酸、ビリルビンなど)に他の親水性分子(硫酸、グルクロン酸、グルタチオンなど)が付加される反応をいう。(出典

タウリン、グリシンがコール酸に付加されると、より水に溶けやすくなります。

抱合することによって、腸内容物の中で完全にイオン化することが可能になり、よりよい界面活性剤として働くことができるようになります。イオン化したものは胆汁酸塩と呼ばれます。(出典

こうしてミセルを構成する材料となります。これらは一次胆汁酸と呼ばれます。

二次胆汁酸

一次胆汁酸は腸内細菌によってさらに代謝され、二次胆汁酸のデオキシコール酸リトコール酸になります。

エビのしっぽがだいぶ短くなりました。

デオキシコール酸

デオキシコール酸とリトコール酸

コレステロールは一次胆汁酸としてミセルを構成し、腸内細菌で代謝され二次胆汁酸となりますが、そのまま体外に出ていくわけではないのです。

腸肝循環

腸肝循環とは、コレステロール回収の仕組みです。

脂肪のコレステロールを含む消化産物は、小腸の最初の100cm以内で吸収されます。一次、二次胆汁酸はほとんどすべて回腸で吸収され、そして98~99%は門脈を経て肝臓に戻ります。

回腸は大腸に入る手前、正確にいうと盲腸の手前部分です。小腸の長さは6~7mあるので、長い小腸の末端部分です。

このコレステロール回収の仕組みは腸肝循環として知られています。

ただし、二次胆汁酸のリトコール酸はその不溶性のため、さほど再吸収はされません。胆汁酸塩のごく小部分は吸収を免れて、糞便中に出て行きます。

これはコレステロールの排出のための主要な経路になっています。

毎日、胆汁酸のプール(約3~5g)は腸肝循環の仕組みによって6~10回循環しています。そして、糞便中に失われる量に匹敵するだけの胆汁酸はコレステロールから合成されているので、胆汁酸のプールは一定の大きさに維持されています。

参考文献:イラストレイテッドハーパー・生化学原書29版

イラストレイテッド ハーパー・生化学について
2017年の春にイラストレイテッド ハーパー・生化学原書29版を買ってそれ以来使っています。きっかけは、アセチルCoAからコレステロールが合成される図を見たからです。最新版は2016年刊行の30版です。出版社に敬意を表して先に最新版...

コレステロールはほとんど体内で回収再利用される

これまで書いてきたように、コレステロールはかなり大切にされていて、ほとんどが再吸収されます。

脂肪や、炭水化物、タンパク質などと違って積極的に分解される仕組みがありません。もちろん、体を動かすエネルギー源にならないとはいえませんが、優先順位から考えると、かなりなりにくいです。

コレステロールは分解されるとアセチルCoAになるを読んでいただくともっとわかります。

これはちょっとした発見でした。

コレステロールは運動しても燃えない

体にたまった脂肪を減らすには、運動を続ければエネルギー源として使われるのでやがて減って行きます。コレステロールも同じだろうと思っていました。

実際、健康診断で気になるLDL(悪玉コレステロール)も、運動を続けるとやや改善するように思います。(ただし、LDLは、コレステロールを運ぶリポタンパク質で、コレステロールそのものではありません)

しかし、コレステロールを積極的に分解して使う仕組みはないようです。つまり、運動して燃やすことはできません。

一方、コレステロールは、体の中でも作られます。アセチルCoAからスタートして作られるので、必要なら糖からでも脂肪からでも作ることができます。

以前、果糖がよくない理由を調べてみたという記事で、果糖の代謝にはブレーキがかからないので、コレステロール値が上がる話を書きました。

果糖がよくない理由を調べてみた
砂糖(ショ糖)を食べるとコレステロールが上がりやすくなること。それは、果糖が原因になっていること。さらに、果糖がからだの中でブドウ糖とは別に代謝されることと、大量の果糖は体に負担になることを調べました。

食べもののコレステロールは気にしなくてよい?

2015年、厚生労働省は「日本人の食事摂取基準(2015年版)」で、これまで成人は男750ミリグラム、女600ミリグラムを上限としていた食事からのコレステロールの目標量を撤廃しました。

その理由はこのように説明されています。

血中コレステロールの7~8割は体内で作られ、食事の影響はもともと少ない。

また、コレステロールの摂取量が多ければ体内で作る量が減らされ、逆に摂取量が少なければ体内でたくさん作られるというように、血液中の量を体がコントロールしていることが分かっている。(出典

そうか、コレステロールは7~8割が体内で作られているから食べものについて気にしなくていいのかと思いたくなります・・・。

つい最近、細胞からコレステロールをHDLに渡すABCタンパク質という記事を書いて、細胞が余ったコレステロールをHDLに渡す仕組みについて調べました。

ABCタンパク質を調べている時に、健康をまもるABC蛋白質を読ませていただきました。

健康をまもるABC蛋白質
J-STAGE

この中で、植田和光先生はコレステロールについてこのようにお書きになっています。

しかし、野生の動物が草原で獲物を追いかけまわして苦労して獲得していたコレステロールを、ヒトという動物が走りもしないでこれほど大量に摂取するとは、進化の想定外だったようだ。

限度を超えて過剰に摂取したコレステロールに対する対応策は、私たちの体にはプログラムされていないのだ。

コレステロールや脂肪と上手に付き合うためには、必要以上に摂取しない。それしかない。

食べすぎた脂質は、運動によって体の中で消費し、蓄積しすぎないようにする必要がある。

特に、基礎代謝の落ちてきた中年以降は、食べるのを控えるか、定期的に運動をするしか手はない。

(コレステロールは燃料にはならないのだが、おそらく運動をすれば全身の細胞の新陳代謝が盛んになり、コレステロールは新しい細胞に使われて、動脈硬化などの原因となる脂質の過剰蓄積を防ぐことができるだろう)。

先生の書かれている通りだと思いました。

NOTE

コレステロールは脂肪と一緒に吸収されます。脂肪は先に組織に配られて、貯蔵エネルギーとして保存されます。

脂肪が配られたあとにコレステロールが組織に配られるのですが、かなり大切にされていて、分解されたりはしません。

胆汁酸になって胆のうから放出されても、回腸で98~99%回収されます。脂肪は分解されて脂肪酸が燃料に変えられていくのと大違いです。

また、コレステロールは、アセチルCoAをもとに体の中で作られます。必要であれば糖も脂肪もコレステロールの材料になるということです。

2015年、食事からのコレステロールの目標量は撤廃されましたが、この記事を書いて私はコレステロールは摂り過ぎないことを心がけようと思いました。

コレステロールについての他の記事は、コレステロールについて知っておきたいことをご覧下さい。

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