油に水素を結合させる、水素添加をする意味はわかりますか?

水素添加は、不飽和脂肪酸にできますが飽和脂肪酸にはできません。不飽和脂肪酸にある炭素の二重結合部分に水素を添加するのです。水素添加されると不飽和脂肪酸は、融点が上がり酸化されにくく保存性がよくなります。つまり、飽和脂肪酸化されます。

マーガリン

なぜ水素添加するとマーガリンができるのかわからない

マーガリンが体によくないといわれてずいぶん経ちます。コーヒーのポーション(ミルクみたいなやつ)もそうでした。

油に水素添加するとトランス脂肪酸というのがたくさんできているから体によくないという話でした。もっと極端なたとえ話なら、食べるプラスチックなどともいわれました。

最大の疑問は、これに尽きます。

なぜ、マーガリンは、油に水素添加してできるのだろう?

ネットを歩き回ると、水素添加することもトランス脂肪酸も悪いことのように書かれている記事もありますが、根拠がよく分からないのです。

あなたは、説明できますか?

なぜ油に水素添加するのか?

油に水素添加するとマーガリンになる・・・。

では、オリーブオイルでも、バターでも、ラードでも、亜麻仁油でもどんな油にでも水素添加すれば、マーガリンができるということなのでしょうか?

実際、油には種類がいろいろあります。

いま書いた油のうち、バターとラードは固体ですが、オリーブオイルや亜麻仁油は液体です。

マーガリンを、「パンにバターナイフで塗れる状態の油」だと考えると、バターとラードはそのまま用が足せます。しかし、オリーブオイルや亜麻仁油は液体なのでパンにうまく塗れません。

油に水素添加してマーガリンにする意味は、油を常温でパンに塗れるような固体の油にすることなのです。

脂肪酸に水素が結合する

油はグリセリンに脂肪酸が3本結合したものです。そして油の性質を決めるのは、脂肪酸でした。脂肪酸には、種類があります。

脂肪酸

そして、油の性質を決めるのは脂肪酸であり、油に水素添加する時、水素が実際に結合するのは脂肪酸です。脂肪酸に水素が結合すると、脂肪酸の性質が変わり、油の性質も変わるのです。

脂肪酸のどこに水素が結合するのだろう?

脂肪酸には飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸があります。脂肪酸のどこに水素が結合するのでしょう?こういう疑問は、構造式を見るのが一番早い解決方法です。

炭素数18の脂肪酸で比べてみましょう。まずは、飽和脂肪酸のステアリン酸。

ステアリン酸

ステアリン酸

それと、同じく炭素数18のリノール酸です。

リノール酸

リノール酸

これら2つの構造式は、炭素(C)と水素(H)が省略してあり書かれていないのですが、一応、全て省略なしで書いてあるものも載せておきましょう。そして、どこに水素(H)が結合できるか、その場所を探します。

ステアリン酸は、全ての炭素(C)に過不足なく水素(H)が結合しています。これでは水素を添加することはできません。

飽和脂肪酸には水素添加できません

ステアリン酸

ステアリン酸

一方、リノール酸も形は違っていますが、同じようにほとんどの炭素(C)は水素(H)と完全に結合しています。ただし、二重結合部分は別です。下図で赤く色をつけた炭素(C)は二重結合しています。

それを他と同じような単結合にすると、それぞれの炭素に結合の手が1つずつできるので、全部で4個の水素と結合することができます。

リノール酸

リノール酸

二重結合部分だけを取りだして、どのように変化するか図示しましょう。二重結合が解消されると、炭素(C)には結合するための手が4本できます。他の炭素(C)と変わらなくなります。

二重結合解消

二重結合解消

さらに、二重結合がなくなり、炭素の手に全て水素が結合すると、いびつだった形が直線的に変わります。

リノール酸は、飽和脂肪酸であるステアリン酸になるのです。

水素は不飽和脂肪酸に結合する

いままで説明した通り、水素は飽和脂肪酸には結合できません。不飽和脂肪酸に結合します。もう少し正確に書くと、水素は、不飽和脂肪酸の二重結合している炭素に結合します。

炭素数18の脂肪酸で説明してきたので、他の炭素数18の不飽和脂肪酸をもう少し探しましょう。

オリーブオイルの主成分であるオレイン酸。二重結合が1つあります。

オレイン酸

オレイン酸

もう一つ、α-リノレン酸。二重結合が3つあります。

αリノレン酸

αリノレン酸

水素添加する仕組みは、すでに説明した通りです。二重結合の炭素(C)に水素が結合して、オレイン酸もα-リノレン酸も同じようにステアリン酸になります。

脂肪酸の融点を比較する

いままでの話では、炭素数18の脂肪酸を使って説明してきました。それぞれの融点を比較してみましょう。

飽和脂肪酸のステアリン酸は、融点がほぼ70℃あり、常温では固体です。しかし、二重結合があると融点が下がり、オレイン酸以下、常温では液体です。

二重結合があると、形がいびつになりますが、それでこれだけ融点に違いが出るのですから、いかに直線的な形が強いものか分かります。

脂肪酸 融点
ステアリン酸(C=18:0) 69.9℃
オレイン酸(C=18:1) 13.4℃
リノール酸(C=18:2) -5℃
α-リノレン酸(C=18:3) -11℃

不飽和脂肪酸に水素添加して完全に飽和脂肪酸にすると、固体になるのがよくわかりますね。

では、油に水素添加すると簡単に固体になってしまうかというと、加減しながら水素添加することで、そこに技術を生かせる余地があるのです。

油は混合物

以前、油の分子式や分子量は求められないという記事を書いて詳しく説明しましたが、油の構造は下図のように決まっていますが、3本の脂肪酸はいろいろな組み合わせがあり、一定ではありません。

脂肪酸

たとえば、炭素数18の脂肪酸で考えても、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸があります。

これを上図の脂肪酸の上から順番に、繰り返しを許して並べていくと、いくつも組み合わせができます。

これまでは、炭素数18の脂肪酸で考えましたが、実際は、もっと炭素数が小さい脂肪酸もあります。それについて計算していくと、脂肪の種類はとてもたくさん存在することがわかります。

たくさんの種類の脂肪に水素添加するので、一気に、全てが変化してしまうわけではないことはお分かりになるのではないかと思います。

すべての飽和脂肪酸に水素が結合するまでに、少し時間が必要になるのです。その間に水素添加を加減すれば、好みの固さの油を作ることができます。

マーガリンの固さは、夏の室温でも液体にならず、冷蔵庫から出してもバターのようにカチカチに固まらないように調整されています。これが水素添加での技術です。

マーガリンはもともとバターの代用品ですが、このようなものは、たいてい戦争による物資不足がきっかけで作られるようになります。

1910年頃には水素添加技術を使って作られるようになったようです。詳しくは、マーガリンっていつからあるか調べてみたら150年くらい前からあったをお読みください。

マーガリンっていつからあるか調べてみたら150年くらい前からあった
マーガリンは、1869年にフランスで発明されました。初めは動物脂肪を使っていましたが、1910年頃からは不飽和脂肪酸に水素添加する技術が使われるようになりました。 マーガリンっていつからあるのだろう? 最近、食べてはいけない食品のベストテン...

マーガリンの原料は植物油

マーガリンの原料はよく知られているように植物油です。こちらをご覧下さい。主な植物油はほとんど不飽和脂肪酸によって占められています。

そのため、マーガリンを製造するためには、水素添加しなければならないことがわかると思います。

脂肪酸組成

実際に水素添加はどのように行われるのでしょう。

水素添加の方法

さて、その水素添加ですが、どのように添加するのか方法が分かりました。工業的に水素添加する工程を「硬化」というのだそうです。まさしく字の通りですね。

この反応は、油脂に適当な触媒を加え、加熱し、かき混ぜながら水素ガスを通じると起こるそうです。何とも簡単でした。最初は、もっとおどろおどろしい化学反応があるのかと思っていました。

触媒というのは、化学反応のスピードを上げるもので、触媒自体はこの化学反応によって変化しません。触媒に使われるのは、ニッケルが最も広く使われ、白金、パラジウム、銅、クロムなども使われています。

この方法は、1890年代に発見されていました。1910年頃にはマーガリン製造にも使われていたのでなかなか古い技術です。

水素添加はマーガリン製造に必要な技術ですが、それ以外にもメリットがあります。

水素添加すると保存性がよくなる

飽和脂肪酸は融点が高くなりますが、炭素の手に水素が結合しているので、酸化しにくくなるという利点があります。酸化しにくいと保存性が上がります。

世界で生産される植物油は以下のようになります。

2010/11年度の主な植物油の生産量 (百万トン)出典
植物油 生産量 主要産地国
パーム油 49.1 パーム油はアブラヤシの果肉から
大豆油 41.4 中国、米国、アルゼンチン、ブラジル、インド
菜種油 23.6 中国、ドイツ、カナダ、インド、フランス、日本
ひまわり油 12.4
パーム核油 5.5 パーム核油はアブラヤシの種子から
綿実油 4.7
ピーナッツオイル 4.0
オリーブオイル 3.3
ヤシ油 3.1 ココヤシの種子(ココナッツ)から
コーン油 2.4
ごま油 0.86
ひまし油 0.65
アマニ油 0.57

表の中で、リノール酸の含有率が高いものは黄色く塗ってあります。不飽和脂肪酸のリノール酸は二重結合が2つあり、酸化されやすい脂肪酸です。これらの油はすべて食用になるというわけではありません。たとえば、合成樹脂、塗料、石鹸に使われています。

植物油の保存性を上げることは、必要な技術だと思います。

水素添加は、酸化されやすい油を酸化されにくくするための技術です。もちろん、それによって食品では問題になるトランス脂肪酸ができてくるのですけれども。トランス脂肪酸については、記事を改めます。

NOTE

食品についてのニュースは、偽装問題とか体によくない添加物の話が多くて、知らないと、つい何でも疑ってしまう気持ちになります。

油の水素添加についてもマーガリンのようなバターまがいのものを作るために考えられたのかと思いましたが、そんなことはありません。これはきちんと理由がある技術でした。

水素添加をしてできたトランス脂肪酸には問題があるようですが、油に水素添加すること自体は何も問題はありません。

マーガリンを食べるプラスチックなどと呼ぶのは、人をおどかす効果的ないい方だなと、ある意味感心します。しかし、プラスチックは、分子量が1万とか数百万もあるので、脂肪酸に比べればずっと大きいものです。

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