脂肪酸は、炭化水素鎖にカルボキシ基(-COOH)がついたものです。脂肪酸には、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸があります。飽和脂肪酸は直線的に伸びる炭素に水素が必ず結合しています。一方、不飽和脂肪酸は炭素同士の二重結合を持ち、そこから形がいびつになっています。
脂肪酸には飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸があります
脂肪酸には飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸があります。不飽和脂肪酸はさらに一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸があります。
図で示すとこんな感じです。
脂肪酸を理解するには、飽和脂肪酸が分かれば、不飽和脂肪酸は簡単に分かります。脂肪酸の構造は単純でむずかしくありません。
その前に、脂肪と脂肪酸の違いが分からない方がいらっしゃるかもしれません。(実はかつて私がそうでした)そんな方は、まず、油の構造を知ろうをお読みください。
脂肪酸とは
脂肪酸を理解するには、まず、脂肪酸を構成するルールを2つ覚えてください。
- 脂肪酸は、炭化水素鎖の端にカルボキシ基(-COOH)がついていること。
- 炭化水素鎖は、炭素(C)と水素(H)からできていて、炭素同士がつながり、余った腕には水素が結合しているのが特徴です。
炭化水素鎖+COOH
脂肪酸は、炭化水素鎖の先にカルボキシ基(-COOH)が結合したものです。この形は変わりません。これからいくつか脂肪酸を紹介していきますが、見ていただければ、基本の形が変わらないことがわかりますよ。
炭化水素鎖は炭素(C)の結合の腕に水素(H)が付いている
炭素(C)は、下図を見ていただければ分かるように結合の腕を4本持っています。
炭化水素鎖とは、下図のように炭素が並んで隣の炭素とつながりながら、あいた腕に水素(H)を結合して行くのです。この形をアルカンといいます。
飽和脂肪酸は、一番端の水素が、カルボキシ基(-COOH)に置換されたものです。最後のプロパンを脂肪酸にするとプロピオン酸になります。
カルボキシ基(-COOH)の炭素(C)は、酸素(O)と腕二本で結合していますが、炭素から出ている腕は4本であることを見て確認してくださいね。
脂肪酸を書くとき炭化水素鎖はノコギリ状の波線にする
脂肪酸を書くとき、炭化水素鎖は、炭素(C)と水素(H)を省略してノコギリ状の波線にするのが一般的です。
下図は、炭素数8のカプリル酸です。3通りに書きました。
炭素(C)と水素(H)をそこにあるものとして省略して書かない
見比べると分かるように、炭素(C)と水素(H)が省略してあると見やすいのです。ノコギリ状の波線の頂点が炭素(C)なので、その数を数えれば、炭素数が分かります。
私は初めてこの書き方を見た時、意味が分からないのと、どのように調べてよいのかも分からなかったのでしばらく足止めを食らい、分かるまで1ヵ月くらいかかりました。
きっと同じような方がいらっしゃるでしょう。困らないように先に書いておきます。
この書き方のルールがわかると、長くても短くても同じ形が出てきたら、「あれは脂肪酸だ」と思えるようになります。
飽和脂肪酸は直線的で炭素に全て水素が結合している
飽和脂肪酸の「飽和」は、炭素の結合する4本の腕が全て使われている状態であることを意味しています。
一例として、ここでは炭素数18のステアリン酸を載せておきます。
飽和脂肪酸については、飽和脂肪酸を短いのから長いのまで書いたに詳しく書きました。
不飽和脂肪酸は炭素同士の二重結合があり、そこで形がゆがむ
不飽和脂肪酸とは、不飽和、つまり、炭素の結合の腕の中に結合していないものがあり、隣の炭素と二重結合している部分があることが特徴です。
代表的な脂肪酸として、オメガ3の炭素数18の脂肪酸、α-リノレン酸を載せます。
炭素の二重結合が3箇所あることが分かるでしょう。そこで同じ方向に曲がるので、形がいびつになり、全体が丸まっているように見えます。なんとなく違う形に見えるので、脂肪酸じゃないのかと思ってしまいますが、書き方のルールを知っていれば同じ脂肪酸だとわかります。
不飽和脂肪酸には、炭素の二重結合が1個の一価不飽和脂肪酸と、炭素の二重結合が2個以上ある多価不飽和脂肪酸があります。
不飽和脂肪酸には一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸があるに詳しく書きました。
普段使っている植物油
普段、料理に使う油は、バター以外は、植物油だと思います。植物油に含まれる脂肪酸は、それほど種類が多くなく、また、だいたい共通しています。
飽和脂肪酸は、ラウリン酸(炭素数12)、ミリスチン酸(炭素数14)、パルミチン酸(炭素数16)、ステアリン酸(炭素数18)です。
一方、不飽和脂肪酸は、オレイン酸(炭素数18)、リノール酸(炭素数18)、α-リノレン酸(炭素数18)です。
これらの脂肪酸の構造式などを含めて、植物油に入っている脂肪酸7つの構造式という記事に書きました。
だいたい、植物油を理解するには、この7つを知っておけば間に合います。
脂肪酸が油の融点を決める
調理に使う油にはいろいろな種類がありますが、お店で販売されている油は、脂肪100%です。脂肪は、グリセリン(グリセリド)に3本の脂肪酸が結合したものですが、その脂肪酸の割合は、油によってずいぶん違うものです。
脂肪酸にはそれぞれ性質があり、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸を比較すると、飽和脂肪酸の方が融点が高く、また、脂肪酸の長さが長いほど融点が高くなります。
バターやラードは常温で固体ですが、サラダ油や亜麻仁油、えごま油などは冷蔵庫に入れても液体です。
油の融点は脂肪酸によって決まるに詳しく書きました。
不飽和脂肪酸に水素を添加すると飽和脂肪酸になる
油の融点に関係ある話ですが、不飽和脂肪酸に水素を添加すると飽和脂肪酸になり、油に含まれる脂肪酸の組成が変わり、油の融点が上がります。
マーガリンは植物油が原料です。植物油はリノール酸が多く含んでいるものが多いので、常温では液体なのですが、そのリノール酸に水素を結合させると、飽和脂肪酸のステアリン酸になり、融点が上がって固体になりマーガリンができます。
ただし、水素添加すると、天然型ではない、トランス型の脂肪酸もできてしまいます。
油に水素を結合させる、水素添加をする意味はわかりますか?に詳しく書きました。
NOTE
脂肪酸は、炭化水素鎖の端にカルボキシ基(-COOH)が結合したものです。飽和脂肪酸でも不飽和脂肪酸でも、変わりません。
また、脂肪酸の長さが短くても長くても同じ構造です。
飽和脂肪酸は、炭素同士が結合しながら余った腕に水素が結合しています。形は直線的です。
一方、不飽和脂肪酸は、炭素同士が二重結合している箇所があります。そのためそこから曲がってしまい、形がいびつになります。
炭化水素鎖を省略して書くルールが、最初はとても奇妙に感じるのです。慣れてくると、ノコギリ状の波線があれば炭化水素鎖だとわかり、また、その長さがうんと長くなっても見づらくなりません。さすが、いろいろな人が工夫してわかりやすくしている歴史があるのです。