HDLは、細胞にたまったコレステロールを肝臓に戻すのが役割です。善玉コレステロールといわれるHDLが小腸や肝臓から生まれ、組織からコレステロールをもらいながら、肝臓に戻ります。
また、CETPという酵素によって集めたコレステロールをVLDLとかIDLとかLDLというようなアポBを含有するリポタンパクに転送します。
食べもの由来のコレステロールを追いかけると、カイロミクロンに乗って肝臓に戻り、そこからVLDLに乗って、トリグリセリド(TG)を組織に配って、LDLとなり、コレステロールを配って肝臓に戻ってくることが分かりました。
LDLは、悪玉コレステロールとして知られています。LDLは、コレステロールそのものではなく、リポタンパクとして、アポタンパクとリン脂質とコレステロールの中に、トリグリセリド(TG)とコレステロールエステル(コレステロールと脂肪酸のエステル)が包まれているものでした。
まだ、説明せずに残っているのは、いわゆる善玉コレステロールと呼ばれるHDLです。
HDLの働き
HDLとはhigh density lipoproteinの略。高密度リポタンパク質のことです。これまで書いてきた通り、トリグリセリド(TG)は密度が小さく、コレステロールは密度が大きいです。
リポタンパクの中で、HDLの密度が大きくなるのは、中性脂肪の割合が低く、コレステロールの量も少なく、もっと密度の大きいタンパク質の割合が多くなるからです。
HDLは、細胞にたまったコレステロールを肝臓に戻すのが役割です。
HDLの代謝
HDLの代謝を見ていきましょう。
- HDLは、肝臓と小腸の両方で合成され分泌されます。
- HDLの主要な機能は、カイロミクロンとVLDLの代謝で必要とされるアポタンパク質CとEを貯蔵する場所として働くことです。
これは、カイロミクロンは中性脂肪(TG)を配るという記事と、VLDLからコレステロールを配るLDLへという記事に載せた図を見ていただければ、お分かりになると思います。
詳しくは、イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書29版に書かれています。


HDL
- 小腸や肝臓から分泌された未完成HDLにはまだコレステロールの貯蔵が少ないです。
- 未完成HDLが血中へ分泌されると、末梢組織において遊離コレステロールを引き抜きます。
- 血しょう中に存在する酵素LCAT (lecithin-cholesterol acyltransferase レシチン-コレステロールアシルトランスフェラーゼ) は、HDL中のApo A-1によって活性化され、コレステロールを脂肪酸と結合させ、コレステロールエステルにします。
- 未完成HDLがコレステロールエステルを溜め込み始めたものをHDL3といいます。
- さらにコレステロールを溜め込み、円板状から球状になったものをHDL2と呼びます。
- HDL2は、VLDLとHDL2の間で、コレステロールとトリグリセリド(TG)を交換します。つまり、HDL2はVLDLからトリグリセリドを取り込み、VLDLはHDL2からコレステロールエステルを取り込む、交換反応をします。
- この交換反応は、コレステロールエステル転移タンパク質(CETP; cholesterol ester transfer protein)という酵素によって行われます。
- HDL2はその後、肝臓へ運ばれて取り込まれます。
なぜ集めたコレステロールをVLDLやLDLに渡すのか?
コレステロールとトリグリセリド(TG)交換反応は、なぜ起きるのでしょう。
せっかく組織から余分なコレステロールを引き上げてきたのに、コレステロールエステル転移タンパク質(CETP)によって、これからトリグリセリド(TG)を配りに行くVLDLに渡したり、これからコレステロールを配りに行くLDLにまたコレステロールを渡したら意味がないように思います・・・。
HDLにコレステロールがたまり過ぎないようにする
その理由は、高HDL-コレステロールの成因と意義を読むとわかりました。
HDLにコレステロールがたまり過ぎないようコントロールしているのです。VLDLやLDLは必ず肝臓に戻ります。それらにも分担してもらって、余分なコレステロールを肝臓に戻しているのです。
HDLというのは動脈硬化巣にたまったコレステロールを取り出して、それを最終的に肝臓に運んでいき、胆汁酸にして捨て去る、そういう動脈硬化を防御する働きがあります。
コレステロールをHDLが取ってきたあとは、LCATという酵素でコレステロールがエステル化されて、HDLの中心部分にたまってくるわけですけれども、それ以上たまり過ぎないように、ヒトではコレステロールエステル転送蛋白、CETPという蛋白がありまして、それがVLDLとかIDLとかLDLというようなアポBを含有するリポ蛋白にコレステロールエステルを転送します。
そのコレステロールエステルを転送されて受け取った側のリポ蛋白が最終的には肝臓のLDL受容体によって取り込まれるということで、いったんHDLを介してコレステロールを取ってきて、最終的にはアポBを含有するリポ蛋白に転送して、それが肝臓に戻ってくる、そういう過程で働いています。
したがって、HDLというのは動脈硬化を防ぐリポ蛋白であるということになります。
ところでLDLの数値や総コレステロールは気にする人が多いですが、HDLコレステロールの数字は、気にしていますか?
HDLの数値が低いのはまずい
私にも覚えがあります。肥満、飲酒、毎日喫煙と条件が揃ってHDLの数値が40を切ったことがあります。血液検査で「L」(低い)とマークがつきました。
HDLの数値が低いと動脈硬化のリスクが高まることは、はっきりしているそうです。
人のアブラはなぜ嫌われるのか-脂質「コレステロール・中性脂肪など」の正しい科学- (知りたい!サイエンス)(技術評論社 2015)という本には、このように書かれていました。
とりわけ問題にされるのは、喫煙との関係です。後述するLDLの酸化の問題も深く関わってきますが、タバコを吸っている人に低HDLコレステロールの傾向が見られることがデータ的に明らかになっています。
逆に言えば、タバコをやめると数値は確実に上がっていきます。
私も完全禁煙したわけではないですが、ほとんど吸いません。HDLの数値が低い方は注意しましょう。
HDLの数値が高くても安心できない
HDLの数値は低いとマズイのです。では、数値が高ければよいのかというと、一概にそうですといえないようです。
人のアブラはなぜ嫌われるのかという本からまた引用します。
「HDLが高い人のほうが動脈硬化になりにくく、長寿である」という説が1976年に論文で発表されて以来、「長寿症候群」という言葉とともに教科書に載るレベルで支持されていたことがあります。
実験を行うと、HDLが細胞からコレステロールを引き抜いていることが確認できていたこともあり、長く支持を得てきたわけですが、1980年代に入り、この論文の内容がなんと捏造であることが発覚しました。
こんなこともあるんですね。
コレステロールエステル転移タンパク質(CETP)欠損症
HDLコレステロールの数値が高くても、それは、(上で出てきましたが)コレステロールエステル転移タンパク質(CETP)が欠けているため、HDLからVLDLやLDLにコレステロールを転移できない事態が起きているかもしれないのです。
その後、HDLが100mg/dl以上という高HDL血症の人が日本で次々見つかり、そこにはCETPというタンパク質(コレステロールエステル転送タンパク)の欠損があることが分かってきたからです。
このCETP欠損症になると、HDLに含まれるコレステロールを他のリポ蛋白にうまく転送できなくなり、血液中のHDLにコレステロールがたまってしまうようになります。
その結果、HDLのコレステロールが高くなることで動脈硬化が進むケースも出てくるわけです。
基準値は次のように決められています。
- (男性)40~86mg/dl
- (女性)40~96mg/dl
高すぎる時は、一応注意した方がよさそうです。
NOTE
HDLが体の中の余分なコレステロールを集めてくるのはよく知られていますが、コレステロールエステル転移タンパク質(CETP)を持ち、VLDLとかIDLとかLDLといったリポ蛋白にコレステロールを渡していることを知った時、なぜだろう?と思いました。
せっかく余分なコレステロールを回収してきたのに、VLDLやIDL、LDLに渡せば、またコレステロールを配ることから始めるのかと思いました。
しかし、コレステロールエステル転移タンパク質(CETP)欠損症のことを知ると、他のリポ蛋白にコレステロールを渡すことで、肝臓にコレステロールを戻すことができることがわかりました。
体の仕組みは、機械のように無駄をつくらず高率を求めることではなく、目的を達成するために安全策として何通りかの方法を持つことみたいです。