脳でエネルギーとして使われるケトン体について調べてみた

ケトンは化学的に特定な構造をもつ物質の総称ですが、ケトン体は、アセト酢酸、3-ヒドロキシ酪酸(β-ヒドロキシ酪酸)、アセトンのことを指し、肝臓でアセチルCoAからつくられます。絶食している時など、ブドウ糖が著しく少ない状態でつくられます。

ケトン体は、エネルギー源として使われる時は、アセチルCoAに戻ります。ケトン体がそのまま使われるわけではありません。

ケトン

 

ケトンということばをよく聞くようになったのは、糖質制限ダイエットが流行してからです。

ケトンとはどのようなもので、どのようにエネルギーに変わるのか調べてみました。ケトンとケトン体ということばを使いましたが、もちろん違いがあります。

ケトンは形をあらわしている

このブログを始めてから化学的な内容については最初はウイキペディアを頼りにしていたのですが、足りないことがしばしばあるので、古本屋で高校生の化学の参考書を買ってきました。

理解しやすい化学 IB・II シグマ・ベスト

ケトンとは、物質の名前ではなく、化学的に特定な構造をもつ物質の総称です。下図を見てください。

カルボニル基(−C(=O)−)の両側にR、R’という炭化水素基がついたものがケトンです。「基」というとわかりにくくなりますが、結合する「ある集まり」だと思ってください。具体的には、例えば脂肪酸の端にあるカルボキシ基(-COOH)を抜かした部分が炭化水素基にあたります。

その上にあるアルデヒドは、カルボニル基の片方の腕がHに決められています。もう一方が炭化水素基Rです。構造が結構似ています。

ketone2

なぜあまり関係がないアルデヒドを載せたのかというと、私がビールがとても好きだからです。ビールを飲むと体の中でアルコールがアセトアルデヒドに分解されます。二日酔いの原因はこれです。分子式はC2H4O。

アセトアルデヒド

もう一つマニキュアを落とす時に使う除光液はアセトンからできています。分子式 C3H6O。一番簡単なケトンがアセトンです。除光液というとツンとくるにおいまで思い出せます。

アセトン

このように具体的な構造式を書いておくとイメージしやすくなります。2つの構造式と一番上の図をよく見比べるとケトンの形がよく分かると思います。何もむずかしくありません。そして、似ているけれどちょっとした構造の違いで性質がちがう物質になるというところが化学の面白いところです。このような違いは構造式を見ないと分かりません。

なぜアセチルCoAからケトンに変化するのだろう?

ところで、脂肪はエネルギー源になるためにアセチルCoAまで分解されるで書きましたが、脂肪がエネルギーとして使われるには、細胞の中にあるミトコンドリアでβ酸化という過程を経て、アセチルCoAという物質になってエネルギー源となります。

下図のアシルCoAとアセチルCoAを見てください。構造は、なんとなくケトンと似ています。しかし、補酵素CoAはとても複雑な構造を持つ物質で、構造式を正確に書くとS(硫黄)やP(リン)やN(チッソ)が入っていて炭化水素基ではありません。

補酵素A(CoA)の構造式は下図です。赤点線で囲ってある部分が、CoAです。左端の水素(H)は、アシル基と結合するときに、アシル基のOHと結合して水になり、外れます。硫黄(S)がアシル基と結合します。(上図)

アシル基とは、脂肪酸のカルボキシル基(-COOH)からOHを抜いた形、すなわちR-CO-というような形の基のことです。上図アシルCoAの硫黄(S)より左側がアシル基です。

下図にあるようにCoAにはP(リン)やN(チッソ)の他にS(硫黄)まで入っています。これはケトンではありません。赤線を入れたのは、S-CoAを分かりやすくするためです。左端の水素(H)は他のものと結合するときに離れていきます。

CoA

CoA

ちなみに、補酵素A(CoA)は、化学反応の影響を受けません。単なる運搬役です。上のアセチルCoAの図を見てください。脂肪酸からCoAに連れられて炭素(C)2個からなるアセチル基が切り離されます。

アセチルCoAは、細胞が生きていくためのエネルギーをつくるTCA回路に入る最初の物質です。

では、なぜアセチルCoAではなくてケトン体になるのでしょう?

ケトン体はエネルギーが欠乏するとつくられる

ケトン体とは、アセト酢酸、3-ヒドロキシ酪酸(β-ヒドロキシ酪酸)、アセトンの3つのことをいいます。ケトン体は、肝臓でつくられます。

ケトンとケトン体は区別してください。

オキサロ酢酸が不足

例えば絶食している時など、ブドウ糖が著しく少ない状態では、アセチルCoAをミトコンドリアのTCA回路で処理する時に必要なオキサロ酢酸ができないため、TCA回路が十分に回りません。オキサロ酢酸はTCA回路外にある解糖系でブドウ糖が分解されたピルビン酸からつくられます。

KEGGのENZYME: 6.4.1.1に説明と反応があります。

オキサロ酢酸

脂肪酸からアセチルCoAができますが、脂肪酸から炭素を2個ずつ切り出すとすぐにアセチルCoAになります。解糖系でブドウ糖からできるピルビン酸は、アセチルCoAがよりも前にできる物質です。

肝臓でつくられるケトン体は3つ

オキサロ酢酸が不足したため、TCA回路で処理できなかった過剰のアセチルCoAは肝臓でケトン体になります。アセト酢酸、3-ヒドロキシ酪酸(β-ヒドロキシ酪酸)、アセトンです。

構造式は下の通りです。

ケトン体

アセト酢酸を経てアセチルCoAに戻る

ケトン体は、そのままエネルギー源になるわけではありません。

エネルギーをつくるには、TCA回路に入る必要があります。TCA回路に入るには、ケトン体になる反応経路をまた逆戻りしてアセチルCoAになる必要があります。

ケトン体がどのようにつくられるのか、実際の反応経路は、KEGGのSynthesis and degradation of ketone bodies(ケトン体の合成と分解)にありました。

つくられる順番は、アセト酢酸が先です。アセト酢酸からβ-ヒドロキシ酪酸とアセトンがつくられます。

そして、アセト酢酸をつくる経路は2つあります。

2個のアセチルCoAからアセト酢酸をつくる

2個のアセチルCoAからアセトアセチルCoAができ、アセトアセチルCoAからアセト酢酸ができます。

このとき関わるのは、コハク酸とスクシニルCoAです。TCA回路に出てきました。TCA回路でのできる順番としては、スクシニルCoA→コハク酸です。これは、コハク酸をスクシニルCoAに戻す反応を兼ねているのでしょう。

アセチルCoAとアセトアセチルCoAからアセト酢酸をつくる

アセチルCoAとできたアセトアセチルCoAからアセト酢酸をつくる経路もありました。

(クリックすると大きくなります)

これは結果的にアセトアセチルCoAの補酵素A(CoA)を外した反応です。

(クリックすると大きくなります)

アセト酢酸からアセトン

アセト酢酸から脱炭酸(-CO2)するとアセトンになります。

アセトンの生成

アセトンというとマニキュアを取り除く除光液がよく知られています。なかなか有機溶剤らしい強烈なにおいがします。沸点が56.5℃と低く(出典)蒸発しやすいため、体内でも呼気から蒸発して行き、エネルギーにはほとんど変わりません。

アセト酢酸からβ-ヒドロキシ酪酸

アセト酢酸に水素が2個付加してβ-ヒドロキシ酪酸になります。

β-ヒドロキシ酪酸

アセトンは蒸発してしまいますが、β-ヒドロキシ酪酸はアセト酢酸に戻り、アセト酢酸はアセチルCoAに戻って、TCA回路でエネルギー源となります。

ケトン体は脳のエネルギー源

人のアブラはなぜ嫌われるのか -脂質「コレステロール・中性脂肪など」の正しい科学には、アルツハイマー病と関連してですが、このように書かれていました。

通常、脳はエネルギー源として糖(ブドウ糖)を利用していますが、最近の研究で、アルツハイマー病になると脳が糖を上手に利用できなくなり、エネルギー不足→機能不全の状態に陥ってしまうことがわかっています。

これに加え、これまで糖が脳の唯一のエネルギー源だと考えられてきましたが、近年、糖が不足すると、代わりに脂肪酸から生成される「ケトン体」を利用することも明らかになってきました。

実際、人の脳が使用するエネルギーは、平常時はブドウ糖の利用率が100パーセントを占めますが、絶食時にはケトン体の利用率が60パーセント以上に上るようになります。

つまり、ブドウ糖が利用できなくなったアルツハイマー病の脳であっても、ケトン体の活用によって機能回復する可能性があるのです。

アルツハイマー病では脳が糖をエネルギーとして活用できなくなるが、ケトン体なら活用できるのが興味深いです。

NOTE

ケトン体が脳のエネルギーになるという話は聞いていましたが、ケトン体は血液脳関門を通過でき、そこでまたアセチルCoAに戻ってエネルギー源になります。

ケトン体がそのままエネルギー源として使われるわけではありません。

なぜ、脳はエネルギーとしてケトン体を使うのだろう?

調べていくと、血液脳関門は水溶性のブドウ糖は通過できるが、脂肪酸は通過できないという説明がありました。脂肪酸が通過できれば、細胞が取り込んで、ミトコンドリアの中でβ酸化してアセチルCoAにできます・・・。

ケトン体は全て水溶性なので、へえー、なるほど!と最初思いましたが、それでは脳になぜDHAがたくさん存在するのかがわかりません。

DHAは、自分でつくることができない外から入ってくる脂肪酸です。通過できないのになぜ入るのか説明ができないので記事には入れませんでした。このあたり、もっと知りたいところです。

反応経路を調べると、脳がケトン体をエネルギー源として使うのも必ずアセチルCoAに戻すことが必要なことと、ケトン体がアセチルCoAからつくられることがわかり、脂肪酸、アセチルCoA、ケトン体の順番がはっきりわかってよかったです。

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