脂肪からATPをつくる-電子伝達系

電子伝達系では、ミトコンドリアのTCA回路からできた物質(3NADH + 3H+ + FADH2)から電子を取り出し、プロトン(H+)の濃度差をつくって、その濃度差をもとにATP合成酵素が働き、ATPがつくられます。1個のアセチルCoAから、11個のATPができます。

ATP

この記事は、TCA回路-脂肪を燃やすの続きです。

話が長いのでゆっくり書きます。中味はむずかしくはありません。どうかゆっくり読んでください。

電子伝達系は、当初、カラー図解 アメリカ版 大学生物学の教科書 第1巻 細胞生物学を読んでいましたが、大ざっぱ過ぎて、初学の私には分からないことが多く、トコトンわかる図解 基礎生化学オーム社 (2006)を読んですっきりしました。ご参考まで。

TCA回路での反応

TCA回路での正味の化学反応は以下の通りでした。

CH3CO-S-CoA + 3NAD+ + FAD + GDP + Pi + 3H2→  2CO2 + 3NADH + 3H+ + FADH2 + GTP + HS-CoA

電子伝達系の意味

これから書いていく電子伝達系では、主役は電子です。
水素(H)は、H→H++eとなり、電子(e)を一つ持っています。

上に書いた化学反応式で、赤色にした3NADH + 3H+ + FADH2にある水素(H)が電子を手放します。

  • NADH+ H+→NAD++2H++2e
  • FADH2→FAD+2H++2e

電子は、NADH+ H+から、そしてFADH2から2eずつ出て来ます。

その電子(e)が、ミトコンドリア内膜の電子伝達系を伝わっていき、最後に酸素(O)に電子を伝え、水を作ります。その時にATPができます。それが電子伝達系の意味です。

必要なので、もう一度、ミトコンドリアの図を載せます。

細胞の中に、細胞小器官として、ミトコンドリアが浮いています。ミトコンドリアのまわりは、細胞質と呼ばれています。TCA回路の反応は、ミトコンドリアのマトリックスで行われていましたが、電子伝達系の反応は、ミトコンドリアの内膜で行われます。

ミトコンドリア

ミトコンドリア

電子伝達鎖

最初に図を見ていただきましょう。見ながら説明します。

ele03

Ⅰ→CoQ→Ⅲ→Cyt c→Ⅳ

電子伝達系では、4個の大きなタンパク質複合体が関係します。これらは、電子伝達鎖と呼ばれ、それぞれⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳと図に入れておきました。

このタンパク質は酵素を含んでいます。4個ともミトコンドリア内膜にあります。そして、Ⅱを除く他の3つは、内膜を貫通しています。

Ⅰ~Ⅳは次のように呼ばれます。

NADH-Qレダクターゼ
コハク酸デヒドロゲナーゼ
シトクロムcレダクダーゼ
シトクロムcオキシダーゼ
  • CoQはコエンザイムQ。サプリメントで一時流行りましたね。内膜内を自由に移動して電子を受け渡しします。
  • Cyt cはシトクロムc。膜間腔に存在していて、ミトコンドリア内膜に弱く結合しています。これも電子を受け渡しします。

電子の流れ

電子の流れは、2本あります。

① Ⅰ→CoQ→Ⅲ→Cyt c→Ⅳ
② Ⅱ→CoQ→Ⅲ→Cyt c→Ⅳ

タンパク質複合体Ⅰ→CoQ→Ⅲ→Cyt c→Ⅳ

上の図は、①Ⅰ→CoQ→Ⅲ→Cyt c→Ⅳの電子の流れを書いたものです。

NADH+H+は、電子(2e)をNADH-Qレダクターゼ(Ⅰ)に受け渡し、NADH-Qレダクターゼ(Ⅰ)は、電子(2e)をCoQに受け渡します。

CoQは、内膜の中を自由に移動します。シトクロムcレダクダーゼ(Ⅲ)に電子(2e)を渡します。

シトクロムcレダクダーゼ(Ⅲ)には、膜間腔内にあるCyt c(シトクロムc)が付いていて、電子(2e)が受け渡されます。

電子(2e)が受けとったCyt c(シトクロムc)は、シトクロムcレダクダーゼ(Ⅲ)を離れ、膜間腔内を移動してシトクロムcオキシダーゼ(Ⅳ)に付いて、電子(2e)を渡します。

電子(2e)は、シトクロムcオキシダーゼ(Ⅳ)内をミトコンドリアマトリックス側に移動し、酸素分子(O2)1/2である1/2O2に電子(2e)が移動、周囲にあるプロトン(H+)を2個付けて水(H2O)ができます。

タンパク質複合体Ⅱ→CoQ→Ⅲ→Cyt c→Ⅳ

こちらも図を見てください。流れは簡単です。

ele04

Ⅱ→CoQ→Ⅲ→Cyt c→Ⅳ

コハク酸デヒドロゲナーゼ(Ⅱ)は、TCA回路の反応で、コハク酸からフマル酸へ変換するときにできた、FADH2から電子(2e)をCoQに受け渡します。

この時の電子(2e)は、NADHからの電子よりも後で電子伝達鎖に入って来ます。

あとは、前の反応と同じです。念のため書いておきます。

CoQは、内膜の中を自由に移動します。シトクロムcレダクダーゼ(Ⅲ)に電子(2e)を渡します。

シトクロムcレダクダーゼ(Ⅲ)には、膜間腔内にあるCyt c(シトクロムc)が付いていて、電子(2e)が受け渡されます。

電子(2e)が受けとったCyt c(シトクロムc)は、シトクロムcレダクダーゼ(Ⅲ)を離れ、膜間腔内を移動してシトクロムcオキシダーゼ(Ⅳ)に付いて、電子(2e)を渡します。

電子(2e)は、シトクロムcオキシダーゼ(Ⅳ)内をミトコンドリアマトリックス側に移動し、酸素分子(O2)1/2である1/2O2に電子(2e)が移動、周囲にあるプロトン(H+)を2個付けて水(H2O)ができます。

電子の流れは最後に水ができて終わります。しかし、ここまでATPはでてきていません。果たしてATPはどうやってつくられるのでしょう?

ATPをつくるのはATP合成酵素

ATPは、ミトコンドリアのマトリックスと膜間腔のプロトンH+の濃度差を解消するときにATP合成酵素でつくられます。しかし、これではなんだか分からないですね。

それで、また図を描きました。今まで説明してきた電子伝達鎖を電子(2e)が移動する反応が続くと、このようにミトコンドリアマトリックスと膜間腔にプロトン(H+)の濃度差ができます。

ATP合成酵素はプロトンH+の濃度差で働く

その濃度差を解消するために、一番右のATP合成酵素が使われます。

ATP合成酵素は、ATPシンターゼ、ATPシンテターゼなどとも呼ばれます。

プロトン(H+)が膜間腔からマトリックスに戻る時のエネルギーを使って、ADP+Pi(アデノシン二リン酸+リン酸)からATP(アデノシン三リン酸)ができます。

このプロセスでは、水素の酸化エネルギーを用いてADPがATPにリン酸化されるため、酸化的リン酸化と呼ばれます。

ATP合成

ATP合成

しかし、なぜ膜間腔のプロトン(H+)濃度が上がるのか?今までは、電子の流れしかやっていなかったので分かりません。

それをこれからやりましょう。

プロトンポンプでプロトン(H+)を膜間スペースに汲み上げる

タンパク質複合体NADH-Qレダクターゼ(Ⅰ)は、NADH+H+から電子を受け取るほかに、実は、もう一つ役割があります。

ミトコンドリアのマトリックスにあるH+マトリックスから膜間腔に汲み上げます。

プロトンポンプ

プロトンポンプ

1つのNADHから生じる2つの電子(e)を移動している間に生じたエネルギーを使って、3~4個のプロトン(H+)を膜間スペースに汲み上げることができます。

プロトン(H+)をポンプのように汲み上げるのでNADHデヒドロゲナーゼは、プロトンポンプといわれます。

CoQもH+をマトリックスから膜間腔へ移動させる

NADH-Qレダクターゼ(Ⅰ)がもらった電子は、次にCoQに渡されます。この時、実はこんなことが起きています。CoQは電子(2e)を受け取る時に、プロトン(H+)を2個、マトリックスから引っ張ります。つまり、CoQH2になっています。

CoQの動き

CoQの動き

その後は、CoQH2は内膜の中を自由に移動し、シトクロムcレダクダーゼ(Ⅲ)にくっついて電子(2e)を渡します。その時に、ついてきたプロトン(H+)2個は膜間腔に放出されます。

また、シトクロムcレダクダーゼ(Ⅲ)からCyt c(シトクロムc)に電子を渡すときにもCoQが関わっていました。

仕組みは同じです。

シトクロムcレダクダーゼ(Ⅲ)からCoQが電子(2e)を受け取る時に、プロトン(H+)を2個、マトリックスから引っ張ります。CoQH2になります。

CoQH2がCyt c(シトクロムc)に電子(2e)を渡すときに、CoQH2についてきたプロトン(H+)2個は膜間腔に放出されます。

CoQが電子(2e)を伝達する時に、計4個のプロトン(H+)をマトリックスから膜間腔に移動させることになります。

さらにシトクロムcオキシダーゼ(Ⅳ)に渡された電子(2e)は、酸素が水になるために使われますが、この時、マトリックス側のプロトン(H+)が2個減ります。

つまり、タンパク質複合体Ⅰ→CoQ→Ⅲ→Cyt c→Ⅳの電子の移動で、9~10個のプロトン(H+)がマトリックス側から膜間腔に移動したことになります。

一方、タンパク質複合体Ⅱ→CoQ→Ⅲ→Cyt c→Ⅳの場合はどうなるでしょう?

FADH2からコハク酸デヒドロゲナーゼ(Ⅱ)に電子(2e)が渡されると、その電子とともに2個のプロトン(H+)と一緒にCoQが取り込みます。その後は、タンパク質複合体Ⅰ→CoQ→Ⅲ→Cyt c→Ⅳと全く同じです。

FADH2

Ⅱ→CoQ→Ⅲ→Cyt c→Ⅳ

シトクロムcオキシダーゼ(Ⅳ)で最後に水ができるところまで考えて、タンパク質複合体Ⅱ→CoQ→Ⅲ→Cyt c→Ⅳの場合は、計6個のプロトン(H+)がマトリックスから膜間腔に移動しました。

こうして、マトリックスと膜間腔の間にプロトン(H+)の濃度差がついて行きます。

ATP合成酵素の仕組み

ATP合成酵素には約10個のプロトン(H+)の通過ごとに酵素全体の反応が終了し、3ヶ所でATPを合成する仕組みがあります。

ATP合成酵素

ATP合成酵素

NADHから電子伝達鎖を通ると、9~10個のプロトン(H+)が膜間腔に移動します。それがすべてマトリックス側に戻ると、約10個のプロトン(H+)がATP合成酵素を通るので、3分子のATPができます。

FADH2から電子伝達鎖を通ると、6個のプロトン(H+)が膜間腔に移動するので、それがマトリックスに戻るときは、約2分子のATPができます。

ちなみに、この記事の冒頭で、アセチルCoA(※ブドウ糖からスタートではないことに注意してください)からスタートするTCA回路での正味の反応式を書きましたが、その中で、電子伝達系に関係がある部分は、3NADH + 3H+ + FADH2でした。

3分子のNADHですから、1分子10個で計算して30個のプロトン(H+)と、1分子のFADH2ですから、6個のプロトン(H+)がマトリックスに移動したことになります。

すると11分子のATPができることになりますね。

NOTE

この記事だけ書いて来てもミトコンドリアでATPがつくられる仕組みがとても面白いと思いました。エネルギーを取り出すための精妙な仕組みには驚かされます。

ATP合成酵素は、まるでエンジンのように回転しています。昔、オートバイに乗っていましたが、エンジンを高回転に維持するのは、なかなか大変なことだと思います。

しかし、ATP合成酵素は1分間に24000回転しながらATPをつくるというのです。

ATP合成酵素は1分間に24000回転しながらATPをつくる
ATPは、水素イオン(H+)の濃度差とATP合成酵素があれば、人工的に作ることができます。ATP合成酵素は8種類22個のサブユニットからなり、高性能エンジンのように1分間に24000回転しながら、われわれが生きている間休みなくATPを作ります。

また、ATPはつくって消費して終わりではなく、リサイクルされます。

ATPはリサイクルされて使われる
生物が使うエネルギーATPは、主にブドウ糖から作られます。ヒトの場合、体内には40~50グラム程度しか存在せず、1日1500回くらいリサイクルされ、自分の体重くらいのATPを1日に使っています。そして、ATPが一番使われるのは、筋肉ではなく、細胞内外と細胞内小器官へのイオンの出入りです。70%くらい使われます。

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