炭素と水素の数が多いと燃焼熱は大きくなり酸素が入っていると燃焼熱が下がる

有機物を燃焼させるとき、同じ炭素数なら酸素の数が少ないほど燃焼熱は大きくなり、また、炭素数が増えると燃焼熱は大きくなります。

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メタンとメタノールはどっちが熱量が高いのか?

以前、油はカロリーが高いがどのくらい高いのか比較してみたという記事を書きました。この記事で、油が持っている熱量がかなり大きいものだということがわかりました。しかし、その時になんとなく疑問に思ったことがあります。

例えば、CH4(メタン)とCH3OH(メタノール)はどっちが熱量が大きいのだろう?どちらも燃料に使われますが、メタンは、都市ガスの成分で、メタノールはアルコールです。きっと用途から考えるとメタンの方が大きいのでしょう。メタノールはアルコールランプの燃料です。

ものを燃やすと、二酸化炭素と水ができます。炭素数が同じなら燃焼するときに出る熱量も似たようなものではないのだろうかと思いました。

もう一つ、C6H14(ヘキサン)とブドウ糖C6H12O6を比べてみます。こちらも、炭素数が6で同じです。ヘキサンは溶剤として知られ、石油みたいなにおいがします。

ブドウ糖の中には、酸素(O)が6個入っています。ヘキサンはきっとよく燃えるでしょう。ブドウ糖もそこそこ熱量が大きかったですが、油の半分程度でした。

同じ炭素数のものを燃やしたとき、化合物の違いによる熱量の違いについて法則のようなものはないのかなと思っていました。

ネットにはたいていのことは出ていますが、使われていることばが正確に分からないと知ることができません。燃焼熱というのです。

この記事では、燃焼熱について調べて、私の疑問を解決しながら、分かったことを書きましょう。

燃焼熱とは

燃焼熱は、高校生の参考書「理解しやすい化学Ⅰ・Ⅱ」(文英堂)にも出ていました。

燃焼熱とは、物質1モルが完全燃焼するときに発生する熱量。すべて発熱反応である。

燃焼熱についてウイキペディアでも調べてみました。炭素(C)、水素(H)、酸素(O)、窒素(N)からなる分子式CaHbOcNdで表される化合物の燃焼する反応式は以下のようになります。(g)はgasで気体、(l)はliquidで液体です。

燃焼生成物

燃焼生成物の反応式

この反応が行われるときに発熱します。

燃焼熱の求め方

ウイキペディアでは、このように書かれています。

また、この標準燃焼エンタルピー変化ΔcHºは二酸化炭素の標準生成エンタルピー変化ΔfHºCO2、水の標準生成エンタルピー変化ΔfHºH2Oおよび化合物CaHbOcNdの標準生成エンタルピー変化ΔfHºCaHbOcNdとの間に以下の関係がある。

標準燃焼エンタルピー変化

標準燃焼エンタルピー変化

エンタルピーは意味が分からないし、なじみがない記号が出てくると余計分かりにくいです。

しかし、やっていることは単純な足し算と引き算です。

CaHbOcNdを1モル燃やした時、その燃焼熱は、a×(二酸化炭素の生成熱)+b/2×(水の生成熱)-(CaHbOcNdの生成熱)で求められると考えるようにします。kJmol-1はkJ/molのことです。

実際に計算してみる

実例を1つ。これもウイキペディアに出ています。

メタンの燃焼熱を求めてみましょう。1モルのメタンを燃焼させると、1モルの二酸化炭素と2モルの水ができます。

二酸化炭素の生成熱は、-393.51kJ/molです。2モルの水の生成熱は、2×(-285.83kJ/mol)これらの合計から、メタンの生成熱-74.81kJ/molを引きます。

メタンの燃焼熱

メタンの燃焼熱

メタンの燃焼熱は、マイナス(-)がついて求められますが、マイナスを付けない数字が燃焼熱になるのです。このように求められます。答えは、890.36kJ/molです。

また、反応熱=(生成物の生成熱の和)-(反応物の生成熱の和)という関係があります。これも図にしてみましょう。分かりやすいです。

炭素1モルと水素分子2モルと酸素分子2モルを反応させて、最終的に、二酸化炭素1モルと水が2モルできます。

図の左側は、まずメタン(CH4)を1モル作ってそれを2モルの酸素分子と反応させます。最終的には、二酸化炭素1モルと水が2モルできます。

この時、化学反応の前後で、物質の状態が同じであれば、途中でどのような経路を通っても、出入りするエネルギーの総和は一定である、総熱量不変の法則があります。別名、ヘスの法則

メタン反応熱

メタン反応熱

メタンを燃やすと、Co2+2H2Oができるための生成熱からメタンの生成熱だけ差し引いたものがメタンの燃焼熱になります。

つまり、炭素、水素をそれぞれ単体で燃やすのが一番燃焼熱が高くなり、メタンのような炭化水素を燃やすと、メタンの生成熱の分だけ、燃焼熱が小さくなることが分かりました。

炭素数と水素数が多くなると燃焼熱が大きくなる

しかし、もう一つここで分かることは、燃焼してできるものは、二酸化炭素と水なので、できる二酸化炭素と水のモル数が大きい、つまり、炭素の数と水素の数が大きいほど燃焼熱が大きいことが分かります。

実際のところこんな数値です。

燃焼熱(kJ/mol)
CH4(メタン) 891
C2H5(エタン) 1560
C3H8(プロパン) 2220
C4H10(ブタン) 2880

CH4メタンとCH3OHメタノールの燃焼熱

では、同じ炭素が1個のアルコールであるメタノール(CH3OH)を燃やしたらどうなるでしょう?できるものは同じ二酸化炭素と水です。メタノールの燃焼は、上の式で、構成されている単体の燃焼は下の式です。

単体の燃焼は、メタンの時と変わりません。

394+2×286=966kJです。

メタノールの燃焼

メタノールの燃焼

ヘスの法則である「化学反応の前後で、物質の状態が同じであれば、途中でどのような経路を通っても、出入りするエネルギーの総和は一定である」を考えれば、メタンをメタノールも最終的に燃やしてできるのは、二酸化炭素が1モルと水が2モルなので、総熱量は変わりません。

変わるのは、メタン(CH4)とメタノール(CH3OH)の生成熱です。

メタンの生成熱は、74kJです。これに対してメタノールの生成熱は、調べてみたところ239kJでした。

上の図で考えると、メタノールの生成熱がメタンよりも大きいですから、燃焼熱は、メタンの方が大きくなります。つまり、メタノールよりもメタンの方が火力が強いということです。

メタンの燃焼熱は、890.36kJでしたが、メタノールの燃焼熱は、966-239=727kJです。

では、メタンとメタノールの生成熱の差はどのように求めることができるのでしょう?

生成物の結合エネルギーの総和から反応物の結合エネルギーの総和を引く

分子から結合を切断して原子を引き離すには、エネルギーが必要です。分子中の結合を切って、原子を引き離すのに必要な結合1モルあたりのエネルギーを結合エネルギーといいます。

たとえば、1モルの水素分子H2を原子に引き離すには、下表の通り、432kJのエネルギーが必要です。

H2=2H-432kJ

化学反応は、①反応物の原子間の結合が切断されて原子になる過程と、②原子間に新しい結合が生じて生成物になります。

②の生成物の生成エネルギーを出すには、②の結合エネルギーから①の結合エネルギーを引いたものになります。

結合エネルギー(kJ/mol)
結合の種類 結合エネルギー
H-H 432
H-Cl 428
C-C(ダイヤモンド) 354
C-C(C2H6 368
C-H 415
C=O 799
C-O(CH4O) 329
Cl-Cl 239
O-H 459
O=O 494

メタンとメタノールの生成熱を計算してみる

表の値を使ってメタンとメタノールの生成熱を計算してみましょう。

メタンの生成熱

上の表には書いてありませんが、黒鉛の昇華熱は721kJ/molとします。これは黒鉛(固体)を炭素(気体)にするものです。黒鉛に熱を加えると、炭素ガスになります。

まず、黒鉛からメタンになる反応を書きます。

C(固体)+2H2(気体)→CH4(気体)+Q(熱量)

この反応にはどのようなことが起きているのか。以下の化学式は、左辺と右辺が→でなく=で結ばれますが、これは一次方程式だと考えていただいてOKです。先ほどの式も書き直しましょう。

C(固体)+2H2(気体)=CH4(気体)+Q(熱量)

まず、固体の炭素が気体の炭素になる。
C(固体)=C(気体)-721kJ・・・①

2モルの水素分子が4個の水素原子になる。
2H2(気体)=4H-864kJ・・・②

C(気体)と水素原子が4個結合してCH4になる。(上の表C-H 415×4)
CH4(気体)=C(気体)+4H-1660kJ・・・③

①~③を使って、もとの式をつくるのですが、簡単です。①+②-③を計算します。

C(固体)+2H2(気体)-CH4(気体)=C(気体)-721kJ+4H-864kJ-(C(気体)+4H-1660kJ)

整理すると

C(固体)+2H2(気体)=CH4(気体)+75kJ

Q=75kJとなります。

メタノールの生成熱

同じように、黒鉛の昇華熱は721kJ/molとします。

C(固体)+2H2(気体)+1/2O2(気体)=CH3OH(気体)+R(熱量)

まず、固体の炭素が気体の炭素になる。
C(固体)=C(気体)-721kJ・・・①

2モルの水素分子が4個の水素原子になる。
2H2(気体)=4H-864kJ・・・②

1/2モルの酸素分子が1個の酸素原子になる。
1/2O2(気体)=O-247kJ・・・③

C(気体)と水素原子が3個、酸素原子が1個結合してCH3OHになる。(上の表C-H 415×3とC-O 329とO-H 459)
CH3OH=C(気体)+4H+O-2033kJ・・・④

①+②+③-④を計算します。

C(固体)+2H2(気体)+1/2O2(気体)-CH3OH=C(気体)-721kJ+4H-864kJ+O-247kJ-(C(気体)+4H+O-2033kJ)

整理すると

C(固体)+2H2(気体)+1/2O2(気体)=CH3OH+201kJ

こちらは、表に記入したC-O(CH4O)の結合エネルギーがネットから拾ってきた値であること、O-Hの結合エネルギーが水の場合であることが影響してか、実際のメタノールの生成熱は239kJ程度になります。誤差が大きすぎるので何か間違いがあるかもしれません。

生成熱については、炭化水素よりも同じ炭素数のアルコールの方が生成熱が大きいようです。つまり、燃焼熱は、炭化水素の方が大きく、アルコールの方が小さいということになります。

生成熱(kJ/mol)
CH4(メタン) 74 CH3OH(メタノール) 239
C2H5(エタン) 86 C2H4OH(エタノール) 278
C3H8(プロパン) 106 C3H7OH(プロパノール) 320
C4H10(ブタン) 126 C4H9OH(ブタノール) *

ヘキサンとブドウ糖の燃焼熱

ヘキサンを燃やす反応式です。

ヘキサンの酸化

単体を燃焼させてできる二酸化炭素と水の総生成熱量は、6×394+7×289=4387kJ/mol

ヘキサンの燃焼熱は、4174kJ/molで、ヘキサンの生成熱は、198.8kJ/molでした。

一方、ブドウ糖を燃やす反応式です。

ブドウ糖の燃焼

単体を燃焼させてできる二酸化炭素と水の総生成熱量は、6×394+6×289=4098kJ/molでした。ヘキサンよりも水が1分子少なかったですが、そこそこ熱量があります。

しかし、ブドウ糖の燃焼熱は、2859kJ/molで、ブドウ糖の生成熱は1260kJ/molでした。

これはブドウ糖の化学式を見ると分かります。ブドウ糖の中に酸素が6個入っています。そのため、炭素数6のヘキサンは19個の酸素と反応しますが、同じ炭素数6のブドウ糖は、12個の酸素としか反応しません。燃焼することは酸化することですから、それぞれの燃焼熱に差が出るのだと思います。

つまり、酸素が入っている物質を燃やしても燃焼熱は、同じ炭素数の他の物質に比べて小さくなるということでしょうか。

NOTE

有機物を燃焼させるとき、同じ炭素数なら酸素の数が少ないほど燃焼熱は大きくなり、また、炭素数が増えると燃焼熱は大きくなります。

私が最初考えたような、メタンとメタノールはどちらが熱量が大きいか?は原則を知っていると簡単にわかります。

また、都市ガスはメタン(C1)ですが、ボンベに入ったプロパン(C3)の方が熱量が大きく、登山やキャンプで使うブタンガス(C4)は、さらに熱量が大きいことがわかります。

その他のことは、油について最初に知っておきたいことをお読み下さい。

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