ブドウ糖を分解する解糖系から脂肪合成に必要なグリセリンを得る

グリセリンは、食べた脂肪から再利用されます。もし、足りない場合は、ブドウ糖が分解される解糖系の中でできるジヒドロキシアセトンリン酸をもとに、リン酸がついた「活性化」したグリセロール3-リン酸ができます。

砂糖

グリセリンは食べた脂肪からまず再利用される

甘いものを食べていたら脂肪になるとよくいわれます。もちろん、その通りなのです。甘いものが脂肪に変わるには、糖が解糖系といわれる代謝経路で炭素数2のアセチルCoAまで分解され、それらを連結させながら、脂肪酸が作られていきます。

アセチルCoAです。

アセチルCoA

ところで、脂肪は、グリセリン(グリセロール)と脂肪酸3本からできます。グリセリンは、体の中で、どこから調達するのだろう?

KEGGのGlycerolipid metabolism(グリセロ脂質代謝)を見ると、トリグリセリド(経路図ではTriacylglycerol)からグリセリン(経路図ではGlycerol)が再利用されているのがわかります。

つまり、食べた脂肪から再利用可能です。

さらに調べてみると、ブドウ糖が分解される解糖系の中でできるジヒドロキシアセトンリン酸から、グリセロール3-リン酸ができることがわかりました。

解糖系の反応

解糖系は、ブドウ糖からスタートして、アセチルCoAになり、TCA回路(クエン酸回路)に入ります。エネルギーをつくる反応経路です。

ジヒドロキシアセトンリン酸までどのように変化していくのか見ていきましょう。

α-D-グルコースからα-D-グルコース6-リン酸

α-D-グルコースの6位にリン酸がつきます。このリン酸はATPのリン酸を1つグルコースの6位に結合させることになり、ATPはADPになります。最初にATPを使います。この時の酵素は、グルコキナーゼです。

グルコースの前についた「α-D-」について、以前調べました。ブドウ糖の構造式の種類とDとL、αとβの区別についてをご覧下さい。

ブドウ糖の構造式の種類とDとL、αとβの区別について
グルコース(ブドウ糖)は、複数のヒドロキシ基(OH)とアルデヒド基(CHO)を持っています。アルデヒド基から一番離れた不斉炭素についているヒドロキシ基(OH)が右に結合していたらD-グルコースです。天然物はD-グルコースが多いです。また、ア

α-D-グルコース-6-リン酸

α-D-グルコース6-リン酸からD-フルクトース6-リン酸

次に酵素ホスホヘキソースイソメラーゼによって、リン酸はそのままでグルコースからD-フルクトースへと糖の部分が変化します。

D-フルクトース6-リン酸

D-フルクトース6-リン酸からD-フルクトース1,6-2リン酸

酵素ホスホフルクトキナーゼによって、さらに1位にもリン酸が結合します。この時もATPからリン酸を受け取ります。ATPはADPになります。

 

D-フルクトース1,6-2リン酸からジヒドロキシアセトンリン酸/グリセルアルデヒド3-リン酸

酵素アルドラーゼの働きによって、D-フルクトース1,6-2リン酸は2つに分かれます。炭素数3ずつに分かれます。

ジヒドロキシアセトンリン酸/グリセルアルデヒド3-リン酸
こうして2つの物質ができます。

グリセルアルデヒド3-リン酸の3は、官能基であるアルデヒド(-CHO)から数えて3番目の炭素にリン酸が結合していることを示しています。もう一つは、ジヒドロキシアセトンリン酸です。

これら2つの物質は酵素の作用によって相互に変換することができます。

ジヒドロキシアセトンリン酸は、グリセルアルデヒド3-リン酸が反応して無くなると、自分がグリセルアルデヒド3-リン酸になります。

ジヒドロキシアセトンリン酸がグリセロール3-リン酸に変化する

ところで、ジヒドロキシアセトンリン酸こそが、グリセロール3-リン酸に変化する物質でした。

イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書29版 (Lange Textbook シリーズ)にはこのように書かれていました。

グリセロールと脂肪酸は両方とも,アシルグリセロールに取り込まれる前に,ATPによって活性化されなければならない.

グリセロールキナーゼは,グリセロールのsn-3位をリン酸化することでグリセロール3-リン酸を合成する.

筋肉や脂肪組織のようにグリセロールキナーゼ活性がないか低い場合は,グリセロール3-リン酸のほとんどはジヒドロキシアセトンリン酸からグリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼの作用によって生成される.

KEGGのGlycerophospholipid metabolism(グリセロリン脂質代謝)にも反応が出ていました。

グリセロール3-リン酸

ちなみに、グリセリン(グリセロール)も載せておきましょう。

グリセロール

グリセリンは立体的である

ところで、イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書29版には、グリセリンについて次のように書かれていました。

イラストレイテッド ハーパー・生化学について
2017年の春にイラストレイテッド ハーパー・生化学原書29版を買ってそれ以来使っています。きっかけは、アセチルCoAからコレステロールが合成される図を見たからです。 最新版は2016年刊行の30版です。出版社に敬意を表して先に最新版を表示...

グリセロールは、今まで書いてきたグリセリンのことです。

グリセロールの炭素1と3はおなじではない

グリセロールの炭素原子をあいまいにならないよう番号づけをするために-sn-方式 stereochemical numbering (立体化学的番号づけ)が用いられている.

グリセロールの炭素1と3は三次元的には同じではないことを理解しておくことが大切である.

酵素はこの2つの炭素を容易に区別し,ほぼ常にどちらかの炭素に特異的である.

たとえばグリセロールはグリセロールキナーゼによってsn-3位がリン酸化されてグリセロール3-リン酸となるが,グリセロール1-リン酸にはならない.

グリセロール3-リン酸は、ブドウ糖がピルビン酸になる解糖系に出てきます。

図が2つありました。上は構造式ですが、下が投影式で立体的な位置関係が分かるようになっています。

まず、平面的に見ると、脂肪(油)はグリセリンの2番目の炭素のところで、1と3とは反対側に脂肪酸が位置します。

さらに立体的に見ると、結合の仕方が2種類のくさびに区別されています。

実線のくさびは紙面(画面ですね)よりも上方に浮き上がっているという意味で、破線のくさびは、紙面よりも下方に下がっているという意味です。

トリアシルグリセロール

普段、あまり考慮することはないと思いますが、実際はこのようになっていると思っておきましょう。

NOTE

KEGGのGlycerolipid metabolism(グリセロ脂質代謝)を見ると、トリグリセリド(経路図ではTriacylglycerol)からグリセリン(経路図ではGlycerol)が再利用されているのがわかります。

脂肪のとり過ぎの時代ですから、普通に食事している限り、グリセリンが不足することはないでしょう。

しかし、万が一、不足した時でも、ブドウ糖を分解する解糖系でできるジヒドロキシアセトンリン酸から、リン酸のついた「活性化」したグリセリン、グリセロール3-リン酸が得られます。

不足することはありません。

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