脂肪は脳に作用する

脂肪が脳に作用して快楽を感じさせること。そして、糖と脂肪の組み合わせは、さらに快楽を感じさせて魅力が増します。太りたくない人は、この組み合わせにくれぐれも注意してください。というより、すでにおいしいものはこの組み合わせだったりするのですが・・・。

ドーナツ

フードトラップ 食品に仕掛けられた至福の罠(日経BP 2014)を読みました。普段、こういうタイトルの本は読まないのですが、たまたま手に取ってパラパラやると、脂肪について全体の1/3くらいのページが割かれていたのです。

食品業界の悪行を告発するような本なのかなと思って読み始めましたが、そんな(嫌な)トーンでは書かれていません。

そして翻訳が読みやすいのと、中身がとても面白いのです。油に興味を持っている方なら、きっと面白いと思われるのではないかな。

脂肪はおいしくて糖と一緒になるとさらにおいしくなる

脂肪と糖についての実験の話を先ずお読みください。

ドレウノウスキーは実験を開始した。牛乳とクリームと糖をさまざまな割合で混ぜた20種類のサンプルを用意して、女性11人、男性5人、計16人の大学生による試食を行い、各サンプルがどのくらい好きかを尋ねた。(中略)

ドレウノウスキーも承知していたように、糖分は至福ポイントを超えるとかえって食べ物の魅力を低下させる。

「しかし脂肪には至福ポイントというものがなかった」と彼は私に話した。脂肪分がいくら増えても、実験に参加した16人の誰からも「降参」の声があがらなかったという。

彼らの脳は脂肪分を大歓迎し、ストップの信号を出さなかった。「脂肪分は多ければ多いほどいいという状態だった」とドレウノウスキー。

「至福ポイント、あるいはブレークポイントがあるとすれば、それは濃厚なクリームよりさらに上にあるということだった」

もう一つの発見は脂肪分と糖分の関係だった。実験では、最も脂肪分の多いクリームに少量の糖分を加えると、被験者の評価がさらに上がった。

糖と脂肪分の間には、何かしら強力な相互作用があるらしかった。

砂糖だけだと飽きてしまう

砂糖は少し食べると、とてもおいしく感じますが、甘さがくどくなると食べられなくなったり、飽きてしまいます。

子供の頃、ひどく甘いあんみつを食べたことがあるのですが、なんだか頭痛がしてくるような甘さで全部食べられませんでした。そんなことを思い出します。

しかし、脂肪にはそんな嫌になるポイントがないというのです。

そして、脂肪と糖の組み合わせにはさらなる魅力がある・・・。上にドーナツの画像を載せましたが、ドーナツは脂肪と糖の組み合わせです。ドーナツを思い出すと、ここでいわれていることがよーく分かります。

脂肪は多過ぎると感じることができない

脂肪分が多い食品に糖分を加えると脂肪分が減ったように感じる・・・。

数年後、ドレウノウスキーは大学生50人を集めて、糖分と脂肪分の割合を変化させたケーキ用クリーム15種類の試食実験を行った。

被験者たちは、各サンプルの糖分量は非常に正確に言い当てたが、脂肪分ではそうはいかなかった。

彼らの推量はまるで的外れだったのである。それどころか、脂肪分の多いサンプルに糖分を加えると、脂肪分が減ったと感じるほどだった。

記事を書きながら、糖分と油が多い自然の中で手に入る食べ物ってなんだろうと思いました。果物で検索するとアボガドとココナツミルクがでてきました。油は確かにありますが、甘さはわずかなものです。ドーナツをほおばった時のような満足感は得られません。

糖と脂肪から得られる快感は、砂糖が自由に使えるようになってから獲得されたものでしょう。長くても数百年くらいの歴史しかありません。

アダム・ドレウノウスキー

ドレウノウスキーとは、アダム・ドレウノウスキー(Adam Drewnowski)氏のことです。詳細は分かりませんでしたが、この本によると、「甘い食べ物の強迫的摂取の抑制に、薬物中毒の治療薬が役立つことを発見した人物だ」とありました。

このあたりもっと詳しく知りたいですね。

糖と脂肪は脳を刺激する

どうやら糖と脂肪は脳を刺激するらしいのです。

糖を摂取すると、報酬中枢と呼ばれる脳の側座核(そくざかく)などの部位が反応して強い快感が生じることはすでにわかっていた。

この反応は、食べ物を食べるなど自己保存の活動をしたときに生じるものだ。脳に対する糖の作用は非常に強く、今では、特定の食品に依存性があるかもしれないと考える科学者もいるほどである。

ニューヨーク州ロングアイランドにあるブルックヘブン国立研究所では、加工食品とコカインなどの薬物について脳の反応を調べる研究が行われ、その結果、一部の薬物の魅力や依存性は、食べ物に対する神経回路と同じ回路で生じることが明らかにされた。

本の注を見ると、この実験の論文は、2001年から2009年に発表されたようです。この実験で使われたのは、甘い食べ物と甘くて脂肪分を含む食べ物だったそうです。

報酬中枢とは、快楽中枢ともいわれているようです。(出典

1980年代の終わり頃、日本ではちょっとした「脳ブーム」があり、A10神経とかドーパミンという快感をもたらすホルモンの名前が知られるようになりました。

当時、私も何冊か本を読みましたが、麻薬がなぜ効くかということとあわせてたとえば当時話題になっていたランナーズ・ハイという現象について解説されることが多かったので、普通の食べ物が快楽中枢に関係するという話は記憶にありません。

しかし、食べることも快楽の一つですから、糖や脂肪が関係していてもおかしくありません。

脂肪だけでも脳を刺激する

エドモンド・ロールズ(Edmund Rolls)は、脂肪分だけでも同じような作用が起きるかどうかを調べました。彼は神経科学者で、脳の機能を調べるfMRIという装置を使いました。

その結果、糖でも脂肪でも空腹と口渇に関連する脳領域で反応が見られましたが、さらにそれに加えて、快感を生み出す報酬中枢でも反応がありました。どちらも同じ程度だったそうです。

NOTE

脂肪が麻薬と同じ神経を刺激すると最初に読んだ時は、妙な感じがしましたが、きっと順番が逆ですね。

もともと、脂肪や糖分を食べると脳が快楽や喜びを感じる仕組みがあり、麻薬のような人工物(薬)はその仕組みを強く刺激するということでしょう。

しかし、糖と脂肪の組み合わせは、ヒトの食べ物の歴史では、かなり新しいものです。砂糖が自由に使えるようになったのは19世紀から20世紀の話です。もちろん、現在では糖はデンプン(たとえばトウモロコシ)があれば安価に大量に作れる時代になり、脂肪も大豆油が安価に提供されています。

以前、脂肪が好きなのは本能なのだろうか?という記事を書いたことがあります。ストレスがかかるとおいしいものを食べて解消し、しかも過食してしまう。おいしいものの筆頭は、甘くて脂肪がたっぷりな食べ物でした。

フードトラップ 食品に仕掛けられた至福の罠を読むと、アメリカの肥満の問題の深刻さが伝わってきますが、安価に提供される糖と脂肪の組み合わせを克服できるかどうかが問題なんだろうなと思いました。

太りたくない方は、甘くて脂肪分が多い食べ物は、どんどん食べたくなってしまうものだと知っておいた方がよいと思います。

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