脂肪(油)のとり過ぎは1970年代から問題視されていた

脂肪(油)の摂取量は、1975年頃には現在と同じくらいの量になっていました。今から40年前ですが、肥満、高血圧、糖尿病になると警告されていました。食事全体の脂肪の量を減らした方がよいかもなあと思いました。

ベーコン

続まちがい栄養学 (新潮文庫 1989)を読みました。

私が持っているのは文庫本ですが、この本がもともと出版されたのは1973年(昭和48)でした。オイルショックがあり、トイレットペーパー騒動があった年です。

著者の川島四郎先生は、すでにお亡くなりになっていますが、川島先生の手に入る本はできるだけ買い、読める本は読んでおきたいと思っています。

ウイキペディアの川島四郎を読むと、「軍用糧食の研究」により農学博士号を取得と書かれていました。陸軍で食料の研究をしていた方です。今の栄養関係の本とはまったく違う雰囲気の本を書かれています。

続まちがい栄養学の中で、肥満がいやなのになぜ脂肪を余計に取るのかという記事がありました。

脂肪(油)を余分に摂ると肥満、高血圧、糖尿病になるぞ

最初に、イタリアにいってイタリア料理の研究や勉強をしてきた女性から聞いた話が紹介されます。

バターをどっさり、ふんだんに使えばみんなご機嫌でうまいうまいといってくれる。彼の地のバターは本当においしいけれど、彼らの舌はわりと単純だった。

しかし、子供は油っぽいものばかり食べさせられると、目のふちが狸の子みたいに黒ずんできて調子が悪くなり、病院に連れて行くと酸性体質がひどくなっているといわれたそうです。

野菜スープや果物をたくさんやるとおさまるけれど、年中この繰り返しだと書かれていました。

その上で川島先生の話が書かれています。

日本の食物は国土と気候と四季と、火山性土壌(どじょう)などに適する植物性食品が主体になり、それに火山岩古成層土壌をくぐって来る、世界に類例のないうまい水による日本独自に発達してきた水性料理なのである。

それが終戦後、急テンポに欧米風の食物の模倣が始まり、油脂類をむやみに使い出した。そもそも欧米人の油脂の消化能力(その内臓の消化酵素の種類と量)と、日本人の油脂の消化能力とは違う。民族の特有性として日本人の脂肪の消化能力はだいぶ落ちるのである。

明治中期から日本に入ってきた欧米の栄養学は、動物性蛋白質(たんぱくしつ)とそれに伴う油脂を高く評価し、日本人の食物についても、欧米人に比べて、日本の食事に脂肪の取り方が足りないと指導し、洋風食事の真似(まね)をして脂肪の多摂取をすすめた。

かくて、日本人の食物の中に、脂肪が日本古来の食物の脂肪の一二パーセントから始まって次第に増え出し、三十年ごろでは二五パーセント、四十年ごろでは三二パーセントに及んだ。

そしてこのパーセンテージの上がるのに並行して高度の肥満症、高血圧症、糖尿病など、これらに起因する諸疾病が多発してきたのである。

脂肪性食品を多く取るということは、裏をかえせば外国からの輸入食品が次第に多くなり、ひいてはますます食糧の自給率を低めることになる。

近時、日本女性の高度肥満が特に目立つようになったが、その原因は運動不足とともに洋風料理や中国料理に傾き、むやみに油脂を使うところにある。

日本人の平均寿命が世界の長寿国に比肩するようになったのは、乳幼児の死亡率がぐんと減ったため、その影響の平均値で上がったのであって、成人病、老人病が減って、老人が長生きするようになったのではない。

とにかく成人病は、脂肪分の少なかった戦前、戦中、終戦直後より、ずっと増えてきている。脂肪に含む脂溶性ビタミンを取るためなら他の方法もあるし、必須脂肪酸(ひっす)の摂取も、日本人の体質上、欧米人を模倣すべきでない。

近ごろの日本人はとにかく脂肪(美食)の取り方が多過ぎる。

どうでしょう、今でもそのまま通用する話ではありませんか?

少し違っているのは、今の時代、日本女性の高度肥満は目につきません。もっとおしゃれになっているので、やせすぎの方が問題になっています。

以前、日本人は肉を食べて米を食べなくなったで昔といまどきの食事について書きましたが、総カロリーは当時に比べて減っています。しかし、脂肪の摂取量はずっと増えています。

1970年代は、日本が豊かになり始めた時代なので、食生活も変わっていった時期です。

肉は今ほど食べていなかったと思う

日本人は肉を食べて米を食べなくなったから、食事のカロリーと脂肪が年代によって変化していく表を持って来ました。

見ると、1975年の脂肪摂取量は、その後、もっと豊かになる1980年代以降の摂取量とほとんど変わらないようです。

日本人のカロリー、脂肪摂取量の経年変化
カロリー(kcal/日) 脂肪(g/日)
1955 2104 20.3
1965 2184 35.9
1975 2226 55.1
1980 2119 55.5
1985 2088 56.8
1990 2026 57.0
1991 2053 57.9
1992 2054 58.3
出典:臨床医のための膵性脂肪便の知識

巨人の星の時代

個人的な記憶です。1973年頃、マンガ巨人の星がヒットしていました。多分、日本中のほとんどの少年たちは、テレビより先行する週刊少年マガジンを読みながら、毎週テレビも見ていたと思います。

主人公の星飛雄馬の家庭は貧しく、いつも、ごはんのおかずは納豆と味噌汁でしたが、金持ちの象徴だったライバルの花形満(はながたみつる)の家庭では、朝からステーキとワインが並んでいました。

今の時代なら朝からステーキを食べるやつなんていないよと「突っ込み」が入るところですが、肉がたんぱく質と贅沢の象徴だったのです。子供たちが毎日肉を食べたいと思った時代です。

当時、それほど肉を食べていた記憶はないのですが、表を見る限り、脂肪に関しては、現在と大差ない食事内容になった時代だったようです。

スナック菓子からポテトチップスへ

その頃のことを考えていて思い出しました。スナック菓子がわれわれ子供には大人気でした。スナック菓子からだんだん油が濃くなり、おやつがポテトチップスになる過渡期だったかもしれません。

せんべいも、醤油味の伝統的なものより、サラダせんべいといわれる油を使ったものの方が人気がありました。

以前、脂肪は脳に作用するという記事を書きましたが、油に魅力があることは否定できません。肉の脂肪にはもちろん魅力がありますが、原価が高いので、もっと安価な植物油を使った食べ物から油が食生活に「浸透」してくるのです。

ちょうどその頃この本は出版されています。

油の影響はすぐにあると思った方がよいかも

当時、油脂をたくさん使うようになり、川島先生が感じられて書かれていた通り「高度の肥満症、高血圧症、糖尿病など、これらに起因する諸疾病が多発して」きたのです。

この時代にこのような指摘がされていたことは、今後の食生活を考えていく時に無視しない方がよいと思います。

よい油を少なく使うのがよい

いまは、オメガ3の油を健康のために使った方がよいといわれます。それはその通りだと思いますが、サプリメントのように考えて、味噌汁に入れたり、豆腐にかけたり、納豆に入れたりと何にでも油をかけようとする方もいらっしゃいます。

しかし、油の摂り過ぎは、「諸疾病が多発して」くると考えると、よくないことです。使う油は選ぶことは大切ですが、使う量と食事全体の脂肪の量は少なくする必要があると思います。

NOTE

川島先生は、西欧で調理に油が使われるようになった理由についてこのように書かれています。

西欧の地盤が石灰(カルシウム)が多く、そこにわく水も流れる河川も硬水で味はまずい。水がまずいから、食物の調理に水を用いず、油で調理するようになった。

しかし、もともとそのような理由で油が使われるようになったとしても、油を使った料理は魅力的であることは否定できません。繰り返しになりますが、脂肪は脳に作用するにも書いた通り、脂肪の魅力は、ブレーキがかからないのです。

今回、日本人の生活に、急に油が多く使われるようになった時期からいわゆる生活習慣病が急に増えたと知ることができたので、私は食事の中の脂肪の全体量を減らそうと思いました。

最近、食でたどるニッポンの記憶を読んだという記事を書きました。こちらも参考になると思います。

食でたどるニッポンの記憶を読んだ
小泉先生の食でたどるニッポンの記憶は、食いしん坊の小泉先生の子供時代から大人になるまでを食べものでふり返る、なんともお腹がすく本です。 しかし、普段食べるものが短い期間に高タンパク高脂肪になるとどうなるのか?日本のこれからの変化を先取りした沖縄から予測する本でもあります。
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