えごま油と魚油は同じオメガ3の油です。魚油には体重・体脂肪を増やしにくい性質があります。4種類のタイプの油を使った実験飼料をラットに摂取させ肝臓にたまる脂肪滴を調べる実験で、魚油は脂肪滴の数が少なく大きさも小さい、脂肪をためにくく体重が増えにくい特徴がありました。一方、えごま油では、分解されやすい小さい脂肪滴がたくさんできる特徴があったものの、体重が増えにくいとはいえない結果になりました。
少し前に、魚油は体重・体脂肪を増加させないという記事を書きました。
書きながら思ったのは、魚油と同じオメガ3の植物油、亜麻仁油やえごま油はダイエットに役立つのだろうか?ということです。それから探しました。
かなり時間がかかりましたが、見つかった論文、脂肪酸組成の異なる油脂を摂取したラットの肝臓組織における脂肪滴の分布を読みました。
結論から書きましょう。植物油のえごま油より魚油の方が太りにくいです。
えごま油よりも魚油の方が太りにくい
脂肪は脂肪細胞にたまります。脂肪細胞は他と違う特別な細胞ではなく、脂肪滴をためこむ細胞です。肝臓も「脂肪肝」などといわれることがあるように、脂肪をためることができる臓器です。
脂肪滴の数が多いとたまっている脂肪が多くなります。また、肝臓組織を薄切した切片にある脂肪滴の面積が大きくなればなるほど、脂肪がたまっていることになります。
つまり、えごま油の餌を食べていたラットの方が魚油の餌を食べていたラットに比べて肝臓に脂肪がたまっていたということです。
魚油には脂肪を消費しやすくためにくい性質があります。
えごま油は肝臓にたくさんの小さい脂肪滴をつくる
えごま油を与えられたラットの肝臓の特徴は、直径が小さい脂肪滴がたくさんできるところです。同じ体積の脂肪滴でも、直径が小さい脂肪滴が多数できるのと、直径が大きい脂肪滴ができるのでは、表面積が変わります。
脂肪滴がたくさんあると表面積が大きくなり脂肪が分解されやすくなる
ちょっとだけ体積と表面積の関係を考えてみましょう。(ご存知の方は飛ばしてください)
体積と表面積の関係
球の体積を計算するのは少し面倒なので、立方体で考えましょう。球でも立方体でも関係は変わりません。
例えば、各辺1センチの立方体と各辺2センチの立方体の体積と表面積を比べてみます。
各辺1センチの立方体の体積
1×1×1=1cm3
各辺1センチの立方体の表面積
1×1×6=6cm2
各辺2センチの立方体の体積
2×2×2=8cm3
各辺2センチの立方体の表面積
2×2×6=24cm2
各辺2センチの立方体の体積は8cm3ですが、これを各辺1センチの立方体で同じ体積にすると、8個分になります。このとき表面積は、各辺2センチの立方体の場合は、24cm2ですが、各辺1センチの立方体8個分の表面積は、6×8=48cm2と2倍になります。
表面積が大きくなると酵素にふれやすくなり分解されやすくなる
大きさが2の脂肪滴は体積は8表面積は4になります。その体積を大きさ1の脂肪滴8個で表すと、全体の表面積は2倍になります。
すると、脂肪滴が外部に接触する面積が増えるので、脂肪を分解する酵素にふれやすくなり、つまり脂肪が分解されやすくなると考えられるのです。
この話は、ここから先を読んでいただくと他の油と比較する話が出てくるので「なるほど」とわかっていただけるようになります。
では、この論文でどんな実験が行われていたか、ご説明しましょう。
実験のあらまし
この実験は、ラットを使った4週間にわたる動物実験です。
高コレステロールの実験飼料を用意し、そのうち10%を油脂としました。使う油脂はラードを対照(Control) とし、大豆油(Soybean Oil)、 えごま油(Perilla Oil)、 魚油(Fish Oil) を使用し、4群に分けました。
実験飼料と飲料水は自由に摂取できるようになっていました。
使われた油脂の特徴
それぞれの油脂の特徴はよく知られていますが、この実験で使われたラードはおよそ45%がオレイン酸でした。念のため特徴を書いておきます。
- ラードはオレイン酸(C18:1) が多い
- 大豆油はリノール酸(C18:2)が多い
- えごま油はα-リノレン酸(C18:3)が多い
- 魚油はエイコサペンタエン酸(EPA C20:5)とドコサヘキサエン酸(DHA C22:6) が多い
実験の目的
高コレステロール食の実験飼料に4種類の油脂を組み込み、肝臓にたまる脂肪の重量や、脂肪滴の分布について差があるのか調べることです。
量が同じで質が異なる油脂を高コレステロール食としてラットに摂取させた.この際の,脂肪重量,肝臓組織の脂肪滴の分布について検討することを目的とした.
そして、高コレステロールの実験飼料を用意したのは理由があります。
ラットを用いた研究において, 高コレステロール, コール酸含有食は, 肝臓の脂肪蓄積, 脂肪変性などを引き起こすことも知られているため,
肝臓の脂肪滴を観察する目的があるので、肝臓に脂肪がたまりやすい実験飼料を用意したのです。実験飼料にはコレステロールが加えられています。油脂とコレステロールは別なものです。油脂を足したから高コレステロールになったわけではありません。
実験の結果
実験終了後の体重と体重増加量では、魚油が明らかに少なかったです。魚油にだけはっきりとした特徴があります。コントロール群はラードを与えた群です。
終体重は, 大豆油群より魚油群で有意に低値を示した(p<0.05).体重増加量は,コントロール群より魚油群で有意に低値を示し(p<0.05),大豆油群より魚油群で有意に低値を示した(p<0.05).
総飼料摂取量および肝臓重量は, 各群間における差はなかった.
また、できる脂肪滴についてこのように書かれていました。
脂肪滴は肝臓組織を薄切した切片を光学顕微鏡を使って観察されています。
魚油は小さい脂肪滴が少数見られるだけなことと、えごま油の場合、小さい脂肪滴が他の脂肪に比べて「多数」見られることが特徴です。確かにラードや大豆油と比べると小さいです。
コントロール群は, 直径0.5 ~ 1.0 μm の脂肪滴が多く, 大豆油群は, 直径0.3 μm ~ 0.7 μm の脂肪滴が多く見られた.
エゴマ油群は, 直径0.1 ~ 0.5 μm の脂肪滴が多数見られた.
魚油群は, 大きな脂肪滴は見られず, 直径0.2 ~ 0.6 μm 脂肪滴が少数見られた.
脂肪滴の数についてはこのような結果がでました。
脂肪滴数は,エゴマ油群より大豆油群と魚油群で有意に低値(p<0.01),コントロール群で有意に低値を示した(p<0.05).また,Control 群より魚油群で低下傾向を示した.
えごま油群での脂肪滴数が多く、魚油群で少ないことがわかります。
さらに肝臓組織切片総面積に対する脂肪滴の面積の割合についてはこのような結果になりました。
総面積に対する脂肪滴の割合は,コントロール群,大豆油群,エゴマ油群それぞれより魚油群で有意に低値を示した(p<0.01).
また,コントロール群よりエゴマ油群で有意に低値を示し(p<0.05),大豆油群よりエゴマ油群で有意に低値を示した(p<0.05).さらに,魚油群はエゴマ油群と比較して有意に低値を示した(p<0.01).
魚油が最も小さく、次いでえごま油だということがわかります。
残念ながら私に統計学の知識がないので、「(p<0.05)」や「有意」をきちんと説明できないのですが、「統計上からは偶然に起こったとは判定できない差」であると記しておきます。(出典)
NOTE
使う油によって肝臓にたまる程度が違うなら、詳しく知りたいです。この実験では、魚油が、肝臓に脂肪滴をつくりにくい、つまり、体に残りにくい消費されやすい油だとわかります。
しかし、毎日の料理に使う油は、植物油です。
今回、えごま油は、体重を増やさないこと、脂肪を増やさないことについてはっきりとした効果があるとはいえない結果でした。
ただ、肝臓にできる脂肪滴は小さいものが多数できるので、分解されやすい。つまり、ラードや大豆油に比べて「やせやすいかもしれない」という程度です。
もう少し探してみます。
その他のオメガ3の効果については、オメガ3の効果についてをお読み下さい。