EPAの効果について

EPAに特有の血液サラサラ効果は、グリーンランドのイヌイットの血液検査からわかりました。それまでアラキドン酸によって調べられた反応経路をEPAがたどると、血小板凝集を促進させるものがつくられず、さらに、血小板凝集を強力に抑制させるものがつくられることがわかったからです。

グリーンランド

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EPAが血液サラサラ成分といわれる理由

海から生まれた毒と薬を読みました。タイトルがあっさりしていて、アマゾンでもレビューが(現時点で)1つしかついていないですが、すごく面白い本です。

内容は農学部か薬学部の学生でなければ習わないことかもしれません。しかし、一般人がこういうことを知る機会が増えると薬や毒についてやや深く考えられてよいと思います。

この本には、EPAの効果がわかった歴史と薬ができるまで書かれていました。

グリーンランドのイヌイットとデンマーク人の血液検査からわかった

心筋梗塞は心臓の冠動脈に血栓(血液の固まり)ができて詰まってしまう病気です。デンマーク人に比べてグリーンランドイヌイットは急性心筋梗塞の発症が1/10以下でした。

その原因は食べものにあり、血漿中のアラキドン酸とEPAを比較すると、デンマーク人とグリーンランドイヌイットは正反対の結果であることがわかりました。

1970年代の Dyerberg らによるグリーンランド北西部での8年間に及ぶ疫学調査の結果,グリーンランドイヌイットは急性心筋梗塞(acute myocardial infarction)の発症がデンマーク人の1/10以下と非常に少ないことがわかった.

中性脂肪やコレステロールの多い食餌が動脈硬化を促進させ,虚血性心疾患の元凶であるといわれてきた.グリーンランドイヌイットとデンマーク人はともに高脂肪食(総エネルギーのおよそ40%)であるのに,グリーンランドイヌイットにだけなぜ心筋梗塞が少ないのか疑問であった.

Dyerberg らは,同じ高脂肪食でも海棲哺乳類や魚を主食とするグリーンランドイヌイットの食生活にそのヒントがあると考え,グリーンランドイヌイットとデンマークに移住したイヌイットおよびデンマーク白人の三つのグループに分け,血漿中の脂肪酸組成を細かく分析した.

デンマーク在住のイヌイットと白人の間に大きな差違はみられなかったので遺伝的要因ではないとされた.n-6系のリノール酸はデンマーク人の血漿中の多価不飽和脂肪酸の大部分を占めていたが,グリーンランドイヌイットではデンマーク人の1/3~1/2であった.

最も対照的な違いは表14-1に示すようにEPAとアラキドン酸の分布であった.グリーンランドイヌイットではEPAが主要な脂肪酸の一つであり,アラキドン酸は微量であったが,デンマーク人では逆にアラキドン酸が多くEPAは微量であった.

このような表が載せられていました。グリーンランドイヌイットとデンマーク人のアラキドン酸とEPAの割合をよくご覧下さい。

正反対です。

表14-1グリーンランドイヌイットとデンマーク人血漿中のアラキドン酸およびEPAの全脂肪酸に対する割合(%)
アラキドン酸(20:4) EPA(20:5)
PL CE TG PL CE TG
イヌイット 0.8 0.0 0.0 7.1 15.4 4.0
デンマーク人 8.0 4.4 0.0 0.2 0.0 0.0
PL:リン脂質 CE:コレステロールエステル TG:トリグリセリド

EPAとアラキドン酸は脂肪酸

EPAとアラキドン酸は、血漿中のPL(リン脂質)、CE(コレステロールエステル)、TG(トリグリセリドを構成する材料になります。

EPAもアラキドン酸も炭素数20の脂肪酸

EPAとアラキドン酸は炭素数20の脂肪酸です。アラキドン酸は炭素同士の二重結合が4つ、EPAは5つあります。図で見ると、何となくアラキドン酸の方が大きく見えますが、炭素数20で変わりません。

EPAはオメガ3、アラキドン酸はオメガ6の脂肪酸です。

アラキドン酸とEPA

PL(リン脂質)は細胞膜の材料ですが、血液中でコレステロールエステルや中性脂肪を運ぶアポタンパク質の材料でもあります。リン酸と脂肪酸2本を基本単位にしています。

CE(コレステロールエステル)ってなんだ?という方がいらっしゃると思います。コレステロールに脂肪酸が1本結合したものです。

コレステロールエステルについて図解で説明してありますので、下のリンク先をご覧下さい。(図に一発で飛ぶようにリンクを貼ってあります)

前記事、食べたコレステロールはそのまま体の中に入ってくるぞでは、コレステロールが消化酵素で分解されることなく、胆汁酸がつくるミセルの中に中性...

TG(トリグリセリド)は中性脂肪のこと。いわゆる料理に使う油と同じです。グリセロール(グリセリン)に脂肪酸が3本結合したものです。

アラキドン酸は生理活性物質に変化する

炭素数20の多価不飽和脂肪酸であるアラキドン酸とEPAは、生理活性物質であるエイコサノイド(プロスタグランジンとトロンボキサンとロイコトリエン)になります。

ここでの主役は、アラキドン酸です。アラキドン酸を中心に研究が進められた歴史があります。なぜアラキドン酸を中心にしたのかというと、通常、体の中では炭素数20の多価不飽和脂肪酸として、アラキドン酸が最も多いからです。

グリーンランドイヌイットの例は、特別なものです。ただし、食生活によってアラキドン酸とEPAは入れ替わることを示しています。

このあたり、プロスタグランジンが発見される歴史で疑問に思った2つのことに詳しく書きました。

下図を見ていただければおわかりいただけるように、アラキドン酸は、こんなにたくさんの生理活性物質に変化します。

血小板を凝集したり凝集を抑制したりする

アラキドン酸が多過ぎるとTXA2とPGI2のバランスが崩れて、血栓ができやすくなります。

血小板膜中のAA(注:アラキドン酸のこと)から産生されるTXA2は血小板凝集を促進し,血液を凝固させて出血を阻止するはたらきをする.

一方,血管壁中のAAから産生されるPGI2は血小板凝集を抑制し,血管を拡張する作用がある.この両者のバランスが保たれていることが重要で,血小板膜中にAAが多くなりすぎるとTXA2が過剰に産生され,血小板凝集が促進されて血栓ができやすくなる.

TXはトロンボキサンと読みます。PGI2はプロスタサイクリンと読みます。

アラキドン酸カスケード

EPAもアラキドン酸と同じ反応経路をたどる

さて、もう一方のEPAもアラキドン酸と同じ反応経路をたどり、似たような構造のエイコサノイドになります。

ところが、微妙な構造の違いが作用の違いになります。

グリーンランドイヌイットの血漿中には、ほとんどアラキドン酸が存在しません。反対にEPAは豊富に存在します。EPAがアラキドン酸と同じ経路をたどって変化するとどうなるか。

EPAからできるTXA3やPGI3は血小板凝集を抑制する

EPAからは血小板凝集を促進させるものがつくられず、さらに、血小板凝集を強力に抑制させるものがつくられます。これが「血液サラサラ」の理由です。

EPAの多い食生活を続けると,EPAがリン脂質として体中の細胞膜に組み込まれる.血小板膜でAA(注:アラキドン酸のこと)と置き換えられたEPAはAA代謝を競合的に阻害し,血小板凝集作用のないTXA3がつくられる.

また,血管内皮細胞ではEPAからPGI3が産生され,この物質はPGI2と同じように血小板凝集を強力に抑制するので,血栓ができにくくなるというわけである.

TXA2とTXA3の違いや、PGI2とPGI3の違いは、それぞれの構造の中にある炭素の二重結合の数を表しています。

ここでは構造式は描きませんが、その程度の違いで作用が変わっていると思ってください。

イコサペント酸エチルは医薬品になった

いまはDHAやEPAのサプリメントがかなり売れている(?)のかテレビCMでよく見ます。しかし、EPAは1980年代に医薬品への研究が始まり、純度97%EPAの薬は、1990年から承認されていました。

今と違って、当時の日本は漁獲量が多く、原料となる魚油が豊富にあったと思います。

EPA摂取が血栓症を予防するというDyerbergらの仮説は世界的に大きな反響を呼んだ.日本では1981年に日本水産と持田製薬が共同で医薬品をめざした高純度EPAの開発研究をスタートさせた.

EPA含量20%前後のイワシ油からエチルエステル化することで高純度EPAの製造が可能になり,医薬品用には純度97%のイコサペント酸エチルが製造されている.

イコサペント酸エチル(商品名はエパデールⓇ)は1990年「閉塞性動脈硬化症に伴う潰瘍,疼痛,冷感の改善」薬として承認された.

閉塞性動脈硬化症(ASO:arteriosclerosis obliterans)とは大動脈分岐部や四肢の主幹動脈が狭窄(きょうさく)または閉塞して慢性の血流障害を起こした状態で,しびれ,冷感,疼痛(とうつう)などの症状を呈し,進行すると潰瘍(かいよう)や壊疽(えそ)を起こす病気である.

エパデールⓇは1994年に高脂血症(hyperlipemia)への適応が追加承認された.高脂血症は血液中に中性脂肪やコレステロールが増えすぎた状態で,血栓症や動脈硬化症の危険因子である.

グリーンランドイヌイットはデンマーク人より総コレステロールや中性脂肪値が低いことがDyerbergらの研究で知られていたが,高純度EPAエチルエステルを使った動物実験やヒトでの研究でもEPAが血液中の脂質を低下させることが認められている.

イコサペント酸エチルとイコサペント酸(EPA)の違いは、下図の通りです。EPAにエタノール(エチルアルコール)を結合させるとできます。

まとめ

EPAとDHAは、DHAの方が炭素数が2個長く、二重結合数も6個とEPAより1個多いですが、同じオメガ3の脂肪酸で構造は似ています。

しかし、EPAの効果が「血液サラサラ」とはっきりいわれるのは何故かなと思っていました。

EPAは、アラキドン酸によって詳しく調べられた反応経路で、TXA3やPGI3といった血小板凝集作用をもたず、さらに血小板凝集作用を抑制する物質に変化するので、血液を固まらせない効果が高いのです。

EPAの薬は1990年から承認されているので、必要な方は、サプリメントよりもお医者さんに処方してもらった方がよいかもしれませんね。

もしご興味があれば、EPAやDHAサプリの原料になる魚油についてもお読みください。

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