糖質に加えて脂肪を食べた方が 血糖値が上がりにくいのはなぜ?

糖質ばかりの白米だけを食べるより、たんぱく質や脂質があるおかずを一緒に食べると、腸の特定細胞からGIPとGLP-1というホルモンが分泌され、インスリン分泌を促します。そのおかげで血糖値が上がりにくくなります。特にGIPは脂質の影響を大きく受けます。

ラーメン

カロリー摂取を増やすと血糖値の上昇が防げる

山田悟先生の糖質制限完全マニュアル血糖値が安定すればやせられるを読みました。

本の中に、カロリー摂取を増やすと血糖値の上昇が防げるというタイトルの記事がありました。

ではもっと身近に感じていただけるように、日本食で行われた研究結果も紹介しましょう。

  1. S食【白米だけ200g】
  2. SM食【白米200g+豆腐+ゆで卵】
  3. SMF食【白米200g+豆腐+ゆで卵+マヨネーズ】
  4. SMFV食【白米200g+豆腐+ゆで卵+マヨネーズ+ほうれん草+ブロッコリー】

1~4のうち、どのグループの血糖値が最も上昇したと思いますか?
答えは1です。
また、食べたものが増えれば増えるほど、つまり4が最も血糖値の上昇は緩やかだった、という結果も見て取れます。

さらにデータを読み込むと、血糖値を上昇させるのは糖質だけということがはっきりと表れています。同じ量の糖質(白米)を食べた場合、それと一緒にたんぱく質(豆腐、ゆで卵)や脂質(マヨネーズ)、野菜などを食べた方が血糖値の上昇を防ぐことができるのです。

この実験結果はもうひとつ重要な意味合いを含んでいます。
食べたものが増えれば増えるほど血糖値の上昇は緩やかだったということは、言い換えると、カロリー摂取を増やせば増やすほど血糖値の上昇を抑制することができた、ということになります。

すごいなと思いましたが、「なぜ?」が浮かんできて仕方がありません。油を一緒に摂ると血糖値が上昇しないのはなぜなのでしょう?

なぜ脂質を摂ると血糖値が上がりにくくなるのだろう?

白米の量が変わらないので、単純に、糖質の量が(ほぼ)変化しないと考えましょう。白米が消化されてブドウ糖になり血液中を流れます。それで血糖値が上昇するのですが、上昇するまで時間差があったとしても、シロウト考えでは、血糖値の値は変わらないのではないかと思ってしまいます・・・。

しかし、ここには転載しませんでしたが、グラフが載せられており、血糖値は白米だけを食べた場合が最も高く、以下、SM食、SMF食、SMFV食の順番に血糖値の最高値が下がります。

つまり、おかずが増えると、血糖値の最高値が下がるのです。

私は特に油との関係に興味があります。なぜマヨネーズを食べると血糖値が上がらなくなるのか?とても不思議に思いました。知りたい。なぜだろう?

もとの論文を探す

そこで、もとの論文を読みたいと思いました。

本に出典が書かれていました。「Br J Nutr 2014:111:1632-1640」と書かれていたので検索してみると、British Journal of Nutritionの「Effects of consumption of main and side dishes with white rice on postprandial glucose, insulin, glucose-dependent insulinotropic polypeptide and glucagon-like peptide-1 responses in healthy Japanese men」というタイトルの論文がすぐに見つかりました。

これは無料でPDF(全文)がダウンロードできます。

日本語に訳すと、「健康な日本人男性における食後のグルコース、インシュリン、グルコース依存性インシュリン分泌刺激ポリペプチド及びグルカゴン様ペプチド‐1反応に及ぼす白米の主食及び副菜の摂取の影響」です。日本女子大学の先生が書かれたものでした。

まず、表を載せます。4種類の食事についてカロリーと脂質の量を確認してください。一番おかずの多い、SMFV食で、エネルギーが604kcal、脂質が19.7gと、軽めの食事ですが、普通の(多分理想的な)食事にまとめられているのが分かります。

白米200gは、ご飯茶碗1杯分です。

Table 1. Composition and nutrient and energy contents of the four test
meals(一部改変してあります)
Test meals
Dishes and foods S SM SMF SMFV
Staple food
白米 (g) 200 200 200 200
Main dish
豆腐 (g) 100 100 100
ゆで卵 (g) 50 50 50
Fat-rich food item
マヨネーズ (g) 13 13
Vegetable dish
ゆでほうれん草 (g) 60
ゆでブロッコリー (g) 60
Seasoning
醤油 (g) 3 3 3 3
Drink
白湯 (ml) 200 200 200 200
Energy and nutrients
エネルギー (kcal) 338 486 573 604
たんぱく質 (g) 5·2 18·3 18·6 22·3
脂質 (g) 0·6 9·8 19·2 19·7
炭水化物 (g) 73·9 75·3 75·5 76·1

GIPとGLP-1

本ではふれられていませんでしたが、論文タイトルに、グルコース依存性インシュリン分泌刺激ポリペプチド(glucose-dependent insulinotropic polypeptide)とグルカゴン様ペプチド‐1(glucagon-like peptide-1)という新しい用語が出てきました。

まず、これらはどんなものなのでしょう?

調べてみると、日本人型インスリン分泌不全を考えるという論文に詳しい説明が書かれていました。

インスリン分泌をうながすホルモン

食事をすることによって、小腸大腸の特定細胞が刺激されて分泌されるホルモンです。インスリン分泌を促進します。グルコース(ブドウ糖)によってだけでなく脂質やたんぱく質でも刺激されます。GIPとGLP-1があります。

脂質の過剰摂取によって肥満が誘導されるメカニズムの1つにインクレチンの関連が考えられている.

インクレチンは,食事摂取に伴って腸管内分泌細胞より血中に分泌され,膵β細胞からのインスリン分泌を促進する消化管ホルモンの総称である.主要なインクレチンとしてgastric inhibitory polypeptide/glucose-dependent insulinotropic polypeptide(GIP)とglucagon-like peptide-1(GLP-1)がある.

GIPは上部小腸に主に存在するK細胞から,一方,GLP-1 は下部小腸,大腸に主に存在するL細胞によって分泌される.GIPとGLP-1 はグルコースばかりでなく,脂質や蛋白質などの栄養素によっても分泌が刺激される.

GIPは脂肪に特に反応する

さらに、GIPには特徴があります。ブドウ糖を飲む実験、高脂肪のものを食べる実験をすると、GIPが特に脂肪に反応して分泌されることがわかりました。

我々は栄養素に対するGIP分泌とGLP-1 分泌を検討するために,健常者に対して経口グルコース負荷(oral glucose tolerance test:OGTT)と高脂肪を含む食事の負荷(meal tolerance test:MTT)を行い,それぞれの負荷前後の血中インクレチン濃度を測定した.

その結果,GLP-1濃度はOGTTとMTTで比較して大きな差を認めなかったが,GIP濃度はOGTTと比べて,MTTにおいて特に早期(30分)に著明に上昇すること判明した(図 4:注省略).

実際,マウスにラード単独を経口投与するとGIPの分泌が強力に誘導される.マウスに高脂肪を含む餌を与え続けると肥満が誘導されるが,GIP受容体が欠損したマウスやGIP分泌が欠損したマウスに与えても肥満は誘導されない.

GIP受容体は膵β細胞だけでなく,膵臓以外の組織にも存在して種々の生理作用を有すると考えられている.その1つに脂肪細胞が挙げられ,高脂肪食によってK細胞からの分泌が刺激されたGIPは,脂肪組織への直接作用とインスリン分泌刺激を介した間接作用によって肥満を誘導していると考えられる.

上の文中、ラインマーカーを引いた部分が気になります。「脂肪細胞への直接作用」とは、脂肪細胞に食べた脂肪がたまっていくことも意味しているのだろうか?

そこで、インクレチンの膵外作用 という論文を読むと、このように書かれています。

GIPは脂肪細胞での遊離脂肪酸の取り込みも増加させる

食べた脂肪の脂肪細胞への取り込みも増加させます。

脂肪細胞には GIP 受容体が発現している.脂肪細胞を GIP で刺激すると,脂肪細胞へのグルコースの取り込みが増加し,リポ蛋白リパーゼ(LPL)活性が増加する.

LPL は血中のリポ蛋白に存在する中性脂肪を分解するため,活性化されると脂肪細胞への遊離脂肪酸の取り込みが増加する.

リポ蛋白とは、主に中性脂肪を運ぶVLDLのことです。中性脂肪を運び終わると、健康診断の血液検査でいつも気になるLDLになります。

GIPは、脂肪を食べすぎると太る原因になる一つの根拠になりますね。

先がまだあるので、ここで少しまとめておきます。

  • 白米だけ食べるより、白米にマヨネーズを加えると血糖値が少し低くなることがわかった。
  • ものを食べると、ブドウ糖だけでなくたんぱく質も脂質も、腸にある特定細胞を刺激し、GIPとGLP-1というホルモンが出る。それらはインスリン分泌を刺激する。
  • 特にGIPは脂肪に反応する。
  • GIPは、脂肪細胞を刺激し、ブドウ糖の脂肪としての取り込みに加え、食べた脂肪の取り込みを増加させる。

さて、ようやく、もとの論文にもどることができます。

「Effects of consumption of main and side dishes with white rice on postprandial glucose, insulin, glucose-dependent insulinotropic polypeptide and glucagon-like peptide-1 responses in healthy Japanese men」にもどります。

白米だけを食べるより脂肪の入ったおかずを一緒に食べた方が血糖値は下がる

ここまで読んでいただいた方なら、白米だけを食べるより、おかずを一緒に食べて、特に脂肪が入っているものを食べると、血糖値が下がる話は理解できると思います。

GIPとGLP-1という2つのホルモン、特に脂肪についてはGIPがインスリン分泌を刺激するからです。

冒頭、本の記事を紹介しましたが、「カロリー摂取を増やすと血糖値の上昇が防げる」というタイトルは、よく説明してもらえれば理解できますが、読者の意表をつく「えっ?」と思わせる意図があるのだと思います。

やせるために、「脂肪を食べないようにしよう」「カロリーを減らそう」が常識だからです。

ちょうどよい量ならインスリンもGIP、GLP-1の反応も過剰にならない

論文の最初には、このように書かれています。これまで、炭水化物が豊富なご飯とおかずを一緒に食べて(つまり普通の食事をして)、食後血糖値を始め、ホルモンへの影響を測定した実験はなかったそうです。

本研究の目的は、推奨量のおかずとゆでた白米を同じ食事で摂取した場合の食後血糖値、インスリンおよびインクレチンホルモン反応への影響を評価することであった。

この論文の終わりには、結論が書かれています。

結論として、本研究では、食後のグルコース、インスリン、GIP、GLP-1反応に及ぼす食後の影響を検討した。

本研究の結果は、適度な脂肪分を含む主菜と野菜料理を茹でた白米との組み合わせが、白米のみの摂取に比べてエネルギー摂取量が多いにもかかわらず、インスリン反応やGIP反応が過剰に上昇することなく、食後のグルコース濃度を低下させるのに有益であることを示している。

上の方に載せた表に、実験で使われた4種類の食事内容と栄養成分とカロリーが書かれていますが、栄養成分もカロリーも、多くはないが決して少なすぎる内容ではありません。

このくらいの食事内容なら、ご飯、ゆで卵、豆腐、マヨネーズ、野菜を食べても、ご飯だけを食べるより食後の血糖値を上げないようにするのに役に立ちます。しかもホルモンの反応も過剰ではなく済みます。

つまり、健康な人がご飯と適度な脂肪を含むおかずを食べても、食後血糖値を気にする必要はなく、また、おかずが増えたことによるカロリー増加も気にしなくてよいことを確かめた実験です。

適度な脂肪があるなら、食後血糖値を低下させるのに役に立つと書いてあります。

毎日背脂が乗ったラーメン(大)を食べれば話は別だ

脂肪が入った食事の方が血糖値が下がるといっても、程度問題です。考えてみてください。背脂がたくさん乗っかったラーメン(大盛)を毎日食べ続けたらどうなるか?

脂によってインスリン分泌が刺激されてインスリンがたくさん分泌されても、糖質の麺が多いですからなかなか血糖値が下がらなくなるでしょう。体が頑張って適応しようとしても間に合わなくなります。

個人差はあるでしょうが、糖尿病になりやすい状態です。

この記事の冒頭に書いた、「カロリー摂取を増やすと血糖値の上昇が防げる」話には、限度があります。適度な脂肪ですからお間違いなく。

NOTE

脂肪を食べると、腸の細胞からGIPが分泌されます。それがインスリン分泌を促します。また、GIPは脂肪細胞にその受容体があり、受容体がGIPを受け取ると、食べ物から入って来た油を脂肪細胞が受け入れやすくなります。

こんな仕組みがあるなんて初めて知りました。

しかし、血糖値を上昇させないようにすると、脂肪をたくさん摂っても太らない体にためないことについて知りたいのですが、まだ解決できませんね。

糖質制限と油についての他の記事は、糖質制限と油についてをご覧下さい。

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