糖質制限していると脂肪を食べても太りにくいのはなぜか?

糖質制限している時、脂肪を食べても太りにくいのは、インスリンの働きが弱いからです。インスリンは、食べた脂肪が貯蔵されるように、また、からだに貯蔵されていた脂肪が分解されないようにする働きがあります。その影響が抑えられると、脂肪はエネルギーとして燃焼されます。

バター

糖質制限していると脂肪を食べても太りにくいのはなぜ?

糖質制限している時に、脂肪は制限する必要はない、好きなだけ食べてよいという話をよく聞きます。なぜなんだろう?理由がわかりませんでした。

今回、かなり本を探しました。そして、ようやく疑問に答えてくれる本が見つかりました。

ヒトはなぜ太るのか?を読みました。この本は絶版で現在古本しか手に入りません。定価は2800円+消費税でした。ひょっとして買われる方がいるかもしれないので、念のために書いておきます。

アマゾンの書評では読みにくいと書かれていましたが、そんなことはありません。この分野の翻訳本は、確かにぶっ飛ばして(!)いる本もありますが、この本はとてもていねいな本です。

インスリンが働かなければ脂肪は分解され燃料となるから

先に答えを書いておきます。インスリンが働かないと脂肪は分解されて燃料になるからです。

糖質制限していると血糖値が上がりにくいので、インスリンが分泌されにくくなります。インスリンは血糖値を下げるホルモンとして知られていますが、食べた脂肪が貯蔵されるように、また、貯蔵していた脂肪が分解されないようにする作用があります。

簡単にいうと、太らせる(=デブになる)ホルモンなのです。

これから説明していきますが、こんな働きがあります。

  • 脂肪細胞への脂肪酸の取り込みが活発になる
  • 脂肪細胞での脂肪分解が抑制される
  • 筋肉細胞の脂肪酸の取り込みが抑制される

ところで、脂肪は常に分解されていることって、あまり知られていないと思います。知っていましたか?

脂肪は常に分解され、消費されなければ貯蔵される

最初に知っておくべきことは、脂肪は常に分解されて、脂肪酸が燃料として使われ、使われなければ脂肪としてまた貯蔵されていることです。私たちのお腹や脇腹にずっとしまい込まれているわけではありません。

専門家たちの典型的な見方は、脂肪の蓄積が一種の長期的な定期預金のように働く(退職金の口座のように、差し迫った必要のあるときのみ手をつけることができる)というものである。(中略)

しかし、この概念が間違っているのは1930年代から知られていた。脂肪はたまたま連続的に脂肪細胞から流出し、燃料として利用されるためにからだを巡り、もし燃料として利用されない場合には脂肪細胞にもどされる。これは、私たちが直近に何か食べたかや運動をしたかに関係なく続く。

1948年にこの科学が詳細に解明された後、ドイツ人の生化学者でイスラエルに移住し、脂肪代謝の分野の父と考えられたエルンスト・ウェルトハイマー(Ernst Wertheimer)は「脂肪の動員と蓄積は、その動物の栄養状態に関係なく連続的に行われる」と説明した。

理科や生物でブドウ糖を燃やす化学式を最初に習ったのは中学生でしたっけ?そのせいか、脂肪は普段貯蔵されていて、糖分が切れてから初めて使われるのかと思っていましたが、常に分解されているようです。こういう話は教科書ではわからない話です。

ちなみに、脂肪酸が燃料になるのは、β酸化されて短く切られ、炭素数2個のアセチルCoAになります。以前、脂肪はエネルギーになるために脂肪酸がβ酸化されアセチルCoAまで分解されるという記事に書きました。

脂肪はエネルギーになるために脂肪酸がβ酸化されアセチルCoAまで分解される
脂肪が体の中でエネルギーとなるためには、脂肪から脂肪酸が切り離され、さらに分解されてアセチルCoAになる必要があります。 アセチルCoAをつくる行程は、脂肪酸からアシルCoAに変わった後、アシルCoAのβ位に二重結合ができ、二重結合に水が反...

食べ物からの脂肪と脂肪細胞に貯蔵された脂肪

脂肪には、今日食べたものの中に含まれる脂肪と、お腹や脇腹についた脂肪の2種類あります。両方とも分解されて燃料になります。しかし、血液の中を流れる時は、違いがあります。

食べた脂肪はカイロミクロンで血液中を移動する

食べた脂肪は、小腸から吸収されリポタンパク質にくるまれリンパ管を流れて行きます。そして、胸管を経て、左鎖骨下静脈から血管の中に入ります。ここからはリポタンパク質はカイロミクロンと呼ばれます。

カイロミクロンにくるまれているのは、ほとんどがグリセロールに脂肪酸が3本ついた中性脂肪(油のことです)です。

以前、カイロミクロンは中性脂肪(TG)を配るという記事を書きました。こちらの記事では図を使用して説明しています。

カイロミクロンは中性脂肪(TG)を配る
小腸細胞内にミセルとして入ってきたトリグリセリド(中性脂肪)とコレステロールは、今度は、リン脂質とアポタンパク質からできたリポタンパク質にくるまれ、血液中を流れカイロミクロンとして各組織へトリグリセリド(中性脂肪)を運搬します。 もう少しわ...

カイロミクロンの役割は、血液中を流れて、組織に中性脂肪を届けることです。

中性脂肪はリポタンパク質リパーゼ(LPL)によって分解され脂肪酸が組織に取り込まれる

各組織とは、たとえば筋肉や心臓、脂肪細胞のことです。このとき、各組織に渡されるのは、中性脂肪ではありません。中性脂肪は分解され、脂肪酸が渡されます。

分解するのは、リポタンパク質リパーゼ(LPL)という酵素です。リポタンパク質であるカイロミクロンから脂肪を分解する働きをします。組織の細胞膜上にあり、待ち構えています。

LPLはさまざまな細胞の細胞膜上に突き出しており、血液から細胞内へと脂肪を取り込む働きをもつ。筋肉細胞の表面にあるLPLは脂肪を燃料として使用するために脂肪を筋肉へと取り込む。

LPLが脂肪細胞の表面にある場合には脂肪細胞をさらに太らせる。

LPLの活性は運動時と休息時では変化する

LPLは、いろいろな細胞膜上にありますが、どこでも同じように待ち構えていて、カイロミクロンが血液中を流れてくると同じように反応するわけではありません。活性に差があり、また、状態によってそれが変化します。

運動時は、筋肉で燃料が必要になります。そのため筋肉細胞で脂肪酸の取り込みを促進し、貯蔵場所である脂肪細胞での脂肪酸の取り込みを抑えます。

休息時にはその反対の状態になります。

私たちが運動をするときになぜ脂肪を失わないのかという疑問に対する非常によいこたえでもある。私たちが運動をしている間、LPL活性は脂肪で低下し、筋肉細胞で上昇する。これは脂肪組織からの脂肪の放出を促進するため燃料を必要とする筋肉細胞で燃やすことができる。その結果、私たちは少しやせるので、ここまではよい。

しかし私たちが運動を終えると、この状況は逆転する。筋肉細胞のLPL活性は失われ、脂肪細胞のLPL活性が急上昇して、脂肪細胞は運動の間に失われた脂肪を補充する。このようにして私たちは再び太るのである。

脂肪細胞にはホルモン感受性リパーゼ(HSL)が働く

一方、脂肪を貯蔵している脂肪細胞には脂肪細胞にはホルモン感受性リパーゼ(HSL)という酵素も存在します。

HSLもリパーゼなので、脂肪を分解する酵素です。こちらは、脂肪細胞に貯蔵している中性脂肪(脂肪)を分解し、血液中に脂肪酸を放出します。脂肪酸は、必要な組織の細胞に取り込まれます。

インスリンは脂肪を貯蔵されやすく分解されにくくする

インスリンが分泌されると食べものの脂肪は脂肪細胞に貯蔵されるように、また、脂肪細胞にたまっている脂肪は分解されにくくなります。つまり、脂肪がたまりやすい条件が整います。

インスリンは脂肪細胞のLPLを活性化する

インスリンが分泌されると、脂肪細胞のLPLを活性化するので、脂肪細胞へ脂肪酸が送り込まれます。同時に筋肉細胞のLPL活性を抑えるので、筋肉細胞へ脂肪酸を送りこんで燃料とするのが抑えられます。これはつまり、筋肉細胞へはブドウ糖が送り込まれ、燃料とされるのです。

ブドウ糖はいつも優先的に使われます。

インスリンは脂肪細胞、特に腹部の脂肪細胞のLPLを活性化する。研究者たちがいうように、インスリンはLPLを「上方調整」する。インスリンを分泌すればするほど、脂肪細胞のLPLはより活発になり、より多くの脂肪が血液中から脂肪細胞へと貯蔵のために流入する。

インスリンは筋肉細胞のLPL活性を抑制するため、筋肉での脂肪酸の使用を減少させる(また、インスリンは筋肉細胞やその他の細胞に脂肪酸を燃やさず、その代わりに血糖を燃やし続けるように指示する)。

もし脂肪酸が脂肪細胞から抜け出すときにインスリン値が高ければ、これらの脂肪酸は筋肉細胞に取り込まれず、燃料として使用されないことを意味し、それらは最終的に脂肪組織に戻されるのである。

こうして、脂肪がたまっていくのです。

インスリンはホルモン感受性リパーゼ(HSL)を抑制する

またインスリンは、脂肪細胞にあるホルモン感受性リパーゼ(HSL)という酵素の働きを抑制し、脂肪細胞内での中性脂肪の分解を防ぎます。

つまり、貯蔵されたままにするのです。

これはインスリンが貯蔵する脂肪の量をどのように調節するかにおいてきわめて重要なものである。ちょうどLPLが脂肪細胞を(そして私たちを)太らせるよう働くように、HSLは脂肪細胞を(そして私たちを)やせさせるように働く。

HSLは、脂肪細胞で中性脂肪をそれらの構成分子である脂肪酸に分解し、脂肪酸が血液循環へと流れ出ることができるようにする作用をもち、このことにより脂肪細胞内の脂肪が減少するのである。

HSL活性が高いほど脂肪細胞からより多くの脂肪が放出され、それを燃料として燃やすことができるため貯蔵する脂肪量は明らかに減る。

インスリンはHSLの働きを抑制して脂肪細胞内での中性脂肪の分解を防ぎ、脂肪細胞からの脂肪酸の流出を最小限にとどめる。インスリンはごくわずかな量で、HSLを抑制し、脂肪細胞に脂肪を閉じ込める偉業を達成する。したがって、インスリン値がたとえわずかでも上昇すると脂肪細胞に脂肪が蓄積してしまう。

NOTE

高校生までの理科生物では脂肪の代謝は習わなかったので、インスリンの働きは、血糖値を下げる(=細胞の中にブドウ糖を取り込む)で止まっていました。

インスリンが糖代謝を優先するために、脂肪の貯蔵をうながし、脂肪の分解を抑えるなんて働きは知りませんでした。聞いたことはあったかもしれませんが、ピンと来ていません。

今回、この記事を書いてよくわかりました。

お腹がすいたと食事の合間にちょこちょこ甘い物をつまんでいるとインスリンが下がりません。そうすると太る条件が整います。

さらに、砂糖と油の組み合わせは、太るための最強の組み合わせなのですが、これも納得できます。

また、私はビールが好きなのですが、ビールは糖質が多い。ビールを飲みながら油っこい食事をしていると太りますね。よくわかりました。

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