石油をつくる藻類ボトリオコッカスとオーランチオキトリウム

葉緑素を持ち光合成を行う緑藻、ボトリオコッカスはボトリオコッセン(C34H58)を生産し、光合成を行わない従属栄養藻類オーランチオキトリウムの中には、スクアレンC30H50を産生するものがあります。石油は炭化水素の混合物であり、これらの藻を組み合わせて石油を生産させる研究が行われています。

石油ランプ

藻が油を生産する話を調べていたら石油を生産する話が多い

以前、ラビリンチュラ類のDHAとEPAが魚の脂肪に移るいう記事を書きました。

魚の脂肪に、多価不飽和脂肪酸のEPAやDHAが豊富なのは、オメガ3のα-リノレン酸を生産する藻や微生物を食べているからだという話でした。それで、少し藻について調べようと思いました。

ネットを探し回ると、すぐに藻と油の話は出て来ましたが、油は油でも石油をつくる話でした。しかも記事の数がたくさんあります。しばらく読んでいたらとても面白いので、この記事では、ボトリオコッカス(Botryococcus braunii)とオーランチオキトリウム(Aurantiochytrium)について書いておきます。

ボトリオコッカスについて

ボトリオコッカスは、池や沼に生息する緑藻類です。葉緑体を持ち光合成をして脂肪ではない、炭化水素油をつくります。

バイオマスとりわけ藻類『ボトリオコッカス』の可能性にはこのように書かれていました。

我々のごく身近な池沼等に生育する緑藻類、藍藻類等の植物プランクトンも注目されている。これらは、細胞中に多量の炭化水素、つまり石油を作り出すものがあり、これを大量培養することで、石油を取り出そうとするものである。

その代表種は緑藻類のボトリオコッカス ブラウニー(Botryococcus braunii Kutzing)といい、石油成分を有することはすでに 1800 年代にドイツで報告されていた。

今日まで、石油を取り出す研究が本格化しなかったのは、今日のような資源の枯渇が現実的ではなく、また化石資源が容易に得られるものであったことにつきる。

緑藻類とは、色素体が多量の葉緑素をもち、緑色となる藻類のことです。もちろん、緑藻は光合成をして炭化水素オイルを生産しています。食用油の脂肪とは違います。(出典:ボトリオコッカス

ボトリオコッカスは、湖沼に生息しています。もちろん、日本の湖沼にも生息しています。なんか当たり前にいるみたいですね。

調査した三重県北勢地域の溜池は合計 102 か所であるが、この内でボトリオコッカスの出現が確認された池沼は 35 か所で、34.3%に達した。(中略)

また、出現した池沼の内で、29 か所は 2 月から 3 月(冬春期)の低水温期に確認され、表層を曳網して採集されたものであった。

ボトリオコッセン(C34H58)を生産

一般社団法人藻類産業創成コンソーシアムのサイトにあったオイルを産出する主な藻類には、ボトリオコッカスについて説明が書かれていました。画像を見ることもできます。

ボトリオコッカスは、炭化水素のオイルを産生することで知られています。オイルは細胞外マトリックスに豊富に含有されているほか、細胞内に油滴の形で存在しています。代表的な炭化水素の1つに、ボトリオコッセン(botryococcene; C34H58など)があり、石油や石炭の代替資源として有望視されています。

ボトリオコッカスは倍加時間が3日以上と、増殖が遅い代わりに、炭化水素含有量は細胞乾燥重量の6割以上にも達します。

「細胞外マトリックス」とは、弘前大学のサイトにわかりやすい説明がありました。

ちょっと栗蒸し羊羹をイメージしてみて下さい。栗が羊羹に埋まっていますね。生体組織を栗蒸し羊羹に例えると、栗が細胞で、羊羹が細胞外マトリックスということになります。

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オイルは細胞外マトリックスに豊富に含有され、また細胞内に油滴の形で存在しています。ボトリオコッセン(botryococcene; C34H58)の構造式を調べました。炭素が34個もある炭化水素です。

単細胞生物は、2倍、2倍、2倍・・・と2の階乗で増殖するので、細胞の個数が増えるスピードがとても速い印象があります。よく知られている大腸菌は、2、30分毎に2倍になります。

ところが、このボトリオコッカスは2倍になる時間が3日以上と、増殖が遅いのが特徴です。その代わりに、炭化水素含有量は細胞乾燥重量の6割以上にも達します。

オーランチオキトリウムについて

一方、オーランチオキトリウムについて、オイルを産出する主な藻類にはこのように書かれています。

オーランチオキトリウム(Aurantiochytrium)は、海産ないし汽水産の単細胞微生物で、光合成をせず、有機物を吸収して従属栄養で増殖します。

コンブやワカメなどの褐藻類や珪藻類などの不等毛植物に近いラビリンチュラ類ヤブレツボカビ科に属することから、従属栄養藻類とよばれることもあります。

「汽水」は淡水と海水が混在した状態の液体を指す用語である。(出典)単純に考えると、まず河口のことです。

光合成を行わない

ボトリオコッカスとの違いは、光合成を行わないこと。従属栄養とはわれわれヒトと同じく食べものを必要とするのです。光合成をせず、有機物をエサとして吸収して増殖します。

ラビリンチュラ類は、細胞中にω6(オメガ6)ドコサペンタエン酸やω3(オメガ3)のドコサヘキサエン酸(DHA)などの多価不飽和脂肪酸を含むことが以前より知られていました。これらは食物連鎖で、魚の脂肪に溜められます。

光合成を行わなわないので、培養する時に、光がなくても炭化水素オイルを生産します。

一般に、オーランチオキトリウムは増殖が速く、2倍になる時間が2時間を切る例もあるそうです。また、乾燥重量あたりの総脂質含量が7割を超す例もあります。

スクアレンを産生する

2010年、筑波大学教授の渡邉信らのグループよって、炭化水素(スクアレン)を産生し細胞内に溜め込む株が発見されました。スクアレンは別名スクワレン。分子式は、C30H50です。

スクアレンはDHAなどの脂肪酸と違って、カルボキシ基(-COOH)を持たない炭化水素です。

スクアレン

スクアレンというと化粧品の材料として聞いたことがあるような気がしましたが、それはスクアランで、スクアレンにある6個の炭素の2重結合に水素添加したものでした。(出典

スクアレンは、アセチルCoAからコレステロールを合成する時に途中でできる物質です。以前、コレステロールの生合成はアセチルCoAからスタートするという記事に詳しく書きました。

オーランチオキトリウムとボトリオコッカスを組み合わせて培養する

なるほど、日本で発見されたので記事が多いのです。日経新聞の記事にもなっていました。効率よく「石油」作る藻、筑波大発見(2010/12/15付)

渡邉先生の研究室では、藻類バイオマスエネルギーの実用化のために、下水処理プロセスに藻類バイオマス生産を組み込んで研究が進められています。オーランチオキトリウムは有機物を取り込むので、有機物がたくさんある下水でまずオーランチオキトリウムを増殖させ、処理した下水で今度はボトリオコッカスを増殖させるという仕組みだそうです。

原料のコストはかからないし、石油は生産できるし、環境浄化にも役に立つとても素晴らしい研究だと思います。とても面白いと思いました。

藻類バイオマス・エネルギーシステム開発研究センターの開発研究プロジェクトを読むと現在の様子がわかります。

やや時間が経っていますが、新しいエネルギー藻類バイオマス(みみずく舎 2010)という本も出ていました。

バイオマス

最近は、地下資源の利用による空気中の二酸化炭素(CO2)増加を抑制するために、カーボンニュートラルという考えが支持されるようになっています。

たとえば、地下資源である石油を燃やすと、空気中の二酸化炭素(CO2)が増加します。一方、森林で間引きされた間伐材を燃やせば、もちろん二酸化炭素(CO2)は出ますが、これはもともと太陽光によって空気中の二酸化炭素が同化されて木になったものなので、炭素(C)の全体量は変わらないとする考え方です。

バイオマスとは、生物資源(bio)の量(mass)を表していて、一般的には「再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」のことをいいます。上の例では、石油はバイオマスではなく、間伐材はバイオマスです。

そのバイオマスという考え方の中で、地下資源を使わない石油として最近注目されてきたのがボトリオコッカスやオーランチオキトリウムのような藻類です。

NOTE

ウイキペディアで石油を調べると、このように書かれています。

石油の成分のほとんどは炭化水素であり、色々な炭化水素の混合物から構成されている。その他、硫黄化合物、窒素化合物、金属類も含まれている。工業的に有用な石油製品を作るためには、分留によって成分を分ける。

天然ガスは、メタン(C1)、エタン(C2)、プロパン(C3)、ブタン(C4)、ペンタン(C5)などのことです。みんなおなじみの名前です。カッコ内は炭素の数です。

都市ガスは主にメタン。プロパンガスは、プロパンとブタンが使われています。

ガソリンは炭素数6から12の炭化水素の混合物。軽油と灯油は、炭素数10から20の炭化水素の混合物です。

燃料は炭化水素の混合物と覚えておくとよいでしょう。

ボトリオコッセンやスクアレンは、燃料としての炭化水素としては炭素数が大きいですが、短く切ればいろいろな用途の燃料として使えそうです。

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