リノール酸とヒドロキシノネナールとアルツハイマー

サラダ油をやめれば認知症にならないを読みました。タイトルが今どきの本のタイトルなので、最初、サラダ油を敵視してオメガ3の油を擁護するだけの本かなと思いながら、読み始めました。

しかし、p26~p37まで著者山嶋哲盛先生の興味深い「カルパイン-カテプシン仮説」が説明されていました。それがとても大切なことをいっているのだろうと思いながら、2回読みましたが、もう一つ理解できないので一人でモヤモヤしていました。

もし、この記事を下まで読んで下さって面白そうだなと思った方は、是非、先生の本をお読みください。何冊もでていて本屋さんで買えます。

先生のお話は、うんと短くするとリノール酸がアルツハイマー病と関係しているかもしれない話です。私は初めて知りました。

同じ部分を何度か読みましたが、まだ分かったような分からないような気分が残り、ネットで調べてみました。すると、山嶋哲盛先生が開院された有松医科歯科クリニックのサイトに先生が講演された「アルツハイマー病の分子機構と早期診断」が収められていて、それを読ませていただいて、なんだかすっきりしました。

悪者は4-ヒドロキシノネナール

山嶋哲盛先生が問題にしているのは、4-ヒドロキシノネナールという物質です。構造式はこの通り。

4-ヒドロキシノネナール

4-ヒドロキシ2ノネナール

正式には4-ヒドロキシ2ノネナールといいます。先に「ナール」から説明します。「ナール」はアルデヒドのことで、アルデヒド基は-CHOです。構造式の右端に、少し詳しく書くとアルデヒド基(H-C=O)がついています。構造式がよく分からない方は、脂肪酸の化学構造式を見た方が油のことをずっと理解できるを是非お読みください。

4-ヒドロキシの意味はアルデヒド基から数えて4番目にある炭素(C)に水酸基(-OH)が付いているという意味です。水酸基はヒドロキシ基といいます。2ノネナールの2は、アルデヒド基から数えて2番目の炭素(C)が二重結合になっていることを示しています。「ノネ」はギリシャ語で数字の「9」を意味します。この物質は炭素9個でできています。

ちなみに、私にとってなぜか発音しにくいノネナールですが、加齢臭の原因物質とされる2-ノネナールはこんな構造式です。

2-ノネナール

2-ノネナール

そっくりですね。水酸基(-OH)がついているかどうかの違いだけです。

先に書いておきますが、4-ヒドロキシノネナールは、リノール酸が酸化されることでできる物質だそうです。過酸化脂質と呼ばれていて、やっかいなことに、他の物質を酸化します。リノール酸は炭素数18ですから半分の長さしかありません。

そして、この物質が、Hsp70(ヒートショックプロテイン)を酸化することが原因でアルツハイマー病を発病する可能性があるという話です。

傷むのはHsp70(ヒートショックプロテイン)

これからの話は、脳神経細胞で起こる話だと思ってお読みください。

4-ヒドロキシノネナールによって傷つけられるのは働き者のHsp70です。

Hspとはヒートショックプロテインの略です。文字通り熱ショックタンパク質といわれ、熱ショックを始めとするストレスを受けると細胞を守るために出てくるタンパク質です。70という数字は、分子量が7万という意味です。もちろん、他にも別な数字がついたHspがありますが、この話には登場しません。

このタンパク質はさまざまな役割を負っています。Hspはシャペロンとも呼ばれています。シャペロンというのは、中世のヨーロッパで社交界にデビューしようとする、一人では何にもできない貴族のお嬢様の洋服の着付けやお化粧などのお世話をした中年女性の使用人のことで、Hspは、その名前のような役割をします。

タンパク質は、適切に折りたたまれて特定の立体的な形をとることで安定します。熱ショックを受けると、タンパク質は変性といって形が崩れてしまいます。そこでHspは、変形したタンパク質やできたばかりのタンパク質の形を適切に折りたたまれた状態にするのを助けたり、また、細胞内でタンパク質を輸送することにも関わっています。

しかし、Hsp70は酸化にとても弱い性質があります。

Hsp70はカルパインにも切られる

Hsp70は、4-ヒドロキシノネナールによって酸化(カルボニル化)されます。
すると、カルパインというタンパク質分解酵素によって切られやすくなります。

加齢などで神経細胞の血流が悪くなりブドウ糖や酸素が行かない状態になると、細胞はもがき苦しんで細胞内のカルシウムイオン濃度が上昇します。カルシウムイオン濃度が上昇すると、細胞内で酵素カルパインが活性化します。

生物で習ったタンパク質を分解する酵素消化酵素プロテアーゼは、タンパク質をアミノ酸まで分解しました。しかし、カルパインは、タンパク質をアミノ酸にまで完全に分解するわけではなく、一部を分解というか壊して、機能が元に戻らないようにするのです。脳科学辞典カルパインの詳しい説明がありました。

Hsp70は、4-ヒドロキシノネナールによって傷つけられ、その上、カルパインによって切られてしまうのです。

働き者だったHsp70がその機能を果たせなくなくなります。するとどのようなことが起きるか?

Hsp70が働かないと細胞内にゴミがたまりリソソームが破裂する

神経細胞は、樹状突起で刺激信号を受け取り、軸索を通って軸索末端から次の細胞に向かって信号を出力します。軸索の中には、微小管があり、その中をアセチルコリンやノルアドレナリン、グルタミン酸、セロトニンなどの神経伝達物質が送られて行きます。

微小管内を神経伝達物質が高速で滑っていくときに潤滑油のような働きをするのが、タウタンパク質と呼ばれる物質です。

タウタンパク質はこの仕事を終えると劣化してしまっているため、Hsp70によって、リソソームへと運ばれて行きます。

リソソームは、ミトコンドリアのような細胞内小器官の一つです。劣化したタンパク質をアミノ酸まで分解して新しいタンパク質の材料とするための再生工場のような場所です。内部はpH4.5の酸性になっていて、カテプシンという、強力なタンパク質分解酵素が待ち構えています。

そのため、リソソームは自分を消化してしまわないように、セラミドをつくって自分の細胞膜を守っています。そのセラミドをつくる時にもHsp70が働いています。

セラミドは、表皮の角質層を形成する細胞間脂質の50%近くを占めているものです。水分の蒸発を防ぐ効果があり、保湿柔軟性を維持し、細胞同士をつないで整列させる働きがあるとされ、化粧品の成分に使われることが多いです。

リソソームに取り込まれたHsp70はスフィンゴミエリナーゼという酵素を活性化し、リソソーム膜に含まれているスフィンゴミエリンという脂質からセラミドがつくられます。

以上が正常な状態の時の話です。

では、Hsp70が4-ヒドロキシノネナールによって酸化され、カルパインによって切られて仕事ができなくなるとどうなるのでしょうか?

まず、タウタンパク質について。

神経細胞の微小管内を高速で滑って来て劣化したタウタンパク質は、Hsp70が機能しなくなるのでリソソームに運ばれなくなります。それらは、軸索の内部にゴミとしてたまっていきます。そして、そのゴミのおかげで信号伝達が行われにくくなってしまいます。その状態は、アルツハイマー病が発病する前の軽度認知障害が起きている状態なのだそうです。

軽度認知障害とは、認知機能(記憶、決定、理由づけ、実行など)のうち1つの機能に問題が生じてはいますが、日常生活には支障がない状態のことです。一瞬、自分のことかなと思ってしまいました。

タウタンパク質はどんどん巨大化して最終的には、神経細胞の胴体部分にもたまって行き、栄養や酸素が行き届かなくなってやがて神経細胞は死んで行きます。

さらに、Hspがリソソームの中に入らなくなるとどうなるか。

Hsp70がリソソームの中に入らなくなると、セラミドがつくられなくなります。するとリソソームから自己消化を防いでいたセラミドが減少してしまい、膜がもろくなるので最後には破裂してしまいます。リソソームが破裂すると、強力なタンパク質分解酵素であるカテプシンを細胞内にばらまかれてしまいます。

そうなれば、神経細胞は死んでしまいます。

以前、再生しない細胞のことを考えると油は重要かもなあで、神経細胞がほぼ一生同じ細胞のままだという話を書きました。神経細胞が死んでしまうことは大変なことなのです。

4-ヒドロキシノネナールはどうやってつくられるのか

4-ヒドロキシノネナールは、リノール酸が酸化することでできるそうです。特に過酸化されることで脂肪酸から短い炭化水素がアルデヒド基とともに切り離されるそうです。

どのようにリノール酸からできてくるのか知りたいと思い調べていますが、現在はまだよく分かりません。分かればここに書き足すか、別記事にしてまた載せようと思います。

油の酸化で以前書きましたが、油は酸化されると自動酸化といって、酸化された脂肪酸が他の脂肪酸を次々酸化していく性質があります。たとえ酸化されていないフレッシュなリノール酸を含んだ油をとっても、体の中で発生した活性酸素によって簡単に酸化されてしまうことがあるでしょう。

そのようにしてできた4-ヒドロキシノネナールは細胞膜のリン脂質を次々と酸化し、さらに多くの「ヒドロキシノネナール」を作っていく性質があります。

どうすればよいのか?

リノール酸がたくさん入っている食品はこれだで普段食べている食品に含まれるリノール酸を調べた記事を書きました。n-6 系脂肪酸の食事摂取基準では、私の年齢54歳だと1日10gです。食事摂取基準とは、推定平均必要量と推奨量が設定できない場合に定められていて、10gとれば不足することはないという量です。

私は納豆が好きでほぼ毎日食べていて、味噌汁は毎日飲んでいます。肉を食べるときは、鶏肉を基本にしています。鶏肉もリノール酸が多いです。納豆だけで、100gあたり5gあります。大豆やナッツに含まれるリノール酸は多いです。

普通に食事をしていればリノール酸は不足することはないと考えて、食生活を見直すのがよいと思います。日本人は肉を食べて米を食べなくなったで書きましたが、普段の食事で脂質をとることがはっきり増えています。

大豆油が入っているサラダ油はとても使いやすい油ですが、リノール酸が半分くらい占めています。それなら、使う油は、オリーブオイルか少々高いですがえごま油や亜麻仁油にしようと考えます。

また、たいていのお店で買ったり食べたりする揚げ物は、リノール酸がたくさん入った油を使っていますから、外食で揚げ物はやめておく。(かなりむずかしいですが)

そのようにコントロールして、少しでもリノール酸のリスクを避けるようにしていかなければならないですね。

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