健康診断の結果で、中性脂肪が高いと善玉コレステロールHDLが低くなると思ったことはありませんか?
私はビールが好きなので、いつも飲んでいると確実に体重が増え、中性脂肪が上がります。しかし、なぜ同時にHDLが低くなるのだろうとずっと思っていました。それをこの記事では調べてみました。
中性脂肪が増えると善玉コレステロールHDLが減るのは一般的なことのようです。ネットで調べていってもあちこちで書かれています。
しかし、どうしてそうなるのか、理由が書かれているサイトはほとんどありません。
このページの目次
なぜHDLが低くなるのだろうか?
Yahoo!知恵袋にも私とまったく同じことを思われた方が質問をしていました。
このところ、コレステロール関係の記事を書いてきました。回答に出てくるカイロミクロン、VLDL、LDL、HDLの働きについては一通り調べて下記の記事にしました。
回答に書かれていることはだいたい理解できるのですが、もともとよく知っているわけではないので、どうもスッキリしません。
なんとか理解できる説明はないかと、かなり丹念にネットで検索しました。そして、ようやく、肥満者の減量が血清脂質プロファイルに及ぼす影響という論文にたどり着きました。
この論文の第3節、「肥満とインスリン抵抗性」で、中性脂肪(TG)が高いこととHDLの数値が低くなる仕組みについて説明されていました。
肥満するとインスリン抵抗性が生じる
中性脂肪(TG)が高くHDLの数値が低い人は、多分、肥満しているのではないかと思います。私がそうです。ちなみに、体重を減らしたらHDLの数値が上がりました。
インスリン抵抗性とは、「生理的なインスリン血中濃度では,インスリンの本来の作用が発揮されない」ということです。インスリンが効きにくくなっている。
インスリンは血糖値を下げるホルモンとして知られていますが、余分な糖を脂肪にして脂肪細胞に貯蔵するのです。
しかし、肥満すると脂肪細胞にすでにたくさん脂肪がたまっています。インスリンが分泌されても脂肪細胞がそれ以上エネルギーを蓄積出来ない状態だと、結果としてインスリンが効きません。これがインスリン抵抗性です。
脂肪細胞が蓄えることができないと、こんなことになります。
インスリン抵抗性症候群(肥満を含む)においては,脂肪細胞が脂肪酸を細胞内に蓄えることが出来なくなり,門脈を介して遊離脂肪酸を肝臓に過剰供給する.
肝臓においてもインスリン抵抗性は存在し,過剰な遊離脂肪酸はTG の合成とapoB100の合成を促進し,VLDL として血中に分泌される.
脂肪細胞から出された脂肪酸は肝臓に戻ってくるのですが、肝臓でも脂肪がため込めない状態です。すると、脂肪酸はTG(トリグリセリド)、つまり中性脂肪になり、そして、アポタンパク質のApo B-100を合成して、VLDLとして送り出してしまうのです。
サイズの大きいVLDL1ができる
肝臓からTG を含有して分泌されるVLDL には, small VLDL(VLDL2,小型VLDL)とlarge VLDL(VLDL1, 大型VLDL)の2種類が存在する.
血清中性脂肪値が正常状態で分泌されるVLDL は,主にVLDL2 であり,高TG 血症や食後高脂血症状態では,VLDL1 が分泌される.
インスリン抵抗性の状態で分泌されるのがVLDL1 である.VLDL1はVLDL2に比べ粒子サイズが大きく,中性脂肪を多く含有する.
VLDLには2種類あり、中性脂肪が多い状態なので、サイズの大きなVLDL1が分泌されます。
通常の、インスリン抵抗性のない状態では、VLDL1が作られなくなるのですが、インスリン抵抗性があるので、本来制限がかかるVLDL1が作られてしまいます。このイレギュラーな中性脂肪が多いVLDL1は、やっかいな存在になるようです。
この変化の図を入れます。

中性脂肪が高いとHDLが低くなる
アポタンパクApo C-3ができる
肝臓におけるインスリンの作用不足は,apoC3の発現を増加させるため,VLDL1にapoC3が多く分布する結果となる.
apoC3は,apoB100やapoE のLDL 受容体親和性を阻害し,またapoC2のLPLに対する親和性を阻害することから,VLDL1 は血中に長く存在することになり,中性脂肪値が上昇する要因となる.
アポタンパクのapoC3は、初めて出て来ました。今までの他の記事に合わせた書き方ならApo C-3です。
これは、apoC2がLPL(リポタンパクリパーゼ)を刺激して、VLDL中にある中性脂肪(TG)を分解して、脂肪酸を遊離脂肪酸として組織に送り込むことを妨害します。
また、apoB100によってLDLが組織細胞内に取り込まれてコレステロールを受け渡すことを妨害し、apoEがあることで、肝臓にLDLを戻すことを妨害します。
よって、中性脂肪をたくさんもったVLDL1 は血中に長く存在することになります。中性脂肪は上がって下がりにくくなります。
さらに、あまり楽しくないことがまだあります。
Cholesterol ester transfer protein(コレステロール・エステル移転タンパク:CETP)は,リポタンパク間の中性脂質(コレステロール・エステルや中性脂肪)の濃度を均一にする作用を持つ.
中性脂肪を多く含有するVLDL1 に代謝遅延が起こると,CETP の働きでVLDL 中の中性脂肪とLDL 中のコレステロール・エステルの交換が起こる.
通常LDL はVLDL の最終代謝産物であるが,CETPを介してLDL に中性脂肪が負荷されると,LDL はLPL やHL(肝性リパーゼ)の代謝を受け小型化し,small dense LDL が生成するようになる.
small dense LDLは、動脈硬化に関係があるといわれています。この論文の別な箇所に分かりやすく書かれていました。酸化LDLが動脈硬化の原因になるとはいろいろな記事に出て来ます。
LDL受容体と結合親和性が悪いことから,血中滞在時間が正常LDLより長くなり酸化LDLになり易い.
血管内皮と長時間接触するため,血管内皮細胞の間隙を通過して,動脈壁に浸透し,血管壁に炎症を進展させる.酸化LDLはマクロファージに取り込まれ,マクロファージを泡沫化させ動脈硬化の要因となる.
動脈硬化については、記事を改めます。通常サイズと違って、イレギュラーなサイズのものは受容体と相性が悪くなるようです。
CETPによってHDLのコレステロールとVLDLの中性脂肪が交換される
Cholesterol ester transfer protein(コレステロール・エステル移転タンパク:CETP)は、リポタンパク間について調整するので、HDLも無関係ではありません。
VLDL とHDL との間でもCETP を介したコレステロール・エステルと中性脂肪との交換が起きる.
HDL へ転送された中性脂肪は,肝性リパーゼにより代謝されHDL は小型化する.
HDL はもともと粒子サイズの小さなリポタンパクであるが,さらに小型化するとリポタンパクの表面に保有していたapoA1がHDL から離れ,apoA1の腎からの排出がおこり,さらなるHDL の減少がもたらされる.
HDLはせっかくコレステロール・エステルを回収してきたのに、VLDLがたくさん中性脂肪を持ったままになっているので、CETPの働きによってHDLはコレステロール・エステルを吐き出し、中性脂肪を受け入れることになります。
中性脂肪が高くなるとHDLの数値が低くなるのはここに原因がありそうです。
さらに、HDLは中性脂肪を肝臓に渡すと、小型化してアポタンパク質のapoA1を放してしまうと、それはHDLではなくなります。HDLが減ってしまうと、さらにHDLの数値が下がってしまいます。
一方,VLDL などに転送されたコレステロール・エステルは血中で代謝を受けないため,コレステロール・エステルに富んだVLDLレムナントとして血中に増加する.
レムナントは残渣という意味です。本来、VLDLが中性脂肪を組織に配るとLDLになるのですが、アポタンパクapoC3のために、中性脂肪が分解されにくく、また、LDL受容体への親和性もよくないので、LDLまでいかない何とも半端なVLDLレムナントという状態なのでしょう。
血中のLDLコレステロールは高くなりやすいです。
まとめ
子供の頃に食べていた料理より、今の方が油をたくさん使っているのは確かです。太っているのに油をつかった料理を食べていると、中性脂肪が高くHDLが低い状態になりやすくなります。
small dense LDLが増えると動脈硬化のリスクが増えます。
植物油にはコレステロールは含まれていませんから、植物油を使っていればよいだろうと思っても、体はいつもコレステロールを作っているので関係ありません。
では、どうしたらよいのでしょう?
肥満者の減量が血清脂質プロファイルに及ぼす影響を読むと、食生活を改善して運動をするのが効果的だそうです。食生活を変えないで運動して余分なものを燃やそうと考えてもそれほど効果的ではないようです。
まずは、食事を見直すことが一番効果的な方法のようです。