プロスタグランジンが発見される歴史を調べてみた

プロスタグランジンは、細胞膜のリン脂質にあるアラキドン酸、γ-リノレン酸とエイコサペンタエン酸から作られます。プロスタグランジンは、もともと精液から発見され、その後、多価不飽和脂肪酸が材料になることが分かりました。また、アスピリンが効き目を現すのは、プロスタグランジンを作らせないからだと発見されました。

プロスタグランジン物語を読みました。

万が一、古本を購入される方のためにもともとの値段を書いておきます。1983年発行のこの本の定価は1500円です。ご参考まで。

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リン脂質にある炭素数20の多価不飽和脂肪酸からできる

プロスタグランジンは,特異な薬理作用が強調されて,何か特殊な薬のように思っている人々も少なくないが,そうではなくて,ごく微量で働く,あらゆる細胞機能の生理的調整物質と一応考えていただければよい.

食事から摂取されたアラキドン酸,ジホモ-γ-リノレン酸,エイコサペンタエン酸は,細胞膜のリン脂質の中にたくわえられている.

これは何かの刺激が加わると,細胞質の中に遊離される.たとえば最も多量に存在するアラキドン酸を例にとると,ミクロソームの中の酵素の働きで中間代謝物を経て,AからIまでのプロスタグランジンやトロンボキサンA2(TXA2),ロイコトリエン(LT)という親戚まで作られる.

局所で作られ,そこで働いてあっという間に消えるかと思うと,それぞれのレセプター(受容体)もあったりで,局所ホルモンあるいは第2のステロイドなどと呼ばれる物質なのである.

私のように予備知識のない者には、ラインマーカーを引いたところはなかなか重要です。

アラキドン酸が細胞膜のリン脂質にたくわえられることは他の本で読んで知っていましたが、同じ炭素数20のジホモ-γ-リノレン酸とエイコサペンタエン酸(EPA)も細胞膜のリン脂質の中にたくわえられると確認できたのがよいことです。

そうか、やはり同じなんだと思いました。

そして、これら3つの炭素数20の脂肪酸の中で、アラキドン酸がいちばんたくさん存在すると知ることができました。

さらに、プロスタグランジンは、局所で作られ、局所で働いてあっという間に消えるのが基本だということです。

でてきた炭素数20の脂肪酸を比べてみましょう。

γリノレン酸の構造式です。オメガ6の脂肪酸です。二重結合は3個あります。リノール酸からアラキドン酸に変換されていく反応では、γ-リノレン酸は、アラキドン酸の一つ前の物質です。

γ-リノレン酸が二重結合を1個増やすと、アラキドン酸になります。

γリノレン酸

γリノレン酸

アラキドン酸の構造式です。オメガ6の脂肪酸です。二重結合は4個あります。

アラキドン酸

アラキドン酸

エイコサペンタエン酸(EPA)です。こちらはオメガ3の脂肪酸で、二重結合は5個あります。

EPA

EPA

プロスタグランジン命名の方法

さらに命名の方法も書かれていました。

このようにして,PGは五員環を頭にα,ωの両側鎖をもつ炭素数20個の不飽和脂肪酸であることが判明した.

不安定なPGを,ethanolで安定させて得たものにE,リン酸溶液からとれたものにリンのスウェーデン語の頭文字Fの名をつけ(Aから順にアルファベット順に命名したのではない),二重結合の数で1~3(例えばF)を付した.

EとFの1~3までの6つが今日プライマリーPGと呼ばれているのは,これらが最初に見つけられたからにほかならない.

ethanolはエタノールです。PGEのEはエタノールでした。またPGFのFはリンのことです。そして、PGE1、PGE2、PGE3などの数字は、二重結合の数を表しているので、分かりやすいです。

この話を一度読んでおくと、名前に親近感を覚えるのと忘れなくなります。

プロスタグランジン発見の歴史

ウイキペディアのプロスタグランジンでは簡単に触れているだけだったので、知りたかったところです。

そもそもは人工授精に発見のきっかけがあった

コロンビア大学の産婦人科医KurzrokとLiebは奇妙なことに気がついた.人工授精のときに精液を子宮内に注入してしばらくすると,急に注入した精液が子宮内から逆流したり,ときには腹痛を訴える患者がいるのである.

彼らは精液のなかに何か子宮を収縮させる物質があるに違いないと考え,早速ヒトの子宮片を使って精液の作用を調べ,みごとその物質をつきとめた.

いまから半世紀前,すなわち1930年のことであった.(中略)

KurzrokとLiebの発見から5年経った1935年,スウェーデンのU.S.von EulerとイギリスのM.W.Goldblattは,それぞれ独立にヒト精液中に血圧降下作用,平滑筋収縮作用をもつ物質を発見し,前立腺(prostata)から分泌されると考えてprostaglandinと命名し発表した.

その後,第二次世界大戦で研究は一時中断されていたが,1959年スウェーデンのEliassonが精液を分割採取し,その成分分析を行ってPGは睾丸由来の精子,前立腺由来の酸性ホスファターゼとは違って,精嚢腺由来の果糖の濃度と同じように精液中の濃度が変化することをつきとめ,そのことから,この精液中のPGは前立腺で作られるのではなく,精嚢腺由来のものであることを明らかにした.

この報告の4年後,すなわち1963年スウェーデンのカロリンスカ研究所のS.Bergströmが,当時の分析技術を駆使して数トンのヒツジの精嚢腺からプライマリーPGと呼ばれるPGE1,E2,E3,F,F,Fを精製単離し,その化学構造を決定した.

ここまでで、精液→前立腺→精嚢腺とつくられている場所を探し、プライマーPGを単離して化学構造まで分かりました。

不飽和脂肪酸から生合成される

ここからPGが一般化されていきます。S.Bergström氏は、後述するようにノーベル賞を受賞します。(微妙に綴りが違っていますが)

さらに、こちらの方が発見としては大きいと思いますが、抗炎症剤のアスピリンがなぜ効くのかという理由が、PGの生合成を阻害するからだと発見されます。

アスピリンがなぜ効くのか?それはPGを作らせないからだよというのが答えです。

1964年には,S.BergströmとオランダのD.A.van Dorpはそれぞれヒツジ精嚢腺で不飽和脂肪酸からPGが生合成されることを発見した.

1969年には,イギリスのウェルカム研究所のP.J.PiperとJ.R.Vaneが,それまで作用機序の明らかでなかった抗炎症剤のアスピリンがPGの生合成の阻害剤であることを報告した.

この発見は,その後のPGの研究にはかりしれない大きな影響を与えている.(中略)

その後PGの生合成機構についての研究が進み,PGは一種の過酸化脂質であるPGエンドペルオキシド(PGG2,H2)を中間生成物として生合成されることが,オランダのD.H.Nugteren,スウェーデンのB.Samuelssonらによって1973年報告された.

トロンボキサン(TX)、PGI2の発見

さらに1975年,B.SamuelssonらはPGエンドペルオキシドの血小板への作用を研究していたときに,それよりいっそう強力な血小板凝集物質が存在することに気づき,それがthromboxane(TX)というPGエンドペルオキシドから生成される非常に不安定な物質であることを明らかにした.

ところがその翌年1976年に,J.R.VaneらはTXと全く逆の作用をもつ,著明な血小板凝集抑制物質がPGエンドペルオキシドから血管壁で生成されることを発見した.(中略)

のちにPGI2(プロスタサイクリン)と命名されたのである.

リポキシゲナーゼ経路とロイコトリエン(LT)

今までの反応は、シクロオキシゲナーゼ経路で行われます。シクロオキシゲナーゼ経路はCOXと呼ばれています。

もう一つリポキシゲナーゼ経路が発見され、ロイコトリエン(LT)が発見されました。

不飽和脂肪酸のアラキドン酸はPGエンドペルオキシドを経て種々のPGに代謝されるだけでなく,リポキシゲナーゼが働く経路によっても代謝される.

その代謝経路の研究から,1978年B.Samuelssonらによって以前からSRS-A(slow reacting substance of anaphylaxis)と呼ばれ,喘息患者の血中に見出される平滑筋をゆっくり収縮させる物質の化学構造が決定され,leukotriene(LT)と名づけられた.

この発見により現在アラキドン酸カスケードと呼ばれるアラキドン酸の代謝経路がさらに明らかになってきたのである.

プロスタグランジンによってノーベル賞受賞

日経サイエンス2007年4月号に「痛みのもとを狙い撃つ新薬」という記事がありました。

 身体がどのようにしてプロスタグランジンを作り出すかを明らかにしたサムエルソン(Bengt Samuelsson)は,1982年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。このホルモン様物質は生体内のさまざまな作用を調節するもの … 続きを読む →

プロスタグランジンを生成する仕組みを発見したサムエルソンとベリストロームはノーベル生理学・医学賞を受賞していました。プロスタグランジン物語は、それを記念して出版された本です。

1982年にノーベル生理学・医学賞を受賞

身体がどのようにしてプロスタグランジンを作り出すかを明らかにしたサムエルソン(Bengt Samuelsson)は,1982年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。

このホルモン様物質は生体内のさまざまな作用を調節するもので,疼痛や発熱,炎症などを誘発する。こうした生体内作用を抑えるのがアスピリンやイブプロフェンなどの薬だ。

サムエルソンは共同受賞したベリストローム(Sune Bergstroöm)とともに,スウェーデンにある赤レンガ造りのカロリンスカ研究所で研究していた。

まとめ

もともとは人工授精をきっかけに精液から発見されたプロスタグランジンですが、その後不飽和脂肪酸からできることが分かって、精嚢など特定の場所から離れて物質として一般化されます。

一方、昔からある薬、アスピリン。アセチルサリチル酸のことです。アスピリンはヤナギの樹皮に含まれる物質をルーツに持ちます。以前、アスピリンはヤナギの樹皮からという記事を書きました。

アスピリンはヤナギの樹皮に含まれる物質をルーツに持ちます。ヤナギの樹皮に解熱、鎮痛、消炎作用があることは昔からよく知られていました。さらに肩こりやねんざに使われる湿布薬のスースーする成分もアスピリンと近い物質です。アスピリンは古くからある薬

アスピリンがなぜ効くのか?答えは、プロスタグランジンを作らせないから。こんなことが分かるなんて化学って面白いです。

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