PGD2は炎症を抑制する

PGD2はアラキドン酸からシクロオキシゲナーゼ(COX)によって作られるプロスタグランジンの1つですが、炎症を亢進するのではなく抑制するものでした。

新しい炎症抑制機構の発見とそれを応用した病態治療法の開発を読むと次のように書かれていました。この記事は2014年のものです。

とても分かりやすく書かれていますが、私には理解しにくいところが多々あるので、調べながら読んでいきます。

スポンサーリンク




PGD2は癌の増殖を抑える

これは肺癌の話です。

マウスの皮下に肺癌を移植して癌増殖モデルを作成し、癌組織に産生されている脂質分子を質量分析装置により網羅的に解析した。

その結果、上に記述した PGE2や TXA2に加えて、PGD2が大量に産生されていることを発見した。

PGE2や TXA2、PGD2はアラキドン酸からできるプロスタノイドです。癌組織では、炎症に関わる物質ができていて、特にPGD2が大量に作られていたということです。

PGD2 の癌増殖における役割を明らかにする目的で、PGD2 合成酵素の遺伝子欠損マウス(H-PGDS KO) を作成して実験に用いた。

その結果、H-PGDS KO マウスに肺癌を移植すると正常マウス (WT) の約 2 倍の速度で癌が成長することが分かった。

H-PGDSはPGD2 合成酵素の遺伝子です。KOはKnock Out(ノックアウト)、欠損させたという意味です。WTはWild Type(野生型)の略です。遺伝子を何も操作していないという意味です。

PGD2 を合成できないマウスに肺癌を移植すると、正常マウスに肺癌を移植した場合と比較して2倍の速度で癌が成長するということは、少なくともPGD2 は存在した方がよいということです。

その理由について。

①癌組織に浸潤してくる肥満細胞が H-PGDS を強く発現していること、②H-PGDS KO マウスで増殖した癌では炎症細胞の浸潤が増えて血管の透過性が異常に亢進しており、新生血管が増えることで癌細胞への酸素・栄養供給が増加していることが分かった。

この部分が私には分かりにくかったです。

①に出てくる、肥満細胞がH-PGDS を強く発現しているのは、もちろん正常マウスの場合です。つまり、冒頭に「PGD2が大量に産生されているのを発見した」と書かれていましたが、それが作られた場所は、肥満細胞であるという意味で書かれているのだと思います。

肥満細胞は、免疫細胞の一つです。花粉症の季節になるとよく聞く名前です。アレルギー反応に関係していて、花粉症の場合なら、花粉と反応してヒスタミンなど鼻や眼などを刺激する物質を放出します。

肥満細胞が癌細胞に浸潤する意味が分からないので調べました。大腸癌組織における肥満細胞浸潤の臨床病理学的意義についてを読むと、腫瘍の血管新生に関与すると書かれていたので、上の文での書き方では、癌細胞が新生血管を増やすことに関係しているということです。

しかし、②では、H-PGDS をノックアウトしたマウスでは、炎症細胞の浸潤が増えると書かれています。肥満細胞は炎症細胞の1つです。炎症細胞は他にもあります。

野生型のマウスと比較して、炎症細胞全体の癌細胞への浸潤が増える。そして、血管の透過性が異常に亢進するというのは、血管内皮がキッチリしていなくて漏れやすくなっていること。つまり、新しい血管が作られやすい状態になっています。

そして、新生血管が増えて癌細胞に酸素と栄養の供給が増加した。癌細胞が大きくなるための条件ができたということです。

もし、H-PGDS がノックアウトされていなかったら、肥満細胞でPGD2が大量に産生されるからここまでひどくならないということをいいたいのでしょう。

続きます。

合成酵素の欠損マウスと同様に、PGD2 の受容体(DP)欠損マウスにおいても癌の血管が漏れやすくその成長も早いことが分かった。

上記の結果から、PGD2-DP シグナルの増強が癌増殖の抑制につながる可能性が考えられた。

それを検証する目的で DP 受容体刺激薬をマウスに連日投与したところ、移植癌における血管透過性と癌増殖の両方が強力に抑えられ、マウスの寿命を延ばすことに成功した。

PGD2 には、受容体(レセプター)が存在します。

PGD2 の受容体は、DPと呼ばれます。Type D Prostanoid receptorという意味でDPと書きます。(出典

今度は、PGD2 は正常に作られるものの、受容体であるDPを作れないようにしたマウスを用意して同じように癌を移植してみた。するとやはり癌の血管が漏れやすくその成長も早かった。

そうなると、PGD2とDPとも十分に作られる必要があるということです。

組織の炎症とそれに続く発癌を抑制する

今度は肺炎と大腸炎です。

マウスの気管内に菌体成分であるリポポリサッカライドを投与すると、急性肺炎の症状が表れる。H-PGDS KO ではこの肺炎の症状が WT に比較して劇的に悪化することが分かった。

さらに、H-PGDS KO マウスではドデシル硫酸ナトリウムの投与による大腸炎の症状も WT マウスと比較して悪化し、それに伴って大腸の発癌数が増加することが分かった。

免疫染色や細胞特異的な H-PGDS 欠損マウスを作成・応用することで、炎症を起こした肺においては組織に浸潤してくるマクロファージが、腸においては肥満細胞と呼ばれる免疫細胞がPGD2を主に産生し、炎症を抑制していることが分かった。

肺炎の場合は、別な免疫細胞のマクロファージがPGD2を作るのが、肺癌との違いです。大腸では、肺癌の時と同じ、肥満細胞がPGD2を主に作るようです。

PGD2の受容体である DP の作動薬を連日投与すると、肺炎や腸炎が治るとともに大腸癌の発生率も劇的に低下することが分かった。

こちらの結論は変わりません。

食物アレルギーの症状発現を抑えることを発見

PGD2 はアレルギー反応を起こした組織中に大量に産生されることが報告されているが、その生理作用は不明であった。(中略)

卵白アルブミンをマウスに複数回投与すると、食物アレルギーの症状(下痢や粘膜紅潮、不動等)が観察される。

卵白アルブミンとは、オボアルブミンとも呼ばれ、卵アレルギーの原因物質の1つとされています。

この食物アレルギー症状を H-PGDS の遺伝子欠損は劇的に悪化させることが分かった。(中略)

腸管に存在する肥満細胞が主な PGD2産生細胞であり、その欠損は肥満細胞自身の腸管への浸潤数を劇的に増加させることで、食物アレルギーの症状を悪化させることが分かった。

また、DP 受容体刺激薬の連続投与により、腸管の肥満細胞数を減らして根本的にアレルギー症状を抑制することに成功した。

腸に関しては、肥満細胞が主な PGD2産生細胞のようです。

さらに検索していくと、アナフィラキシーを抑える分子の発見という記事が出て来ました。

アナフィラキシーを抑える

アナフィラキシーとはハチに刺された時に起きるショック症状だったかなというくらいしか知りませんでした。

アナフィラキシーとは、この記事の2ヶ所で説明されていましたが、まとめるとこのようになります。

食物やハチ毒、蛇毒が体内へ侵入すると、免疫細胞の1つであるマスト細胞が活性化して、ヒスタミンやロイコトリエンなどの炎症物質を大量に放出し、これが血管の透過性を急激に上昇させることで、体温や血圧の低下を症状とするアナフィラキシーが起こる。

その症状としては、蕁麻疹や呼吸器症状の他、血管の透過性の上昇を伴う血圧や体温の低下、意識の喪失などが挙げられ、重篤な場合、死亡するケースもある。

マスト細胞とは、肥満細胞のことです。

肥満細胞は、PGD2を大量に産生することが分かっていたのですが、この物質の生理活性については分かっていませんでした。

発表概要にはこのように書かれています。

東京大学大学院農学生命科学研究科の村田幸久准教授と中村達朗特任助教らの研究グループは、アナフィラキシー反応を起こしたマウスを用いて、マスト細胞から産生されるPGD2が血管透過性の急激な上昇を抑えることで、過度なアナフィラキシーを抑える働きを持つことを発見した。

さらに、PGD2が作用する受容体を突き止め、薬物を用いたこの受容体への刺激がアナフィラキシーの抑制に有用であることを証明した。

つまり、マスト細胞はヒスタミンを放出することでアナフィラキシー反応を引き起こすとともに、その反応の行き過ぎを抑えるために、PGD2を同時に産生していることが証明された。

まとめ

アラキドン酸からできるPGD2は炎症を亢進させるものではなく、抑制させるものでした。今回見つけた記事は、新しいものばかりです。

以前、アラキドン酸から炎症に関係があるエイコサノイドができるという記事を書いた時、アラキドン酸からできるプロスタノイドは、炎症を亢進させるものばかりではないのではないかと思ったのですが、やはりそうでした。

もう少し調べてみたいと思います。

スポンサーリンク




フォローする

スポンサーリンク