プロスタグランジンE2とE3、E1の違いを構造式から調べた

炎症を促進するというアラキドン酸からできるPGE2。反対に抑制するというEPAからできるPGE3とジホモ-γ-リノレン酸からできるPGE1。どんな違いがあるのか調べてみると、炭素の二重結合の数が違うだけで同じ構造でした。

また、プロスタグランジンは環をもつ構造になりますが、もともとの脂肪酸から構造が大きく変わってはいません。

体温計

炎症をひどくするプロスタグランジンはどんなものなのか”見たい”と思った

以前書いた、プロスタグランジンE2が問題だという記事で、アラキドン酸からできるプロスタグランジンが、炎症を促進することがわかりました。

アラキドン酸は脂肪酸です。脂肪酸は炭化水素鎖にカルボキシ基(COOH)がついたとても単純なものです。脂肪酸は細胞膜のパーツになったり、短く切られて燃やされるエネルギー源になったりします。

それがどんな変化をして生理活性物質であるプロスタグランジンになるのだろう?

炎症は、痛いし、痒いし、熱を持ち赤くなります。プロスタグランジンは脂肪酸とはずいぶん性質が違います。

どんな構造の変化があるのか、「見たい」と思いました。

まず、炎症に関係があるアラキドン酸からできるプロスタグランジンを見てみましょう。

アラキドン酸からできるプロスタグランジン

アラキドン酸から4つのプロスタグランジンと1つのトロンボキサン(TX)ができます。

この記事では、長くなるのでプロスタグランジンそれぞれの作用は説明しません。別記事にします。

アラキドン酸は4つのプロスタグランジンとトロンボキサン(TX)に変化する

アラキドン酸は、PGD2、PGE2、PGF、PGI2、TXA2になります。

下図はプロスタグランジン物語に出て来た図を書き直したものです。

プロスタグランジン物語
プロスタグランジン物語は1983年発行の本です。プロスタグランジンを発見し、働きを研究してきた人達が1982年にノーベル医学生理学賞を受賞したことをきっかけに発行された本です。 プロスタグランジンについて最近の本はないみたい プロスタグラン...

青色で塗ったのは酵素の名前です。アラキドン酸からつくられるプロスタグランジン(PG)とトロンボキサン(TX)は黄色に塗ってあります。

アラキドン酸からPG

ジホモ-γ-リノレン酸とEPAも同じ経路をたどりPGとTXになる

先に書いておきますが、上図のアラキドン酸からPGとTXへの変化は、ジホモ-γ-リノレン酸EPAも同じ反応経路をたどります。もちろん、もともとの構造が少し違うので、できたPGやTXもアラキドン酸からできたものとは少し違いがあります。

これはあとで、詳しく書きましょう。もう一つ大切なことがあります。

炭素数が20の多価不飽和脂肪酸からできる

アラキドン酸も、ジホモ-γ-リノレン酸も、EPAも炭素数20の多価不飽和脂肪酸です。プロスタグランジンは、炭素数20の多価不飽和脂肪酸からできます。これは特徴的なことです。

では、アラキドン酸が具体的にどのように変化するか構造式で書いていきましょう。構造式は、イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書29版に出ていたものを真似して描きました。

イラストレイテッド ハーパー・生化学について
2017年の春にイラストレイテッド ハーパー・生化学原書29版を買ってそれ以来使っています。きっかけは、アセチルCoAからコレステロールが合成される図を見たからです。 最新版は2016年刊行の30版です。出版社に敬意を表して先に最新版を表示...

アラキドン酸からPGとTXまで構造式

アラキドン酸がPGG2に変化すると環構造になります。しかし図を見ていただければおわかりになると思いますが、全体的に見ると、アラキドン酸から大きく形が変わったという感じはしません。

また、できたPGのうち、PGD2、PGE2、PGFは環についたOやOHの位置と数が変わるだけで、それ以外に差はありません。

TXは六員環だがプロスタグランジンと大して変わりはない

TXA2は「トロンボキサン」と呼ばれます。反応経路はPGの一つなのですが、PGと呼ばれないのは、環が六員環だからです。(出典)六員環とは、6つの原子からできている環のことです。形が六角形です。

また、PGとTXを合わせてプロスタノイドと呼びます。

PGは、五員環です。見比べてみてください。こちらは五角形です。

図の中では、特にPGE2に注目してください。

アラキドン酸からできるプロスタノイド

 

ジホモ-γ-リノレン酸からPGとTXまで構造式

ジホモ-γ-リノレン酸はアラキドン酸に比べて炭素の二重結合が1箇所少ないです。それ以外の反応のうち、PDG1とPGI2について、イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書29版では言及されていなかったので書きませんでした。

下図では、PGE1を上のPGE2と比較してみてください。炭素の二重結合数だけが違っています。

ジホモ-γ-リノレン酸からプロスタノイド

 

なぜ、PGD1がないのか理由が分からなかったので調べましたが、プロスタグランジンD1/D2/D3(Prostaglandin D1/D2/D3, PGD1/PGD2/PGD3)にこんなことが書かれていました。天然物として単離されていないことが理由なのでしょうか?試薬としては存在します。

プロスタグランジンD1(PGD1)は、DGLAの理論的Dシリーズ代謝産物であるが、今日まで、天然物として単離されていない。

また、PGI1について、なぜ書かれないのか理由がわかりませんでした。試薬として、こちらも存在します。

EPAからPGとTXまで構造式

EPAは炭素の二重結合が5箇所あるオメガ3の脂肪酸です。アラキドン酸と同じ反応をします。

PGE3を、PGE1とPGE2と比べてみてください。二重結合数が3個ありますが、それ以外の構造はPGE1とPGE2と違いはありません。

EPAからできるプロスタノイド

 

PGとTXについた数字は二重結合の数を表す

すでにお気づきかもしれませんが、たとえば、PGE1、PGE2、PGE3を見比べてみて下さい。付けられている数字(1~3)は、炭素の二重結合の数です。

また、PGEに限らず4種類のプロスタグランジンと1つのトロンボキサンは、すべて炭素の二重結合の数以外、構造に違いはありません。

PGE1、PGE2、PGE3の違いは二重結合の数だけ

プロスタグランジンE2が問題だという記事で、プロスタグランジンE2(PGE2)は炎症やアレルギー反応を促進する一方で、プロスタグランジンE1(PGE1)とE3(PGE3)は、炎症やアレルギー反応を抑制することを知りました。

しかし、物質の構造は炭素の二重結合数だけが違うだけで他に違いはありません。それで働きが正反対になるのですから、何とも面白いなと思いました。

NOTE

プロスタグランジンのことを初めて知った時、脂肪酸が炎症を起こす物質になるのだから、構造が大きく変化するのかと思いました。

また、PGE2は炎症やアレルギー反応を促進し、PGE1とPGE3は炎症やアレルギー反応を抑制するという正反対の作用があるので、一体どんな変化をするのだろうと思いました。

しかし、構造式を見ると、まず、プロスタグランジン自体、脂肪酸から環構造に変化しているものの、ものすごく大きく変わったという感じではありません。また、炎症について正反対の働きをするPGE2とPGE3とPGE1は、炭素の二重結合の数が違うだけで他に構造の違いはありません。

小さな違いしかありません。

それでも、炎症に対して正反対の作用をするのですから面白い。この記事を書くために自分で調べてみてよかったなと思いました。

この他のアラキドン酸についての記事は、アラキドン酸についてをご覧下さい。

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