ガソリンとかベンジンのにおいがするn-ヘキサンの一番端にある水素が、ヒドロキシ基(OH)になると、芝を刈ったばかりのにおいになり、一番端の炭素がアルデヒドになると、大豆の青臭いにおいになり、カルボキシ基になると汗臭いにおいになります。しかし、汗臭いにおいに、エチルアルコールが結合すると日本酒の吟醸香になります。
においの本を探しています
年を食ってくると、妻に「あんたの枕、ジジくさいわよ」といわれるようになります。若い頃、だいぶ年上の上司がジジくさいのは「年寄りに近いからなあ」と無意識に思っていたのですが、自分もすでに同じ年齢になっています。
このブログを運営しているおかげで、汗くささも含めて、原因は脂肪酸であることが分かるようになりました。以前、短鎖脂肪酸はくさいという記事を書きましたが、それまで、脂肪酸とにおいが関係しているなんて考えたこともありませんでした。
それで、時々、思い出したように加齢臭の本を探すことがありますが、意外と本は出ていないものです。
トコトンやさしいにおいとかおりの本 (B&Tブックス―今日からモノ知りシリーズ) もそんな目的で読んでみたのですが、加齢臭のかわりに実に面白い話が紹介されていました。
ヘキサンのにおいが変わる
ヘキサンは、たとえば大豆など、油の含有率の低いものから油を抽出する時の溶媒として使われています。以前、油を抽出する溶媒ヘキサンについてという記事で書いたことがあります。
ヘキサンにはにおいがあります。ウイキペディアのヘキサンにはこのように書かれています。
ヘキサンはガソリンとかベンジンのにおい
常温では無色透明で、灯油の様な臭いがする液体。(中略)ガソリンに多く含まれ、ベンジンの主成分である。
ガソリンとベンジンが出てくると、ああ、あんなにおいかと想像がつきます。
ヘキサンは、こんな構造式です。炭素(C)が6個あり、それぞれ水素(H)が結合しているとても単純な構造です。
炭素と水素だけなのでとても分かりやすいです。炭素が6個、水素が14個からできています。n-ヘキサンの「n-」は、直鎖状であることを意味しています。以下、見やすくするために、炭化水素鎖のCとHを省略した書き方で構造式を書きます。
ヘキサンは、このように書かれます。
つける官能基によってにおいが変わる
ところで、ヘキサンの右端に官能基をつけると、性質が変わり、においが変わります。官能基とは、有機化合物を特性づける原子団のことです。文字よりも図を見た方が分かりやすいですね。
1-ヘキサノールは芝を刈ったばかりのにおい
n-ヘキサンの一番端にある水素がヒドロキシ基(OH)に置き換わったものが、1-ヘキサノールです。アルコールの一つです。
これは、芝を刈ったばかりのにおいがします。
ヘキサナールは大豆の青臭いにおい
n-ヘキサンの一番端の炭素(C)がCHOとなっている。つまり、アルデヒドになっているものをヘキサナールといいます。
青臭いにおい。一番わかりやすいのは、大豆を水に漬けた時の青臭いにおい。豆乳の青臭さでもよいかもしれません。
ヘキサン酸は汗臭いにおい
n-ヘキサンの一番端の炭素(C)がカルボキシ基(COOH)となっている。つまり炭素数6の脂肪酸は、ヘキサン酸(カプロン酸)です。短鎖脂肪酸の一つです。
古い油のようなにおい。汗臭いにおい。ヤギの体臭様の臭気を持つといわれます。
ヘキサン酸(カプロン酸)エチルは吟醸香
そして、少し余分になりますが、カプロン酸とエチルアルコールのエステルはカプロン酸エチルといってこんな構造式になります。
これはリンゴ様の果実臭といわれ、日本酒の芳香成分で吟醸酒には数100 ppb–数 ppm 程度含まれているそうです。ああ、あの匂いだなと想像できますね。
ppb とは、10億分の1のことです。ppmは100万分の1のことです。
クサイにおいがアルコールとエステル結合するとよい匂いに変化するのですから面白いです。
NOTE
油の抽出に使われるn-ヘキサンは、においがガソリンやベンジンなのと、毒性を持つのでかなり嫌われているようです。確かにガソリンやベンジンのにおいはおそろしげな感じがします。
しかし、官能基をつけるとにおいが大きく変わるところが面白いです。
特に、炭素数6の脂肪酸、ヘキサン酸(カプロン酸)は、汗臭いとかヒツジくさいとかひどい言われ方をしています。実際、汗臭さの原因物資です。これは汗と一緒に出てくる皮脂が常在菌で分解されて、長かった脂肪酸が短くなって、におい始めるのです。
とはいうものの、ヘキサン酸(カプロン酸)がエチルアルコールと結合してエステルとなると、吟醸香になるところがとても興味深いです。
この記事を読んでくださる方の中には、日本酒が好きな方もいらっしゃるでしょう。吟醸香について、吟醸香は酵母にストレスをかけると出てくるんだってでもう少し深く書いています。吟醸香が日本酒の魅力です。
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