加熱料理に強いといわれるインカインチオイルとカメリナオイルはビタミンEとポリフェノールのおかげで酸化しにくくなっています。
そして、市販されている亜麻仁油とえごま油には保存性を上げるため、ビタミンEとビタミンCが添加されているものが結構あります。このような油なら、短時間の加熱料理には使えることが分かりました。
オメガ3の油は加熱できないといわれます。酸化しやすいからです。しかし、最近は、インカインチオイルやカメリナオイルなど加熱料理に使えるオメガ3の油があります。なぜ使えるのでしょう?
オメガ3の油のにおいは古くなると魚臭くなる
オメガ3の油は酸化しやすい。
EPAやDHAが豊富な青魚はアシが早い。すぐに腐ってしまいます。私は過去にえごま油と亜麻仁油を1回ずつ、使うのをずっと忘れて冷蔵庫の中で魚臭くしてしまったことがあります。1回はガマンして使いましたが、臭くて捨てました。
その時は、なぜ植物油が魚臭くなるのか分かりませんでした。魚臭さは、きっとオメガ3の脂肪酸が過酸化した特有のにおいなのでしょう。
今なら何となく理解できます。オメガ3の脂肪酸が自動酸化された後、さらに短く切られた酸化物の中ににおいを発する共通したものが多いのだと思います。
ところで、3年くらい前からインカインチオイルがオメガ3の油なのに加熱料理に使えるという話を聞いていました。しかし、オメガ3の脂肪酸が加熱による酸化に弱いのはどんな油でも同じです。
なぜ、加熱料理に使えるのでしょう?
インカインチオイルは加熱料理に使えるオメガ3の油
オメガ3の脂肪酸を含む油で、インカインチオイルというのがあります。アマゾン熱帯雨林に生息する蔓性(つる)常緑樹インカインチの種子から搾った油のことです。
サチャインチオイル、グリーンナッツオイルとも呼ばれる
サチャインチ、グリーンナッツともいうそうです。えごま油や亜麻仁油のようにオメガ3のα-リノレン酸を50%程度含む油です。
ビタミンEが豊富
もう一つの特徴は、ビタミンEを豊富に含んでいるので、加熱料理に使えるというのがポイントです。ネットを探し回ったところ、インカインチオイルのビタミンE含有量は、オイル100g中に200mgあるそうです。
私は一度も買ったことがないので、どんな風味なのか分かりません。
えごま油はほとんど風味がなく、亜麻仁油はちょっとだけ独特の苦みを感じますね。オメガ3のα-リノレン酸が主成分の油とはいっても、それぞれ全く違う植物ですから、風味が違うのは当たり前です。インカインチオイルはどんな風味がするのか興味があります。
α-リノレン酸は寒い地方の植物に蓄えられるのかと思っていましたが、ジャングルの植物にもあるとは意外でした。ビタミンEで酸化されないように保護されているのでしょう。
カメリナオイルも加熱料理に使える
最近、加熱料理に使えるオメガ3の油としてカメリナオイルもでてきました。北海道でも栽培されています。開封後も暗所常温保存ができるのが特徴です。抗酸化力が強い証拠です。
ビタミンEとポリフェノール
ビタミンEがオリーブオイルの5倍あるほか、β-カロテン、ポリフェノールなど、天然の抗酸化成分が豊富に含まれるため酸化に強いそうです。
ところで、α-リノレン酸について、酸化しやすいのはどの油でも変わりはありません。えごま油や亜麻仁油にはインカインチオイルやカメリナオイルのように最初からビタミンEが豊富に入っているわけではありませんが、添加物として、ビタミンEとビタミンCが加えられています。
ビタミンEとビタミンCが過酸化を抑える
たまに、産直フェアでは、生産者が搾りたてのえごま油や亜麻仁油を販売していることがありますが、お店で販売されているものは、たいてい添加物としてビタミンEとビタミンCが加えられています。
油の正しい選び方・摂り方―最新 油脂と健康の科学によれば、体内ではビタミンEとビタミンCが過酸化障害を抑えることが説明されています。
反応性に富むフリーラジカル(活性酸素に代表される)が脂肪酸を攻撃して脂肪酸ラジカルができても、ビタミンE(トコフェロール)がそれを安定化します。
このときビタミンEは酸化されますが、酸化されたビタミンEはビタミンC(アスコルビン酸)により活性型にもどります。そして酸化されたビタミンCは、エネルギーを使って活性型にもどるのです。
ビタミンEとビタミンCは抗酸化力があるといわれますが、その仕組みは上に書いた通りです。覚えやすく簡単に書くと、
この仕組みを使って、えごま油や亜麻仁油の保存性を高めています。一部メーカーでは、冷蔵もしくは冷凍で保存しながら販売しているところもあります。
酸化されやすいえごま油が食用になるまで
ベジタブルオメガ3「えごま油」の誕生~食用化への利用開発を読むと、愛知県の太田油脂が1951 年(昭和26年)から工業用途でえごま油(荏油)を製造販売していたのを、1988 年に食用化に成功するまでの経緯を知ることができます。
工業用のえごま油を食用にするきっかけは、「油の正しい選び方・摂り方―最新 油脂と健康の科学」の著者、当時名古屋市立大学薬学部の奥山治美先生から提案を受けたからだそうです。
酸化しやすいえごま油の食用化は課題が多かったようです。こんな風に書かれています。
えごま油を食用油として生産するにあたり、課題として挙げられていたのは「製造時と製品保管時の劣化防止」である。
すなわち、多価不飽和脂肪酸であるα–リノレン酸は高温や光といった様々なストレスに弱く酸化安定性に劣るとされており、製造後も保管時に劣化が進むことにより独特の臭いや異味が発生するため食味を大きく損ねてしまう。
また、食用植物油脂の精製は搾油、脱色、脱臭といった熱のかかる工程があるため、α–リノレン酸が熱により劣化する可能性が指摘されていた。
以上のことを踏まえ、当社は各精製工程で品質の目安となる条件や分析項目を設定し、制御ポイントを用いることを試みた。それにより、安定した品質で脱臭前まで精製の工程を進められるようにした。
さらに脱臭工程においては通常の油脂と同じ条件で行った場合、劣化の促進が懸念されたため、各種条件の検討を重ねた結果、最終的に商業用プラントで「えごま油」を生産(食用化)することに成功した。
ユーザーとしては、エキストラバージンのオリーブオイルのように精製しないで搾りたてで使ってみたいところですが、精製するのは成分を調整する意味があるのだと思います。
以前、油の精製とは魔法なのだろうか?という記事を書きました。精製すると品質管理がしやすくなり、保存性が高まります。α-リノレン酸はとても酸化されやすく、酸化の原因になる葉緑素(クロロフィル)などをそのままにしておくことはできないと思います。
しかし、えごま油が劣化しやすく食味を損ないやすい油であることは変わりがない。 さらに、当時一般的であった通常のガラス瓶では光を透過してしまうため、これも油脂の劣化を早める原因となる。
そこで生体内の抗酸化系の機能を応用し、VCとVEを組み合わせ添加することで酸化安定性を向上し、光については当時の油脂製品としては珍しい化粧箱に入れることで回避可能とした。
VC:ビタミンC
VE:ビタミンE
このように酸化対策がとられました。確かにお店に並んでいるたいていのえごま油は、外箱に入っています。こうして出来上がったのが、太田油脂 マルタえごま油 180gです。
ところで、ビタミンEとビタミンCを添加したえごま油や亜麻仁油は、加熱料理には使えないのでしょうか?
ビタミンEとビタミンCを添加したえごま油は加熱料理にも使える
油の正しい選び方・摂り方―最新 油脂と健康の科学によると、このように書かれています。
トコフェロールはビタミンE、アスコルビン酸はビタミンCのことです。
抗酸化ビタミン(トコフェロールとアスコルビン酸エステル)で安定化したシソ(エゴマ)油は、160℃30分という調理条件で、有意な量のトランス脂肪酸を生成しません。
酸化安定性はAOM法で12時間、1年半保存時の過酸化物価は5以下です。大豆油に近い安定性となっています。
AOM法とは、油脂の酸化障害に対する安定性を評価する方法で、試料を加熱して空気を吹き込み過酸化物の生成を調べる方法です。かなり激しい方法です。過酸化物価は5以下というのは、もちろん低い数字です。
もともと加熱(酸化)に弱いオメガ3の脂肪酸α-リノレン酸が豊富な油をわざわざ揚げ物や加熱料理に使いたいと思う方はほとんどいらっしゃらないと思います。でも、実際に使っても短時間なら大丈夫だろうということと、えごま油(や亜麻仁油)にビタミンEとビタミンCを添加したことで、酸化リスクが低くなっていることが安心できる材料だなと思いました。
NOTE
植物油に入っているオメガ3の脂肪酸は、α-リノレン酸です。亜麻仁油、えごま油、インカインチオイル、カメリナオイルでもみんな一緒です。
α-リノレン酸は、酸化されやすく、加熱に弱い脂肪酸です。
オメガ3の油でも加熱料理に使えるものがあるのは、ビタミンE、ビタミンC、その他ポリフェノールなどの抗酸化物質が多く含まれているからです。
しかし、市販の亜麻仁油とえごま油には保存性を上げるため、ビタミンEとビタミンCが添加されています。このような油なら、短時間の加熱料理には使えることが分かりました。
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