α-リノレン酸から青葉のにおいができる

α-リノレン酸の分解経路を見ていたら2回の反応で炭素数6のアルデヒドができることがわかりました。炭素数が短いとたいていにおいがあります。脂肪酸はくさいのですが、炭素数6のアルデヒドは、青葉のにおいがします。

山小屋と草原

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炭素数6のシス-3-ヘキセナールはどんなにおいがするんだろうと思った

KEGGのalpha-Linolenic acid metabolism (α-リノレン酸の代謝)を見ていたら、α-リノレン酸は、2回酵素反応して、3-ヘキセナールができることがわかりました。「ヘキサ」だから炭素数は6です。

ヘキサナールといっても、炭素の二重結合がシス(cis)型のものです。「ナール」だからアルデヒド(CHO)です。

構造式はこのようになります。正確に書くとcis(シス)-3-ヘキサナールです。

cis(シス)とは、炭素の二重結合のところで、同じ向きに曲がる形です。

炭素数が少ない脂肪酸はにおいがある

脂肪酸(この場合はアルデヒドですが)は、短くなると「におう」ようになります。

以前、短鎖脂肪酸はくさいという記事を書きました。短鎖脂肪酸はたいていひどいにおいなのです。洗濯物の生乾きのにおいとか、足のにおいとか。

ちなみに、炭素数6のカプロン酸(ヘキサン酸)はヤギの体臭様の臭気だそうです。

食用油のにおいをかいでもくさくありませんが、脂肪酸が短くなるとにおうようになります。ギンナンのにおい、靴下のにおい、汗臭いにおいなど短鎖脂肪...

炭素数18のα-リノレン酸が短くなって炭素数6のシス-3-ヘキセナールになったのだから、きっとにおいがあると思います。どんなにおいなのでしょう?

調べてみました。

その前に・・・。

アルデヒドがピンと来ない方は、お酒を思い出すとわかりやすい

アルデヒドが出てくるとピンと来ない方がいるかもしれないので、ちょっとだけ説明しておきます。

お酒のアルコールはエチルアルコールです。飲み過ぎると二日酔い。二日酔いの原因は、エチルアルコールがアセトアルデヒドに変わっていて、それが体の中に残っているからです。

二日酔いとアセトアルデヒドは聞いたことがあると思います。

また、お酒はずーっとそのまま置いておくと酸っぱくなってきます。これは酢酸ができたからです。酢酸はお酢の成分です。

体の中でもアセトアルデヒドは酢酸に変わります。

この関係を図にするとこのようになります。この図だけ炭素と水素を省略しないで書きました。

エタノール(アルコール-OH)を酸化するとアセトアルデヒド(アルデヒド-CHO)。さらに酸化すると酢酸(カルボン酸-COOH)になります。酢酸は短鎖脂肪酸でもあります。酢酸は、ご存知、お酢のにおいがします。

この場合、それぞれ炭素数が2であることは変わりません。

アルデヒドはアルコールを酸化したものだと思っておいて下さい。

ちなみに、お酒(エタノール)特有のにおいはわかるでしょう?そしてお酢(酢酸)のにおいもわかりますね。

アセトアルデヒドのにおいがよくわからないのですが、ウイキペディアのアセトアルデヒドを読むと、「特徴的な青臭い刺激臭」と書かれていました。

同じ炭素数2でも、上のような違いがあると、においもだいぶ変わります。

青葉のにおい

さて、シス-3-ヘキサナールは、「くさく」ならないようです。青葉のにおいになるそうです。

「くさい」においの話をしていたのに、急に、爽やかな草原や森のにおいになると、何か不思議な感じがしますね。

青葉のにおいは、青葉アルデヒドと青葉アルコールからなります。

シス-3-ヘキサナールは、青葉アルデヒドの1つです。

青葉アルデヒド

ウイキペディアのシス-3-ヘキセナールにはこのように説明されていました。

青葉アルデヒドの別名を持ち、草や葉の匂いの主要な成分である。 天然にはホウレンソウやクローバー、ブナ、クリ、カシの葉や生の茶葉、たらの芽など植物から広く見つかっており、トマトの香り成分としても重要である。

多くの昆虫がフェロモンとして利用している。サッポロビールは2013年に、ホップに含まれるシス-3-ヘキセナールおよび1-ヘキサナールがのどごしを向上させるとの研究結果を発表した。(出典

草や葉の匂いの主要な成分とあります。何となくあんなにおいかなと想像できるでしょうか?ちなみに、トマトの青臭いにおいは私は好きです。空腹を感じるようなにおいだと思います。

ビールの「のどごし」の話が興味深いですが、その話に行く前に、もう少し青葉の話を書きましょう。

香料になる

香り創りをデザインする―調香の基礎からフレグランスの応用までには、シス-3-ヘキセナールについて、このように書かれていました。

[天然]クローバーや茶葉、アカシヤの新芽、[香調]果物の生の葉を潰したような強いグリーンの香り[用途]ハーバルやフローラル、フルーツ系の調合香料(後略)

果物の生の葉を潰したような強いグリーンの香りと聞くと香りの強さがイメージできるようになります。結構強い香りで、香料に使われることもわかりました。

もう一つの青葉アルデヒド、トランス-2-ヘキセナール

青葉アルデヒドは、もう一つあります。

同じ炭素数6のヘキサナールですが、2番目の炭素が二重結合になっていて、それがトランス型のものです。

トランス-2-ヘキセナールです。trans(トランス)とは、炭素の二重結合のところで逆向きに曲がる形です。直線的になります。

上に載せたシス-3-ヘキサナールと見比べてみて下さい。

トランス-2-ヘキサナール

ウイキペディアのトランス-2-ヘキセナールにはこのように書かれていました。

カメムシのにおい

異性体のシス-3-ヘキセナールとともに青葉アルデヒドの別名を持ち、草や葉のにおいの主要な成分である。

天然にはキュウリやトマト、キャベツなどの野菜類、リンゴやバナナ、イチゴなどの果物、茶葉などに存在する。カメムシの匂いの主成分でもある。

カメムシ、子供の頃たまに見かけましたがにおいを忘れてしまいました。青臭いにおいだったんですね。

青葉アルコール

青葉のにおい、もう一つは青葉アルコールです。アルコールなので、端に(-OH)がつきます。

青葉アルコールはcis(シス)-3-ヘキサノールのことです。

ウイキペディアの青葉アルコールにはこのように書かれていました。アルデヒドよりも香りが弱いそうです。

cis-3-ヘキサノール

青葉アルデヒドよりも香りが弱い

青臭い特有の香気を有する。名前からも分かるとおり、野菜など植物の青臭い香りの主成分であるが、ストレスに対する植物の防御機構に関わっていると見られている。

木の葉やハーブ油にも含まれ、香水などの原料として工業生産されている。

酸化されると青葉アルデヒド(cis-3-ヘキセナール)を生じるが、こちらは青葉アルコールよりも強い香気を持ち、同様に香水に用いられる。

ビールの「のど越し」に青葉アルデヒドが関係ある

さらに気になるサッポロビールの研究結果について探しました。

特開2014-155483「ビールテイスト飲料及びその製造方法」がどうやらそれらしい発明です。

ヘキサナールとシス-3-ヘキセナールは、高級脂肪酸が生体中でリポキシゲナーゼをはじめとする脂肪酸代謝酵素群の作用により酵素的酸化分解されて生成する鎖状脂肪族アルデヒドであり、それぞれ特有の香気を有する青葉アルデヒドの一種として知られている。

食品加工分野においては、この特有の香気が製品の品質を低下させるため、一般に忌避されている物質である。(中略)

ヘキサナール(hexanal)は、大豆油、コーン油等の植物油に多く含まれるリノール酸が酸化分解されて生成する物質であり、大豆が呈する青臭さの主成分である。(中略)

本実施形態に係るヘキサナールの濃度は、製造されるビールテイスト飲料中において所定濃度以上に調整される。

シス-3-ヘキセナール(cis-3-hexenal)は、大豆油、亜麻油等の植物油に多く含まれるリノレン酸が酸化分解されて生成する物質であり、トマトが呈する青臭さの主成分である。

本実施形態に係るシス-3-ヘキセナールの濃度は、製造されるビールテイスト飲料中において所定濃度以上に調整される。

ヘキサナールとシス-3-ヘキセナールが出てきますが、これはビールテイスト飲料の「のど越し」にとても関係があるそうです。

シス-3-ヘキセナールは、すでに上で構造式を紹介しました。ヘキサナールはこちらです。

それぞれ同じ炭素数6のアルデヒドですが、炭素の二重結合があるかどうかの違いがあります。大豆の青臭さは、豆乳を飲む方なら必ず感じるにおいだと思います。

同じ青臭さと説明されていますが、トマトの青臭さと大豆の青臭さは違います。炭素の二重結合がある/なしでは、その場所に結合する水素の数が変わります。

わずかな違いですが、それがにおいに微妙に現れるようです。

のど越しってわかりますか?

コンビニで飲み物を買うとき、私は何も味つけをしていない炭酸水を買います。キツめの炭酸水を飲んでも、のどを通る時の感覚はビールと違います。ビールの方が少し重たい感じがします。

ビールテイスト飲料がビールのように感じられるには、のど越しの再現がむずかしかったようです。

そこで、本来ビールではないビールテイスト飲料に、ヘキサナールとシス-3-ヘキセナールを加えることで、「ビールらしいのど越し」を味わえるようになったというのがこの発明です。

青葉のにおいがビールののど越しを決めていたなんて面白いです。

日本酒の吟醸香は脂肪酸とアルコールからできる

ところで、ビールが出てきたついでに、日本酒の話をしましょう。日本酒を口に含んだ時に感じるよい香り、吟醸香はどんなもので出来ているかご存知ですか?

以前、吟醸香は酵母にストレスをかけると出てくるんだってという記事を書きました。

この記事では、吟醸酒のフルーティーな香り、吟醸香について、その種類と構造式、吟醸酒の造り方と、なぜ独特の香りが出るようになるのかについて調べました。少しよい日本酒を口に含むとフルーティーな吟醸香がします。私が日本酒を飲めるようになったのは、

タイトルはともかく、この記事の初めの方に吟醸香の種類を書いています。

果物のような吟醸香は、脂肪酸とアルコールからできています。もとになる脂肪酸はくさいものばかりです。しかし、アルコールと結合するとよい香りになるのです。

なぜ米からフルーツのような香りが生まれるのだろうと思った

私が初めて吟醸香を体験したのはずいぶん昔、学生の時でした。季節は冬。一之蔵だったか浦霞の「しぼりたて」を飲ませてもらって、なんてうまいのだろうと思いました。

フルーツのような香りは感動的であり、また不思議でした。なぜこんな香りがつくのだろうと思いました。それまで日本酒が嫌いだったのですが、それから好んで飲むようになったのはいうまでもありません。

いまなら脂肪酸とアルコールがエステルになったからだと理解できるのですが、それでも、もともと脂肪の少ないお米を磨いてさらにでんぷんの割合を高めたお米を使うのです。

ごくわずかに残った脂肪の脂肪酸とアルコールからフルーツのような吟醸香が生まれるのですから、香りはごく微量で感じることができる不思議なものだなと思います。

まとめ

α-リノレン酸が2回の反応で短く切れた炭素数6のシス-3-ヘキサナールができることがわかり、どんなにおいがするのだろうと調べたら、青葉のにおいがすることがわかりました。

ヘキサナールはアルデヒドですが、炭素数6の脂肪酸カプロン酸(ヘキサン酸)は、ヤギの体臭様の臭気を持つ(出典)と書かれていたので、やはり嫌なにおいがします。

同じ炭素数でも、脂肪酸とアルコール、アルデヒドではにおいが変わります。

冒頭のα-リノレン酸からシス-3-ヘキサナールは、このようにできます。KEGGのalpha-Linolenic acid metabolism (α-リノレン酸の代謝)でご確認下さい。

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