EPAやDHAサプリの原料になる魚油は、ニシンを始めとする回遊性の魚からとられるそうです。魚油は魚粉を製造するときの副産物です。魚粉は、養殖魚や家畜のエサ、肥料、また食品にも使われています。
ニシンの歴史 (「食」の図書館)を読みました。原書房の「食」の図書館シリーズはとても面白い本が多いです。本が売れない時代だからこそ、こういう本を出されているのではないかと読みながらいつも思っています。
魚油をどのようにつくるのか知りたいと思っていた
油に興味を持つと、(長く使うかは別として)オメガ3の油をいろいろ買うようになります。そして、体の中のことを知ると、α-リノレン酸は細胞の中で炭素数を2個ずつ増やしながらEPAやDHAに変換されるのを知るようになります。
そして、「なんだそれなら最初からEPAやDHAをとれば話が早いじゃないか」と思うようになります。
私も同じです。
ところが、EPAやDHAのサプリメントはたくさんありますが、魚油って売ってないのです。多分、傷みやすくて(酸化されやすい)ひどい味になるのでビンに入れて置いておけないのだと思います。
それで魚油はどのように作られるのだろうと漠然と疑問に思っていたのです。EPAやDHAのサプリメントをつくるためだけに魚から魚油を採ることはないと思うからです。
魚油は魚粉の生産工程で出てくる
この本を読むと、魚油は魚粉の生産工程で出てくることが分かりました。魚粉はどのように使われるかは後述するとして、まずは、どのようにつくられるのか見ていきましょう。
魚粉の生産
魚粉の生産工程でニシンを圧搾して出たプレスウォーターには油分と水分が含まれ、さらにタンパク質、ミネラル、ビタミン類も溶けこんでいる。
このプレスウォーターを遠心分離機にかけて油分と水分とに分離させると、油分がプレスウォーターの上部に浮くので、これを取り出す。
油分を取り出したあとに残る、溶けだした栄養分を含む水分は「スティックウォーター」と呼ばれ、このスティックウォーターは、水分が蒸発して栄養分が40パーセントから50パーセント程度になるまで加熱し、ソリュブル(高濃度タンパク液)にする。
適度な濃度になったソリュブルは乾燥前のプレスケーキにくわえる。栄養分をくわえたプレスケーキを乾燥させ、粉砕すると魚粉の完成だ。
読んでいただければ、分かりにくいところはないと思います。私は魚油だけを話題にしているので、簡単に書くとこの通りです。
- ニシンに圧力をかけて、水分をしぼり出す。
- その水分を遠心分離機にかける。
- 水と魚油が分離する。
油分をさらに遠心分離
さらに魚油は精油に加工されます。
プレスウォーターから栄養分を含むスティックウォーターを取り出す一方で、分離した油分はさらに遠心分離機にかけられる。
そして余分な水分と不純物を取り除いた精油は貯蔵タンクに送られる。こうしてできた魚油は魚粉と同様、マスやサケなど、さまざまな雑食性養殖魚のエサに利用されている。
上に倣って簡単に書くとこうなります。
- 魚油はさらに遠心分離機にかけ、さらに不純物を除いて精油に。
魚油の用途として、マスやサケなどの養殖に使われるそうです。最近、サケは確かに養殖ものが増えました。スーパーに行くとパックに「原産国:チリ」などと書いてあります。
つい最近、鮭缶について記事を書いたのですが、鮭缶があまり売れなくなったのは、サケの養殖が大規模に行われるようになったことも関係があります。ご興味があればこちらもお読みください。鮭缶の始まりから衰退するまでのはなし
魚油はサプリメントに
サプリメントになるのはニシンだけではないと書かれていました。これは、栄養成分を吟味したというより、EPAとDHAがたくさん入って使える魚油ならイワシでも何でもという意味だと思います。
魚油を取るのはニシンだけではなない。薬局やスーパーマーケットや健康食品の店で、オメガ3脂肪酸を豊富に含むとアピールする、琥珀色のカプセルが入ったボトルを見たことがあるだろう。
そのカプセルに入っているのは、ニシンだけでなくさまざまな回遊性の魚から生成された魚油である。
栄養補助食品に分類される魚油のサプリメントには、劣化防止用の微量のビタミンEがたいてい添加されている。また、カルシウムや鉄分、ビタミンA、B、C、Dが添加されているものもある。
消費者はこうした魚油のカプセルをせっせと飲んでいる。2015年7月のインディペンデント紙の記事によれば、1990年代の魚油の販売額は数千万ドルだった。
ところが21世紀に入ってからは、アメリカ人は毎年およそ12億ドルを魚油の錠剤や似たようなサプリメントに注ぎ込んでいるのである。
魚油のサプリメントは日本で売れているのかと思いましたが、アメリカでたくさん売れていたのです。
インディペンデント紙とはイギリスの新聞です。ウイキペディアにこのように出ていました。
インデペンデント紙(The Independent)はトム・オライリー(Tony O’Reilly)の所有するIndependent News & Media社によって発行されているイギリスのオンライン新聞。
政治的にどこにも属さないと主張している。2004年にBritish Press AwardsのNational Newspaper of the Yearを受賞した。かつては紙面での発行も行っていたが2016年3月をもって廃刊しオンライン新聞に移行した。(出典)
魚油について著者の見解が書かれています。
魚油は、高血圧や高コレステロール、心臓病や心臓発作など、心臓血管に問題のあるものをはじめ、さまざまな病気に効くと思われている。
人は、喘息や骨粗しょう症、乾癬(かんせん)[皮膚病]、緑内障、肥満、炎症、各種の痛み、うつ病、失読症、多動性障害など、症状も原因も異なるさまざまな問題を解消しようと魚油のカプセルを飲む。
ひっぱりだこの魚油ではあるが、魚油サプリメントの効果はまだ明確になっているわけではない。
私もサプリメントにはよいイメージを持っていません。そうだろうなと思います。
魚粉は飼料や有機肥料に
魚粉は、エサや肥料になります。
魚粉のつくり方は、魚に圧力をかけて水分と油分を抜き、それを乾燥させて粉砕します。
「魚粉」とは、魚や魚の廃棄部分を乾燥させ、挽いて粉末状にしたものだ。この魚の粉末は、家禽(かきん)[食用あるいは愛玩用に家で飼う鳥類]やブタ、養殖魚やペットのエサになる。
魚粉は必須アミノ酸、ミネラル、リン脂質、脂肪酸をバランスよく含むとして高く評価されている。こうした成分は、動植物の成長を促進して生産量を増やすのに役立つ。
魚粉の歴史は古く、遅くても13世紀には存在したと書かれていました。
マルコ・ポーロの旅を記した『東方見聞録』には、イエメンを旅しているときに、農夫が家畜に乾燥魚を食べさせているのを目撃する場面がある。
この地の人々は腕のよい漁師だ・・・‥ここは非常に暑いので、彼らは魚を日干しにする。大地は燃えるように熱く、野菜は見当たらず、畜牛や乳牛、ヒツジ、ラクダや馬に日干し魚のエサをやる。
毎日これを与えるのだが、嫌がるそぶりも見せずに動物たちはこのエサを食べる。エサにする魚は小型のもので、これを3月、4月、5月のあいだに大量に獲り、干して、動物たちのエサにするため家に蓄えておく。
魚油はもともとは不用物だったのですが、保存できるようになってから再利用されるようになったということのようです。
魚の缶詰を食べた方がいいのでは?
私は、好き嫌いがないので魚も好きです。また、これからの高齢化時代にEPAやDHAは必要だと思っています。
サプリメントが好きな方もいるので、それを否定するつもりはないのですが、たとえば魚の缶詰を買ってきて食べたらどうでしょう?
魚の缶詰には、EPAやDHAのほか、肉並みにタンパク質が含まれ、水煮なら炭水化物もほとんどゼロなので低糖質の食べものでもあります。おまけにおいしくて(物によりますが)安い。
昔、1970年代は缶詰にはやや貧乏くさいイメージがありましたが、今はおいしいものが多いです。
NOTE
オメガ3の油に興味を持つと、EPAやDHAが大事だなと思うようになります。
しかし、EPAやDHAが豊富な魚油は売っていません。サプリメントならあります。魚油は、魚粉をつくる時にできる副産物です。
もし、健康のためEPAやDHAを毎日とりたいと思ったら、魚の水煮缶を買ってきて食べるという方法があります。こちらはおいしくてタンパク質も入っていて栄養豊富で、おまけに安いです。