脂肪酸を合成するには、炭素数2のアセチルCoAをつなげて飽和脂肪酸のパルミチン酸(16:0)をまずつくります。脂肪酸に二重結合をつくる酵素はいくつかありますが、カルボキシ基(-COOH)から数えて9番目の炭素に二重結合をつくるのが一番遠い位置になります。それより先に二重結合をつくることができません。そのため、9番目の炭素より先に二重結合があるオメガ6やオメガ3の脂肪酸は食べものから摂らなくてはならないのです。
なぜオメガ3とオメガ6の脂肪酸は体の中でつくることができないのか?まず、体内で脂肪酸を合成する仕組みを知りましょう。
体内で脂肪酸を合成する
生きていくためのエネルギーをつくるために、糖も、脂肪も、タンパク質もエネルギー源となることができます。
ミトコンドリアのクエン酸回路(TCA回路)に入るために、それぞれ、アセチルCoAという物質まで分解されます。
アセチルCoAとは、体の中にある酢酸のことです。炭素数は2個。このことは、アセチルCoAとは酢酸のことかに詳しく書きました。
パルミチン酸(C16:0)をつくる
ところが、アセチルCoAは脂肪酸を合成するときの材料にもなります。単純にいうと、炭素数2個のアセチルCoAをつなげていって炭化水素鎖をつくります。
最終的に炭素数16の飽和脂肪酸であるパルミチン酸をつくります。詳しい話は、ブドウ糖を脂肪酸に変えるに書きました。
パルミチン酸を材料にして、さらに炭素をつなげたり、二重結合をつくって別の脂肪酸をつくります。
ステアリン酸(C18:0)からオレイン酸(C18:1)になる
パルミチン酸は、炭素を2個加えられて、炭素数18のステアリン酸になり、さらにΔ9位を二重結合にされて、オレイン酸になりました。飽和脂肪酸に最初に入る二重結合は、ほぼ全てΔ9位でした。
Δ9デサチュラーゼという酵素が働きます。Δ9位は下図でご確認ください。オメガ(ω)端の反対側、カルボキシ基(-COOH)から数え始めます。
体の中で脂肪酸を合成する場合はこのような仕組みが働きます。
しかし、体の中には食べもの由来の脂肪酸も入ってきます。もちろん、それもそのまま使われることもあり、長さや二重結合を変換される場合があります。
オメガ3とオメガ6の位置の炭素に二重結合をつくることができない
イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書29版にはこのように書かれていました。
動物の体内で,さらに二重結合が導入されるときはすでに存在している二重結合(たとえばω9,ω6,ω3)とカルボキシ基の間に入り,それぞれω9族,ω6族,ω3族とよばれる3つの系列の脂肪酸を生ずる.
新たにできる炭素の二重結合は、オメガ3、オメガ6、オメガ9それぞれの位置よりもカルボキシ基側に入ると書かれています。
もう少し後ろにもっと親切な解説がありました。
動物は脂肪酸のΔ9位より先に二重結合をつくることができない
ほとんどの動物は,Δ4,Δ5,Δ6,およびΔ9位に二重結合を導入することができる.しかしながら,Δ9位を越えて二重結合を導入することはできない.
このように説明されると分かります。「Δ9位を越えて二重結合を導入することはできない」ということは、オメガ3やオメガ6の位置に二重結合をつくる酵素を持っていないということです。
オメガ3とオメガ6の脂肪酸が必須脂肪酸として、食べものから必ず摂らなければならないというのはこれが理由です。
多価不飽和脂肪酸オメガ9、オメガ6、オメガ3の生合成経路
この本には、オレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸からスタートしてどのようなものがつくられるのか図が載せられていました。
リノール酸については、以前、リノール酸はアラキドン酸に変換されるという記事で、ドコサペンタエン酸(22:5)までの反応について書きました。
さらに、α-リノレン酸についても、以前、α-リノレン酸からEPA、DHAに変換するまで5つの反応があるという記事で、ドコサヘキサエン酸(22:5)まで変化する記事を書きました。
そこで、ここでは、オレイン酸がどのように変化するかを書いておきましょう。下図を見て、オレイン酸は2方向に変化していくところに注目してください。
下図に出てくる青字1、2、3、4は酵素です。
エロンガーゼ、デサチュラーゼは酵素です。エロンガーゼは長さを伸ばす酵素で、デサチュラーゼは、炭素の二重結合をつくる酵素です。
- エロンガーゼは、脂肪酸のカルボキシ基(-COOH)側から炭素を2個つけて脂肪酸の長さを伸ばします。
- Δ6デサチュラーゼは、カルボキシ基(-COOH)から数えて6番目の炭素に二重結合を作ります。
- Δ5デサチュラーゼは、カルボキシ基(-COOH)から数えて5番目の炭素に二重結合を作ります。
- Δ4デサチュラーゼは、カルボキシ基(-COOH)から数えて4番目の炭素に二重結合を作ります。
オレイン酸の変化
オレイン酸は2方向に変化します。上の図と照らし合わせて見てください。
一方は、エロンガーゼによって2個ずつ炭素数を増やしていくだけの反応です。もう一方は、二重結合を作ることと2個炭素数を増やすことを交互に行っています。
図中、黄色のラインマーカーを引いたミード酸(20:3)は、必須脂肪酸が欠乏すると作られます。ウイキペディアにはミード酸について次のように書かれていました。
ヒトや他の哺乳類は必須脂肪酸(EFA)を必要とする。EFA、特にアラキドン酸が欠乏すると、身体はオレイン酸の不飽和化と伸長によってミード酸を作る。そのため、ミード酸はEFA欠乏のインジケーターとなる。
アラキドン酸はオメガ6の脂肪酸で、炭素数は20です。
どの脂肪酸もオメガ9であることに変わりない
オレイン酸をもとに、炭素数を2個ずつ伸長する反応と二重結合をつくる反応を組み合わせても、できる脂肪酸は、カルボキシ基と反対側のオメガ端から9番目に最初の二重結合ができる、オメガ9の脂肪酸であることに変わりはありません。
下図を見て下さい。上から4番目にあるオレイン酸を中心に、上下に反応が進むことが書かれています。
上方向には、炭素数が2個ずつ増えていく反応で、二重結合は1個のままです。
下方向の反応は、6番目の炭素に二重結合をつくる→炭素数を2個増やす→5番目の炭素に二重結合をつくる→炭素数を2個増やす→4番目の炭素に二重結合をつくる反応が書かれています。
しかし、どの脂肪酸もカルボキシ基と反対側のオメガ端から9番目の炭素に最初の二重結合があることに変わりはありません。
オメガ3やオメガ6の脂肪酸ができることはありません。
NOTE
体内で炭素数2個のアセチルCoAから脂肪酸をつくることができます。炭素数16の飽和脂肪酸であるパルミチン酸まで長さを伸ばし、そこから炭素を2個つなげるエロンガーゼ(酵素)と二重結合を作るデサチュラーゼ(酵素)を組み合わせて、いろいろな脂肪酸を作ります。
最初に炭素数16の飽和脂肪酸、パルミチン酸がつくられるのが基本だと知っておくのが重要だと思います。
ところで、この記事ではステアリン酸からΔ9位二重結合を1個つけてできるオレイン酸を例にとりましたが、パルミチン酸そのものから不飽和脂肪酸ができることはないのか?と思う方もいらっしゃるでしょう。
パルミトレイン酸
もちろん、あります。パルミチン酸のカルボキシ基(-COOH)から9番目の炭素、Δ9位を二重結合にされた一価不飽和脂肪酸、パルミトレイン酸です。
カルボキシ基の反対、オメガ端から数えて7番目に最初の二重結合があります。オメガ7の脂肪酸ですね。
KEGGのFatty acid biosynthesis(脂肪酸生合成)を見ると、アセチルCoAから、パルミトレイン酸までの反応経路がわかります。
もちろん、ステアリン酸、オレイン酸ができるまでもこの図を見るとわかります。パルミトレイン酸は、この図では、Hexadecenoic acidと書かれています。
図を見て嫌になった方もいるかもしれませんが、それほどむずかしくなく、いずれわかるようになります。その時にまた見てください。
オメガ6の脂肪酸については、オメガ6について知っておきたいことをお読み下さい。まとめてあります。