牧草で飼育された牛とオメガ3脂肪酸

牧草で育った牛は、グラスフェッドビーフ(grass-fed beef)といわれ、オメガ3が多いと聞きましたので脂肪酸組成を調べました。確かにリノール酸に比べてオメガ3のα-リノレン酸が多かったですが、脂肪全体の2%程度の話です。果たしてこれを豊富といってよいのかどうか。

放牧

最近、牧草で飼育された牛肉はオメガ3が多いという話を聞いて、その脂肪酸組成に興味を持ちました。グラスフェッドビーフ(grass-fed beef)というそうです。

いつも使っている日本食品標準成分表2015年版(七訂)に、牛肉は掲載されていますが、飼料の違いは区別されていないのでネット上で探しました。

牧草で飼育された牛と濃厚飼料で飼育された牛を比較

放牧飼養が肉牛の体脂肪および筋肉の脂肪酸組成に及ぼす影響という論文が見つかり、その中に放牧牛の脂肪酸組成について書かれていました。

この論文の目的は、放牧牛が、一般に、枝肉重量が少なく、また体脂肪における不飽和脂肪酸の割合が低くなる原因を調べることです。

枝肉とは、頭部、尾、四肢端などを切取り、皮や内臓を取除いたあとの肉のことです。冷蔵庫で吊されている画を時々テレビなどで見ることがあると思います。

そのため、枝肉の脂肪割合をだいたい同じに揃えて、脂肪酸組成が比較されました。

放牧された牛

放牧された牛は、オーチャードグラス主体の混播放牧草を食べ、冬に与えられる粗飼料も、この放牧地と同様の植生をもつ草地から生産された牧乾草でした。

通常は生まれてから30ヵ月程度で出荷されますが(出典:肥育牛の飼養管理、実験に使われたのは4~8才とだいぶ「お年」です。

妊娠をさせずに放牧した4~8才の日本短角種成雌牛4頭(これをGm区とする)で,屠殺時の平均体重は703kgであり,枝肉の脂肪割合は37.0%である.Gm区は冬期間も粗飼料飽食,濃厚飼料無給与の飼養を行なった.

濃厚飼料で飼育された牛

対照群として、こちらは、通常の肥育方法で育てられた牛です。濃厚飼料は、トウモロコシ・大麦・小麦・米などの穀物の種部、大豆などの豆類、また油を絞った後の油粕などが多く利用されます。たんぱく質が多いことが特徴です。(出典:濃厚飼料

対照牛として,20ヵ月齢より濃厚飼料および牧乾草を飽食させた日本短角種去勢肥育牛5頭(これをFc区とする)を用いた.Fc区の屠殺時の平均月齢および平均体重は24.5ヵ月齢,594kgであり,枝肉の脂肪割合は32 .1%である.

皮下脂肪と胸最長筋の脂肪と腎臓周囲脂肪を比較

脂肪組織として、皮下脂肪と胸最長筋と腎臓周囲脂肪が選ばれ、脂肪酸組成が比較されました。

下表に出てくる脂肪酸を先に書いておきます。

  • C16:0 パルミチン酸
  • C16:1 パルミトレイン酸
  • C18:0 ステアリン酸
  • C18:1 オレイン酸
  • C18:2 リノール酸
  • C18:3 α-リノレン酸

表の数字は、それぞれの場所から脂肪を抽出し、脂肪酸は脂肪全重量に対してのパーセンテージで表されています。

日本の短角牛の様々な脂肪組織におけるトリアシルグリセロールの脂肪酸組成
脂肪酸(重量%)
場所 C16:0 C16:1 C18:0 C18:1 C18:2 C18:3 US Odd
皮下脂肪 Gm 18.7b 12.2a 4.0c 54.0a 1.2b 2.2a 71.9a 1.4b
Fc 21.4ab 4.7b 11.9b 53.0a 2.2a 0.4b 61.3b 1.7ab
胸最長筋 Gm 25.0 6.8a 10.7c 48.3a 2.0b 0.8b 59.2a 1.3b
Fc 25.4 3.9b 15.4b 46.7a 2.0b 0.2c 53.7b 1.6a
腎臓周囲脂肪 Gm 21.4 4.3a 19.0c 45.8a 1.2b 1.3a 53.4a 1.9b
Fc 20.2 2.2c 30.4b 39.3b 2.4a 0.3b 44.6b 1.9b
  • a,b,c:上付き文字が異なる同じ列の平均は有意に異なります。(P <0.05)
  • Gm:放牧された牛
  • Fc:濃厚飼料で飼育された牛
  • US:Unsaturated fatty acid(不飽和脂肪酸)
  • Odd:Odd number carbon fatty acid(炭素数が奇数の脂肪酸)

牧草を食べた牛はα-リノレン酸がリノール酸より多いが含有率はわずか

表のα-リノレン酸(C18:3)に黄色マーカーを引いておきました。

放牧された牛(Gm)と濃厚飼料で飼育された牛(Fc)とも、脂肪酸組成では、オレイン酸(C18:1)が一番多く、次いで、パルミチン酸かステアリン酸、その次にパルミトレイン酸となり、α-リノレン酸もリノール酸もごくわずかです。

放牧された牛のα-リノレン酸がリノール酸より多いのは確かですが、その比率は、脂肪全体からするとわずか2%程度です。

牧草で飼育された牛肉はオメガ3が多いとは、少々オーバーな気がします。

種にはリノール酸が多いが草にはα-リノレン酸が多い

牧草の脂肪酸組成が、書かれていました。こういうのはなかなか調べられないので、メモしておきます。α-リノレン酸が多く、次がパルミチン酸です。葉にはα-リノレン酸が多い。

反対に種にはリノール酸が多いのが一般的です。例外は、亜麻やえごまなどそれほど多くありません。

牧乾草の
脂肪酸組成
脂肪酸
C16:0 24.0
C18:0 3.0
C18:1 4.3
C18:2 18.7
C18:3 30.4
放牧飼養が肉牛の体脂
肪および筋肉の脂肪酸組
成に及ぼす影響

NOTE

一般的な牛肉とオメガ3の脂肪酸については、牛肉とオメガ3で書いています。

牛肉とオメガ3
牛肉の脂質にオメガ3の脂肪酸がどのくらい含まれているのか。霜降りが多いリブロースについて調べましたが、100gあたり脂質が78gある脂身で、α-リノレン酸は約0.1gしかありません。他の部位、赤身や脂身が混ざった部分はもっと少ないです。ほと...

牧草で牛を飼育すると、確かにオメガ3が増えるけれど、魚みたいにEPAやDHAがたっぷりたまることはないだろうと思っていましたが、予想通りでした。

魚は、食物連鎖で小さい魚から食べられていくので、大きい魚にはそれまで餌になった魚から横取りしてきたEPAやDHAがたまっているのです。

しかし、牛は牧草を食べているので、大量に食べるとはいっても牧草に含まれているα-リノレン酸はごくわずかで、それが牛の脂肪の脂肪酸組成に反映されるので、それほど大きな割合になるわけがありません。

その他の畜産物とオメガ3については、畜産物の中のオメガ3をご参照下さい。

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